7. 参戦
右方からは何かが壊れる破砕音、左方からは誰かの断末魔が聞こえてくる東日本ガーディアン基地の現状は最悪であった。
リベリオンの手によって始められたガーディアン東日本基地侵攻作戦は、かの悪の組織の思惑通りに進んでいるようだ。
基地外部から侵入されたことも有り、今の所ガーディアンとリベリオンの戦闘は主に外周部で行われているようである。
そのため大和たちが居る中心部近くには幸運にも、未だに怪人が現れる気配が無かった。
既に他の基地内の人間たちは避難、もしくは基地の防衛に向かったのか大和の周りには全くの人影が見られない。
大和は背中に黒羽というお荷物を抱えながら人気の無い基地内を駆け、身の安全を確保するためにシェルターへ向かっていた。
「"頼みって…、この状況で一体何を!?"」
「"この状況を打破して欲しい。 このままガーディアンの基地が壊滅するのはまずい"」
「"はぁっ、打破しろって…、そんな無茶な…"」
大和はシェルターへの道すがら、内臓の無線機を通して恐らく三代ラボに居るセブンとの通信を行っていた。
通信機を介しているため大和とセブンとの会話は外には漏れておらず、背中に居る黒羽に彼らの内緒話が聞こえることは無い。
この通信を通して大和はセブンから、ある無茶な頼み事をされていた。
何とセブンは大和に対して今の現状の打破、つまりは基地に襲い掛かるリベリオンの排除を求めてきたのだ。
大和はセブンの無茶振りに当然のように拒否の反応を示しながら、内心で彼女の意図を測りかねていた。
この基地の研究施設を間借りしているとは言え、セブンにガーディアンを助ける義理は無い筈だ。
戦闘データを得ると言う目的も考えられるが、こんな不確定要素が多い戦場に貴重なテスターである大和を放り込む必然性も無いだろう。
まさかセブンがいきなり、正義の心に目覚めたという事も考えにくい。
一体セブンはどのような目的のために、かつての敵であったガーディアンに手を差し伸べようと言うのか。
「"そこを何とかして欲しい。 この場所が使用不能になったら、また研究施設を探さなければならない"」
「"ああ、そういうことですか…。 けど俺一人でこの基地のリベリオンの怪人を全部倒すのは無茶では…"」
やはりセブンはセブンであった、彼女は単に研究施設を守るために大和にリベリオンの排除を願ったようである。
確かにこのままリベリオンの蹂躙を許せば、セブンが居る三代ラボも少なからずダメージを受けるに違いない。
最強の怪人をこの手で作り出すというセブンの至上目的のためには、この基地の施設を守る必要があるのだ。
「"別に全ての怪人を倒してくれとは言っていない、あなたの標的はこの作戦の指揮官。"
"指揮系統の頭を潰してくれれば、リベリオンは撤退する筈"」
「"うーん、それなら何とか…"」
「"既にそちらにファントムを寄越した。 合流して直ちに…"」
「"ちょっと待ってください!? 今、ファントムに来られたら…"」
標的が指揮官に絞られたことで心が傾きかけた大和だったが、セブンからファントムのことを告げられて表情が一変する。
頼れる相棒の到着は本来なら喜ぶべきことであるのだが、今の状況では事情が違った。
「どうしたんですか、丹羽さん? 突然立ち止まって…」
「"今、俺の近くには黒羽さんって言うガーディアンの人が居るんです、ファントムには少し待って貰って…"」
「"お待たせしましたー、ファントムちゃんの参上でーす!!"」
唐突に足を止めた大和の行動に黒羽を疑念の声をあげるが、ファントムの襲来を告げられた大和に弁解をしている暇は無かった。
今の大和の背中には黒羽が背負われているのだ、彼女にファントムのことを何て説明すればいい。
そもそも欠番戦闘員としての正体を隠している大和が、ガーディアンの人間の前で変身なんて出来る筈も無い。
大和はせめて黒羽と離れるまではファントムにこちらとの接触を避けるように頼もうとする。
しかし時既に遅く、神出鬼没な機械仕掛けの亡霊は既に主の下に馳せ参じていた。
何時の間にかステルス状態で大和の近くまで接近していたファントムは、迷彩を解除してその姿を見せてしまった。
「えっ、バイクが現れた…?」
「"ファントムぅぅぅぅ!? 今はまずい、すぐに此処から…"」
「"ああ、マスターの背負ってる荷物のことは把握してますよ。
"でも安心してください、こういう時には…"」
「待てよ、このバイクは見覚えが有る…。 確か前に資料で見た欠番…、うっ!?」
黒羽は何も無い空間から突然表れたファントムの姿に驚きを隠せないようで、大和は背中で彼女が息を呑む気配を感じていた。
一方、ガーディアンの人間にファントムを目撃されると言う最悪の事態に、大和の方も同じように狼狽してしまう。
しかしファントムの方は特に慌てた様子も無く、ごく自然に自分とマスターとの間を邪魔するガーディアンの女を排除を始める。
ファントムの全面の装甲の一部がずれたと思った瞬間、その下のスペースから突然何かが飛び出して来た。
飛び出してきた物体、極小の針はファントムの狙い通りに大和に背負われる黒羽の首元まで辿り着いた。
すると黒羽は次の瞬間、かすかなうめき声と共に意識を失ってしまったのだ。
「"おい、一体何を!?"」
「"ふっふふ、これはファントムちゃんの秘密機能の一つ、内臓型麻酔銃です!
