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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第2章 そして時は来た
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12. 二面怪人


 ナインが寄越した招待状、そこに書かれていたニューゲームの日がやってきた。

 欠番戦闘員の正体を隠し通すため、再びゲームに参加せざるを得なくなった大和は渋々と指定されたゲームの会場に現れる。

 前回のゲームのリベンジマッチと行きたいのか、ナインが指定した戦場は大和がリザドと最後の戦いを繰り広げた因縁の場所であった。

 リベリオンの戦闘員服に戦闘員番号を塗り潰したマスク、何時もの戦闘装束に身を包んだ大和はファントムから降りて広場の中央に仁王立ちになる。

 周囲に木々が生い茂る人気のない森の広場、此処で大和は初めてリザドと戦い、そして最後の戦いも行った。

 まだリザドとの戦いが記憶に新しい大和は、所々に戦いの傷跡が残る広場の何かを思い返すかのように僅かに目を細めている。


「…時間通りね。 私のゲームにようこそ、セブンの作品さん」

「フン、今日ハ直接来タンダナ…」

「折角の機会だから、私の作品がセブンの作品を上回る瞬間を直に見ないと…。 そうさ、私があんな裏切り者に負ける筈が無いんだ…」


 そんな大和の前に現れたのは、相変わらずジャージ姿をしている白髪の少女である。

 ナイン、セブンの姉妹機とも言える、より強い怪人を製造するために造られた存在。

 未だに己に定められた生き方に縛られている少女は、そこから抜け出した同類に対して激しい敵意を持っているらしい。

 何か自分に言い聞かせるように呟いているナインの存在に異様さを感じる大和であったが、彼に取ってこの少女は敵以外の何者でも無く気を掛ける対象では無い。

 大和はすぐにナインを半ば無視し、彼女の背後に居る黄色のスーツを纏い覆面で顔を覆っている先日の邪魔者を睨みつける。


「…イイカラサッサト始メルゾ、コンな駄作ゲームハサッサト終ワラセテヤル。 …変身!!」

「いけぇ、セブンの作品なんか潰してしまえ!!」


 これ以上付き合ってられないとばかりに、大和はすぐさま内蔵型インストーラを起動させて怪人専用バトルスーツを展開する。

 首からした包み込む黒いスーツ、その上から炎を思わせる紅い文様が刻まれたブレストアーマーとガントレットを装着していた。

 そしてファントムから射出されたフルフェイスのマスクを被り、欠番戦闘員としての戦闘準備は整った。

 腹部のインストーラには既にコアが二つ、白木から借りたコアを装着してデュアルコアとなっていた。

 完全なる欠番戦闘員の装いとなった大和に対して、ナインはまるで駄々を捏ねる子供のように感情的に自身の作品をけしかけた。











 わざわざナインが自分から再びゲームを持ちかけたと言う事は、それ程までに欠番戦闘員こと大和に勝てる自信が有るという事だ。

 どう少なく見積もって今回のゲームの相手は白仮面やリザドの並の実力が有ることは間違いなく、それ故に大和はデュアルコアと言う最後の手段を初めから用意してきた。

 それぞれの拳に炎と凍気を纏った大和は、まずは小手調べとばかりに得意の近接戦闘を挑む。

 黄色のスーツを纏った謎の怪人らしき存在は、迫りくる大和に対して全く怯むこと無くその場に棒立ちになっている。

 その全く感情を感じさせない佇まいに気持ち悪い感覚を覚えた大和は、それを振り払うかのように炎を纏った右拳を繰り出した。


「…ハッ?」


 デュアルコアによって強化された大和の拳は、並の怪人であれば一撃で倒せる程の威力がある。

 その一撃必殺の拳を前に、ナインの作品はあろうことから無抵抗のままそれを顔面に受けたのだ。

 まるで交通事故にでもあったかのように簡単に吹き飛ばされたそれは、勢い良く後方へと吹っ飛んでいく。

 そして広場に外に生えていた木々の一本にぶつかった所でそれの空中飛行は終り、落ち葉と共に地面へと落下した。

 大和は予想外の展開に思わずそれが吹き飛んでいた方向を凝視しながら、右腕の五指を忙しなく動かしている。


「…コレデ終ワリ?」

「はは、そんな訳無いだろう」


 ただの一撃で戦いが終わる、そんな虫のいい話はやはり無かったようだ。

