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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2章 欠番戦闘員
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8. お願い


「"…怖かったぁぁぁっ! うわっ、よく勝てたな、俺…"」


 人目に付いてしまう黒ずくめな戦闘員服から平凡な私服に着替えて、ファントムのライトを頼りに夜道を走る少年の姿がそこにあった。

 蜥蜴怪人リザドとの戦闘を終えて帰途に着く偽戦闘員…、大和は内臓の通信機を通して彼の相棒であるファントムに弱音を吐き続けている。

 ファントムに対して戦闘時の恐怖を語る大和、その情けない姿からは先ほど怪人相手に堂々と立ち回っていた勇ましさは見る影も無くなっている。


「"えー、でもその割には堂々としてたじゃ無いですか、格好良かったですよー"」

「"あ、あんなのハッタリに決まっているだろう。

 下手に弱みを見せたらまずいと思って、必死に対応したんだぞ"」


 幾らリベリオンで戦闘員をしていたとは言え、大和は基本的に荒事とは無縁の内勤を務めていた。

 そんな彼が行き成り戦場に出てきて混乱しない筈が無い、以前に一度だけクィンビーに任務へ連れ出された時の経験が無ければ満足に動くことすらう出来なかっただろう。

 傍目から見たら謎の偽戦闘員が不敵に怪人を相手取っているように見えただろうが、実際は覆面の下は大和はとても人様に見せられないような情けない表情をしていたのだ。

 正体を隠すために発声器を弄って、声質を戦闘員のそれに近い無機質なものに変えていたのも功を奏した。

 もし普段と同じ声質だったら、緊張によって声が所々で震えていたことを相手に気付かれていたかもしれない。


「"俺一人じゃ返り討ちにあってたよ、きっと…。

 戦いの方もお前に頼りっぱなしだったからな…。 ありがとう、ファントム"」

「"いえいえ、これがファントムちゃんのお仕事ですから"」


 先の戦闘で張り切るという台詞とは裏腹に特に何もしていなかったように見えたファントムだったが、実はこのマシンは陰で大和の戦いを支えていた。

 ファントムの機能の一つとして、敵や周辺状況などの様々なデータを分析して伝える戦況分析の機能がある。

 大和が装着したルメットにはスクリーンが内蔵されており、ファントムからそれらの分析がリアルタイムで送られてくるのだ。

 今回のリザドや怪人との戦闘時も、ファントムは密かに大和への戦闘サポートを行っていた。

 例えば大和がリザドの攻撃を華麗に捌けたのは、ファントムの攻撃予測があってのことであった。

 リザドの粘着液によって両腕を拘束された際もファントムは瞬時に対応策を示し、大和はその指示通りに行動することで拘束から抜け出すことができたのだ。

 結論から言えば今回の戦闘で大和は、ほぼファントムの指示通りに行動したお陰で勝利を収めたと言ってよかった。


「"はぁ…、なんでこんな事になったのかな…"」

「"自業自得ですよ、マスター"」


 何故、リベリオンを脱出して平穏な生活を取り戻した筈の大和が、怪人との戦闘行為を行うようになったのか。

 それは大和が考え無しに友人であるセブンのお願いを聞いてしまったことに由来した。

 現在、大和はセブンから頼まれたお願い…、怪人専用バトルスーツのテスターを行っているのだ。

 大和は走馬灯のように、セブンから初めて研究の手伝いとやらの内容を教えられた時のことを思い出していた。











 セブンの研究を手伝うことを約束した大和は翌日、早速仕事があるということで再びセブンからの呼び出しを受けることになる。

 学校が無い土曜日にも関わらず、やる事も無くて部屋で暇を潰していた大和はセブンからのメールが届いてすぐに、彼女の部屋まで駆けつけた。

 大和の手にはタッパ詰めにした霞お手製の煮物があった、一人暮らしをしているセブンに母が気を使ってお土産にとして持たせた物である。

 セブンの住居に着いた大和はセブンに断りを入れて、母のお土産を冷蔵庫に入れた上で彼女のプライベートルームにお邪魔した。

 部屋に入った大和はすぐに、昨日には無かったとある物がテーブルの上に置かれていることに気付いた。

 それは一辺が五センチほどの大きさの正方形の物体だった、その物体は淡い赤色をしており中心から薄っすらと輝いていた。


「これは…」

「それはバトルスーツのコア。

 先日、ようやくこのコアの解析が完了した

「これがコアですか…」


 休日にも関わらず何故か制服を着ていたセブンは、大和が注目する物が怪人と双を成す宇宙技術の産物、コアであることを告げる。

 セブンの話が本当ならば、これは大和がガーディアン戦士である白木から奪ったバトルスーツのコアなのだろう。

 大和はバトルスーツを格納しているインストーラしか見たことが無く、コアを直接見るのはこれが初めてだった。

 この片手で持ち運べるちっぽけな物が怪人と互角に戦う力を生み出すのかと思うと、大和は何処か圧倒された感触をコアから受けた。


「…あれ、解析がすんだって?

