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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第2章 そして時は来た
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15. 人形


 ガーディアンの戦士荒金とリベリオンの怪人ハウンドを材料に、一人と一体の要素を同時に備えた二面怪人。

 これによって二面怪人は、全く異なる二つコアを同時に発動することが可能となる。

 それは兄弟コアを使用することでデュアルコアを可能としていた、欠番戦闘員こと大和の優位が失われた事を意味していた


「■■!!」

「クッ…」


 雷電が走った。

 荒金の雷を操るコアの力によって、雷を纏った爪の一撃が次々に欠番戦闘員こと大和へと襲いかかる。

 それに対して大和は赤い炎を纏った右拳と、凍気を纏った左拳で迎撃していた。

 本来であれば雷を炎や凍気などで防ぐことは不可能であろうが、これはどちらもコアが由来する現象なので相殺は可能だ。

 二面怪人の雷が欠番戦闘員の炎や凍気と衝突し、激しい火花を辺りに撒き散らしていた。


「チィッ、コノママデハキツイカ…」

「■■■!!」

「"マスター、右に避けて!!"」

「ッ!?」


 コアが増えたことによって肉体能力も大幅に強化されたらしく、二面怪人の動きは先程とは比べ物にならない程に切れている。

 ファントムの戦闘予測を受けながらどうにか捌いていた欠番戦闘員であったが、その圧力を堪えきれず一度仕切り直しを試みた。

 しかし二面怪人から距離を置こうとした欠番戦闘員に向かって、すかさず二面怪人の胸に備わるハウンドの顔が動いていた。

 二面怪人の胸を保護していた半透明の装甲が外れ、次の瞬間にハウンドの顔が声無き雄叫びを上げたのだ。

 その咆哮は物理的な衝撃波となり、まさに音速のスピードで欠番戦闘員に向かっていく。

 二面怪人の挙動から次の行動を予測したファントムのサポートが無ければ、まともに衝撃波を受けていた事だろう。


「ははは、どうかな、私の最高傑作は? 早く本気を出さないと、早々にやられてしまうよ」

「…見テロヨ」


 二面怪人に翻弄される欠番戦闘員こと大和の姿を見て、ナインは見るからにご機嫌な様子だ。

 ハウンドの咆哮から回避するために右方へ倒れ込むように飛び退き、生き残った代償として無様に地面へと転がった欠番戦闘員の姿が余程嬉しいのだろう。

 地面から起き上がりながら大和は、覆面の下で苦々しげに恩人(セブン)と同じ顔を持つ姉妹機の姿を睨みつる。

 しかしナインに対する怒りを覚えながら、欠番戦闘員こと大和は奇妙な違和感を覚えていた。

 二つのコアを持つことで格段に強力になった二面怪人、実際にその力を持って欠番戦闘員は確実に追い詰められている。

 それにも関わらず当の本人である大和は、どういう訳か二面怪人と言う存在に対して全く怖さを感じていない自分に気付いていた。










 二つのコアを操ることが出来る完全なる怪人、それはコアを一つしか使えなかった白仮面やリザドを上回る存在と言える。

 しかし欠番戦闘員こと大和は二面怪人に対して、記憶に刻まれたかつての白仮面とリザド程の恐ろしさを感じられなかった。

 思惑は異なれどもかつての白仮面もリザドも、譲れない物を胸に秘めて欠番戦闘員こと大和へと向かっていた。

 そしてその意志に応えるかのように彼らのコアは力を増し、それに負けじと大和も感情を高ぶらせながらコアから力を振り絞った。

 対して今の二面怪人には自意識が全く感じられず、まさしくナインの操り人形である。

 二面怪人から繰り出される一撃一撃は確かに強力であることは間違いないが、それは何処から薄っぺらい物なのだ。


「オォォォォォ!!」

「■■■■ッ!?」

「…何で、何でまだ戦えている!? スペックではこちらが圧倒的に優勢なのに!!」


 大和の意思に呼応して、デュアルコアが赤と青の光を放つ。

 両の腕に纏う炎と凍気を纏った拳を持って、大和は二面怪人を相手に激しく詰め寄っていた。

 対する二面怪人も負けじと二つのコアからの恩恵を受けて、雷を纏う爪を振るって応戦する。

 コアの数や出力が同等であれば、後は肉体的なスペックによって差が明確になる。

 そして戦闘員でしか無い大和が完全な怪人である二面怪人に勝てる筈も無く、その証拠にこの殴り合いは明らかに二面怪人が優勢を保っている。

 しかしナインは自身の怪人が優勢である事に喜ぶどころか、どういう訳か悲鳴に近いような声を上げていた。


「"いやーっ、マスター!? 早くこれを何とかしてぇぇぇっ!!"」

