1. 東日本ガーディアン基地
「うぉぉぉっ、すげーでけー」
「ありがたや、ありがたや…」
「ねぇねぇ、此処で待っていれば白木くんに会えるかな!!」
そこはあたかも要塞の如き堅牢な建物であった。
端が霞んで見えるほど広い敷地の四方には厚い壁で覆われ、監視カメラと言う名の機械の目が絶えず辺りを警戒している。
入り口あたり空間には巨大なゲートが設置されており、外界かの侵入を拒絶していた。
そして刑務所のようなセキュリティを誇る施設の周囲には、何故か場の雰囲気にそぐわない人間たちが集まっている。
老若男女様々な年代の人たちが施設を興味深そうに眺め、中にはカメラで写真を撮る者まで居る始末だった。
どうやらこの施設は観光スポットになっているらしく、最寄の駅からこの場所に来るまでに土産物屋なども沢山並んでいた。
彼らは土産袋を抱えながら、思い思いにその堅牢な施設を見物しているようだ。
「…此処なんですか?」
「そう」
「…本当に」
「本当に」
しかし物見遊山する観光客が明るい雰囲気を見せている中で、眼鏡を掛けた少女の隣に立つ平凡な少年の顔は何処か引き攣っていた。
大和はセブンに連れて来られた建物…、何時かにテレビを通して見た東日本ガーディアン基地の威容に圧倒されていた。
△△での例のリベリオンの大規模作戦の発生から一週間ほど経ち、相変わらず休日に暇をしていた大和は朝からセブンに呼び出されいた。
今日は先の戦闘で無茶をした大和の体を、セブンが精密検査するとの事らしい。
そのために大和はリベリオンを脱出してからセブンが利用している、とある研究施設へと連れて行かれることになったのだ。
大和はセブンが確保した研究施設の場所を知らず、どんな所であるか興味を持っていたので喜んで彼女に付いていった。
最寄の駅から電車に乗った大和とセブンは、彼らが住む町から数駅ほど離れたとある駅に降り立った。
その駅名に聞き覚えのあった大和は嫌な予感を感じながらセブンの後を歩き、やがて彼らは巨大な施設の前に辿り着いてしまったのだ。
正義の味方の基地と言う場所に…。
「…正気ですか、博士! 此処は何処か分っているんですか!!」
「ガーディアンの基地」
「分っているなら俺たちがこんな所に居たらまずいんじゃ…」
大和は虎穴と言ってもいいガーディアンの基地に、自分を連れて来たセブンの正気を問い質した。
繰り返すようだが大和は少し前までは9711号と言う戦闘員番号で、悪の組織の戦闘員をしていた経験が有る。
彼の横に居る休日なのに何故か高校の制服を着ている少女、セブンなども悪の組織でそれなりの立場に居た人物であった。
そんな二人がガーディアンと言う正義の味方の基地に来るということは、有る意味での自殺行為と言ってもいいだろう。
「別にまずいことは無い、私とあなたは普通の高校生。 ガーディアンの基地に来ても何の問題も無い筈」
「いや、そうかもしれませんけど…」
セブンの言う通り昔は兎も角、今の彼らは対面的には平凡な学生でしか無い。
彼らが正義の味方たちの基地に観光に来ていても、世間的には何らおかしくは無いだろう。
むしろ此処で焦った様子を見せた方が怪しまれるくらいである。
セブンの言葉で途端に周囲が気になった大和は、自意識過剰かもしれないが基地前に立っている歩哨の人間に睨まれている気配を感じてしまう。
大和は場を誤魔化すために、取り繕った表情を取って掠れた口笛を吹き始るのだった。
当然のことであるが基地の周りで騒いでいた観光客たちは、決して基地の中に入ろうとはしなかった。
流石に正義の味方の基地見学は行っていないらしく、部外者は基地前にある堅牢なゲートによって立ち入りを禁じられている。
一般市民である観光客はどんなに羨もうとも基地内に決して足を踏み入れることが出来ないのだ、しかし元悪の組織の開発主任は格が違った。
「ああ、三代さんのところのお嬢さん。 今日も遊びに来たのかい」