 た、確かコアってガーディアンで十年以上研究しているのに、未だに解析が進んでいない物ですよね。

 なんでこんなに速く…」

「これも努力の賜物」


 素体となる人間に様々な生物の特性を合成し、その能力を最大限に引き出す調整を行うことで怪人と呼ばれる存在が誕生する。

 怪人製造の要は、本来なら一つに合わさる筈も無い全く異なる種類の生物の特性を調整して一つの器に合成する技術にあった。

 世間一般では考えもしない生物の特性を合わせることも、宇宙技術を背景にしたリベリオンならば僅かな拒絶反応も出すことなく行うことが出来るのだ。

 長年リベリオンで怪人の研究をしていたセブンにも勿論その技術が体に染み付いている、それが全く技術体系の異なるバトルスーツのコアの研究で役にたっていた。

 勿論、怪人製造技術がそのままコアの研究に活用出来る訳では無い、役に立ったのは元リベリオン開発主任であったセブンの視点だ。

 セブンは気付いたのだ、バトルスーツのコアを調整して使い手に合わせるという行為と、怪人製造時に人間と全く異なる生物の特性を調整して移植出来るように合わせるという行為は有る意味で同じであることに。

 怪人とコアの技術は元を正せば同じ宇宙から齎された技術である、表面上は全く違うように見えても根っこの所で共通していることがあったのかもしれない。

 この発見をしたセブンは怪人の研究を行ってた時の経験をもとに、誰もが思いつかなかった独自の方向でコアの研究を進めた

 そして彼女は、元リベリオン開発部主任はガーディアンの研究者だけなら本来なら後数年は掛かる筈だったコア解析の手法を、僅か数ヶ月で構築してしまった。







「今日からこのコアを使用した新たなテストを行う。

 あなたにはそのテスターになって欲しい」

「じゃあ今度こそ、あのインストーラが使えるんですね!!」


 大和の脳裏にはかつてリベリオン日本支部に居た頃に、奪ったバトルスーツのインストーラを使おうとして失敗した過去が過ぎっていた。

 あの時はコアを大和に使えるように調整されておらず、相性の問題で幾ら大和が頑張ってもインストーラを使うことは出来なかった。

 しかしセブンの話なら、今の調整を施したコアを使えば大和もあのインストーラを起動させてバトルスーツを纏えるのだ。

 大和は以前のリベンジが出来ると、俄然やる気を出し始めた。


「残念ながらあのインストーラは、このコアを抜き出した時に解体してある。

 もうあのインストーラは存在しない」

「えっ、それならどうやってコアのテストとするんですか?」

「あれは人間専用の物でしか無い、私が必要としているのは怪人専用の物。

 今からあなたには、怪人専用のバトルスーツのテストをして貰う」


 大和の意気込みに水を差すように、セブンは白木の所持していたインストーラは既に解体されている事実を明かす。

 セブンがガーディアンのバトルスーツの研究をしている理由は、あくまで最強の怪人を生み出すためである。

 人間では使いこなすことが出来ない高性能のバトルスーツを怪人が操ることで、怪人とバトルスーツの力を相乗させた最強の存在を生み出す。

 そのためにセブンは人間用に調整されたバトルスーツで無く、怪人用のバトルスーツを使ってコアのテストを行おうと考えていた。






「それなら怪人専用のバトルスーツは何処にあるんですか?

 もしかしてまだ完成してないとか…」

「すぐに用意する。

 そのために大和、まずは服を捲ってあなたの腹部を晒して欲しい」

「…はっ、腹を出せ? …もしかして熱でも有るんですか、博士!!」


 これから自分がテストするという怪人専用のバトルスーツが気になる大和だったが、見たところセブンの部屋にはそれらしき物は見当たらない。

 怪人専用のバトルスーツの在処を尋ねる大和に、何故かセブンは突然腹部を見せろと要求してきたでは無いか。

 リベリオン時代からそれなりにセブンとの付き合いがある大和は、彼女が命懸けで進めている研究の話でくだらない冗談を言う筈が無いことは知っている。

 セブンのご乱心の理由が解らない大和は、どう見ても何時も通りにしか見えない彼女の体調を心配するのだった。

 

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