22. 戦いの結末
内蔵通信機を通してファントムから提案された無茶苦茶なプランは、横から聞いていた黒羽を絶句させるに程に酷い代物であった。
急場で考えた作戦である事を差し引いても、黒羽は即座にこの綱渡りの策の穴を指折りで数え上げることが出来た。
例えば司令塔が相手の出方を伺う待ち姿勢では無く問答無用で周囲を薙ぎ払う焦土作戦を取れば、潜んでいた大蜂たちは一瞬で粉々になりファントムのプランはあえなく破綻していただろう。
そうなればブースターで自爆特攻する大和の敗北は免れず、この星に明日が訪れることは無くなってしまう。
しかし大和は無二の相棒のプランを即座に受け入れ、かつての祖国の軍人よろしく片道特攻に打って出たのである。
「"はははは、見ましたか! これが私とマスターの力ですよぉぉっ!!"」
「はぁ…。 敵わないな、これは…」
これまでの戦闘で死の天使たちの主であり最後の砦である司令塔は、自身の生存を第一に考えて積極策では無く消極策を取る傾向に有ることは解っていた。
最大の障害である欠番戦闘員の姿が消えた時、闇雲に打って出るのでは無く相手の出方を伺う選択を取る可能性は確かに高かったろう。
ファントムのプランは決して勝利が無かった訳では無い、けれども必勝を約束させれていた訳でもないのだ。
この元戦闘員と亡霊のコンビは躊躇いなくこの星の未来をベットして、勝つか負けるか解らない一か八かの賭けに挑んだのである。
相棒を全幅に信頼し躊躇いなく命を賭けた大和、その期待に応えるために見事に司令塔を嵌めてみせたファントム。
今回限りの急造の相棒である自分には無い確かな絆を見せつけられた黒羽は、苦笑いを浮かべながら敗北を認めるしか無かった。
「落ちろぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ΩΩΩΩっっっっっっ!?」
ファントムのプランは実を結び、黒羽たちは大和の一撃が司令塔に叩き込まれる光景を目の当たりにする。
悪足掻きばかりに司令塔の前に展開された障壁を一瞬で砕き、蒼き炎を纏う大和の右拳が死の天使の主に到達した。
大和の背後に設置されたファントムのブースターの推進力によって、司令塔はそのまま壁と拳のサンドイッチ状態になる。
トリプルコアによって強化された大和の肉体能力に加えて、ブースターの推力によって圧迫された司令塔の体が罅割れていく。
そして余程頑丈に作られているらしい巣内の壁も大和の圧力によって同じように罅が入り、司令塔が壊れるのが先か壁が壊れるのが先かの競争状態となっていた。
ブースターの圧力は当然のように大和にも降り掛かっており、トリプルコアの負荷と合わさって大和の体は確実に壊れ始めていた。
事前に三代の薬を投与していなければ、身体中で激痛に苛まれ指一本動かすことが出来ない状態になっていただろう。
「ぁぁぁぁっ!! あっ…」
「…Ω、Ωっっ」
数十秒の時を経て使い捨てのブースターが推進剤を使い切り、司令塔に掛けられた圧力が弱まっていく。
それと同時にトリプルコアの負荷に晒され続けていた大和の体も音を上げてしまい、体から力が抜けていく感覚を覚えてしまう。
残念ながら司令塔とついでに壁は全身が罅割れながらも後一歩の所で原型を保っており、未だに大和が勝利したとは言えない状況だった。
司令塔を完全撃破しなければこの星に未来は無く、それを唯一成せる欠番戦闘員こと大和が限界を迎えつつある。
最早、この星の未来は絶望的なのだろうか。
「大和っ!」「"マスター!!"」
「っ! あぁぁぁぁっ!!」
「ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ!?」
しかし寸での所で大和に掛けられた一人と一機の声が、消えかかっていた大和の意識を辛うじて繋ぎ止める。
此処で追われない、此処で倒れたらこの場に居る黒羽たちだけで無く、セブンや母の霞たちまで犠牲になってしまう。
大和の脳裏には戦闘員として誕生してから数年足らずの思い出が走馬灯のように浮かびあがり、それが元戦闘員に最後の力を引き出させた。
まるで油が切れた機械のようにぎこちない左腕を振り上げる、その腕の纏う蒼い炎や大和の心境を現すかのように激しく滾る。
大和の底から声を出しながら最後の一撃を振るい、それは司令塔と巣の壁に止めを刺すに足る物であった。
文字通り全てを出し切った大和はその場で意識を失い、粉々に砕けた司令塔の残骸に折り重なるように倒れた。
