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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第3章 三代ラボ
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2. 三代 光紅


 大和の視線の先には二人の美しい女性たちが居た。

 一人はどこぞお嬢様学校の制服の上に薄汚い白衣を纏い、実用一辺倒の地味な眼鏡を掛けた短髪の少女。

 もう一人は少女と同じようにボロボロの白衣を着た、長い髪を無造作に後ろに縛っている二十台後半と思われる黒縁眼鏡を掛けた女性。

 顔立ちに余り共通項が無いのだが何処か似た雰囲気を持った二人は、先ほどから情熱的と言ってもいい視線を大和の方に寄越していた。


「…これが戦闘員の体ね。 やはりただの人間とは比べ物ならないほど頑丈に出来ているわ」

「予想よりリミッター解除のダメージが少ない。 これならばもう少し出力を上げても…」

「この子はコアの八割開放に耐えたのでしょう?

 あなたが羨ましいわね、こんな素材があれば私ももう少しマシなスーツを作れるのに…」


 美少女と美女に体を弄られるという羨ましいシチュエーションにあいながら、当の本人の顔は優れなかった。

 それもそうだろう、二人の女性は自分を完全にモルモット扱いしているのだから…。

 ガーディアン東日本基地の一角にある三代の管理する研究施設、通称三代ラボは半ば二人のマッドサイエンティストの独断場と化していた。







 大和は三代との初対面を終えてすぐに、有無を言わさず検査用の病院服のような格好にさせられてしまう。

 そしてそのままの三代ラボの設備を使用して、当初の予定通りに精密検査とやらを受けされられていた。

 制服の上に白衣を着たセブンは三代とともに三代ラボの施設を利用して、手馴れた手つきで大和の体を検査していく。

 何故セブンはガーディアンの施設を利用できているのか、ガーディアンの研究者である三代がセブンと協力関係にあるのか…。

 セブンと三代の関係についての疑問が解消されないまま、大和は二人の美しいマッドたちのおもちゃとなっていた。


「あのー、俺は何時までこの格好を…」

「もう少し待って。 この機会に隅々までデータを取っておきたい」

「いいわねー、生の戦闘員のデータを取れるなんて夢見たいだわ」


 とりあえず凄く値段が高いことだけは解る機械の上に乗せられて、大和は戦闘員としての体を調べられていた。

 特に三代は大和の戦闘員としての体に興味津々らしく、明らかに熱の篭った様子である。

 大和は自分の体に熱中する三代の様子は、かつて初めてバトルスーツを弄った時のセブンの姿を思い起こさせるものであった。

 セブンのように常に無表情という訳では無い三代は、悪い意味で夢に出そうな素敵な笑みを浮かべながら大和の体か取れたデータをうっとりとした様子で眺めている。






「戦闘員の体なんてそんなに珍しいんですか? 怪人と違って沢山居るのに…」


 大和は三代がただの戦闘員である自分の体に、強い興味を持っていることを疑問に感じていた。

 リベリオンによって大量生産されている戦闘員の体がそんなに貴重な物であるとは思えず、大和は三代の過剰な反応に違和感を覚えたのだ。

 三代はガーディアンに所属しており、ガーディアンは今までに何体もの戦闘員たちを倒してきたに違いない。

 それならばガーディアンは戦闘員程度の情報などは既に熟知しており、三代が戦闘員を珍しがる理由は無いと大和は考えていた。


「あら、元戦闘員の癖に知らないの?」

「えっ…」

「そういえば大和には話して無かった…」


 しかし大和の想像とは異なり、実際にはガーディアンはリベリオンの戦闘員の情報ですら十分に集めることが出来ていないのだ。

 リベリオンの持つ生物の合成技術を駆使して生み出された怪人や戦闘員は、それ自体が組織の技術の結晶と言える。

 この技術はリベリオンに取っては秘中の秘であり、敵対するガーディアンには絶対に知られてはならない。

 そのためリベリオンは機密保持のために、怪人や戦闘員にある細工を施していた…。


「リベリオンで製作された怪人やリベリオンは、戦闘不能時にその体を細胞レベルで分解される機能が埋め込まれている」

「私たちに取っては忌々しい小細工よ。

 お陰でガーディアンは今まで戦闘員のデータですら、碌に取れないのだから…」

「はっ、細胞レベルで分解!?」


