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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第2章 そして時は来た
201/236

8. 番号付き


 それは世界を知らない作られた存在である少女が、唯一世界と触れ合う瞬間であった。

 最初は密かにライバル視していた姉妹機が自分の知らない世界に行った事にたいする、ある種の現実逃避であった。

 自分は怪人の研究に関することしか知らず、そのように作られた自分に取ってそれは全てである。

 そして自分と同じように怪人研究のためにだけに作られた姉妹機もまた、怪人研究の世界しか知らないと思っていた。

 しかし姉妹機は自分たちの至上目的である怪人研究を放り投げ、自分の知らない間に普通の人間のような生活を手に入れていた。

 少女は自分を裏切った姉妹機を恨みつつ、その事実から微かに外の世界に興味を持つようになる。

 そして少女は怪人研究以外の世界を知るため、物は試しにとそれを始めたのだ。


「どう、これが私の実力! 馬鹿な人間たちに、このナイン様が負ける筈無いのよ!!」


 ろくに掃除がされていないらしい薄暗い汚部屋の中で、色気のないジャージ姿の少女がディスプレイの前で一人勝ち誇る。

 そこにはとあるネットゲームのリザルト画面が写し出されており、少女の操る自機の勝利を示していた。

 ネットゲーム、それが怪人研究のために外界から途絶された秘密施設での生活を強いられている少女が、世界を知るために選んだ手段だった。

 少女は一体どんな裏技を使って、秘密施設内から一般の回線に接続してネットゲームを興じているかは謎である。


「ははははは、再戦。 いいわよ、またボコボコにしてやるわ!!」


 ネットゲームと言う特殊な世界に触れた少女は、未だにその世界から離れていなかった。

 外の世界を知るという当初の目的は既に少女の頭にはなく、少女はネットゲームでの勝敗に一喜一憂しながら日々を過ごしている。

 今も少女は最近ゲーム内で自分に突っかかるようになったプレイヤーと、何度目になるか解らない対戦を終えた所だ。

 すぐさまチャットで再戦を要求してきた生意気なプレイヤーに対して、少女は笑みを浮かべながらまた負かしてやると意気込んでいる。

 ナイン、九番目の番号を振られた少女はこの瞬間、怪人研究と言う使命を忘却して怪人と関わりのない世界を楽しんでいた。

 かつて悪し様に罵った、裏切り者の姉妹機と同じ事をしているのに気付かずに…。











 少し前まで死にかけていた少女は、周囲の人間たちの助力によって再び生を掴むことが出来た。

 休学していた高校に復帰した少女は、他の学生たちに混じって以前と同じように学校に通い始めていた。

 周りの女生徒とたちと同じ制服に身を包む少女の姿からは、それが元リベリオンの開発部主任であるなどと夢にも思わないだろう。

 既に高校レベルの学力など等に身に付けている少女には、休学していた帰還の授業の遅れなど何ら問題では無い。

 特に障害も無く午前の授業を終えた少女は、以前と同じように友人と昼食を取り始めていた。


「これが夕食の時の写真。 意外に量があって、お腹が一杯になっちゃったわ」

「…」


 学校を長期離脱していた少女は、学生に取って貴重なイベントを幾つか取り零すことになった。

 その一つが高校生活の一大イベントである修学旅行であり、少女自身も内心で楽しみにしていた行事である。

 学校に復帰した少女はせめて旅行の雰囲気を感じたいと思ったのか、昼食中に学内での数少ない友人から修学旅行での土産話に耳を傾けていた。

 その友人は携帯端末を少女に見せて、画面上に写真を写しながら旅行中の思い出を語っていく。

 写真の中で少女の友人は他のクラスメイトと共に、晴れやかな笑みを浮かべながら純粋に旅行を楽しんでいた。


「…三代さん、結構学校を休んだわよね。 このまま留年すれば、来年に修学旅行に行けるわよ」

「…それは困る」


 少女が普通の人間であれば、少女の体に時限装置などと言う爆弾が仕込まれていなければこの写真の中に少女も写っていたのだろう。

 その事実が僅かに少女の心を痛めのか、普段は表情一つ変えない無表情な少女がほんの僅かだけ眉を動かしていた。

 そんな少女の反応に気付いたのか、友人は冗談めかしに少女が修学旅行に行く方法を提案する。

 留年、現在高校二年生であるセブンが来年もまた高校二年生をやれば、当然のように手段に行けることになるだろう。

 一般的に高校生は出席日数が三分のニに満たない場合に留年すると言われており、長期間学校を離脱をしていたセブンはその条件に当てはまる可能性は十分にあった。

 しかし流石のセブンも留年してまで修学旅行に行くつもりは無いらしく、表情こそ変えない物の僅かに困ったような声の響きで友人の提案を却下する。


「…その通りだ、三代 八重! お前は俺が責任を取って、卒業させてやるぞ!!」

「…えっ、先生!? どうして此処に…」

「お前の出席日数を補う補修授業の計画を持ってきたぞ、勿論体育の補講は俺が担当する。

 マンツーマンで指導してやるかなら!!」

「…」


 そして成績優秀者であり、表向きは病気と言うどうしようも無い理由で長期休学をしていたセブンの事を学校側が見捨てる事は無かった。

 有り難い事に学校側はセブンの進級のために、補修や追試などの方法で足りない出席日数を補おうとしてくれていた。

 特にかつてセブンの表向きの保護者である三代(みしろ) 光紅(みく)を教えた事もあるこの年配の体育教師は、人並み外れて虚弱なセブンの面倒を見ることに情熱を燃やしている。