「事前に伝えた通り今日は連れが居る」
「ああ、その子が連絡にあった友達だね。 はっはーん、もしかして彼氏かな?」
「違う」
かつての悪の科学者であったセブンが有ろうことか、有ろうことか正義の味方の基地を守る警備員と顔見知りであったのだ。
会話を察する限り彼女は何度も此処に来ているらしく、セブンは動揺一つ見せずにゲートの前で入門手続きを行っている。
手馴れた様子でセブンが手続きを終えて、次に彼女の後ろに居た大和の番になる。
「あ、君、此処にサインをお願いね。 これが見学許可証になるから、失くしちゃ駄目だよ」
「は、はい…」
ゲートに居た警備員に言われるがままに大和はサインを行い、見学許可証となるカードキーを手渡された。
少し目立つ黄色いのカードキーには紐が付いており、首にかけておけるようになっている。
恐らくこれは文字通り、見学者を区別するために持たされた代物なのだろう。
カードキーを受け取った大和はセブンの後に付き、とうとう正義の味方の城へ足を踏み入れることになった。
基地の壁に囲まれた敷地内には複数の建物が並んでおり、当たり前のことであるが中にはガーディアンに所属する人間が多数存在していた。
流石に此処でバトルスーツを着ている物は無く、殆どの者はガーディアンの制服らしい白系の衣装に身を包んでいる。
もし自分の正体に気付かれたら、周囲の人間たちに袋叩きにあうのでは無いだろうか。
最悪の予想が頭を過ぎってしまい、プレッシャーから大和は全身で冷や汗が出るのを感じていた。
しかしセブンは周囲の状況に何ら臆することなく、迷い無い足取りで基地内を進んでいった。
どういう訳かガーディアンの人間たちは女子高の制服と言う微妙に浮いた格好をしているセブンを気に掛ける様子は無く、中にはにこやかに彼女に声を掛ける者まで居るでは無いか。
先ほどの基地の入り口でのやり取りでもそうだったが、やはりセブンはこの場所に既に何回も来ているのだろう。
「こっち」
「…本当に大丈夫なんでしょうね?」
広い敷地内を徒歩で歩くのは厳しいのか、当たり前のように施設間を繋ぐ車両が道を行き交っていた。
セブンや大和も基地の入り口付近のロータリーのような場所に、移動用の車両がずらりと並んでいる。
此処でもセブンは手馴れた様子で公共バスのような見た目の車両に乗り込み、そのまま車両はとある施設の前まで彼らを連れて行く。
施設の入り口には当たり前のように厳重な扉が設置されていたが、しかしセブンがポケットから出したカードキーを扉横の端末にかざすとそれは簡単に開いてしまった。
セブンに促されて恐る恐る施設の中に入った大和は、施設内のとある一室に足を踏み入れるのだった。
「あら、今日は少し遅かったわね。 何時もは時間ぴったりに来るのに」
「今日は連れが居た」
「ああ、噂の戦闘員くんね」
「なっ!?」
部屋の中には白衣を着た二十台後半くらいの女性が椅子に座っており、セブンの入室に気付いた彼女は気さくに声を掛けた。
そして白衣の女性はセブンの後ろに居る大和の存在に視線を移し、あろうことか大和のことを戦闘員呼ばわりして来たのだ。
ガーディアンの人間が自身の秘密をあっさりと口に出したことに驚いた大和は、己が戦闘員であると自白するかのように驚愕の声を上げてしまう。
「は、博士。 これは一体…」
「紹介する、彼女が私の協力者…」
「三代 光紅、この基地でバトルスーツの研究をしている者よ。
ああ、一応そこの小娘の戸籍上の保護者もやっているわね」
「保護者!?」
大和は前々からセブンが言っていた彼女の研究の協力者、三代 光紅との初対面を果たす。
何処かセブンと似た雰囲気を持つガーディアンの女研究者は、一体どのような意図でリベリオンの元開発主任を助けることにしたのか。
大和のことを興味深そうな視線で遠慮なく見回すガーディアンの研究者からは、彼女の思惑を窺うことは出来そうになかった。




