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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第3章 死の天使
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17. 女王蜂の香り



 クィンビーが持つコアの出所、それは三代経由で手に入れたガーディアンの保管庫に死蔵されたコアであった。

 既に何度も触れているがコアにはそれぞれ固有の特殊能力を持ち、流行りのスマホゲームのガチャの如くその特殊能力の内容はコアが完成するまで解らない。

 そしてコアの中には外れというべき、使い所が見つからない特殊能力を持つ物も存在した。

 肉体能力では無く特殊能力を重視していたガーディアンとしては、使えない特殊能力を持つコアは適格者を見つける手間も惜しいとして保管庫に追いやられた。

 その忘れさられたコアをセブンが見出し、クィンビー専用のバトルスーツのコアとしたのである。


「さぁ、思う存分に暴れなさい!!」

「っ!? 蜂たちの動きが変わった!!」


 フェロモン、それが今のクィンビーが使う外れコアの能力であった。

 生物が体内で生成する分泌液を再現する能力など、リベリオンとの戦いでどのように活用すればいいのか。

 並の生物であればコアで作り出したフェロモンで惑わし、洗脳まがいのことが出来る程度の性能は存在する。

 しかしその手の耐性を始めから組み込まれて製造された怪人にフェロモンの効果は極めて薄く、怪人との戦闘では役立たずと言っていい能力だったのだ。

 それ故に使われることなく死蔵されたフェロモンを操るコアだが、それを使うのが戦闘用の大蜂を従えるクィンビーであれば話が変わってくる。


「βββββっ!?」

「βββ、βββっ!」

「無駄よ、その程度で今の私の下僕を捉えられないわ!!」


 自身の下僕である大蜂の攻撃性を増し、瞬間的に限界を超えた力を引き出させるクィンビーの特性フェロモン。

 その効果は絶大であり大蜂たちは、自身の身を破滅させるほどの力を引き出して襲いかかる。

 言うなれば狂化蜂と称するべきか、女王のフェロモンに掛かった狂化蜂たちは狂ったように近衛兵に群がっていく。

 それは近衛兵の誘導弾を掻い潜る程の俊敏さを見せ、その毒針を近衛兵の装甲の隙間である関節部分に突き刺した。


「その隙を逃さない!!」

「行きます、ファントムちゃんフラッシュぅぅぅ!!」


 狂化蜂に群がられた近衛兵たちに対して、更なる混乱を与えるために動いたのは大和の相棒役となった元ガーディアンの女戦士と彼女が背負う亡霊であった。

 かつて幾度も大和の危機を救ってきたファントム特性の閃光弾が、狂化蜂に付き纏われている近衛兵に向かって放たれる。

 そして次の瞬間に閃光弾が炸裂し、室内は怪人の目すらも潰す閃光と音響で埋め尽くされた。






 無頭の近衛兵がどのような手段で相手を認識しているのか、これまでの戦闘を観察していたファントムはその問いに対してある仮設を立てられていた。

 顔の無い死の天使たちは何らかのセンサーのような器官を備えており、そこから得られた相手の情報を元に戦闘を行っているらしい。

 実際に近衛兵の後ろに目が有るかのように背後を含む全方位からの奇襲にも問題なく対処しており、そのセンサーの精度はこの星の拙い技術で作られたそれより遥かに優れているだろう。

