3. No.4と魔法少女
番号付き、死の天使に対抗するための武器を作り出すため、人為的に造られた天才たち。
彼らは最強の怪人・最強のバトルスーツを作りだすことを義務付けられ、神の御業ならぬ人の手によってこの世界に産声を上げる。
限界を超えなければ死の天使たちに対抗できない、それ故に番号付きたちは有る非情な試練が課せられていた。
時限装置、彼らの寿命は生まれる前から明確に定められており、この存在に自ら気付かなければ死の運命は避けられない。
最強を作り出すという他者に与えられた課題を機械的にこなす意思無き者には、限界を超えることなど出来る筈などない。
どんな理由でもいい、自らの意思を持って生きようと決意し、自らの身体に埋め込まれた時限装置の存在に気づけた者だけが殻を破ることが出来るのである。
「僕たちに課せられたこの糞みたい試験を自力で突破した番号付きは僅か二人、NO.4とNo.9だけだ」
「No.7はどうした。 大和くん…、欠番戦闘員の生みの親も生き残っているぞ」
「No.7は自力で時限装置には辿り着けなかった。 彼女が生き残ったのは、欠番戦闘員くんの活躍のお陰だよ。
まあ彼女が死に掛けたのも、その欠番戦闘員が原因だけれどもね…」
No.7ことセブンには近接戦闘に特化した最強の怪人を、彼女の前から姿を消したゴリラ型怪人の代替品を作ると言う至上の目的があった。
仮にセブンがこの夢を今でも追い続けていたら、研究を続けるために自力で時限装置の存在に気付いていた事だろう。
しかしセブンは欠番戦闘員こと大和によって満たされてしまい、最強の怪人を作り出すための研究を放棄してしまった。
皮肉も欠番戦闘員の存在によって、セブンは死の危機に瀕したと言えるのだ。
「No.9はNo.7に対する感情、恐らく嫉妬と呼ばれる物を原動力として己の生を望んだ。
そして僕は世界の真理に出会い、それを追求するために生を望んだ。 そう、魔法少女と言う輝かしい真理をねっ!!」
「お前はそんな理由で生き残ったのかよ、本当に真性だったんだな…」
No4、色部 四郎と呼ばれている細身の男は、大げさな身振りで恥ずかしげもなく魔法少女愛を語る。
四郎は今でも思い出せる、オタク趣味の研究者が持ち込んだと思われるアニメ雑誌を開き、あの可憐な魔法少女たちと初めて出会った時の衝撃を…。
宇宙からの例の記憶媒体が送り込まれたのが10年と少し前であり、その未知の技術を応用して作り出された番号付きたちの実年齢が見た目通りない事は容易に想像が付く。
この目の前の変態も実年齢のことは考えれば、魔法少女に嵌っている様子はある意味で年相応の物なのかもしれない。
しかし実体は兎も角、見た目は二十代の大人である四郎がはしゃぐ姿は流石に見るに堪えず、灰谷はこの場所に訪れた自分の選択を心底後悔していた。
灰谷の最大の武器は、神業と言っていい戦闘技術と歴戦と言うべき経験値である。
武器型インストーラと言う攻撃のみに特化した武器を振り回し、これまで生き残ってきた戦歴は伊達では無い。
しかしそれ故に灰谷には、自身の体を改造する新世代への道を進むことが出来なかったのだ。
バトルスーツと言う鎧を纏うこと無くコアの出力を一点に集中した剣一本で戦い抜いてきた灰谷の戦闘技術は、現在の灰谷の肉体能力に合わせて磨かれた物である。
新世代となって肉体能力を強化してしまえば、バランスが崩れた事によって途端にこの神業の戦闘技術は消えてしまう事だろう。
「全く、相変わらず無茶な注文をしてくれるよ。 ほら、もう出来ているよ、自殺志願者くん」
「ふん、お前こそ相変わらず仕事だけは速いな、変態」
