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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第2章 そして時は来た
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17. 伏兵と伏兵


 欠番戦闘員と二面怪人の戦場に突如現れたリベリオンの怪人たち、その異形の物たちが無から生まれた筈も無い。

 それならば怪人たちは誰も気付かれる事無く、最初からあの場所に居たと言うことになる。

 黒い亡霊マシンを操る欠番戦闘員の十八番を奪うかのように…。


「…多分、あれってあなた自慢のサポートマシンと同じ事をやったのよね?」

「恐らく。 この映像だけで断言は出来ないが、あれはファントムのそれと同じ方法で身を潜めていたと思われる」


 現場に直接居る白木たちと違い遠く離れた三代ラボに居たセブンたちは、この有り得ない光景を前に冷静で居られる事が出来た。

 そして彼女たちはあの怪人たちが、ファントムと同系統のステルスによってあの場に潜んでいたと推測する。


「大和のマシンと同じことをあの怪人たちがやったと言うのか? そんな事は可能なのか?」

「私と同程度の技術力を持つ者ならば不可能では無い」

「あなたと同格の存在なんてまず居ないわ。 少なくともバトルスーツ専門の私には絶対無理な芸当よ…」


 セブンは自分の技術が決して絶対の物では無いことを理解していた。

 これまで欠番戦闘員を何度も救ってきたファントムのステルス機能もまた、他の者が実現不能と言う訳では全く無い。

 ただし実際にファントムのステルスを再現しようと思うならば、バトルスーツや怪人に限らない多方面における技術力が必要になる。

 あの機能は最強の怪人を生み出すために造られたセブンと言う、人為的に過大な才能を与えられた者だからこそ出来た代物なのだ。

 そしてあの場にはセブンと同じ造られた存在が居り、あの手品の仕掛け人が誰であるかは明白であった。


「頼む、白木、土留。 大和を救ってくれ…」


 過程はどうであれ現実には、消耗した欠番戦闘員こと大和の間に多数のリベリオン怪人たちが現れたのだ。

 映像を見る限りこの状況で大和に抵抗する力は残されておらず、頼りになるのはあの場に居る白木や土留たちだけであろう。

 黒羽は絶体絶命の状況に陥る大和の救出を、かつての仲間たちに託すのだった。











 セブンたちの想像通り、密かにあの場にリベリオンの怪人たちを潜ませていた下手人はナインであった。

 欠番戦闘員と二面怪人の戦いに横槍を入れてくる者への備え、それがナインが怪人たちを伏兵として置いていた理由である。

 セブンに出来ることなら自分にも出来るという半ば対抗意識で、ファントムと同系統のステルス機能を実現させていたナインはこれを利用して怪人たちを潜ませていたのだ。


「…はははは! もう虫の息だなぁぁ、欠番戦闘員!!」

「これまでの恨みだ、やっちまおうぜ!!」


 結果的に欠番戦闘員と二面怪人の戦いに乱入してくる者は居らず、ナインの備えは無駄に終わったと言える。

 しかし怪人たちがさあ仕事が終わったと帰る訳にもいかなくなった、何しろ勝ったのは憎き欠番戦闘員であるのだから。

 勝者となったとは言え欠番戦闘員は見るからに消耗しており、最早これ以上の戦闘は不可能であろう。

 これまで数々の作戦行動でリベリオンの邪魔をしてきた欠番戦闘員に対して、怪人たちが良い感情を持っている筈も無い。

 前回のリザド戦と同様に戦闘不能となった憎き怨敵を前に、リベリオンの怪人たち行うことは一つしか無い。


「…いいのですね?」

「…好きにすればいいだろう! 私はもうそんな奴の顔は見たくもない、セブンの作品なんか全部壊れてしまえばいいんだ!!」


 それはナインの事実上の敗北宣言であった。

 ナインの最高傑作であった二面怪人を打ち倒したセブンの欠番戦闘員、その勝敗はナインの全てを否定する物である。

 あくまで同じ土俵でセブンに勝とうと思うならば、二面怪人を上回る存在を作り出さなければならない。

 そのためには後の再戦のために欠番戦闘員を生かす必要があり、ナインは怪人たちの暴走を止めるべきであった。

 しかしナインはその選択を選ばず、憎きセブンの作品である欠番戦闘員を見殺しとする事を選んだのだ。

 見れば少女は瞳に涙すら浮かべながら恨めしそうに敗北した二面怪人を睨んでいる、その様は何処か癇癪を起こす子供のように見えた。


「…では、今日が欠番戦闘員最後の日してあげましょう」

「そうこなくてはな! これまでのリベリオンの恨み、このフェザー様が晴らしてくれるぅぅ!!」


 ナインが伏兵として配置したリベリオンの怪人たち、そのリーダ格である海月型怪人キロス。

 蟹型シザース無き後、リベリオン怪人たちの取りまとめ役となったキロスはリベリオンとガーディアンの裏の事情にもある程度把握していた。

