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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第3章 死の天使
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19. ラストバトル


 あの近衛兵たちは最後の関門だったらしい。

 クィンビーたちの助けを借りて近衛兵たちを突破した大和と黒羽は、長い通路を抜けて巣の最奥部へと辿り着いていた。

 直接司令塔の元へと向かった大和が知る由も無いが、そこは司令塔候補が保管されていた部屋とよく似ていた。

 中央には柱の如き立方体の建造物、その周囲には天井から垂らされている数本の管らしき物。

 それ以外には障害物は全くなく、100メートル四方は有りそうな真っ白な広い空間が広がっていた。


「"あの中央の立方体から反応が有ります! あれが司令塔と言う奴に間違いありません"」

「いよいよラスボス戦か。 あの騎士もどきに邪魔される前に、さっさとあれを破壊して終わりに…」

「"待って下さい、反応が急激に増大して…"」


 ファントムのレーダーにより目標物を確認した大和は、さっさくそれを破壊しようと意気込む。

 しかし大和たちが行動を起こすより早く、まるでこちらを出迎えるかのように死の天使たちが脈動する。

 自身の心臓部へと手を掛けようとする侵入者に対して、死の天使を統べる存在がその重い腰を上げたのだ。


「立方体が開いた…」

「あれが…、死の天使の司令塔?」


 大和たちの目の前で立方体の蓋が開き、ゆっくりとした足取りでそれが現れた。

 他の死の天使たちと同様に、それには顔にあたる部分が存在しなかった。

 顔の無い胴体部分に二腕二脚の手足が伸び、全体的に細く丸みを帯びた各パーツは何処か女性的な印象を与える。

 先程の騎士然とした近衛兵とは対象的な、強さや厳つさという物を全く感じさせないその姿。

 しかしその見た目とは対象的にそれと対峙した大和は、今まで感じたことのない恐怖を覚えていた。

 それはこれまで幾多の戦いを潜り抜けた大和が自然と身に着けた感覚が、無意識の内に目の前の敵の強さを感じ取ったのだろう。

 大和はまるで蛇に睨まれた蛙のごとく硬直し、緊張の余り忙しなく右腕の五指を動かしてしまう。


「…大和!!」

「っ!? …大丈夫です、やれますよ」


 傍にいた黒羽には大和の動揺が手に取るように分かったのだろう。

 見るからに狼狽する大和を落ち着かせようと、黒羽はその動揺を抑えるかのように激しく動かされていた大和の右掌を両手で包み込む。

 その感触で正気を取り戻したらしい大和は、黒羽の手を握り返して強がる程度の元気を取り戻す。

 どちらにしろ此処まで来たら逃げる訳にはいかない、やってやるしか無いのだと大和は覚悟を決める。


「ΩΩΩΩΩΩ…」

「うぉぉぉぉぉっ!!」


 自らを鼓舞するように雄叫びをあげながら、大和は死の天使の司令塔の元へと突撃する。

 その腰のデュアルコアは赤い光を最大限に放ち、両の腕には蒼い炎が溢れんばかりに燃え盛る。

 デュアルコアの最大出力、この星の最大戦力と言っていい欠番戦闘員こと大和の今出せる最大の力。

 その拳が死の天使の司令塔へと振りかぶられた。











 現代戦において、軍の指揮官が直接戦闘に出ることは負けに等しい。

 指揮官の第一の役割は軍の頭脳として、手足となる兵に指示を下す役割である。

 その指揮官が下手に危険な前線に出て潰されでもしたら、頭をもがれた役立たずの手足が残るしか無い。

 指揮官に必要のは第一に的確な指示を下すための頭脳であり、指揮官自身の戦闘能力などは二の次三の次である。

 しかしこの理屈はあくまで大和たちが住まうこの星の住人の考えであり、どうやら死の天使たちは違う考えを持っているらしい。


「…がはっ!?」

「ΩΩ! ΩΩΩΩ!!」


 それは大和に取って初めての経験であった。

 近接戦闘に特化した怪人専用バトルスーツを纏い、デュアルコアを完全開放した状態である自分が殴り合いで打ち負かされたのだ。

 死の天使たちの頭脳である司令塔がその手足にあたる尖兵や近衛兵たちより弱い訳が無いと言わんばかりに、大和の拳をその細い腕で受け止めて見せた。

 デュアルコアによって最大限に強化された肉体能力を持ってしても、大和は司令塔の腕を一ミリ足りとも動かすことは出来ない。

 そしてもう片方の腕で無造作に払われた大和は、無様に吹き飛ばされて地面へと叩きつけられてしまった。


「"やばいです、あいつの出力はさっきの連中とは桁違いです!! マスターのデュアルコアを完全に上回っている…"」

「くそっ…、流石はラスボスって所か…」

「大和、私が隙を…!!」


 司令塔の力の秘密ははっきりしている、大和が使うデュアルコアのそれを遥かに超える出力。

 ファントムのレーダーは目の前の司令塔から、先程の近衛兵を遥かに上回る出力を感じ取っていた。

 先程の攻防とファントムの情報から一対一ではあの司令塔には勝てないことを察した黒羽は、大和を援護するために剣を持って駆けつける。

