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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第2章 そして時は来た
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11. ニューゲームスタート


 薄暗い室内に佇む異形、それはこの星で最初に誕生した怪人であった。

 悪の組織リベリオンの首領にして怪人たちの創造主は、部屋の中央に置かれた豪奢な椅子に座ったまま微動だにしない。

 昆虫をベースにしたらしい首領は緑色の硬質の皮膚を持ち、人とは明らかに異なる複眼を備えている。

 既に人間であった頃の名前は捨て去り、自らの意思でリベリオン首領と言う存在に成り果てた者の胸中はどのような物だろうか。


「…さて、そろそろネタバレと行きましょう。 全部吐いてもらうわよ、この茶番劇の裏側をね!!」

「蜂型怪人クィンビー、それに人工怪人の試作品…。 そうか、此処まで辿り着いたか…」


 世界を二分する巨大組織の片割れ、世界征服を企む悪の組織リベリオンが首領。

 その前に堂々と姿を現したのは、かつて目の前の存在を上司として仰いでいた元リベリオンの女怪人である。

 蜂型怪人クィンビー、世界の真実を知るために黒幕とも言うべき存在に辿り着いた不屈の怪人。

 そしてクィンビーを此処まで案内した、世間で白仮面と呼ばれている人工怪人の姿も蜂型怪人の傍にあった。

 予期せぬ来客を前にリベリオン首領に動じた様子は無く、むしろ面白いものが来たとばかりに鋭い牙が見える口元を歪めていた。






 かつて宇宙から送り込まれた贈り物、生物の合成技術とコアの製造技術と言う強大な力が秘められた異星の記憶媒体。

 この記憶媒体の中身を調べるために、このリベリオン首領やガーディアン総帥の他、多数の科学者たちが集められた。

 科学者たちが力を合わせることで、未知のフォーマットで作られた記憶媒体の内容が徐々に明らかになっていく。

 しかし記憶媒体の解析が半ばがまで進んだ所で、ある事件が起きた。

 後にリベリオン首領になる科学者が密かに、自らの体を使って生物の合成技術を利用した最初の改造手術を施したのだ。

 そして誕生した最初の怪人はその人外の力を持って仲間の科学者たちを皆殺しにし、宇宙からの力を独占しようと企てた。

 しかし他の科学者たちが息絶える中でかろうじて生き延びた者が居た、現ガーディアン総帥の色部(しきべ)である。

 色部は宇宙からの技術の送り込まれた技術の片割れ、コアの製造技術を後のリベリオン首領から守ることに成功した。


「…そして生物の合成技術を手に入れたあんたはリベリオンを創設して世界征服を目論み、それに対抗するために色部はガーディアンを創設した。

 これは表向けに知られている話だけど、十中八九この話には裏があるのよね?」

「…何故そのように考えた?」

「リベリオンとガーディアンが裏で繋がっている今の状況を考えたら、あんたたちが始めから繋がっていたと考えた方が自然でしょう。

 そもそも前から怪しいと思っていたのよね、幾らなんでも自分自身に改造手術なんて施せる訳無いもの。多分、あんたが怪人となった時に、ガーディアン総帥様が手伝ったんじゃ無いの?」