 そして今キロスの足元の地面に倒れている欠番戦闘員と言う存在は、偉大なるリベリオン首領様の崇高な目的のためには必要不可欠な駒である筈である。

 此処で欠番戦闘員を始末してしまってもいいのかと、キロスは一瞬躊躇いも覚えた。

 しかし結局キロスは他の怪人たちを止めることは無く傍観を選んだ、何故ならばキロスはリベリオン首領から何の命令も受けていないからである。

 ナインの行動など偉大なるリベリオン首領には先刻承知であり、それをあえて見逃していたと言うことは此処で欠番戦闘員を失っても問題ないという事なのだろう。

 そのように判断したキロスのゴーサインを受けて、リベリオン怪人たちは嬉々と欠番戦闘員に向かって襲いかかった。






 二面怪人との戦いで全てを出し切り、半ば意識を失った状態で地面に倒れ込んでしまった欠番戦闘員こと大和。

 そしてその前に突如現れた殺気溢れるリベリオンの怪人たち、この後にどのような展開になるかは簡単に想像できる。

 一刻も早く欠番戦闘員の元に辿り着かなければ、欠番戦闘員の生存は絶望的であろう。

 前回のリザド戦でも似たような状況になり、あの時は白木たちの救援は間に合った。

 しかしあれはリベリオンの怪人たちはリザドの始末を優先したからであり、その時間ロスによって白木たちは欠番戦闘員に辿り着くことが出来たのだ。


「くっ、間に合うか!!」

「走るぞ、白木!!」


 それに対して今回はあの場には欠番戦闘員しか居らず、一刻の猶予も残されていない。

 慌てて欠番戦闘員の元に向かって駆け出す白木たちであったが、その数十メートル先では既に鳥型怪人が欠番戦闘員を始末しようと翼と一体化している腕を振り上げる。

 バトルスーツらしき物を装着している鳥型怪人は明らかに新世代であり、あの状態の欠番戦闘員であれば余裕で止めを刺すことが出来るだろう。

 そして無情にも欠番戦闘員の首を両断しようとする、コアの能力によっての刃と化した翼が振り下ろされた。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「…何っ!?」


 何かが断ち切れる音と共に、断末魔のような雄叫びが周囲に響き渡った。

 欠番戦闘員…、では無い、あの元戦闘員の首は未だに繋がっている。

 白木たちは見た、欠番戦闘員の首を切断しようとした鳥型怪人の腕が逆に切断される様を…。

 そしてそれをなしたのは先程の怪人たちと同じように、無から突然現れた白木たちと同じガーディアンの制服を纏う強面の男だった。

 その男の右手には生身の人間が耐えられる数割程度のコア出力を全て注ぎ込んで作られる光の刃を形成する、彼の代名詞と言える武器型インストーラが握られている。

 ガーディアンの戦士中最強と呼ばれる男、灰谷(はいや)が欠番戦闘員を守るように怪人たちの前に現れたのだ。











 ガーディアン最強の戦士である灰谷が突如現れ、リベリオンの怪人から欠番戦闘員こと大和を助けた。

 流石にそんな都合のいい展開を予想できる筈も無く、三代ラボの面々は一人を覗いて皆少なからず驚きを露わにしていた。

 しかし一人だけ動揺を見せなかった人物は、悪戯を成功した子供のように笑みを浮かべている。


「…これがあんたが私達の誘いに乗って、此処に来た理由かしら?」

「さて、何のことかな…」

「恍けるんじゃ無いの、灰谷のあれは明らかにさっきの怪人たちと同じものよ。 あんな真似が出来るのはこの子の同類だけなのよね、No.4さん」


 色部 四郎、この場に居るNo.7(セブン)や二面怪人の生みの親であるNo.9(ナイン)と同類と思われる人物。

 三代の想像が正しければ、この男もまたファントムのステルス機能を再現出来てもおかしくない。

 そしてこの男には、灰谷のサポートをする理由も存在した。


「武器型インストーラ、魔法少女趣味の変態が作り出した唯一と言っていい成功作。 これが無ければあんたはただ変態野郎として、既にガーディアンから放逐されていたでしょうね」

「あれを成功作を言って欲しく無いな、あんな使用者の技量に完全に左右させる欠陥品をね…。 僕を変態と言うならば、あの欠陥品を使いこなしているあいつこそが変態だよ。

 あんな物より魔法少女型インストーラの方がずっと…」


 魔法少女型インストーラに拘り続ける色部 四郎が作り出した、唯一の非魔法少女型インストーラ。

 それがガーディアン最強の戦士である灰谷が使う、あの武器型インストーラである。

 灰谷がこの男と付き合いが有るのはガーディアン内では周知の事実であり、この男は文句を言いながらも武器型インストーラの整備やアップデートを今日まで続けていた。

 あの場に灰谷が伏兵とで潜めた種の出所は、この魔法少女狂いであることはほぼ確実であろう。

 しかし色部 四郎は三代の問い明確に答えを出さず、煙に巻こうとするように再び熱い魔法少女論を語り始めるのだった。


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