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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第3章 死の天使
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8. 皆の力を一つに的な


 既に戦闘が開始してから優に一時間は超え、正義と悪の連合軍が倒した尖兵たちの数は数え切れない。

 しかし彼らは未だに奴らの巣に辿り着くことは出来なかった、何故なら彼が倒した数と同数の尖兵が補充されたからだ。

 倒しても倒しても現れる死の天使の尖兵たち、その圧力に圧されたか一部の者たちから一時撤退の案が出始めてしまう。


「駄目だ、此処で引いたらこの星は終わる!!」

「死の天使の真の恐ろしさはその生産力に有ります。 奴らに時間を与えたら、無尽蔵に数を増やしていく」


 ガーディアンとリベリオンたちの間で出てきた厭戦ムードを払拭するため、指揮官相当の者たちが非情な現実を突きつける。

 文明を全て滅ぼす、口で言うのは容易であるがそれを実現するためにどれだけの戦力が居るのだろうか。

 この星に降り立った死の天使、奴らはその役割を果すために必要な能力を備えていた。

 自己増殖、奴らは時間さえ掛ければこの星を覆い尽くすための戦力を自らの力のみで作り出すことが出来るのだ。

 この星に記憶媒体を送り込んでくれた彼らは、奴らへの対抗手段を見出すまでに時間を掛けすぎしまった。

 その間に奴らは彼らの星の各所に巣を作り出し、そこから兵力を無尽蔵に作り出した。


「奴らに時間を与えてはならない。 仮に巣を一つでも増やされたら、もう挽回する機会は無いだろう」

「此処で奴らを倒しきらなければこの星は終り、解りやすくていいな…」


 此処で奴らを倒しきらなければこの星に明日は無い、言わば背水の陣というべき状況にある正義と悪の連合軍には撤退は許されない。

 しかし今のまま互角の戦いを続けているだけでは、何時まで経っても奴らの巣に辿り着くことは出来ないだろう。

 この膠着状態を打ち砕く何かがなければ、この星の未来は終わったも同然であった。






 死の天使との決戦において、世界中から集められたガーディアンの戦力が集められた。

 しかし全ての戦士たちが死の天使たちと戦っている訳では無く、どういう訳か一部の戦士たちは戦いに参加せずに戦場から少し離れた場所に集結している。

 その戦士たちの姿を一言で言うならば、戦場に似つかわしくない可憐な乙女たちとでも表現すればいいのか。

 どう考えても戦いには不向きなフリルがあしらわれた、赤色や桃色と言った可愛らしいカラーリングに染められた衣装。

 魔法少女型、とあるNo.4が己の趣味を満たすために制作した特異なバトルスーツを身にまとう少女たちがそこに集結していた。


「まだ動かないの? 圧され始めている、このままだと…」

「私達はこの戦いの切り札の一つよ。 迂闊には動けないわ…」


 魔法少女型スーツを纏う戦士の一人、銀城はこの場の指揮する指揮官に自分たちも加勢すべきだと嘆願する。

 銀城の願いはこの場に魔法少女型の戦士たちの願いでもあり、自然と指揮官に対して視線が集まっていく。

 しかし指揮官である戦士は銀城の願いを受け入れず、このまま待機を続けるように命じる。

 他の魔法少女たちより一回り背が高く、少女と言うには些か大人びた風貌の指揮官の表情は銀城と同じく険しい物だ。

 この少女も仲間たちの戦いを見ているしか無い状況は不満なのだろう、その僅かに震えた声には彼女の躊躇いが見られた。

 魔法少女型のスーツを使う彼女たちが悪戯にこの場所に集められた筈も無く、彼女たちには有る特別な役割を課せられていた。

 それはかつてNo.4が灰谷に自慢げに語っていた秘密兵器に関係する物であり、それを使うために彼女たちはこうして集められていたのだ。


「…上から緊急指令が下ったわ! 私達の力で活路を開く」

「本当なら私達の出番はもう少し後になる筈だった、それだけ追い詰められているって事かしら…」


 そして銀城の願いが通じたのか、この戦いの全体指揮をしているガーディアンの司令部から指示が降りた。

 彼女たちの秘密兵器、それを使って死の天使の巣までの活路を開けと言うのだ。

 本来であれば彼女たちの出番は戦いの終盤、死の天使の巣に乗り込んだタイミングで来る筈だった。

 彼女たちを除いた戦力で巣までの道を開き、そこの突入した彼女たちが秘密兵器で勝負を決める。

 それがガーディアン側が考えていた理想的な戦いのプランではあったが、残念ながらこのプランは机上の空論で終わったらしい。

 兎も角、指令は降りた、待ちに待った出番に可憐な魔法少女たちは勇んで戦場へと向かっていく。











 一口に魔法少女と言っても、この世界には様々なジャンルの魔法少女が存在する。