 宇宙から送り込まれた未知の技術、その力に魅了されて世界征服を目論んだ悪の組織の首領。

 その企みを間一髪の所で防げき、世界を守るために動いた正義の組織の総帥。

 正義と悪の組織の誕生、それはまるでフィクションの世界の話であるような非常にドラマティックな展開であった。

 しかし悪の組織の首領と正義の組織の首領が裏で繋がっている事を知れば、このドラマティックな話は途端に胡散臭い物になってしまう。

 クィンビーはリベリオン首領に問いただしながらも内心では既に確信していた、この目の前の怪人は最初から色部と手を組んでいたと。

 そしてクィンビーの推測を補強するかのように、この場に新たな登場人物が姿を見せたのだ。


「…おやおや、今日は珍しいお客様が居ますね」

「っ!? あんたはガーディアンの…」

「…もう時間か」


 独りでに天上から降りてきたディスプレイ、そこに映し出されたのは白髪が目立つ年配の男性であった。

 恐らく双方向に映像が映し出されているのだろう、ディスプレイ上の老人はクィンビーや白仮面と言う予期せぬ客人の存在に対して驚きの声をあげる。

 しかしそのわざとらしい言葉とは裏腹に老人は全く動揺しておらず、まるで観察でもするかのようにクィンビーの姿を見ていた。

 それとは対象的にクィンビーは一瞬でこの老人の正体を理解し、驚愕の表情を浮かべている。

 この老人は先程の話にも出たガーディアンの総帥、本来であればこの部屋に居るリベリオン首領と相容れない筈の存在が堂々と姿を見せたのだ。

 リベリオン首領の口振りから恐らく今日は元々、この両組織の首領による秘密会談の予定があったのだろう。

 事前に白仮面からリベリオン首領が此処でガーディアン総帥と定期的に会談している事は耳にしていたが、まさか今日がその日であったとは思いもしなかった。


「…丁度いいわ、これで役者は揃ったと言う訳ね。 さて、話の続きよ、あんたらが何を企んでいるか洗い浚い話しなさい!!」

「ははははは、威勢のいいお嬢さんだ。 まあ話をするのは構いませんが、その前に少し時間を貰ってよろしいでしょうか」

「はぁ、一体何をするのよ。 まさか適当に時間稼ぎをして、その間に私達を始末する手駒でも呼び寄せるつもり」

「そんな迂遠な策を使うくらいなら、最初から始末している。 解っているだろう、自分たちが泳がされている事など…」

「ちぃ…」

「春菜…」


 監視役であったアラクネを自らの手で始末し、名実共に裏切り者になった白仮面。

 しかし裏切り者である自分を始末しようとする追っ手を警戒した白仮面は、拍子抜けすることになる。

 予想に反して白仮面を狙う追っ手は全く現れず、結局リベリオン首領の元に辿り着くまで事実上何の障害も無かったのだ。

 万が一に備えて警戒を怠らずに慎重に動いていたのだが、その警戒は全て無駄な努力になった。

 幾らなんでも偶然と考えるのは出来過ぎであり、この状況は明らかに仕組まれた物であった。

 どういう訳からこのリベリオン首領はクィンビーを連れた自分が目の前に現れることを期待しており、その手助けすらしてくれたようである。

 クィンビーも自分が泳がされている事は重々承知しているようで、まるで釈迦の掌に載せられているかのような感覚に苛立ちを隠せないでいた。











 主導権を取られるのは癪では有るが、この二大組織の首領たちが何をするか興味を持ったクィンビーは渋々と時間を取ることに合意した。

 するとクィンビーの反応を見計らったかのように、天上からまたしてもディスプレイが独りでに降りてきたのだ。

 そのディスプレイはリベリオン首領とガーディアン総帥が写っているディスプレイの中間に降り、三者の位置を結べば綺麗な正三角形が描けることだろう。

 新たなディスプレイが見やすいようにリベリオン首領の座る椅子が独りでに動き、リベリオン首領が映るディスプレイもその向きを変えた。

 一体これから何が始まるのか、クィンビーと白仮面は二大組織の首領と同じようにディスプレイを注視する。

 そして黒一色であったディスプレイに光が灯り、そこにクィンビーと白仮面がよく知るあの元戦闘員の姿が映し出されたのだ。


「大和!? これは…」

「さて、どちらが勝つと思う?」

「スペックだけ見ればナインの作品が上回っている、しかし…」


 欠番戦闘員こと丹羽 大和は既に戦闘準備が完了している状態であった。

 怪人専用バトルスーツを身に纏い、その名前の由来となった戦闘員番号を塗り潰した戦闘員マスクの上にフルフェイスのマスクを被っている。

 その腰のインストーラにはコアが二つ嵌め込まれており、傍にはあの黒い幽霊マシンが寄り添っていた。

 そんなデュアルコアを搭載した完全武装の大和の前に現れるのは、セブンと良く似た雰囲気を持つジャージ姿の少女であった。

 これがリアルタイムの映像である事は明白であり、クィンビーたちは今まさに戦いを始めようとしている欠番戦闘員こと大和の様子に心底驚いた様子であった。

 リベリオン首領の元に辿りくために、今日まで外界から離れて身を潜めていたクィンビーたちである。

 クィンビーたちがナインが企画した新たなゲーム、ニューゲームの事を知らないのは当然であろう。

 そしてリベリオン首領、ガーディアン総帥、クィンビーたちが観戦する中で、ナインのニューゲームが始まろうとしていた。




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