14. 作られた忠誠
継戦能力、欠番戦闘員こと大和の課題としてセブンがあげた項目である。
怪人の端くれである戦闘員としての体を持つ大和は、通常の人間と比較すれば遥かに頑丈である。
しかしだからと言ってただの戦闘員が正式な怪人に優る筈も無く、デュアルコアと言う過大な力を受け止めるには不足しか無い。
ならば大和の体を改造して強くすればいいと思うかもしれないが、残念ながら丹羽 大和と言う男の体ではその選択は有り得ないのだ。
かつて幼馴染である妃 春菜と共にリベリオンに囚われた大和が、怪人では無く戦闘員の素体として選ばれたのか。
それは平凡としか言えない大和の肉体性能は怪人の素体とするには適しておらず、戦闘員くらいにしか使い道が無かったのである。
大和の体をこれ以上強化するのは不可能、ならば他の方法を持って大和の肉体を持たせるしか無い。
「身体能力の活性化、黒羽が装備しているコアの特殊能力だ。 俺はこの恩恵によって、デュアルコアの負荷を相殺している」
「そういうことか…、ヒーラー付きで決戦とはいいご身分ねー」
かつて欠番戦闘員こと大和に勝利を収めた最強の怪人リザドが使用していた、身体能力の活性化を促すコア。
リザドはこの能力を自身を対象にすることで、恐竜型怪人と言う自身の肉体に大きな負担を強いる切り札を可能とした。
そしてセブンはこの時のリザドを参考に、大和の継戦時間を伸ばす手段を確立する。
こうして身体能力の活性化の能力を利用してリアルタイムで大和の体をサポートする、生きた自動回復装置と言うべき存在がセブンによって産み出されたのだ
黒羽の役割は単なるヒーラーポジションだけで無い、セブンは彼女に対して欠番戦闘員の強化パーツに相応しい幾つかの役割を任せていた。
その一つが地面に倒れたバイク、先の近衛兵の全方位エネルギー波の余波で中破したそれから回収したファントムのパーツの装備・運用である。
先の二面怪人戦で自身の体を無くしたファントムは、三代が用意した代替バイクに自身の頭脳とステルス機能などを実現するパーツを装備した状態でこの戦場に来ていた。
通常のバイクに自身のパーツを載せただけの状態である今のファントムには、かつての体のように自走などと言う曲芸が出来る筈も無い。
それ故に迫り来る流れエネルギー波を回避出来ず、あえなく現在の体というべきバイクが走行不能となるダメージを負う事になったらしい。
「"ああ、悔しいですぅ! 元の体だったら、こんな事にはならなかったのに…"」
「君の本体が無傷だっただけ、運が良かっと思うのだな。 全く、八重くんには頭が上がらないよ、彼女の用意周到ぶりには驚かされる…」
「"当然ですよ、何しろ私のお母様ですからねー"」
しかし不幸中の幸いかファントムの本体というべき電子頭脳や、ファントムの機能を再現するパーツ群の被害は最小限である。
そのパーツ群は黒羽の手によって破損したバイクから外され、それはそのまま彼女の纏うバトルスーツへと装着されていく。
ファントムのサポート能力は欠番戦闘員によって不可欠な代物であるが、現在の自走不能で自由が効かないファントムが最後まで大和に着いていけるか解らない。
現在のファントムの体であるバイクが使い物なる可能性は充分に考えられるが、それによってファントム自体が使い物になるのは勿体無い。
その対応策としてセブンは大和の強化パーツとして用意した黒羽に対して、ファントムの足代わりとしての役割も課していた。
最初からファントムのパーツ群を装備するアタッチメントを備えている黒羽のバトルスーツは、瞬く間にファントムのパーツを装着していった。
結果的に欠番戦闘員こと大和は、死の天使たちの精鋭と言える近衛兵を一蹴した。
端から見れば楽勝に見えたかもしれないが、当の大和たちの心境はそれ程明るい物では無い。
この星で最大戦力と言うべきデュアルコアを最大開放した欠番戦闘員を相手に、あの近衛兵は一対一の状況で互角に戦っていた。
大和の勝因は黒羽の横槍を利用して、近接戦闘に特化した欠番戦闘員の唯一の活路である接近戦に持ち込めたからに過ぎない。
近衛兵がもっと違う戦いかたをすれば戦闘は今の続いていた可能性が高く、あれクラスの敵がこれ以上出て来ないとは言い切れない。
「よし、準備は済んだ」
「ふん、遅いわよ。 邪魔が来る前にさっさと進…」
「"あ、レーダーに反応です。 これは…"」
先が解らない状況で戦力の分散は愚の骨頂であると判断したらしいクィンビーは、大人しくファントムの回収作業が終わるのを待っていた。
元々想定した状況でもあり黒羽は手際よく作業を進め、僅か数分足らずでファントムの装備を完了する。