 足りない出席日数を補う補習授業の中には当然のように体育科目も有り、この体育教師の言葉通りセブンは補修中にマンツーマンで体育の指導を受けることになるのだろう。

 その事実を突き付けられたセブンは、何処か呆然としたような様子を見せるのだった。

 セブン、七番目の番号を振られた少女は再び平凡な日常を過ごしているようだ。











 ガーディアン東日本基地、その敷地内の一角に建てられた研究施設、通称三代ラボ。

 その施設の実質的な主である三代 光紅は、普段より明らかに苛立った様子を見せている。

 そしてそんな三代の雰囲気を全く気にする事無く、その男は自分を無視するかのように端末と向き合う三代に向かって話しかけていた。

 男は恐らく二十代前半程の優男だった、全体に細い印象を受ける男の白衣姿は非常に様になっている。

 身だしなみには無頓着らしく白衣には微妙に皺が見え、殆ど手入れをしていないボサボサの黒髪は端正な男の容姿を台無しにしていた。


「…だから真にバトルスーツに必要な事は可愛らしさなんだよ! 正義の味方の究極は魔法少女、正義のために戦う可憐な少女たちに他ならない!!」

「…コアの適合者は女ばかりじゃ無い。 暑苦しい男の場合はどうするのよ」

「男の事なんて知ったことか!!」


 険しい表情を浮かべる三代とは対象的な張りつたような笑みを浮かべる男は、三代に対して一方的に持論をぶつけていた。

 その男性ガーディアンの戦士の事を完全に無視した意見を口に出す男は何を隠そう、三代の同僚であるバトルスーツの研究者であった。

 どうやら男は同僚である三代を訪ねてきたようであり、そしてこの僅かなやり取りだけで三代の塩対応の理由も察することが出来るだろう。


「どうやら病気はまだ治っていないようね、暫く顔を見せないから死んだとでも思ってたのに…」

「はははは、俺が死ぬわけ無いだろう。 俺の夢、全バトルスーツの魔法少女化計画を果たすまで俺は死なん!!」

「はぁ。 なんでこんな奴が、あれだけのバトルスーツを作り出せるのか…」


 この偏った趣味を持つ男が作り出した戦場に不似合いな可憐なバトルスーツは、関係者の間で魔法少女型と呼ばれていた。

 はっきり言って冗談としか思えないスーツであるが、意外にガーディアン内でこのスーツを使っている者は多い。

 何故ならこの男は趣味が偏っていると言う欠点を無視出来る程の、バトルスーツ制作の天才であった。

 男が趣味全開で作る魔法少女型スーツは、どういう訳かガーディアンが所持するバトルスーツの中では最高峰の性能を誇っていた。

 その性能に目を眩んだ女性戦士たちが恥を捨てて、魔法少女型スーツに手を出す例が後を立たないのである。

 何とかは紙一重を地で行く同僚の相変わらずの様子に、三代は深々とため息を零していた。






 三代の素気ない対応など気にしないとばかりに、男は一方的に魔法少女に対する拘りを語り始めた。

 暫く男のさせたいままにしていた三代であったが、やがて意を決したかのように端末から視線を外して初めて男と向き合う。

 そして三代は男の話を遮るかのように、ある確信に迫る質問を投げかけるのだ。


「ねぇ、あなたは確か、色部司令の身内なのよね? その割には司令には似てないけど…」

「…親戚と言っても遠縁だからね」

「あなたの名前は確か、色部(しきべ) 四郎(しろう)だったわよね…。 もしかしてあなた、髪を染めていない?」

「…」


 それは欠番戦闘員こと大和の前に、ナインと名乗る少女が姿を見せた時から考えていた事であった。

 セブン、ナイン、怪人研究のために人為的に作られた、それぞれに番号を振られた少女たち。

 少女たちに振られた番号から、少女たち意外にも番号振られた同類たちが居ると考える事は極々自然な発想であろう。

 そしてリベリオンとガーディアンに繋がりがあり、今の正義と悪との対立状況を作り出している黒幕が重視しているのは怪人の製造技術だけでは無い。

 バトルスーツの方にもテコ入れをしている可能性は極めて高く、そして三代はバトルスーツ制作においては天才と言える男の存在を知っていた。

 四郎、名前に四番目の番号が振られた三代の同僚は、三代の問に対して張り付いたような笑みを浮かべたまま何も答えることは無かった。



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