表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第2章 そして時は来た
202/236

9. 強化案


 セブンの命を賭けたナインの死のゲームにおいて、黒羽はただ見ていることしか出来なかった。

 欠番戦闘員こと大和だけで無く、白木や土留などのガーディアンの戦士たちと共闘して勝ち取った勝利。

 それを外野で見ている事しか出来なかった黒羽の胸に去来した物は、後悔と言う名の感情であった。


「はぁ…、情けないな。 私も…」


 自室のベッドの上に腰を掛けていた黒羽は、自分が戦力外となった原因である動かない右足を撫でる。

 この足は黒羽がかつてガーディアンの戦士であった頃に負った物であり、言うなれば名誉の負傷と言う奴だ。

 当時まだリベリオンの怪人であった蜂型怪人クィンビーとの戦いにおいて、黒羽コアのリミッター解除と言う禁忌を犯した。

 脆い人間の体ではとても耐えることが出来ないコアの全出力の反動によって、黒羽の右足は言うことを利かなくなったのだ。

 黒羽はあの時にコアのリミッターを解除した自分に後悔はしておらず、その原因を作った蜂型怪人クィンビーや当時9711号と名乗っていた元戦闘員の大和に対する恨みも無い。

 それでは一体、黒羽は何に後悔をしていると言うのか。


「あの時に新世代への誘いを受けていれば、私も大和と共に戦えた。 八重くんを助けるための力になれたんだ…」


 黒羽が抱いた後悔、それはガーディアンから提案された新世代への改造手術への誘いであった。

 ガーディアンの新世代、普通の人間では耐えられないコアの強大な出力に耐えうる体へと改造された者たち。

 それは言うなればガーディアン版の怪人や戦闘員と言う物であり、かつて黒羽はこの新世代への処置を受けるよう持ちかけられていた。

 その時に黒羽が選んだ答えは、未だに足を不自由にしている姿を見れば一目瞭然だろう。

 文字通り体を作り変えることになるこの施術を受ければ、黒羽は健常な体を取り戻して再び戦場に立つことが出来た。

 しかし黒羽はその選択を選ばずに、あえて障害が残る生身の体で居ることを選んだのだ。






 黒羽が新世代への誘いを断った理由は幾つかが有るが、一番の理由は彼女が元戦闘員である大和のことを知っていたからだろう。

 リベリオンに攫われた大和は記憶を奪われ、強制的に戦闘員としての改造手術を施された。

 新世代への施術は結局の所、リベリオンのそれと同じ人間を人外へと作り変える改造手術である。

 怪人のように体を丸ごと作り変えるような真似は今のガーディアンの技術では不可能であるが、それでも部分的とは言え生身の体を別物に置き換えてしまう。

 少なくとも黒羽の知る現場のガーディアンの戦士たちは、リベリオンによって強制的に人外へと作り変えられた大和のような被害者をこれ以上出さないために日夜戦い続けている。