 しかしファントムの観察した限りでは、それは技術の差異があれども仕組み自体はこの星の物とそこまで違いが無いように見えた。

 それならば閃光による目潰しに留まらず、各種センサー類をも潰す対怪人用の目眩ましが全く効果が無いとは思えない。


「βββっっ!?」

「今だ、行くぞ!!」


 ファントムの予想は見事に的中し、閃光弾によってセンサーを狂わされた近衛兵たちの動きが明らかに変わった。

 まるで酔っぱらいの如くその場でふらつき始める近衛兵を前に、事前に打ち合わせを済ましていた大和たちがその隙を逃さぬ訳も無く動き出す。

 この閃光弾による奇襲は先程まで勇敢に戦っていた狂化蜂も巻き込んでおり、大半の狂化蜂たちが地面に転がって痙攣していた。

 こちらの被害を飲み込んで打って出た奇襲である、理想を言えば大和たちがこの部屋を抜けるまで近衛兵たちのセンサーには潰れていて欲しかっただろう。

 しかしどうやら異星の技術力は伊達では無いようで、一瞬の内に回復した近衛兵のセンサーは自身の右方から背後の出口に向かおうとする気配を察知する。

 相手の行動にいち早く気付いた近衛兵はすかさず迎撃態勢を取るため、体を右方に向けて両腕を構えた。

 そして近づいてくる相手、欠番戦闘員こと大和と黒羽に向けてエネルギー弾を容赦なく放っただ。


「…βββっ!」

「はははは、残念ね! そっちは偽物よ!!」

「邪魔だ、そこをどけぇぇぇぇっ!!」


 近衛兵から放たれたエネルギー弾はまっすぐに大和たちの元へ向かい、確かにそれは命中した。

 しかし大和に到達したエネルギー弾は何故かそのまま素通り、そのまま背後の壁へと到達してしまう。

 そして先程まで居た大和の姿は消え去り、その足元にはファントムのパーツの一部が転がっているでは無いか。

 同時に近衛兵から見て左方、先程大和たちが消えた地点から見て反対方向に突如姿を現した大和は蒼い炎を纏った拳を振るう。

 出口を塞いでいた近衛兵をなぎ払い、力づくで開けた出口へとすぐさま飛び込んでいくのだった。






 大和たちのやった策はシンプルな物だった。

 まずは狂化された大蜂たちと、ファントムの閃光弾によって近衛兵たちに一瞬の隙を作る。

 その隙に黒羽が近衛兵から見て右方に自身から外したファントムのパーツの一部を投げ捨て、ステルス機能の応用で自分たちの幻影を作り出した。

 ファントムのステルス機能は視界だけで無く、各種センサー類も騙すことが出来る亡霊の名に相応しい優れものである。

 念には念を入れて突入班である大和たちはファントムのステルス機能で身を隠し、囮に引っかかった近衛兵を退けて先へと進んだのだ。


「悪いけど此処からは攻守交代よ!!」

「今度は俺たちは門番役だ、此処から先は通さん!!」


 先を進むことを優先した大和の一撃は致命傷には程遠く、近衛兵たちは単にその場から吹き飛ばされただけである。

 そのため近衛兵たちはダメージを感じさせない動きで起き上がり、そこで先程の自分たちのように出口を塞ぐクィンビーたちの姿を認識した。

 司令塔の元へと向かう大和たちを追わせないため、先程までの近衛兵たちのように立ち塞がるクィンビーたち。

 そして蜂型怪人の周囲には、フェロモンの効果によって強制的に復活させられた狂化蜂たちが耳障りな翅音を立てて群がっていた。










 巣内で激戦が繰り広げているその頃、巣の外での戦いはまだ続いていた。

 司令塔たちを排除するために巣へと突入したガーディアン・リベリオンの精鋭たち、逆を言えば彼らの突入後に外には精鋭を欠いた戦力が残されることになる。

 どうやら司令塔候補が収まっていた場所以外にも巣内に生産工場があったらしく、未だに無尽蔵に湧いてくる尖兵たち。

 残された戦力では次々に現れる尖兵たちに拮抗するのが精一杯であり、巣内へ追加の戦力を出すことなどとても出来そうに無い。


「はぁはぁ、何時になったら終わるの…」

「頑張るのよ、みんな! 力を合わせて、私達がこの星の最後の砦なのよ!!」


 巣の周囲で尖兵と戦う戦士たちの中には、先程巣までの道を作り出した魔法少女型スーツを纏う戦士の一団も見えた。

 彼女たち互いに協力しながら死の天使の尖兵共に抗い続け、その尊い姿はNo.4を興奮の渦に叩き込んでいた。

 しかし終わりなき戦いの疲労は脆弱な人間には過酷な者であり、ガーディアンの戦士たちの限界は目に見えていた。


「はぁはぁ…、きゃっ!?」

「銀城!?」


 それは一瞬の出来事だった。

 積み重なった疲労によって集中力が僅かに途切れてしまった一人の魔法少女が、不幸にも尖兵の接近を許してしまったのだ。

 手に持っていた杖型インストーラを奪われ、銀城はそのまま地面へと組み敷かれてしまう。

 インストーラを奪われた状態では彼女の特殊能力である盾を作り出すことも不可能であり、仲間の助けも他の尖兵に阻まれて間に合いそうにも無い。

 自身の絶対絶命の状況を理解した銀城は、自分の顔に向かって腕を振りおろうとする尖兵の姿に思わず目を瞑ってしまう。


「…あれ?」

「……………」


 しかし幾ら待っても痛みや襲撃が来ず、どういう訳自分を組み敷いていた尖兵の重みも消えていた。

 一体何が起きたかと恐る恐る瞳を開けた銀城は、そこで自分を見下ろす男が立っているでは無いか。

 リベリオンの戦闘員服を良く似た黄色のスーツに身を包み、顔を覆面で隠したその男の正体は解らない。

 状況的に銀城はこのスーツ男に助けられたようだが、突然この戦場に現れた謎のスーツ男の正体は一体誰なのだろうか。

 混乱する銀城が言葉を発する前に、スーツ男は銀城を一瞥した後にその場を立ち去ろうとする。


「あ、ちょっと待っ…」

「「…変身っ」」


 去ろうとする男を呼び止めようとする銀城の声を遮るように、スーツ男が発したらしき声が彼女の耳朶を叩く。

 まるで別々の人間が同時に喋ったかのような奇妙な響きと共に、男の体は一瞬の内に光に包まれていく。

 そして次の瞬間、そこには何処か見覚えのある金色のバトルスーツを纏う存在が立っていた。






 バトルスーツを展開した男は唖然とした銀城に背を向けたまま、死の天使の巣へと向かっていく。

 当然のようにそれを遮ろうとする尖兵だったが、突如男の前方に居た尖兵たちが一斉に薙ぎ払われたでは無いか。

 恐らく男の能力が成したことであろうが、それはコアを最大出力にしても実現できそうに無い途轍もない威力である。

 複数のコアの力を合算した魔法少女たちの一撃に近い物をただ一人で成し遂げた謎の男は、そのまま自らの作った道を駆け抜けていく。


「凄いわ、あのスーツ型!! 一人の力で死の天使たちへの道を切り開いた…」

「見覚えのない戦士ね、もしかしてリベリオンの怪人なのかしら?」

「…………荒金、なの?」


 黄金のスーツ、それは姿を晦ました銀城の元パートナーの少年が使っていたバトルスーツと同じ色だった。

 しかし男のスーツの造形は銀城の記憶に有る物とは明らかに異なり、そもそも銀城の知る少年はあそこまで規格外の力を持っていない。

 行方不明になっていたパートナーが自分を助けるために都合よく現れるとも思えず、理屈で言えばあれが銀城の知るパートナーである筈が無い。

 それにも関わらず銀城の口からは、自然と相棒であった少年の名前が呟かれていた。



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