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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第2章 そして時は来た
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13. 別解


 首の上にはかつて荒金と呼ばれていた人間の顔が、胸部には怪人らしき怪人の顔が存在する異様な姿。

 これまで何度も人間離れした怪人と相対してきた大和であるが、流石にこれほどのキワモノは相手にしたことは無い。

 二面怪人と言う異形が与えた衝撃は、歴戦の戦士と言える程の経験を持った大和でさえも少しの間思考が停止してしまう程であった。


「…ナッ、ソノ腹ノ怪人ハ!?」

「ふふふ、気付いたようね…」

「ハウンド…、ダト?」


 幸運にも相手が動かなかった事もあり、暫くして落ち着くことが出来た大和は改めての怪人の姿を観察し始める。

 そして二面怪人の腹部に埋め込まれた怪人、その正体に気付いた大和は再び驚きの声を漏らしてしまう。

 腹の怪人の顔は毛で覆われており、その顔立ちは明らかに人間の物では無く犬を思わせる造形だった。

 大和が知る犬をベースにした怪人は一体だけであり、その変わり果てた姿から一目で判断が付かなかったが二面怪人の腹のそれは確かにあの怪人の物だ。

 まるで悪戯に成功した子供のような笑みを浮かべるナインの前で、大和は僅かに声を震わせながらその怪人の名を呟いた。

 犬型怪人ハウンド、かつて何度も欠番戦闘員こと大和と矛を交えた怪人の成れの果てがそこにあった。


「この怪人は随分と欠番戦闘員に拘っていてね、欠番戦闘員を倒せるなら何でもやるって言うんだよ。

 だから本人のお望みの通りに、私の作品の素材として使わて貰ったの」

「ナ、何ナンダ、コノ二面怪人ハ…」

「二面怪人? 随分とセンスの無い名前だけど、まあ解りやすくていいかな…。 すぐに解ると思うよ、この二面怪人の恐ろしさがね!!」


 ナインの言葉と共に、二面怪人は動き出した。

 頭部と腹部の両方の顔が揃って大和に視線を向け、次の瞬間にその姿は大和の前から消える。

 否、消えたのでは無い、二面怪人は地面にその場に倒れ込むようにしゃがみ込んで大和の視界から姿を隠したのだ。

 そして二面怪人はそのまま地面に四足になり、まるで犬のよう地を這いながら動きだした。

 大地を駆ける二面怪人の速さは凄まじく、大和だけであれば対処しきれなかっただろう。


「"マスター、左後方!?"」

「■■■!!」

「クッ!?」


 大和の耳に相棒である黒い亡霊の声が届くのと同時に、何時の間にか大和の後方まで移動してきた二面怪人が地面から跳び上ってくる。

 こちらに向かって飛びながら右前足、否、右腕を振るってくる二面怪人。

 その指先にはスーツから飛び出たかつてのハウンドを思わせる鋭い爪が飛び出ており、恐らくその一撃をまともに受けたらただでは済まないだろう。

 紙一重で二面怪人の攻撃に反応した大和は、凍気を纏っている左腕で二面怪人の右腕の一振りを受け止めようとする。

 腕に嵌めたガントレットが二面怪人の右腕と衝突し、甲高い音が辺りに響き渡った。






 奇襲に失敗した二面怪人は追撃を恐れたのか、するりと大和から距離を置く。

 大和は二度と見逃すまいと二面怪人を注視しながら、未だに痺れが残る左腕を軽く動かして感覚を取り戻そうとする。

 先程の攻防、大和は二面怪人の奇襲をかろうじて受け止めることが出来た。

 今の大和はデュアルコアによって強化されており、並の怪人であれば逆に相手を吹き飛ばすことが出来ただろう。

 しかし不意を突かれて体勢が不十分だったとは言え、あの二面怪人の一撃は今の大和と互角に近い威力を秘めていた。

 大和の右拳を受けて無事で居る耐久力と良い、二面怪人は白仮面やリザド並の性能を持っている事は間違いないだろう。


「……」

「ヤリニクイナ…」


 奇襲に失敗した二面怪人は、相変わらず何の感情を見せること無く無表情を貫いていた。