 迂闊にもNo.4あたりにその話題を振ったら、彼の決して長くない半生を掛けて分析した魔法少女論を聞かせてくれるだろう。

 そしてNo.4が半ば趣味に走って作成した魔法少女型スーツ、その秘密兵器が魔法少女に関係無いもので有る筈も無い。


「準備はいいわね! ラブパワーシステム、起動!!」


 仲間の魔法少女の力を集めて巨悪に打ち勝つ、魔法少女がラスボス戦でよく見る展開だろう。

 No.4が考案した秘密兵器、それはこのよく見る展開を再現した代物だった。

 デュアルコアを装着した欠番戦闘員の活躍からも解る通り、コアは重ねれば重ねる程にその力を増していく。

 しかし適合者で無ければコアの力を引き出せないと言う縛りのために、コアの力を重ねることは極めて難しい。

 例外を除けば一人の使用者は一つのコアしか使用できない、それならば複数の使用者を集めればいいのでは無いか。

 この単純明快な発想を元にNo.4が開発したのが、"ラブパワーシステム"と言う口に出すのも恥ずかしい秘密兵器である。


「同調開始! 皆のコアの力を集めるわ!!」


 魔法少女たちの中心に立つ指揮官の少女が手に持った杖、ピンク色の可愛らしいデザインのそれを掲げる。

 すると指揮官の少女の周囲に居る他の魔法少女たちのコアからエネルギーが放出され、その杖にエネルギーが集まってくるでは無いか。

 コアはそれぞれ独自の特色を持ち、そこから生み出されるエネルギーは全く別物になる。

 普通であればそれらのエネルギーを一つにまとめるのは不可能であるが、No.4はその不可能を可能とした。

 指揮官の少女が掲げる杖、それは言うなればエネルギーの変換器を兼ねており、魔法少女たちから集めた力を同質の力に変換した上で一つに収束できるのだ。


「射線を空けて、奴らを一掃するわよ! いっけぇぇぇぇっ!!」


 数十人もの魔法少女たち、彼女たちの数十ものコアのエネルギーを束ねた一撃。

 No.4曰く、"ラブパワーインパクト"が指揮官の少女の杖から放たれ、ピンク色の極太エネルギー波が死の天使の尖兵たちを飲み込んでいく。

 尖兵達の中には自身の能力でそれを迎撃しようとするが、数十ものコアの力が束ねられたピンク色の暴力は小揺るぎもしない。

 可憐な少女たちの力を一点に集中した一撃、それはまさしくリアル魔法少女と言っていい光景だったろう。

 密かに魔法少女たちの活躍を中継で見ていたNo.4は、可憐な魔法少女たちの姿に雄叫びを上げていた事を彼女たちは知る由も無かった。











 数十ものコアの力を束ねた規格外の一撃、それは戦況を一変させる程の力を秘めているだろう。

 仮にこの力を最初から出していたら、正義と悪の連合軍はこれほど苦戦はしなかった筈だ。

 しかしガーディアンサイドはこの秘密兵器を出し惜しみし、この時までこれを隠していた。


「…駄目ね。 収束システムは大破、二発目は不可能です。 これより他の戦力と合流します」


 その答えは指揮官の魔法少女の抱える杖、否、最早杖であると判別出来ない程に黒焦げとなった"ラブパワーシステム"にある。

 数十もののコアのエネルギー、それを一点に集めるシステム側がその力に耐えられないのだ。

 彼女たちが使った杖はNo.4が来るべき決戦に備えて密かに開発していた試作品であり、同じものは二つと無い物である。

 死の天使達の襲来が当初の予定通りであればシステムを量産している余裕もあっただろうが、残念ながらこの短期間でシステムを量産するのは不可能であった。

 それ故にこの力は文字通り一回限りの秘密兵器であり、本来であればこんな序盤に使うべき代物では無かったのだ。


「これで私達の隠し玉はお終い…、こんな体たらくでこの星の未来を守れるのかしら?」

「大丈夫ですよ! この星にはまだ彼が居るのですから!!」

「頑張って、欠番戦闘員さま!!」


 まだ巣にも辿り着いていない序盤戦で、切り札を切ってしまった事に対して落胆を隠せない指揮官の少女。

 しかしそれとは対象的に他の魔法少女たちは笑顔を見せ、何やら手まで振っている物も居るでは無いか。

 彼女たちの視線の先、そこには先程の一撃によって空いた死の天使の巣までの道を駆け抜けるバイクがあった。

 一体何処から現れたのだろうか、まるで亡霊のように姿を表した黒いバイクは一直線に戦場を通り過ぎていく。

 そのバイクを操る黒ずくめの戦闘員服を纏った勇姿に目敏く気付いた少女たちは、此処が戦場である事を忘れかのように年相応の姦しい声を上げる。

 これまで幾度かガーディアンの戦士たちと共闘した関係で、密かにガーディアンの魔法少女たちの間で人気の高い欠番戦闘員の出陣。

 死の天使の巣に乗り込もうとする面々の先頭を颯爽と走る欠番戦闘員の姿に、魔法少女たちの熱い歓声が降り注いでいた。



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