 大和が思わず漏らした問にナインが応えると同時に、見計らったかのようなタイミングでそれは立ち上がる。

 デュアルコアを装着した大和の一撃は全く効いていないかのよう、それは淀み無い足取りで大和の方へと戻ってきた。

 まるで先程の一撃など無かったかのような反応を見せるナインの刺客であるが、それが事実であることを示すように顔を覆っている覆面が剥がれ落ちる。

 先程炎を纏った大和の拳を顔面に受けたことで、顔尾を覆うマスクが焼け落ちてしまったのだ。

 そして露わになったその素顔を前に、大和を思わず息を呑むことなる。


「ナッ、人間、ダト…」

「ただの人間が君に殴られて無事な訳ないだろう。 これが私の作品さ…」


 ガーディアンの新世代、荒金(あらがね)、力を求めナインに魂を売った男、その素顔が大和に明かされたのだ。

 ある意味で荒金に非常に強い影響を与えた欠番戦闘員こと大和であるが、大和と荒金が顔を合わせたことは過去二回しか無い。

 一回目はリベリオンによるガーディアン東日本基地襲撃時に、欠番戦闘員こと大和が成り行きで救ったガーディアン関係者の一人が荒金である。

 この時の荒金はその他大勢の一人でしか無く、大和の記憶に彼のことは残らなかった。

 そして二回目、欠番戦闘員と言う力に追い付くためにナインのゲームに乱入し、荒金は欠番戦闘員こと大和に戦いを挑んだ。

 しかしこの時に荒金はバトルスーツで顔を隠しており、今大和の前に現れた素顔を見せていなかった。

 それ故に大和はそれが荒金である事は解らず、ただ自分が殴ったのは人間だった事に対してのみ衝撃を受けているようだ。






 ガーディアンの新世代であった荒金のことを、ガーディアンでは無い大和が知らない事は仕方ないだろう。

 前回のリザド戦の時と同じく、木々の影から大和の戦いを伺っていたガーディアンの白木と留目は予想外の展開にそれぞれ衝撃を隠せないようだ。

 病院から行方不明になっていたガーディアンの新世代が、よりにもよってナインの作品になっているとは思いもよらなかっただろう。


「おいおい、よりにもよって家の人間がラスボスかよ…」

「…あの少女が言う通り、あれはもう人間じゃ無い。 くそっ、人間を何だと思っているんだ!?」


 まさかかつてガーディアンに居た人間が欠番戦闘員こと大和に立ち塞がると言う皮肉な展開に、留目は皮肉げな笑みを浮かべる。

 それとは対象的に白木は悲痛な表情で、かつての仲間の変わり果てた姿を嘆いていた。

 新世代としての力に驕っていた荒金とはお世辞にも良い関係とは言えなかった白木たちであるが、それでも荒金は同じガーディアンの戦士である。

 その仲間を弄んだナインに対して、白木たちの敵意は増してく一方だった。






 覆面の下から現れた荒金の顔、どう見ても人間にしか見えない相手の存在に大和は未だに動揺を抑えられないでいた。

 しかし落ち着いてみれば、それがもう普通の人間ではないことは一目瞭然である。

 そもそも先程セブンが言った通り、普通の人間が怪人すら軽く屠れる大和の拳を受けて無事である筈も無い。

 何より露わになった荒金の顔は何も感情を読み取ることは出来ず、まるで人形のように眉一つ動かさずに虚空を睨んでいるその顔は不気味さすら覚える。


「ははは…。 さて、ちょっと早いけどネタバレと行こうかな。

 おい、あれを見せてやるんだ」

「…」

「ナッ!?」


 ナインの指示を下した途端、機敏に動き始めた荒金だった何かは体を覆っていた黄色のスーツに手を伸ばす。

 そしてスーツの胸に当たる部分を掴んだと思ったら、次の瞬間にそれを左右に引っ張ってスーツを引き裂いてしまったのだ。

 そして顕になった上半身、そこにあった異様の光景に大和は思わず息を呑んでしまう。

 荒金だった物の胸に当たる部分、そこにあったのは何かの怪人と思われる人間離れした造形の顔だった。

 まるで胸の中心に大穴を開けて、その空間にすっぽりとボールを入れるかのように怪人の顔が胸に嵌め込まれていた。

 しかもそれはただの趣味の悪い模型ではなく、明らかにそれは生きているようだ。

 頭に有る荒金の顔と同じように感情が見えない物の、それは辺りを伺うように両目をギョロつかせている。

 首の上と胸部、二つの顔を持つ二面怪人、そのような奇妙な怪人を作り出したナインにどのような思惑が有るのだろうか。



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