それを確認したクィンビーは僅かに焦れた声で、司令塔が控える巣の奥へと進もうと促す。
しかしそうして大和たちが出発する直前、黒羽に装備されているファントムのレーダーが新たな反応を検知してしまう。
「…なあ、確か俺たちが来なければ、お前たちだけであれを倒せてたんだよな?」
「はぁ、何をいきなり…。 えっ、もしかして…」
「どうやら連中は俺たちをこれ以上進ませたくないらしい…」
内蔵無線を通してファントムから報告を受けた大和は突然、クィンビーに対して謎の問いかけをする。
大和の言葉に一瞬怪訝な表情を浮かべた蜂型怪人、しかし聡明な怪人であるクィンビーはすぐにその真意を察してします。
そしてクィンビーの予想を裏付けるかのように、大和たちが近衛兵との激戦を繰り広げた広間に新たな闖入者が現れたのだ。
「「「βββββββββββββっ!!」」」
明らかに先程の近衛兵と同タイプの死の天使が三体、大和たちが居る広間へと躍り出る。
それ以降に後続が居ない所を見ると、近衛兵は尖兵のように大量生産が難しいのだろうか。
しかしたかが三体とは侮れない、この近衛兵はデュアルコアと同等の性能を持つ難敵なのだから。
死の天使の核と言える司令塔への道を塞ぐ近衛兵たち、それらが一斉に大和たちへと襲いかかった。
死の天使の司令塔の元へと向かう大和たちは、一度は近衛兵と言う脅威を撃破することに成功した。
その勝利はデュアルコアと言う近衛兵の性能に匹敵する力を持つ、欠番戦闘員の存在によって促された物である。
しかしこの星でデュアルコアを持つ存在は、欠番戦闘員こと大和ただ一人である。
大和たちと時同じく司令塔候補の排除に向かったガーディアン・リベリオンの精鋭たちには、残念ながらデュアルコアと言う切り札は存在しない。
そんな彼らの前に現れた近衛兵と言う障害、その脅威を前に正義と悪の連合軍は一体どのような手段を持って立ち向かうのだろうか。
司令塔候補の排除に向かって正義と悪の連合軍の戦場、その一つである悪の戦場へとまずは場面を移す。
「し、首領、ご武運を…」
「…大義である、後は任せておけ」
その風景を一言で表現するならば、死屍累々と言うべきだろうか。
司令塔候補が保管されいた死の天使たちの生産工場と言うべき一室、その奥に鎮座されている立方体の構造物の前に一体の怪人が立っていた。
豪奢なマントで体を覆っている昆虫型怪人、リベリオン首領の周囲には彼に付き従っていた怪人たちの成れの果てが転がっている。
その死によって体に仕込まれている機密保持機能が発動し、僅かな残骸を残してこの世を去った怪人たち。
そしてリベリオン首領以外で生存している唯一の怪人、海月型怪人キロスはその腕に既に機能停止している近衛兵を抱えながら息絶えようとしていた。
死の天使に唯一有効打を与える事が出来る方法は、死の天使の力を再現したコアを利用する他無い。
逆を言えにコアの力が関与している攻撃は死の天使には確実に有効であり、コアによって強化されたキロスの生物毒が効果が有ることは尖兵たちを相手に確認済みである。
海月型怪人キロス、この星で有数の毒を持つ海月をベースに造られた怪人の最大の武器は自身の体に備える生物毒だ。
そしてキロスの持つコアの力はこの生物毒を強化する能力を備えており、コアのリミッターを解除して能力を最大限に発揮すれば近衛兵すら冒す毒をも作り出すことが可能であった。
「ふ、生き残ったか…。 まだ私が地獄に逝くのは早すぎるようだな、色部よ…」
しかし近衛兵をも冒す程に強化された生物毒を制御することは不可能であり、それは周囲の味方だけで無く自身をも冒す諸刃の剣と成り果てる。
実際にこの場で息絶えた怪人の大半は近衛兵の手にかかったのでは無く、キロスの生物毒に巻き込まれて息絶えた怪人の方が多い。
近衛兵と言う障害を排除できる最も勝算の高く、自分たちが全滅する可能性も最も高いキロスの生物毒による自爆特攻。
普通であれば躊躇うであろうこの最終手段を怪人たちは喜んで受け入れ、怪人たちの主であるリベリオン首領のために散っていた。
リベリオンと言う組織と首領である自身に対する絶対の忠誠心を付与し、最終的に対死の天使の兵器として利用するためだけに怪人と言う存在は製造された。
キロスの毒に対して高い防護性を持つマントで身を隠しなが、リベリオン首領は怪人たちが自分のために死んでいく姿を目の当たりにした。
その姿はまさしくリベリオン首領が望んだ光景であり、その地獄絵図を見せつけられた最初の怪人の胸中は一体どのような物なのだろうか。
怪人たちの忠誠に報いるために司令塔候補が収まる建造物を徹底的に破壊しながら、リベリオン首領は此処には居ない唯一の同士に向かって語りかけるのだった。




