19. 怪人とコア
「リベリオンが…、居ない?」
△△での戦いが全て終わったタイミングで漸く、本来の正義の味方であるガーディアン一行が現場に辿り着いていた。
リベリオンの策略に嵌められたガーディアンは失態を挽回するため、遅まきながら数十人規模の戦士たちを△△に派遣していた。
正式コアを使用したスーツを着用する精鋭と簡易コアを使用したスーツを着用する雑兵たちが△△に集結、その中にはあの白木の姿もあった。
しかし彼らの目の前には既にリベリオンの姿は無く、そこには喜ぶ市民たちと一体の戦闘員しか居なかったのだ。
リベリオンはもう此処には居ない、怪人たちが全て敗れた直後に生き残った戦闘員たちがそれらを担いで一目散に逃げ出していたのだ。
恐らく敗北時の行動パターンが既にプログラムされていたのか、戦闘員たちは誰に命令されることも無く自発的に△△から立ち去っていた。
リミッター解除の反動で体中が痛い大和に敗残兵を追う余裕は無く、バトルスーツを脱いで戦闘員服に戻った大和は丁度この場から立ち去ろうとしていた。
「おい、待て! お前が例の欠番戦闘員という奴か!!」
「…ガーディアン? 今更ゴ到着カ、暢気ナモノダナ…」
「お前は何者だ、何故リベリオンと戦う? 何故よりにもよって戦闘員の格好をしているのだ?」
ファントムに乗ってその場から離れようとする大和に気付いた白木は、慌てて謎の欠番戦闘員を呼び止めた。
最初に大和が助け出した市民たちからの情報によって、ガーディアンたちは世間で欠番戦闘員と呼ばれている者が△△に現れた事実は既に把握していた。
そして△△にリベリオンの姿が無い現状から、この場に現れた怪人たちをこの謎の欠番戦闘員が全て追い払ったという有り得ない推測が成り立ってしまったのだ。
白木の顔に見覚えのあった大和は、△△に現れた連中があのガーディアンであるとすぐに気付く。
過去の経験によって例の正義の組織に好感を持っていない大和は、あえて冷たい態度を取って見せた。
しかし大和の反応など気にしている暇は無い白木は、まくし立てるように謎の欠番戦闘員の正体について問い詰めた。
「…俺ハタダノ戦闘員ダヨ。 ガーディアンニ見捨テラレタナ。
ジャアナ、正義ノ味方サン」
「なっ!? 消えた…」
心情的にも立場的にもガーディアンの力になりたくない大和は、皮肉を残してそのまま△△から文字通り姿を消した。
白木の周りに居たガーディアンの戦士たちが自分を包囲しようとしていることの気付いた大和は、これ以上△△に残っている必要は無いと判断したのだ。
目の前でファントムのステルス機能を発動された白木は、呆然とした表情で先ほどまで欠番戦闘員が居た場所を凝視していた。
「体の調子はどう?」
「もう何処も痛く有りません。 反動とやらが筋肉痛程度で済んで助かりましたよ」
△△での事件から数日が経ち、無事に生き残ることが出来た大和はセブンの部屋を訪れていた。
懸念したコアの出力を上げた反動も全身筋肉痛程度で収まり、大和の五体は再起不能に見舞われることは無かった。
強いて問題があったとすれば母の霞に筋肉痛のことを知られると不自然に思われるので、彼女の前で痛みを我慢して平気な顔をするのが辛かった事ぐらいだろう。
「あなたの体の件についてはまだ安心は出来ない。
いい機会なので精密検査も含めて一度、あなたを整備しようと思う」
「…今度は勝手に俺の体に変な物を埋め込まないで下さいね」
表面上は大和の体に問題は無さそうであるが、今回のリミッター解除によって見えない所に爆弾を抱えた可能性も有る。
大事なテスターである大和の体を心配したセブンは、設備の整った場所で彼の精密検査を行う必要性を考えていた。
大和は検査と言う言葉を聞いて、過去に健康診断と評して体のあちこちを弄られた苦い過去を思い出していた。
「とりあえずこれで一段落ですかね。 母も無事だったし…」
「今回の戦闘では素晴らしいデータが手に入った。 私としても収穫が大きかったと言える」
△△でガーディアンから逃げるように退散した日、ファントムを置いた大和は筋肉痛の体に鞭打って自宅に戻っていた。
霞はまだ戻っていなかった、彼女は△△での出来事について事情聴取などを受けていたらしく、帰宅はその日の夜遅くになってしまったのだ。
霞と分かれた後で彼女が無事に逃げられたか気になっていた大和は、無事に帰宅した母を出迎えたことで漸く胸を撫で下ろすことが出来たのである。
余ほど疲れていたのか霞は出迎えた大和とニ、三言話した後、シャワーを浴びてからすぐに床に入ってしまった。
その為にまともに母と話せたのは次の日の朝食の席だったが、少なくとも表面上は彼女に変わりは無いようだった。
「少し心配しましたけど、母が俺の正体に気付かなかった見たいです」
「それは良かった、あなたの母親の記憶を操作する必要が無くて…」
「…冗談ですよね?」
「……」
△△で大和はバトルスーツを着用した状態で、霞を助けた時に彼女と間近で話していた。
フルフェイスマスクで顔を覆い、わざわざ声まで変えているので母が正体に気付く可能性は低いと思うのだが、肉親の勘と言うのは侮れない。
後になって大和は母に正体に気付かれた可能性が頭に浮かび、内心で戦々恐々としたものである。
しかし大和の心配は杞憂に終わった、事件翌日の朝食時に大和はさり気なく△△のことを尋ねたが、霞は少なくとも欠番戦闘員の話をすることは無かったのだ。