 リベリオンの技術によって作られた戦闘員のパーツや怪人の体は、情報流出を防ぐために一瞬で分解する機密保持機能が埋め込まれている。

 そのため戦闘員や怪人は死亡した瞬間に機密保持機能が働き、その遺体は一瞬で消えてしまうのだ。

 量産品である戦闘員などは有る程度は人間としての部分が残っているため、埋め込まれた人工筋肉などの後付部品が消えてもそれなりに残骸は残る。

 しかし怪人の体はほぼ全てが特注品になるため、文字通り遺体は消失してしまう結果になってしまう。

 仮に生け捕りにしようともリベリオンはこの装置を遠距離で操作することが出来るらしく、ガーディアンに捕らえられた怪人や戦闘員はその瞬間に全て消えてしまった。

 この機密保持機能によってガーディアンは未だに、リベリオンの怪人や戦闘員の情報を正確に掴むことは出来ていなかった。


「そ、それなら俺の体にもその機能とやらが…」

「あなたに仕込まれた装置は既に外してある。 バトルスーツのテストに不要だったので…」

「よかったぁぁぁぁっ!! ありがとうございます、博士!!」

「そうなの!? 残念、その装置についても色々と調べたかったのに…」


 機密保持機能は万が一に怪人や戦闘員がリベリオンを裏切った時に備える、一種の制裁機能としての面があった。

 自身の研究のために組織を裏切る可能性も視野に入れていたセブンに取っては、この機能は邪魔な存在でしかない。

 そのためセブンや大和に内臓型インストーラを仕込んだ時に、一緒に機密保持機能も外していたのだ。

 セブンの活躍によって大和は他の戦闘員たちと同じように、体が消失するという最悪の未来から逃れることが出来た。

 またセブンに勝手に体を弄られていた事実を知った大和であったが、今回ばかりは心から目の前の少女に感謝をするのだった。











「これがあなたが開発したバトルスーツね…、独学で作った割りにはよく出来ているじゃ無い。

 内臓型のインストーラって言うのも面白い発想ね…、しかし肝心の仕様が近接特化のゲテモノとは…」

「私の最終目的は怪人専用のバトルスーツの開発。 怪人に余計な能力は不要」


 貴重な戦闘員のデータを手に入れてご満悦の三代は、その流れて大和の体に埋め込まれている内臓型インストーラについても見始めていた。

 バトルスーツの専門家である三代は先の戦闘員のデータの時ほどでは無いが、セブンの開発した試作の怪人専用スーツに関心を寄せてるようだ。

 三代は目の前で内臓型インストーラからバトルスーツを展開した大和の姿を、遠慮無い視線で観察している。


「元は白木のボウヤが使っていたスーツのコアなのよね? 最早、前のスーツとは全くの別物ね…

 まあいいわ、約束通りこのスーツのデータは貰うわよ」

「解っている。 今までの戦闘記録はこれにまとめてある」

「ありがとねー。 良かったわ、白木のボウヤのコアを手に入れたのがあなたたちで…。

 戦闘員にインストーラを奪われたと聞いた時には、白木のボウヤを八つ裂きにしてやろうかと思ったけど早まらなくて良かったわー。

 やっぱりあなたと協力して正解だったわね、貴重の戦闘員のデータは手に入るし、泣く泣く諦めた筈のレア物のコアのデータも手に入るし…」


 三代はセブンから手渡された記録媒体、大和が文字通り体を張って生み出した怪人専用バトルスーツの戦闘データが収められたそれ抱きしめるように受け取る。

 未だに三代とセブンの関係がよく解らないのだが、少なくとも彼女たちは互いに敵意と言う者を全く抱いていないようである。

 一体どのような経緯があって、悪の組織の研究者と正義の組織の研究者が此処まで仲良くなったのだろうか。

 リベリオンとガーディアンが全力で殺しあう戦場を間近で経験したことのある大和は、セブンと三代が築いている奇妙な協力関係を不思議に感じていた。






「さてと…、次はそのスーツの稼動状態を見せて貰うわよ。

 データもいいけど、やっぱり実際に見てみないとねー」

「えっ、まだやるんですか?」

「当たり前じゃない。 まだまだ序の口よー」

「ガーディアンの施設でデータが取れる貴重な機会。 これを逃す訳にはいかない」


 セブンと三代、世代の異なる二人が女性たちが全く同じ目の輝きを見せている。

 自身の研究に全てを賭け、研究以外の要素は全て捨て去ることが出来る生粋のマッドサイエンティスだけが出せる有る意味で純粋な瞳の輝きだ。

 大和は二人の美しい研究者の姿から、敵味方に分かれていた筈のセブンと三代が何の蟠りも無く一緒に居る理由を何となく察するのだった。


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