「用事が済んだらさっさと帰ってくれ、僕は最終決戦用のバトルスーツを一刻も早く仕上げないといけないんだ」
四郎は目の前の無愛想な男から預かっていた物、彼の代名詞と言える武器型インストーラを投げ渡す。
灰谷は新世代となることは出来ない、しかし今の実力では死の天使との戦いで足手まといになってしまう。
そのために灰谷は自身の強化のためにある秘策を思いつき、それを実現するためにこの魔法少女狂いの手を借りたのである。
しかし灰谷にとっての秘策は、しかし四郎にとっては秘策などとはとても言えない狂気に満ちた自殺行為の物だった。
自分のことを毎度のごとく変態と呼ぶこの男こそが、命知らずの変態であると四郎は確信をしていた。
「…予想より大幅に速い襲来、戦力は足りると思うか?」
「予測不能だ、あの記憶媒体には連中の正確な戦力が記録されていなかったからね。 相手の正確な戦力が解らなければ、予想の建てようが無い。
余りこういう事を言いたくないが、後はぶっつけ本番って奴だよ」
「今揃えるだけの戦力は整えた筈だ。 欠番戦闘員、白仮面、クィンビー、リベリオンとガーディアンの戦力たち…」
四郎が言うように死の天使の正確な戦力は把握されていない。
この星の救世主とも言える彼らから送り込まれた記憶媒体には、色部たちが"死の天使"と名付けた存在の概要と言うべき情報しか無かった。
それ故に死の天使の実力を測るには、それに対抗するために生み出されたと言うコアや生物の合成技術と比較するしか無かったのだ。
とりあえずコアと生物の合成技術を組み合わせた存在、彼らの到達点ど同等の存在である白仮面を超える存在は作り出せた。
貴重なデュアルコアを操る欠番戦闘員、限定的では有るがデュアルコアを上回った恐竜型怪人、貴重なデュアルコアを使用する事無く二つのコアの同時運用を実現した二面怪人。
残念な事に現時点で最終決戦に加われるのは欠番戦闘員しか無いが、当初の目的であった彼らを上回る戦力は用意できた。
後は灰谷たちがこの星の最大戦力である欠番戦闘員を、どれだけサポートできるかに掛かっているだろう。
「ふっふっふ、そこで僕の最高傑作の出番だ。 深谷、君は魔法少女の真の素晴らしさを目撃することになるだろう」
「…戦力なるなら何でもいい」
幸か不幸か生き残った番号付きたちは、彼らの創造主が望んだ通りにこの星の戦力を押し上げた。
No.7は致命的な欠陥に気付いて実用化こそしなかった物の恐竜型怪人と言う概念を生み出し、デュアルコアを実用化した。
No.9はNo.7の研究を引き継ぐ形で恐竜型怪人を形にし、二面怪人と言う新たな可能性を見出した。
それに対してNo.4で有る四郎の成果は些か乏しい、強いて言うならば最強の戦士と呼ばれている灰谷が使う武器型インストーラという欠陥品くらいだろう。
しかし四郎の本命はあくまで魔法少女型インストーラであり、彼はこの最後の戦いで究極の魔法少女の姿を見せてやろうとやる気を見せているようだ。
「…ふん、つまらない男だな。 ああ、そういえばもう少し戦力を増やす方法があったな」
「はっ!? おい、それはどういうことだ?」
「ああ、別に僕達が動く必要は無いよ。 此処までお膳立てをしてきた僕の生みの親たちが、あれを放っておく筈が無いから…」
死の天使との決戦が迫る現状において、一つでも多くの戦力を集めなければならない。
そのために四郎を作り出した者たち、あの正義と悪のトップたちがあれを遊ばせて置く筈が無い。
四郎はこれは自分の仕事では無いと判断し、魔法少女アニメのオープニングをBGMに最終決戦用のバトルスーツの仕上げに入るのだった。
折角の祭日かつ、ストックがあったので投下してみました。
平常通りに土曜も更新するのでよろしく。