 そのガーディアンが自らの意思で人外へとなる事への違和感を覚えた黒羽は、あえて新世代への道を選ばなかったのだ。

 どうやら黒羽は今更ながら、新世代への誘いを断ったかつての自分の決意に後悔を覚えてしまったようだ。

 余程、命懸けでナインのゲームに挑む大和たちを、ただ見ていることが出来なかった自分が悔しかったのだろう。


「恐らく三代さんを通せば、今からでも新世代への施術を受けることは出来る筈だ。 しかし本当に新世代への施術を受けていいのか…

 一度、白木や土留にでも相談してみるか。 否、帰ってくる答えの想像が付くな…」


 とりあえずナインのゲームはゲームオーバーとなったが、まだリベリオンとガーディアンの戦いは終わった訳ではない。

 またあの時のような戦いが起きる可能性は十分にあり、その時に自分は再び見ているだけでいいのか。

 黒羽は新世代の施術を受けるという、かつての自分の意思を翻すような決断をするべきか迷っているようだ。

 一瞬、黒羽のガーディアン時代の仲間である白木や土留辺りに相談を持ちかけることも頭に過ぎったが、すぐにその案を却下する。

 恐らく優しい白木であれば戦いは自分に任せろと言う筈だし、土留は好きにしろと適当な言葉を言い放つに決っているのだ。

 やはり自分の体の事は自分で決めるべきだと、黒羽は最近密かに悩み続けている難題に今日も取り組んでいた。


「…ん、携帯か。 三代さんからの呼び出し、一体何を…」


 そんな悩める黒羽の元に、一通のメールが飛び込んでくる。

 すぐさまベットの横に設置されたテーブルの上に置かれている携帯に手を伸ばした黒羽は、そのメールの文面に目を通した。

 メールは非常に簡潔な内容で書かれており、そこから読み取れる情報は三代が明日会いたいと言う要件だけだった。

 目的が全く書かれていないメールに若干眉を潜めた黒羽であるが、ガーディアン現役時代から世話になっている三代の誘いを無下には出来ないだろう。

 黒羽は慣れた手つきで携帯を操作し、呼び出しに応じる旨をメールで返信するのだった。











 翌日、黒羽は東日本ガーディアン基地内に設置された研究施設、通称三代ラボを訪れていた。

 時間通りに三代ラボの施設に足を踏み入れた黒羽は、迷うこと無く三代の元へと向かう。

 最早、三代のプライベートルームと成り果てているラボ内の一室、そこで黒羽は二人の三代に出迎えられる。


「あら、時間通り。 私の城へようこそー」

「…」

「三代さん、それに八重くんも…」


 室内に居たのは二人の女性、一人は当然のように黒羽を呼び出した張本人である三代(みしろ) 光紅(みく)

 そしてもう一人は表向きは三代の親類として三代(みしろ) 八重(やえ)を名乗る少女、黒羽の高校時代の後輩でもあるセブンであった。

 相変わらず白衣姿の三代は軽く手を上げながら黒羽の来訪を歓迎し、学校帰りなのか制服姿のセブンは無言の目線のみで挨拶を行う。

 黒羽はセブンが居ることに若干驚きながらも、とりあえず三代たちが居る部屋の中央へと進んでいく。


「…それで、今日は何の用で私を呼んだのですか?」

「ああ、まずはこれを見てくれない」


 それなり付き合いの有る相手でも有るため、黒羽は単刀直入にこの場に呼び出せた理由を問う。

 その問いに対して三代は、ノートサイズのタブレット端末を黒羽に渡してきた。

 言われるがままに黒羽はタブレット端末を覗き込み、そこに映し出されている内容を読んでいく。


「…なっ!? これは、三代さんが考えた事なのですか…」

「まあ、私のこの子の合作って所ね」

「発案は私、三代には詰めの部分に協力して貰った」


 そしてそこに書かれている内容を理解した黒羽の口から、自然と驚愕の声が飛び出してきた。

 研究者では無い黒羽には詳細を理解することは出来るが、触りくらいであれば何となく把握できる。

 これはとある物の設計図であった、それも今までにない画期的な技術が盛り込まれたとんでもない代物であった。


「八重くん、これは大和のために考えた物だな。 君がこんな物が、彼に必要だと思っているのか」

「思っている、彼の戦いはあれで終わりでは無い。」

「…何故、そんな確信が持てる?」

「ガーディアンとリベリオンを支配する黒幕たち、彼らの目的がより強大な力を手に入れることだから。

 理由が分からないが彼らは貪欲に力を追い求めている、そして客観的な戦績から見てこの世界で最も強い存在は大和と言える」

「力を追い求める輩が、その頂点を放っておかない筈は無いか…。 大和の望む望まないに関係なく…」


 黒羽はこの設計図は、欠番戦闘員こと大和のために作られた物であることが一目で読み取れた。

 これは言うなれば欠番戦闘員の強化するための案であり、三代たちはこれが今の大和に必要だと言うのだ。

 ガーディアンとリベリオンの正義と悪の意図的な対立構造は、戦いを通して両組織の技術を高め合うための茶番劇である。

 ガーディアンのバトルスーツ、リベリオンの怪人、そのどちらの戦力もそれだけで既存の地球文明を征服するに十分なほどの力を持っていた。

 しかし黒幕たちはどういう訳か現在の力に全く満足していないようで、より大きな力を生み出すために様々な介入をしてきた。

 白仮面と言う存在もその介入の一種であり、もしかしたらナインのそれも黒幕たちの思惑に沿った物であったかもしれない。

 そして白仮面を打ち倒し、最強の怪人となったリザドと互角に渡り合った欠番戦闘員こと大和は現時点での暫定的な最強である。

 仮に黒幕たちが新たな力を生み出したならば、その試金石として現時点での最強である大和を利用しない筈は無いのだ。


「…これの意味は理解した。 では何故、私にこれのことを教えた」

「単刀直入に言う。 黒羽(くろは) 愛香(あいか)、私はこの施術をあなたに施したい。

 大和のことをよく知っているあなたであれば、彼の助けになってくれる」

「そ、それは…」


 より協力な敵と戦いが控えている大和が生き残るために、大和の戦闘能力を向上させる。

 奇しくもそれは黒幕たちが望んだ通りの動きであろうが、あのお人好しの元戦闘員を助けるためには致し方無い事である。

 そしてセブンはこの大和の強化案を実現するために、黒羽に対してある提案をしたのだ。

 タブレット端末に書かれたそれは欠番戦闘員こと大和を強化するための案であったが、それは大和自身に施す物では無かった。

 簡単に言えばそれは大和を強化するための外付けパーツを作り出すための物であり、黒羽に対して大和の強化パーツになってくれと言うのだ。

 突然の申し出に黒羽は即答などとても出来ず、顔を強張らせながら口籠ってしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