 淡々とこちらの様子を伺うその姿には人間らしさは全く無く、実はあれば機械だとと言われても違和感は感じられないだろう。

 特にあれの腹に埋め込まれた犬型怪人であれば、大和に対して盛大に悪態を付いていた所であろうに今のあれにはそれが無い。

 その反応の無さが二面怪人の異様さに拍車を掛けており、大和は目の前の怪人と相対することへの違和感を強く感じていた。











 大和と二面怪人との戦いを木々の影から伺う白木たちもまた、二面怪人の奇妙さに違和感を覚えていた。

 首の上と腹部の二箇所の顔がある見た目の異様さでは無い、デュアルコアを装備した今の欠番戦闘員こと大和と互角に戦っているその性能にだ。

 欠番戦闘員こと大和にはまだ切り札がある、デュアルコアの完全開放という自らの体を危険に晒す諸刃の剣が…。

 デュアルコアの出力を落としている今の欠番戦闘員と互角程度では、決して欠番戦闘員に勝つことは出来ないだろう。

 しかしその戦いを間近で観戦しているナインの顔は未だに自信で満ち溢れており、それはあの二面怪人が底を見せていないことを暗に示していた。


「あれの強さの秘密、何だと思う?」

「多分、前の蜥蜴野郎と同じ融合型って奴じゃ無いか? バトルスーツを付けている様子は無いが、コアの力を借りない怪人が今の旦那とまともに戦える訳無いしな…」

「僕も同じ意見だ、しかしそれだけでは今の欠番戦闘員に勝つことは不可能なのだが‥」


 怪人とコア一個の組み合わだけでは、デュアルコアを装着した欠番戦闘員こと大和に勝つことは出来ない。

 それは白仮面、コアを搭載するバトルスーツを装着した完全な怪人が欠番戦闘員に敗北したことで証明されている。

 あの欠番戦闘員に勝つには怪人としての力にコアの力に加えて、新たなる力に手を出さなければならない。

 最強の怪人だったリザドは、恐竜型と言う禁忌の力に手を出すことで一瞬だけ欠番戦闘員を上回る性能を手に入れることが出来た。

 わざわざ欠番戦闘員に挑んできたのだ、あの二面怪人にもリザドの恐竜型と同じ何かを持っている可能性が高い。

 その何かが全く検討の付かない白木たちは、不安気な面持ちで大和の戦いを見守っていた。






 あの奇襲を防いだ後、大和と両面怪人の間で小競り合いのような攻防が何回か繰り返された。

 腹に埋め込まれた犬型怪人の性質か、二面怪人はまるで野犬のように四足で地を這いながらこちらに襲い掛かってくる。

 人間の顔をしたそれが野獣の真似をするその姿に異様さを覚えながら、大和は慣れない下方からの攻撃に手を焼かされていた。

 しかし最初は面食らった物の、何回も繰り返されたら嫌でも慣れてくる。


「…ソコッ!!」

「■■っ!?」


 二面怪人の地を這う戦法に慣れてきた大和は、タイミングを合わせてカウンター気味の一撃を放ることに成功する。

 下から跳び上がってくる二面怪人の攻撃を体をずらすことで避けながら、大和は炎を纏うアッパー気味を振り上げたのだ。

 しかし敵もさる者である、跳び上がってきた直後で地面に足が付いていない不安定な状態ながら二面怪人は体をひねることで何とか大和の一撃を避ける。

 そして大和が追撃の左拳を振るおうとした頃には、既に二面怪人は大和から距離を取って危険地帯から退避する早足である。

 逃した獲物をヘルメットの下で忌々しげに睨みつけた大和は、そこで先程の一撃が完全に外れたのでは無い事に気付く。

 それは紙一重ならぬ布一枚の所で二面怪人の腹部に直撃しており、その体に纏った黄色いスーツを燃やしたのだ。


「…コア、ヤパリ融合型カ。 リザドノ二番煎ジガオ前ノトッテオキカ?」

「冗談、そんなつまらない物をゲームに用意する訳無いだろう。 いいわ、最終形態に突入といきましょうか」


 その腹部の顔を晒すために二面怪人は、自らが纏う黄色いスーツの上半身部分を自ら引き裂いていた。

 ただしスーツの上半身から下の部分はまだ残っており、それは二面怪人の腹部を今まで隠していたのだ。

 コア、二面怪人の腹部に直接埋め込まれたそれが、デュアルコアを装着した大和と互角に戦っていた秘密のようだ。

 奇妙なことにそのコアは二面怪人の腹部の中心に埋め込まれておらず、どういう訳か右よりに寄せられていた。

