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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第3章 死の天使
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21. 亡霊の献身


 黒羽という強化パーツの力で、デュアルコアに続く三つ目のコアを発動した大和が駆けた。

 コアの恩恵によって最大限に強化された大和の肉体能力は、瞬く間に司令塔までの距離を詰めていく。

 そんなトリプルコアの力を感じ取ったのか、司令塔は迫り来る大和に対して力を放った。

 典型的なラスボスらしく、この司令塔はこれまで出てきた近衛兵や尖兵たちの能力を合わせて持っているらしい。

 司令塔がその細身の腕を振るうたびに、炎が雷が音が衝撃波が大和に向かって放たれていく。

 流石に死の天使を統べる存在である、その一撃一撃は今の大和の動きに対応出来る程の速度と精度である。

 近衛兵を超える出力を持つ司令塔のそれは、少し前までの大和であれば致命傷を与えるほどの威力を秘めているのが一目で察せられた。


「あぁぁぁぁっ!!」

「ΩΩΩっ!?」


 しかしトリプルコアを手に入れた今の大和にとっては、そんな小手先の攻撃などは足止めにもならない。

 迫り来る攻撃に対して大和は腕を振るいながら、腕全体に広がる蒼い炎を瞬間的に爆発させる。

 過去にも大和がやっていた炎を圧縮して開放させた一撃、それをトリプルコアによって極限まで高めた状態でやればどうなるか。

 開放された地獄の業火の如き蒼き炎が瞬間的に膨れ上がり、炎がまるで羽ばたこうとしている鳥の翼のように広がる。

 そして蒼き炎の羽ばたきに司令塔の攻撃は全て飲み込まれてしまい、大和にかすり傷一つ負わせることは無かった。

 蒼き炎の翼を広げる大和の姿は美しすら有り、背後で戦いを見守る黒羽がその光景に一瞬目を奪われてしまう。


「大和!!」

「落ちろぉぉぉぉっ!!」


 コアの遠隔発動を継続するため大和の傍から離れれない黒羽の声を受けて、大和は歯を食いしばりながら司令塔へと近づいていく。

 遊びは無く一撃で勝負を決める、そうでなければ自分の体が持たないことを激しく軋み始めた自身の体が大和に教えていた。

 トリプルコアによって相乗的に出力を増しているコア、それによって身体機能の活性化させる能力も飛躍的に効力を上げている。

 このコアによって大和の体は限界まで強化され、余程の重症でも無い限りは傷を一瞬で完治させるほどの自然治癒力も手に入れいた。

 そこまで身体機能を高めたからこそ、今の大和はトリプルコアと言う過大な出力をギリギリで制御出来ているのだ。

 仮に大和の3つめのコアが身体機能の活性化させるリザドのそれで無ければ、大和はトリプルコアを発動した瞬間に自滅してただろう。


「ΩΩっ!!」

「ちぃ、目潰しか! ファントム、相手の位置を教えろ!!」

「"アイアイ、マスターから見て左斜め後方に移動を…」


 トリプルコアを使える刹那の間に勝負を決める事が大和の唯一の勝機であり、逆を言えばこの急場を凌げば死の天使たちの勝利は確定していた。

 そんな状況で司令塔の最善の手は一つであり、残念な事にこの星を滅ぼすために遣わされた死の天使たちの主は読みを誤らなかった。

 あと一歩で相手に手が届く所まで近づいた大和に対して、司令塔が黒い塊のような物を大和目掛けて放つ。

 そして最後の悪足掻きを潰すために大和が先程のように炎でそれを潰そうとした途端、蒼き炎に当る直前にそれが何十倍にも膨張したでは無いか。

 その黒い靄のような物は大和の周辺に絡みつくように広がり、視界を失った大和は司令塔を見失ってしまう。

 しかし大和は慌てること無く自分の背後に居る黒羽が運んできた、相棒の黒い亡霊に自分の目になるように命じた。

 この土壇場で余所見をしている筈も無く、戦況を分析していたファントムは即座に主に対して敵の居所を伝えようとする。


「"あぁっ、危ないっ!?