既にファントムの遠隔操作によって大和のデュアルコアは活動を停止し、その体を癒やすための身体機能を活性化させるコアが動いているだけだ。
慌てて大和の元に駆け寄った黒羽は大和から自分のコアを回収し、満身創痍と言っていい姿の大和を抱きかかえた。
その体を纏うバトルスーツは所々が破損しており、最後の攻防で割れてしまったヘルメットが独りでに外れて戦闘員番号を塗り潰している戦闘員マスクが露わになっている。
大和を抱える黒羽のバトルスーツも傷だらけであり、彼女の背負うファントムのパーツ群は核となる電子頭脳を除いて全て使い切ってしまった。
大和とファントムと黒羽は共に限界を出し切り、最早これ以上の戦闘は不可能であろう。
「…終わったか」
「っ!? リベリオン首領…」
「そう睨むで無い、私にお前達を害する力は無い。 頑強な怪人の体が辛うじて命を止めているが、それも限界だろう…」
そんな大和たちに声を掛けたのは、大和たちのトリプルコアを発動させるためにその身を呈した最初の怪人であった。
最早自力て立てないのか壁に寄り掛かりながら話しかけるリベリオン首領は、その言葉通り目の前の昆虫型怪人からは見るからに死相が見えていた。
リベリオン首領、かつてガーディアンの戦士であった黒羽に取っては不倶戴天の敵であろう。
その怨敵が死にかけている姿は、黒羽に喜びと困惑が入り交じった複雑な感情を齎していた。
「…死の天使に対抗するためとは言え、あなたの罪は消して消えない。 しかしその罪はこんな場所ではなく、もっと別の場所で償わなければ…」
「その役目は色部に任せた。 此処で死ぬまでが私の役目なのだよ」
「それはどういう…」
黒羽の使う身体機能の活性化させるコアの力を使えば、瀕死のリベリオン首領を助けることが可能であろう。
元正義の味方らしく見殺しと言う選択を取れなかった黒羽は、取ってつけた建前で自分を誤魔化しながら怨敵を救おうとする。
しかしリベリオン首領はその差し伸べられた手を受け取ることは無く、淡々と自らの死を予定されていた物として受け入れようとしていた。
「この星は勝った、勝ったんだ。 私達は間違っていなかったぞ、色部よ……」
「……勝手なことを!!」
結果を見ればリベリオン首領が言うとおり、確かにこの星は彼らに救われたと言っていいだろう。
今回の勝利はガーディアンとリベリオンの正義と悪の戦いという茶番劇を続け、死の天使に対抗する戦力を整えていたからこその物である。
しかしその過程で犠牲になった者たちは数知れず、ガーディアンの戦士として最前線でそれを目の当たりにした黒羽は決して色部とリベリオン首領を許すことは出来なかった。
こうしてこの星を救った英雄にして大悪人の片割れはその勝利を勝ち誇り、満足気な笑みを浮かべながらこの世を去るのだった。
リベリオン首領の死の意味を最初に知ったのは、二面怪人の片割れである少年であった。
大和たちが司令塔を倒した少し前、見事に近衛兵と司令塔候補を潰した二面怪人はその瞬間まで互いに罵り合っていた。
元よりガーディアンとリベリオン、正義の戦士と悪の怪人の馬が合うはずが無い。
とりあえずの敵を撃破した一人と一体は、この後どのように動くかについての意見が合わずに拗れに拗れていた。
傷付いた仲間たちを外の運び出したい荒金、一刻も早く首領の元へ馳せ参じたいハウンド。
互いの意見は平行線となり、端から見れば自問自答にしか見えない二面怪人の口論が行われていたのだ。
「…どうした? 何だよ、突然だまりやがって…」
「…お、おい、荒金。 お前、自分の腹を見てみろよ…」
「…えっ?」
つい先程までこちらに噛み付くように話しかけていたハウンドが突如沈黙し、不気味さを覚えた荒金は恐る恐る自身の体の片割れに声を掛ける。
しかし幾ら声を掛けても己の腹からは返答が無く、荒金の困惑は徐々に深まっていく。
そんな荒金に声を掛けてきたのは、二面怪人のコントの如き自分同士の言い争いに困惑していた土留であった。
黄金の仮面に隠された荒金の正体を知る数少ない人物の一人は、若干青ざめながら荒金の腹部に人差し指を向ける。
ハウンドの顔など見たくないとばかりに上方を向いていた荒金は、土留に促されて恐る恐る自らの腹を覗き込む。
そこには忌々しい犬型怪人の顔は綺麗サッパリ消え去り、空いた空間から荒金の内臓が曝け出されていた。
この日この時にリベリオンの作り出した怪人たちは、極一部の例外を除いて全て消え去ったのだ。