「「「グルルゥゥゥゥッ!!」」」

「…あの小煩いマシンは既に潰した。 純粋な一対一でコアの出力が同等ならば、肉体的なスペックが大幅に有利な筈なのに…」


 犬型怪人ハウンドが持っていた戦闘要犬たちを操る能力、そしてハウンドのコアが持つ音を操る能力。

 この二つの力を持って既にファントムの隠れ蓑は暴かれており、戦闘用犬たちに囲まれた黒い亡霊は最早この戦いで役に立つことは無いだろう。

 孤立無援となった欠番戦闘員は、絶対絶命の状況の中で抗い続けていた。

 始めは無駄な抵抗をする欠番戦闘員を嘲笑っていたが、しかし何時まで経っても倒れないそれにナインの表情は徐々に曇っていった。

 ナインの計算では既に欠番戦闘員は二面怪人の前に倒れていてもおかしくない、しかし現実に欠番戦闘員はまだ立っているのだ。


「軽インダヨ、オ前ノ攻撃ハ!!」

「■■!!」


 ナインの言う通り、両者のスペック差は明確だ。

 二面怪人の攻撃は欠番戦闘員のそれより鋭く強力である、しかし怖くは無い。

 殺意や敵意が全く感じられないその攻撃を、大和は予想以上に冷静に対処することが出来ていた。

 かつての白仮面やリザドの攻撃は怖かった、こちらを倒そうと言い明確な意思が込められた一撃を捌くだけでも酷く神経を使った物だ。

 それに対して二面怪人のそれには全く何も感じられない、これなら慣れてしまえば幾らでも凌ぐことが出来るだろう。

 ただし両者のスペック差は確かに存在しており、相手の攻撃を凌ぐのに精一杯の大和は反撃の糸口を掴むことが出来ずに居た。

 負ける気はしないが勝つ方法も見付からない、欠番戦闘員と二面怪人の戦いは奇妙な硬直状態に陥っていた。






 二面怪人を制作する上で、ナインはある一つの課題に取り組む必要があった。

 素材となった者たち、二面怪人で言うならば荒金とハウンドの自意識をどのように扱うかである。

 一つの体に二つの自意識を込めたら一体どうなるのか。

 実際に試してみれば解るだろうが、試した所でどう考えても良い方向に転ぶとは思えない。

 最悪アイデンティの崩壊によって両方の自意識が共に崩壊してしまい、折角の二面怪人が自滅するかもしれないだろう。

 この問題に対してナインは素材となった者たちの自意識を消してしまうと言う、一番簡単な方法でそれを対処した。

 こうして誕生したのは二面怪人と言う、一人と一体の要素を併せ持った意思無き怪人であった。


「どうして、私はセブンを超えた筈なのに…、あんな裏切り者なんかに負けるはずが無いのに…」


 素材となった者たちの自意識を消去され、ただただナインの命に従うようにプログラムされた二面怪人。

 元々ナインは自意識と言う物を軽くみており、怪人に余計な自意識など不要とすら考えていた。

 実際にかつてのナインのゲームで用意されたリザド以外の怪人たちは、全てナインの手によって自意識を消し去られていた。

 あくまでゲームの中ボスキャラとして用意された怪人たちに、ゲームの興が削がれるような事をされたくなかったのだろう。

 この一面から見ても、ナインが怪人の自意識と言う物を軽く見ている事の証左であろう。

 スペックが優れば勝敗が決まると言うのがナインの認識であり、それゆえにスペック差を覆している欠番戦闘員の存在がナインには理解出来なかった。

 あくまで研究者でしか無いナインには、意思などという不確かな物が戦いの趨勢を左右すること有るとは考えもしなかったようだ


「…もういい、本気を出せ! セブンの作品なんか、さっさと倒してしまえぇぇぇ!!」

「■■■!!」


 セブンの作品である欠番戦闘員に自身の作品である二面怪人が未だに勝つことが出来ない、その事実がナインを激しく苛立たせていた。

 そしてナインは遊びは終わりとばかりに、二面怪人に対して真の力を出すように命じる。

 ナインによって自意識を剥奪された二面怪人は、言われるがままに二つのコアの力を完全に開放した。

 腹部に並ぶ二つのコアの光が激しさを増していく、しかし意識無き物が操るコアの光は何処か空虚で寒々しい物に感じられた。


「人形遊ビニ付キ合ウノハ此処マデダ! サッサト終ワラセテヤル!!」


 二面怪人に対抗して欠番戦闘員こと大和もまた、デュアルコアの力を最大限に発動させた。

 赤と青に光っていたコアの光が赤色に統一され、大和の腕にそれぞれ纏っていた炎と凍気が蒼い炎へと統一される。

 大和の意思に呼応してコアは激しく光輝き、それは熱気すら感じさせるような存在感を放っている。

 意思無き人形と意思を持った元戦闘員の戦い、その決着は間近へと迫っていた。



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