「迎撃をしろ、大和!!」

「っ!? くぅぅぅっ!!」


 頭部の存在しない死の天使たちは視界では無く、体内に備わるレーダーのような器官で持って相手の存在を認識していた。

 それ故に大和の視界を塞ぐ黒い靄は司令塔によっては何ら障害にはならず、大和の位置は手に取るように解る。

 目眩ましによって距離を開けた司令塔がすかさず放った光弾、人間一人飲み込めそうな程の巨大なエネルギーの塊が大和に襲いかかった。

 靄に包まれた大和を正確に狙った一撃は、黒羽たちの警告が無ければ致命的なダメージを与えていたことだろう。

 咄嗟の判断で先程ファントムから聞いた方向に炎の翼を展開し、司令塔から放たれたそれを迎撃することには成功した。

 しかし盲撃ちで完全に防ぎ切ることは出来ず、光弾の余波が大和に降りかかってしまう。


「大和、奴が逃げるぞ!!」

「"時間稼ぎですか、セコぞ、ラスボス!!」


 光弾の余波を受けた大和に追撃することなく、逃げるように大和から離れていく司令塔の目的は明白である。

 この巣内での出来事は全て司令塔の耳に入っていることは間違い無く、大和が最も特異とする距離がクロスレンジであることを既に把握しているのだろう。

 トリプルコアと言う時間制限付きの切り札を使う欠番戦闘員こと大和に対して取った司令塔の選択肢は、かつての大和の敵と同じ代わり映えの無い手段であった。

 遠距離戦闘、大和との距離を空けながら時間切れを待とうとする、地味で詰まらない最善手に大和はまたもや苦しめられるらしい。





 近接戦闘に特化した怪人専用バトルスーツを纏う大和に取って、距離を取ってくる相手は不倶戴天の敵に他ならない。

 殴り合いしか能の無い大和には、氷の投擲などと言う奇策を用いなければ遠距離への攻撃手段は存在しないのだ。

 しかしトリプルコアと言う未体験の領域において、炎の力で安定している今の状況を崩して氷の力にシフトするのは危険性が高い。

 下手にバランスを崩してトリプルコアが使用不能になれば、大和のか細い勝機が消え去ってしまう。

 そもそもトリプルコアによって限界まで強化された肉体能力に耐えうる氷の弾丸を作り出せるかも疑問であり、氷の投擲と言う選択肢は残念ながら却下せざるを得ない。


「"…ファントム、出番だぞ"」

「"ふん、大人しく殴り合いで負けていれば、もう少しラスボスらしく倒された物を…"」


 欠番戦闘員の性能だけではこの手の相手に勝つことは難しい、それは怪人専用バトルスーツを開発したセブンが一番理解していた。

 そしてそれを補うためにセブンが用意した存在が、怪人サポート用のバトルビークルであるファントムである。

 相手の目的を理解した大和は迷うこと無く己の相棒に声を掛け、黒い亡霊は主に対して自信満々に応えて見せた











 怪人サポート用のバトルビークルであるファントムには、偏執なまでに近接戦闘に特化した主を補助するために様々な能力が付与されていた。

 ファントムの代名詞と言うべき亡霊の如きステルス機能、怪人の目すら潰す特性の閃光弾、怪人の力で持っても引きちぎれない頑丈なチェーン、戦況を撹乱する音波を作り出す外部スピーカー。

 その果てには翼なき主を空へ誘う、一回限りのブーストジャンプまで搭載している始末だ。

 本体と言うべき黒い車体を潰されてしまい、その機能を再現する一部のパーツのみを黒羽に運んで貰っている現在のファントムがその性能を十全に発揮する事は敵わない。

 しかし欠番戦闘員こと大和の相棒であるファントムが、此処で主の足を引っ張ることなど出来る筈も無いだろう。


「"ファントムちゃんフラッシュゥゥゥゥッ! 同時にファントムちゃんウェェェェェブ!!"」

「ΩΩっ!?」


 初手は目潰し、先程の意趣返しとばかりにファントムが搭載していた最後の閃光弾が放たれる。

 近衛兵相手に効果が証明されているそれは司令塔のレーダーを一時的に潰し、容赦なくその目を奪い去った。

 そして駄目押しとばかりにファントムのスピーカーから放たれたノイズが、精密な司令塔のレーダーを狂わせようとする。

 司令塔のレーダーと言う耳目を潰している隙に大和が司令塔まで迫れれば理想的であったろうが、恐らく先の近衛兵との戦いを把握していた司令塔は事前にこれを予測していたのだろう。