それどころか霞は△△のことを全く話さなかった、どうやら今回の事件についてあのガーディアンに口止めをされたようである。
相変わらずのガーディアンのやり口に思う所があるが、大和としては今回の件は大円団に終わったと言っていいだろう。
「本当に良かったです、母を救うことが出来て…」
△△の件で母の霞がリベリオンに攫われる可能性があると聞いた瞬間、大和の背筋に冷たい物が走ったものである。
記憶喪失である自分がようやく手に入れた身内が狙われたショックは、大和に予想以上の衝撃を与えたのだ。
恐らく自分が行方不明になった時に霞は、大和と同じような感情を味わったに違いない。
母が自分の前から消えてしまう事に対する焦燥感と、△△の事件後に無事に母と食卓を囲んだ時に生まれた安堵感は大和は一生忘れることは出来そうになかった。
「…しかしコアの力って言うのは凄まじいですね。
よく普通の人間がリミッター解除なんかをして あ、別に無事じゃ無いのか…」
戦闘員と言う有る意味で恵まれた体を持った大和が、八割程度の出力で数分戦っただけで体に結構なダメージを受けたのだ。
肉体的に脆い人間の戦士がコアの全解放をした状態で、よくまともに戦うことが出来るものだと大和が思っても不思議は無いだろう。
大和の脳裏にはリミッター解除をしたことでクィンビーを圧倒した、あのガーディアンの女戦士の姿が浮かんでいた。
恐らくコアの出力を全開にした時点で彼女の体には、その反動によって凄まじい痛みがあっただろう。
仲間のためにその痛みに耐え切って戦う黒羽と呼ばれた女戦士に、大和は今更ながら尊敬の念のようなものが芽生えていた。
最も、黒羽たちが劣勢になった原因を作ったのは、白木某からインストーラを奪った大和による所が大きいのだが。
「…あれ、もしかしてコアの方が怪人より凄いのか?
全力をだせば怪人より全然強くなれるんだし…」
コアの出力を全開にしたバトルスーツは怪人を圧倒する性能を持つ、その事実を改めて知った大和に一つの疑問が浮かび上がった。
コアのポテンシャルは怪人のそれを大きく上回るのでは無いのかと…。
大和の…、否、世間一般の認識ではガーディアンのバトルスーツとリベリオンの怪人の力は互角であった。
しかしよく考えてみれば、互角とされているバトルスーツにはコアの数割程度の出力しか使用していないのだ。
現時点ではコアの適格者は限られているため、適格者を使い捨てるコアのリミッター解除が行われることはまず無い。
そのため両組織の戦力は拮抗してい状態だが、仮にガーディアンが何らかの手段でコアの全出力を操る手段を見つけたら一気にパワーバランスが崩れてしまうのだ。
「もしかしてリベリオンには勝ち目は無いんですかね?」
「…確かにガーディアンガコアの全出力をコントロール出来るようになれば、怪人しか居ないリベリオンの勝ち目は無い。
しかし怪人たちがあなたのように、バトルスーツを使うようになれば話は別」
「ああ、そういえば…」
コアの出力に人間は耐え切ることは出来ない、しかし怪人の強靭な体があれば話は違う。
もしリベリオンがバトルスーツを使うようになれば、怪人の能力にコアの全出力が上乗せされた戦力がお手軽に生み出される。
実際に戦闘員である大和はバトルスーツを着用することで、通常の怪人たちを上回る能力を手に入れているのだ。
仮にこうなってしまったら、普通の人間の集まりであるガーディアンたちの敗北は必死だろう。
「そもそもリベリオンが持つ生物の合成技術と、ガーディアンのコアの製造技術を分けて考えるのが間違いかもしれない…」
「その心は?」
「これらの技術は二つ同時に宇宙からやってきた物である。
もしかしたらこの技術は別々に使う物で無く、組み合わせて使うのが本来の有り方なのかもしれない」
生物の合成技術によってコアの全出力に耐え切れる肉体を生み出し、コアの製造技術はよって生み出したコアを使いこなす。
このように考えれば、二つの技術が同時に宇宙から送り込まれた理由も説明が付く。
最強の怪人を生み出すためにバトルスーツの研究を初めセブンは、もしかしたらこの星で初めて宇宙人たちの意図通りに二つの技術を組み合わせて使用しているかもしれない。
「…では何故、リベリオンはバトルスーツを使用しないのか?
それはリベリオンの方針のため、加えて怪人たちもバトルスーツは弱者である人間のおもちゃとしか見ていない。
否、そのような認識をリベリオン上層部に刷り込まれているのか…。
リベリオンの上層部は何を考えているのか、単にバトルスーツの…、コアの能力を甘く見ているだけ? それとも他に意図が…」
「あの…、博士?」
普通の人間たちが異形の怪人に嫌悪感を抱く感情を知識としては理解しているセブンは、ガーディアンがコアの出力に耐えるために自身の体を弄るという選択をしないことには納得できた。
しかしリベリオンは違う、生物の合成技術を前提にして生み出された怪人たちは既にコアの出力に耐える体を持っているのだ。
怪人たちがコアの力を使わない物理的な理由は何も無く、有るのはバトルスーツの使用を禁じているリベリオンの方針だけである。
リベリオンに居た頃のセブンにはバトルスーツの研究を禁じた組織への批判しか頭に無かったが、組織の外から改めてリベリオンの有り方を考えた彼女はある違和感を覚えるのだった。
 