 流石に一撃を貰った程度で戦闘不能とはならず、大和は黒羽の助けを借りずに自力ですぐさま起き上がり戦線へと復帰する。

 その横に剣を構えた黒羽が並び、今度は二人がかりで司令塔へと挑もうとした。


「…ββββββっ!!」

「…なっ、さっきのと同じ奴が!!」

「"うわっ、どうやらあの騎士もどきは此処で生産されていたようですね…"」


 二体一と言う数の差で相手を上回ろうとする大和たちであったが、その浅はかな考えを嘲笑うかのように死の天使は新たな動きを見た。

 天井から垂らされた数本の管、その内一本が突如独りでに脈動を始めたのだ。

 やがて管を通って何かが天井から降りてきて、大和たちが居る部屋にそれは排出された。

 管から排出された物の正体に大和たちはすぐに気付くことが出来た、何故ならそれはつい先程まで死闘を繰り広げていたそれと同じ存在だったからだ。

 近衛兵、西洋の騎士の如く重装甲を持つ死の天使は、主である司令塔を守るために大和たちへと襲いかかった。











 尖兵たちとは比較にならない力を持つ近衛兵たちは、どうやら司令塔の部屋にある設備でしか生産されないらいし。

 加えてその生産効率も悪く、尖兵たちのように一度に大量生産することは難しいようだ。

 しかしそれを差し引いても時間さえあれば近衛兵が量産可能であり、時間を掛ければ掛ける程に大和たちが不利になることは目に見えていた。


「落ちろぉぉぉ!!」

「βββっ!?」


 此処で足止めを喰らうわけにはいかないと、大和の気迫の篭った拳が近衛兵の体を打ち砕く。

 この巣内では使ったことのない、ファントムのチェーンを使用した拘束という初見の手札が有効に働いた成果である。

 黒羽が装備していたファントムのパーツ群の一部から放たれたチェーンに絡みつかれ、動きを制限された近衛兵が大和の接近を許した時点で勝負は決まっていた。


「あぁぁっ?」

「ΩΩ!」


 しかしこの場に居るのは近衛兵だけでなく、その親玉である司令塔も残っている。

 大和が近衛兵を潰している間、司令塔の横槍を防ぐための足止め役を担当していた黒羽の悲鳴が辺りに響き渡る。

 時間稼ぎに専念するために防戦に終始していたとは言え、コア一つしか持たない黒羽では司令塔の相手は荷が勝ちすぎたようだ。

 両の剣を潰されて満身創痍の黒羽の姿を目撃した大和は、彼女を庇うために慌てて駆け寄る


「黒羽っ!?」

「はぁはぁ、やはり私の力では時間稼ぎもままならないか…」

「兎に角、邪魔者は排除した。 これならあれを使える…」


 近衛兵の足止めを黒羽に任せて大和が司令塔と戦う選択肢もあったが、先の攻防で大和は今の自分ではあれに勝てない事を理解していた。

 現状の最大戦力であるデュアルコアが通じない状況を前に、大和はセブンが用意した最後の切り札を切るしか道が残されていない。

 しかしその札を切るには近衛兵の存在が邪魔であり、危険を覚悟で近衛兵を速攻で排除するしか無かったのだ。

 黒羽の戦闘不能に近いダメージと引き換えに状況は作り出せた、あとは最後の札を場に出すだけである。


「黒羽、ファントム。 あれをやるぞ…」

「"ちょっと待って下さいっ!?"」

「ああ、管がまた…」

「ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩっ」


 苦難の末に反撃の場を整えた大和たちであったが、それを嘲笑うかのように天井から垂らされた管がまた脈動を始めたでは無いか。

 まるで勝ち誇るかのように奇妙な声を発する司令塔、そしてその声に応えるように天井から新たな近衛兵が排出されてしまう。

 幾度となく大和たちの前に立ち塞がる近衛兵の姿に、大和たちの心に徐々に絶望の感情が浮かび上がる。


「くそっ、お代わりが来るのが早すぎるぞ!!」

「また管から何か出るぞ、まだ来るのか!? 否、あれは…」


 新たな近衛兵が排出された直後、追い打ちを掛けるかのように隣の管も脈動を始めたでは無いか。

 一体でも対処に苦労する近衛兵がもう一体現れたら、今の大和たちでは対処することは不可能に近い。

 大和たちの持つ切り札は多々一の状態には極めて弱い代物であり、とてもでは無いが近衛兵たちを従える司令塔に使える札では無かった。

 最早これまでかと諦めかけた大和たちであったが、その負の感情はそれ以上の驚愕の感情によって一時的に吹き飛ばされることになる。


「ほう、私にも運が向いてきたようだ。 ようやく会えたな、死の天使よ…」

「お前は…、リベリオン首領!?」


 何と管から出てきたのは無頭の死の天使では無く、見覚えのある昆虫型の怪人だったのだ。

 管を抜けてきた昆虫型怪人は辺りを見回し、大和たちと司令塔たちの姿を見てすぐに状況を察したようだ。

 豪奢なマントで身を包んだその怪人は、昆虫特有の複眼を持って近衛兵の背後に立つ司令塔を見据える。

 リベリオン首領、死の天使に対抗するために己の全てを捨てた修羅がその怨敵の姿を初めて捉えた瞬間だった



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