 そのコアの配置が僅かに気になった物の、些細な事だと意識の外に追い出した大和はナインに対して挑発を投げかける。

 口で出した言葉とは異なり大和は二面怪人がリザドの二番煎じで終わる存在では無い事を察しており、これは相手の出方を伺うための策である。

 そんな大和の解りやすい挑発にあえて乗ったナインは、漸く二面怪人の真の力を披露することを決意したらしい。

 そしてナインは二面怪人、自信の最高傑作を完成させる最後のパーツを取り出したのだ。






 ナインが投げ渡したそれを受け止めた二面怪人は、それをコアが埋め込まれた腹部の上から巻く。

 どうやらそれは元々、コアが埋め込まれた腹部の上に巻かれる事を前提に造られたらしく、腹部のコアを部分のスペースが空けられていた。

 そして埋め込まれた右側のコアの横にそれが、ベルト型のインストーラに嵌め込まれているコアが来て両面怪人の腹部に二つのコアが並んだのだ。


「お前は口がきけないから、私が代わりに言ってあげるよ…、変身っ!!」

「■■!!」

「ナッ、ソレハ……」


 二面の怪人の代わりにナインの声に反応して音声起動したインストーラは、一瞬の内に二面の怪人の全身を光に包み込む。

 そして光が止んだそこには、二面怪人の体にバトルスーツが展開されていたのだ。

 それはかつて荒金の使っていた、黄金のスーツ型バトルスーツをベースに作成されたらしい。

 二面怪人の体を覆う派手は黄金のスーツに顔を覆うヘルメット、両腕に備わる爪を有効利用するために指ぬきの形状となっている赤いガントレット。

 胸部にはハウンドの視界を遮らないよう、中央部分が半透明の素材で造られた赤いブレストアーマーが装着されている。


「…何故、二ツノコアガドチラモ反応シテイル!? マサカ、ソレモデュアルコア…」

「違うよ、これはお前の使うレア物のコアじゃ無い、ただのコアさ。 

 コアに適合した人間しかコアの力が使えず、コアの性質は個々に異なっている。 デュアルコアなんて言うレア物でも無ければ、怪人だろうと人間だろうと、性質のあったただの一つのコアしか使うことは出来ない…」


 大和は変貌した二面怪人の姿に驚愕を露わにした、バトルスーツを纏ったことに驚いているのでは無い。

 その腰で光を放つ二つのコア、自分と同じように二つのコアを同時に起動している二面怪人の有り得ない光景に衝撃を受けたのだ。

 ナインの説明の通りコアの性質は個々で異なっており、コアの性質に合う適合者で無ければコアの力を引き出すことが出来ない。

 しかしナインの言葉が本当であれば、二面怪人は性質が異なる二つのコアを同時に発動させると言う有り得ない事を行っていた。


「怪人だろうと人間だろうと自身の性質に合うただ一つのコアしか使うことが出来ない、それならコアを使える怪人や人間を一つにまとめれば二つのコアを同時に発動できると思わないか?

 個々のコアを同時に発動できるよう、それぞれのコアに適した性質を同時に持った存在。 それが私の辿り着いた答えだ!!」

「ソノタメノ二面ナノカ!?」


 そんな大和が狼狽える姿を見て気分がいいのか、ナインは自慢げに自らの作品の秘密を語り始める。

 二つのコアを同時に使用すると言う不可能を可能にした答え、それは全く同じ性質を持つ兄弟コアを使用した欠番戦闘員こと大和のデュアルコアである。

 しかしその答えは兄弟コアを持たないナインには、意味をなさない解だった。

 デュアルコアを持たないナインが欠番戦闘員を上回るために至ったそれは、一種の逆転の発想であろう。

 二面怪人の素材となっているガーディアンの戦士であった荒金と、リベリオンの犬型怪人ハウンド。

 荒金は雷を操るコアの適合者であり、ハウンドは音を操るコアの適合者として自らを改造していた。

 それぞれは一つのコアしか使うことが出来ないただの人間と怪人であるが、その二つを組み合わせたらどうなるか。

 その答えが大和の前に立ち塞がる二面怪人、荒金とハウンドの性質を併せ持つ事で二つのコアを発動させることを可能にした別解であった。



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