"怪人相手には殆ど効果は有りませんが、人間相手なら一瞬で眠らせられる優れ物なんですよ!!"」
ファントムは主の障害となっている黒羽を排除するため、自身の保持する機能の一つをお披露目してみせた。
事前に黒羽の存在を察知していたファントムは、邪魔なガーディアンの人間を取り除くための策を用意していたようだ。
かの眼鏡を掛けた小学生探偵も持っているらしい麻酔銃の効果はファントムの言うように絶大らしく、黒羽は大和に体を預けて寝息立てていた。
試しに軽く揺さぶってみたが黒羽の瞼が開くことは無く、この調子なら彼女が暫く目覚めることは無いだろう。
「"はぁ…、まあいいか…。 じゃあファントム、俺はリベリオンの指揮官を倒しに行くから、お前は黒羽さんを安全な場所まで運んでくれ"」
「"えぇぇぇ、ガーディアンの女なんか放っておけばいいじゃ無いですかー"」
「"いや、流石にそういう訳にはいかないだろう…」
このまま黒羽をこの場に放っておくはまずいと考え、大和はファントムに対して彼女の避難を命じた。
元悪の組織の一員らしく縁の所縁もないガーディアンの人間などは見捨てればいいと、ファントムは主の指示に難色を示した。
不満を言うファントムを諭しながら、大和はその場でテキパキと戦闘準備を始めた。
「…変身っ!!」
大和はファントムに積まれていた何時もの戦闘員用のマスクとフルフェイスのヘルメットを回収して、代わりに黒羽の体をファントムに預ける。
普段の大和ならば、愛用する全身黒ずくめの戦闘員を来たフル装備の状態で戦闘に望んだ筈だ。
しかし流石に今の状況で暢気に戦闘員服を着るわけにはいかないので、今日の所は欠番戦闘員の由来となった戦闘員番号を消したマスクのみを被る。
その上で内臓型インストーラを起動させて、大和は己の体を怪人専用の試作バトルスーツを装着した。
最後に先ほど被った戦闘員マスクの上からフルフェイスのマスクを装着して、巷で欠番戦闘員と呼ばれている謎の戦士が此処に誕生した。
大和はバトルスーツの着心地を確かめるように、半ば無意識的に右腕の五指を握っては開くと言う行為を繰り返した。
「"じゃあ、黒羽さんは任せたぞ!"」
「"うぅぅ、仕方ないですねー。 この荷物を置いたらすぐに戻りますからね!!"」
結局、ファントムは主に逆らうことが出来ず、黒羽を抱えたままステルス状態に移行してその場から消え去った。
ファントムの能力ならば、リベリオンの怪人などに見付かることも無く、安全に黒羽を逃がすことが出来るだろう。
「よしっ、今日の礼代わりにリベリオンを倒しに行きますか!」
かつて自分を見捨てたガーディアンと言う組織はには、大和はお世辞にもいい感情は持っていない。
しかし思わぬ偶然から大和は、白木や黒羽と言うガーディアンの人間たちを接する機会を持ってしまった。
しかも今日は自分に取っては有り難迷惑なことだったとは言え、白木には親切に基地内の案内をして貰っているのだ。
ガーディアンのために働くのは御免だが、あの真面目そうなガーディアンの戦士のために戦うのも構わないだろう。
大和はバトルスーツによって強化された身体能力を駆使して、ガーディアンとリベリオンが矛を交える戦場へと向かった。




