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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2章 欠番戦闘員
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14. 欠番戦闘員


 △△、大和が住む地域に存在するこの施設は休日には様々なイベントが開かれていた。

 今日はこの場所で地域振興のために街が地元の農大と組んで、地元食材をアピールするための食のイベントが開催されている。

 イベントでは地元で取れた野菜や加工品の販売や試食は勿論、農大の学生による研究発表も行われ、果てにはこの地域出身のアイドルによるミニコンサートまで予定されていた。

 街が気合を入れて宣伝をした結果、△△には多くの人間が詰め掛けておりイベントは大盛況と言ってよかった。


「凄い人ね…、大和も連れてくれば良かったかしら…」


 料理研究会である霞は今日、この場所で地元食材の活用方法についてのセミナーを行うために訪れていた。

 仕事用のスーツを着た霞はセミナーの開始まで時間があるらしく、空き時間を有効活用してイベントを見て回っていた。

 このイベントは農大の協力を得るなどして若い世代を呼ぶための努力をしており、その成果が出たのか会場に若者の姿が沢山見える。

 イベントに協力している農大の大学生や若いカップルたちは、地元食材を使用した料理に舌鼓を打っているようだ。

 時刻は正午を回り、霞のセミナーを含む午後のイベントを控えたイベント会場の人入りはピークを迎えつつあった。

 △△は平和そのものだった、黒い従者を引き連れた異形の者たちが現れるまでは…。











 △△の広場にはイベントの関係者やイベントを訪れていた人たちが集められていた。

 集めれた人間たちは一様に怯えており、中には手や足に犬に噛まれたような傷を負った者たちも居る。

 彼らの周囲には黒い衣装に身を纏った戦闘員たちが囲み、精気を感じさせない無機質な瞳で人間たちを監視していた。

 それに加えて戦闘員たちと人間たちの間に、獰猛な唸り声をあげる巨大な犬たちが周回している。

 恐らくこの犬たちによって負傷させられたであろう人たちは、犬たちに目を合わせないよう俯きながら震えていた。

 この中には大和の母はである霞の姿もあり、彼女も他の人間たちと同じように怯えた様子を見せていた。


「おい、これで全部か?」

「愚問だな。 俺の兄弟たちが逃れられる人間がいる訳が無いだろう」

「戦果は上々だな。 素体に不適切な老い耄れも少なくないが、これだけの数が集まれば十分だろう」

「今の所はガーディアンが現れる様子は無い。 我らリベリオンの作戦は順調のようだな…」


 戦闘員たちを睥睨できる位置に立つ異形の者たち、リベリオンの怪人たちは今日の戦果を見渡していた。

 堅牢な甲羅を背負った亀型の怪人トータスの問いに、犬型の怪人ハウンドは自信満々と言った様子で己の操る戦闘用犬たちに合図を送る。

 戦闘用犬たちは主の指示に即座に反応を見せ、統一された動きで人間たちに威嚇するように遠吠えをあげる。

 鼻の辺りに聳え立つ巨大な角が特徴のサイ型怪人ホーンは、数百人規模の人間を一度に確保できたことに満足げな様子だ。

 そして並び立つ三体の怪人たちの上空では、鳥型怪人フェザーが空を羽ばたきながら周囲の警戒を行っている。


「よし、輸送車がもうすぐ到着するようだ。 すぐに素体を詰め込むぞ」

「若い固体以外は無視していいぞ。歳を食った素体などの何の役にも立たないからな」

「抵抗する奴が居たら見せしめに殺して構わん。 この数だ、一人や二人減っても大丈夫だろう」


 怪人たちはこの場所で、集められた獲物をリベリオンの基地に運ぶための輸送車を待っていた。

 ある程度は選別するとは言え、これだけの数を運ぶためには大型の輸送車が何台も必要となる。

 彼らの任務は捕獲した素体たちをリベリオンの秘密基地運ぶことによって初めて完遂するのだ。

 課せられた仕事を半ばまでしか達成していないにも関わらず、怪人たちは皆余裕の態度を見せていた。

 何故なら宿敵ガーディアンは彼らの策略に嵌ってしまい、此処か遠く離れた場所に戦力を集中させてしまっている。

 ガーディアンが居ないこの状況で、怪人である彼らを阻むものは何も無いのだ。

 任務の順調さに怪人たちは退屈さすら感じており、弛緩した空気が彼らの間に漂っていた。











「な、なんだ!? この音は?」

「爆発、一体何処から…」

「輸送車だ、輸送車がやられている!!」

「なんだと!?」


 しかし彼らの過信は、何処からか聞こえてきた破壊音によって打ち砕かれることになった。

 突然何かが壊れる音とともに金属がぶつかり合う嫌な音が鳴り響き、怪人たちは色めき立つ。

 空から周囲を見渡していたフェザーがいち早く破壊音の原因、リベリオンの輸送車が破壊されている事態を知る。

 フェザーの鳥の目には確かに素体を運ぶための輸送車が次々に横転して、その足を止められている光景が様々と映し出されていた。


「誰がやった、ガーディアンか!?」

「ちょっと待て!? あれは…、戦闘員!?」


 破壊された輸送車の周囲に護衛の戦闘員たちが倒されている中、一体だけ無事に直立している戦闘員の姿があった。

 その戦闘員は倒れた輸送車に寄りかかった姿勢で立っており、腕を組んだ姿勢でじっとその場を動かない。