 危険な大和を近づけさせないため、司令塔は悩むこと無く全方位に攻撃の放ち弾幕の壁を作り出してしまう。

 流石にこれ程の連続攻撃を何時までも続けるのは不可能であろうが、レーダーが回復するまでは弾幕を張り続けられるに違いない。

 この弾幕を潜り抜けるのは今の欠番戦闘員でも難しく、ファントムは次の一手を打つ必要が出来た。


「"秘技、分身の術と隠れ蓑の術の重ね技でーす!!"」

「ΩΩ…」


 近衛兵以上の速さでレーダーを回復させた司令塔は攻撃の手を止め、欠番戦闘員の位置を探り始める。

 するとレーダーは複数の欠番戦闘員の存在を感知しており、分裂した三体の欠番戦闘員たちが司令塔の周囲を囲みながらジリジリと迫ってきているでは無いか。

 未だに続いているノイズの発生源も複数箇所有るようで、どうやらファントムはスピーカーを分割して各所に配置したらしい。

 閃光弾とノイズで相手の目と耳を潰し、その隙にステルス機能の応用で持って作り出した幻影で相手を惑わす。

 先の近衛兵はこの偽物の欠番戦闘員に惑わされ、姿を晦ましていた本物の欠番戦闘員に出し抜かれてしまった。

 しかしその事実を知る司令塔はあの時の近衛兵のようにファントムの幻影に惑わされず、姿なき本物の欠番戦闘員を警戒しているようだ。

 この様子では司令塔の不意を打つ事は難しく、司令塔を倒すにはまだ一手足りない。


「"そして止めの新技、レンタル大蜂たちの奇襲でーーすっ!!」

「ΩΩっ!?」


 そして姿なき大和の奇襲を想定していた司令塔は、予想すらしなかった物からの攻撃を受けることになってしまう。

 司令塔はその存在を知っていた、先頭を切って巣内へと侵入した敵が使っていた戦闘用の大蜂たち。

 しかしこの大蜂を使う蜂型怪人は未だに近衛兵たちに足止めされており、この先頭に参加することは不可能である。

 何故、クィンビーの大蜂たちがこの場に現れたのか。

 実はファントムは最終決戦前にクィンビーから大蜂を一部借りて受けており、黒羽が背負うパーツ群の一部に密かに格納されていたのだ。

 大蜂の便利さはこれまでの戦いで証明されており、今回の戦いで何かの役に立つのではと考えたファントムはクィンビーと交渉してこれを手に入れていた。

 代償としてファントムが密かに集めていたセブンの高校での恥ずかしエピソードを明かす必要があったが、その価値に充分見合う物だったとファントムは己を自画自賛する。






 ファントムに従うようにクィンビーに言いくるめられている大蜂たちは、機械の如き精密さで上空から司令塔に向かって襲いかかる。

 欠番戦闘員に警戒してた司令塔が一番注意を払う必要が無い空からの奇襲、ファントムのステルスから抜けた巨大な蜂たちが容赦無くその毒針を突き立てようとする。

 突如現れた慮外の敵に対して一瞬硬直をする司令塔であったが、すぐに自らに纏わりつこうとする害虫を排除に掛かった。


「うぉぉぉぉぉっ!!」

「いけ、大和っ!!」


 その姿はステルスによって隠され、外部スピーカーからのノイズに紛れる事によって僅かな翅音もかき消されていた大蜂の奇襲など事前に予想してなければとても避けようが無い。

 確かに大蜂たちの奇襲は一瞬だけ司令塔の気を引いたが、残念ながらそれは刹那の時でしか無かった。

 怪人の付属品でしか無い大蜂たちが本来の主である蜂型怪人が居ない状況で全力を出せる筈も無く、文字通り虫けらの如く瞬殺されてしまう。

 しかし大蜂たちが稼いだほんの僅かな時間は、ファントムの最後の手札であるブースターによって射出された大和が司令塔に肉薄する時間を作り出したのだ。

 ファントムの重い車体を搭乗者ごと空へと飛ばすブースターの出力は、一瞬の内に大和を司令塔の元へと送りつける。

 勿論、幾らブースターによって加速したとは言え、あの司令塔であれば余裕を持って迫り来る大和を迎撃することが出来た。

 相棒である亡霊のお膳立てによって作り出した刹那の隙が有ればこそ、大和は司令塔へと近づくことが出来たのであろう。

 そしてブースターの加速の威力をそのまま打撃力に変えて、蒼い炎を纏う大和の拳が死の天使へと迫った。



続きは夜頃に投下予定です。最終回として2話同時に更新するのでよろしく。

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