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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2章 欠番戦闘員
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20. 約束


「…あの、もういいでしょうか?」

「…問題無い、それで今日の用件は何?」


 突然、ぶつぶつと何事かを呟きながら考え事を始めたセブンを待つこと数分、ようやく落ち着きを見せた彼女に大和は恐る恐る話しかけていた。

 とりあえず現時点で結論を出すのは難しいと判断したセブンは思考を止め、改めて大和に今日の本題について尋ねる。

 今日はセブンが大和を呼んだので無く、大和がセブンに話があると約束を付けて彼女の部屋を訪れていたのだ。

 セブンに促された大和は何やら真剣な顔つきを見せ、恐る恐ると言った風に話し始めた。


「…俺はこれからも博士の研究とやらを手伝おうと思います。

 けど研究を手伝う条件として、一つ博士に約束して欲しいことが有るんです」

「…条件を掲示して欲しい」

「博士が怪人の研究をするのは構いませんが、その研究に無関係な人間を巻き込むのは止めて欲しいんです」


 セブンの最終目標は、自身の手で最強の怪人を生み出すことである。

 その準備段階として怪人専用バトルスーツの研究をしているセブンであるが、この研究が終わればいよいよ怪人の製造に入るに違いない。

 性能の良い怪人を作るためには素体となる人間を厳選する必要がある、実際に平凡な肉体しか持って居なかった大和は戦闘員にしかなれなかった。

 セブンがバトルスーツの操作に特化した怪人を作り出すには、元となる厳選された素体が絶対に必要になる。

 大和はこの素体を選別を行う時に、リベリオンと同じやり方をしないことを研究の協力条件として挙げたのだ。







「…何故、その条件を出した?」

「勝手な考えですが俺は博士にリベリオンのように、人間を攫うような真似をして欲しく有りません。

 母を攫われかけて初めて理解しました、あれはやってはいけない事だ…」


 戦闘員になる前の記憶を失った大和に取って、リベリオンが行う素体捕獲任務と呼ばれている行為について何処か他人事のように感じていた。

 仮に記憶が残っていたら話が違っていただろうが、気が付いた時には既に大和は既に戦闘員になっており、記憶喪失前にリベリオンに攫われたと聞かされてもピンと来なかったのだ。

 しかし今回の△△の件で大和は母の霞がリベリオンに攫われそうになった事実によって、初めて素体捕獲任務が超えてはいけない一戦を超えた所業であると理解されられることになった。