 鳥の目を戦闘員に焦点を合わせたフェザーは、戦闘員の覆面に有る筈の戦闘員番号が塗り潰されていることまで見取る。

 戦闘員番号を消した戦闘員が最近、素体捕獲任務を妨害しているという情報は彼らも耳にしている。

 フェザーは即座にこの事態が、例のバトルスーツを使う謎の戦闘員が引き起こした物であると察する。


「ほぅ、あのリザドを何度も退けたという偽戦闘員が現れたのか…」

「面白い…返り討ちにしてくれるわ!!」


 彼らはあの不幸な蜥蜴型怪人の実力を評価しており、偽戦闘員は一対一で戦う場合には苦戦は免れない相手だと認識していた。

 しかし今この場には四体の怪人と言う過剰戦力が集まっている、幾ら偽戦闘員の実力が未知数でもこの戦力とまともにやり合っては一たまりも無いだろう。

 簡単な任務に些か拍子抜けをしていた怪人たちは、思わぬ遊び相手が出来たことに喜びを隠そうとしなかった。

 怪人たちは任務の障害を排除するため、素体の監視を戦闘員たちに任せて偽戦闘員の待つ場所へと向かった。











「おい、怪人や犬たちが居なくなったぞ、今が逃げるチャンスじゃ無いのか?」

「あの黒ずくめの奴らも少なくなった、これなら…」

「馬鹿、ただの人間が戦闘員に勝てるわけ無いだろう。 常識だぜ…」

「もういいよ、俺たちは皆死ぬんだよー!!」


 怪人たちが多数の戦闘員たちや戦闘用犬を引き連れて姿を消し、△△には囚われの人たちとそれを監視するための戦闘員しか残っていなかった。

 囚われた人間たちの一部はこの機にこの場からの逃亡を企てるが、周りの人たちはその無謀な暴走を留めていた。

 彼らは常識として知っているのだ、ただの人間は戦闘員の力でさえ太刀打ちできないことを。

 普通の人間では絶対に太刀打ち出来ないリベリオンに囚われ、唯一の救い手であるガーディアンが現れる様子は無い。

 人間たちはただ己の不幸を嘆き、怨嗟の声をあげるだけしか出来ないのか。


「…キィ? キィィィィッ!!」

「「キィ!!」」

「な、なんだ? 戦闘員が仲間割れ…」


 全ての人間が諦めかけたこの時に突如、白馬の王子ならぬ黒色の鉄騎に跨った元戦闘員が突如として現れた。

 ステルス機能によって監視の目を誤魔化して接近したファントムに轢かれて、不幸な戦闘員が哀れにも弾き飛ばされてしまう。

 仲間がやられた戦闘員たちはすぐにステルスを消して姿を現した大和たちに気付き、即座に戦闘態勢を取った。

 そんな中で囚われの人間たちは、大和と戦闘員たちのやり取りを呆然と見ていた。

 何せ大和は他の戦闘員と同じように戦闘員服を着用しているのだ、何も知らない人間たちの目には戦闘員同士が争っているようにしか見えないのだろう。


「スグニ片付ケルゾ、ファントム…。 変身!!」

「"あの怪人たちがこの場に戻ってくるまでが勝負ですからね、マスター!!"」


 ファントムから降りた大和は人間たちを監視している戦闘員たちを倒すため、即座に内臓インストーラを起動させる。

 光に包まれた大和は次の瞬間に黒ずくめの戦闘員服から、体の各所に炎を模した紋様が浮かぶバトルスーツを纏った姿になっていた。

 怪人たちが居ない内に人間たちを解放するために、大和はこの場に残った戦闘員たちを排除するために敢然と向かっていった。






「な、なんだあれは!? ガーディアンなのか…」

「でも戦闘員の格好をしていたぞ、あいつ…」


 囚われの人間たちは呆然とした表情で大和と戦闘員たちの戦闘、否、どちらかと言えば大和のワンサイドゲームを見守っていた。

 戦闘員と怪人には大きな力の差が有り、怪人と互角以上に戦うことが出来るバトルスーツを纏った大和に彼らが勝てる訳無いのだ。

 普通の人間では決して叶わない戦闘員たちをいとも容易く倒していく大和の姿に、囚われの人たちは畏怖の眼差しを向けていた。

 

「…聞いたことがある、あれが噂の欠番戦闘員だよ!!」

「何よ、その欠番って…」

「最近噂になっているんだよ、リベリオンと戦う謎の戦闘員が居るってさ…」

「普通の戦闘員は覆面の番号が振られているだろう? けどその戦闘員は覆面の番号が塗り潰されているって話なんだよ」

「番号が無いから欠番、何だか安直な名前ね…」

「ああ、俺も知っているぜ。 俺の友達の友達の友達の友達がそいつに助けられたって話していたよ。

 まさか本当に居たとは…」


 大和はこれまでにバトルスーツのテストとして、幾度もリベリオンの素体捕獲任務を妨害してきた。

 その度にリベリオンに襲われた不幸な人たちは大和に助けられ、特に口止めもされていない彼らがその経験を周囲に語ることは別段不思議なことでは無い。

 人の口に蓋が出来ないように、大和が活動するたびに噂は彼が活動するこの地域を中心に広がっていたのだ。

 戦闘員番号を塗り潰した謎の戦闘員にはやがて欠番と言う名が与えられ、ガーディアンの秘密兵器やらリベリオンから脱走した改造人間やら噂に尾ひれが付け足されていた。

 しかし欠番戦闘員はあくまで噂の存在でしか無かった、人間たちの常識では怪人に勝てる戦闘員など居る筈が無いのだ。











「…俺たちを助けに来てくれたのか、あの欠番は」


 そして彼らの目の前に噂の存在でしか無かった欠番戦闘員が、自分たちを救うために戦っていた。

 大和としてはこの中に居る母だけを救いに来たのだが、そんな事情を知らない囚われの人間たちに取って大和はまさに救世主だった。

 人々の注目を集めながら大和は、最後に残った戦闘員を手早く殴り倒していた。

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