 そして大和は思ったのだ、最強の怪人を生み出そうとしているセブンも何時かは同じ手段で素体を手に入れようとするかもしれないと。

 今までリベリオンと言う悪の組織に所属していたセブンや大和が、今更このような綺麗事を言うのはおかしいのかもしれない。

 それでも大和はセブンにあのような真似をして欲しく無いと思い、後出しでこのような条件を出したのだった。






「…解った。 その条件を呑む」

「いいんですか? 俺が言うのも何ですけど、素体が無いと怪人は作れ無いんじゃ…」

「私たちはもうリベリオンでは無い、今居る世界から弾かれるような危険な行為は控えた方がいい。

 …それに怪人に成りたがる物好きな人間は少なくない」

「えっ、本当ですか?」


 最悪、目の前の恩人との縁を切るつもりで願い出た大和の条件を、セブンはいともアッサリと受け入れた。

 大和のように事の善悪を考えているかどうか不明だが、セブンはリベリオンと同じ所業を行うにはデメリットの方が大き過ぎる考えたようである。

 しかしセブンの目的はあくまで最強の怪人を生み出すことである、彼女が大和の条件を呑んだ最大の理由は素体を手に入れる当てが別にあったことだろう。

 実は大半の人間が怪人と呼ばれる異形の者に嫌悪する中で、密かにその凄まじい性能を手に入れたいと願っている人間が居ることを彼女は知っていたのだ。

 例えばリベリオンに被害を受けた優秀な素体に復讐できる力が手に入ると持ちかければ、この悪魔の取引に同意する者は必ず居る筈だ。

 自分から志願して怪人になるのなら自己責任である、大和が脇からどうこう言うことでも無いだろう。

 改めて大和はセブンの研究に協力することを約束し、セブンの飽くなき研究は今後も進められることになった。
















「…欠番戦闘員、ふざけた名前だな」

「しかしその実力は侮れません、皆さんも十分に警戒して下さい」


 某県某所にある人里から隠れるように建てられた建物、日本の各所にあるリベリオン秘密基地の一つがそこにあった。

 基地の一室にある部屋では怪人たちが、先の大規模な素体捕獲任務の失敗について話をしているようだ。

 会議を仕切っているのは自身の知らない内にセブン脱走の切欠を作った、例の蟹型怪人である。

 蟹型怪人は今回の作戦を失敗に導いた謎の欠番戦闘員についての情報を、秘密基地に属する怪人たちに公開していた。

 数回に渡る素体捕獲任務の妨害に加えて、△△で四体の怪人を破った大和は既にリベリオン内で重要視される存在になったのだ。


「流石は我がライバルだな! そうこなくては面白くは無い」

「リザドさん、口が過ぎますよ。

 そもそもあなたがこの邪魔者を倒していれば、このような事態にならなかったのですがね…」

「ふんっ、そもそも俺を作戦から外したことに問題があるのだ!」


 現時点で大和に全敗している自称ライバルの蜥蜴型怪人リザドは、大和の戦果にご満悦なようである。

 さり気なく嫌味を混ぜなら蟹型怪人はリザドを嗜めるが、わが道を行くリザドには聞く耳を持つ様子は無かった。

 他の怪人たちもリザドに対して好意とは対照的な視線を送る中で、リザドは相変わらず自身満々な調子を崩すことは無かった。





「ぐはははっ、所詮は戦闘員なのだろう。 この俺様がすぐにでも血祭りに上げてくれるわ!!」

「戦闘員服を着ているからと言って、この欠番戦闘員と言う輩が戦闘員である可能性は低いでしょう。

 声質こそ戦闘員と同じ物だったらしいですが、報告を聞く怪人たちと会話をしたらしいので…」

「ガーディアンを同じバトルスーツを使っているのだ! 戦闘員服を着ているだけで、中身はひ弱な人間に違い有るまい!!」


 怪人たちに取って戦闘員と呼ばれる存在は、彼らの命令にただ忠実に従うロボットと何ら変わりない。

 そのため明らかに自己の意思を見せた大和がその衣装通りに戦闘員であるとは、リベリオン内では誰も考えることは無かった。


「意思の有る戦闘員…。 まさか…」


 しかしリベリオンの中でただ一体の怪人だけは、欠番戦闘員の正体に付いて心当たりがあった。

 かつて交流を深めた9711号とナンバリングされた奇妙な戦闘員の姿が脳裏に浮かんだ蜂型怪人クィンビー、もし彼女が人間への偽装形態を取っていたらその顔色は明らかに変わっていただろう。

 クィンビーは9711号が自身の死を偽装した事実を組織に報告すること無く、自身の胸の中に仕舞っていた。

 9711号の行為は明らかに組織に反逆するものであるし、あの戦闘員が死んで無いと言うことは主人である元開発主任の死亡も疑わしくなる。

 本来なら報告するのがリベリオンの怪人としての正しい有り方ではあるが、何故クィンビーはそうしなかったのか。






「実際に会えば解るわよね…」


 当初クィンビーは9711号が死が偽装されたことを知った時、彼女の中にはあの奇妙な戦闘員が生きていることに対する喜びがあった。

 やがて騙されたことに対する怒りがクィンビーの中に浮かび、その内に彼女は9711号が死を偽装した動機が気になり始めたのだ。

 仮にクィンビーが組織にこの件を報告したら、裏切り者を許さない組織は問答無用で追跡者を送り込んで彼らを始末するだろう。

 そうなってしまえば真実は永久に闇に葬られる、クィンビーは彼女が気に入っていた9711号とセブンが組織を脱走した理由を知りたかった。

 そのためクィンビーは9711号との関係が疑われる、件の欠番戦闘員と直接会って確かめることを心に決めるのだった。

 袂を分った蜂型怪人と欠番戦闘員の邂逅の瞬間は、そう遠くないだろう…。


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