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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第2章 そして時は来た
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3. 喧嘩するほど



 静かな森を揺るがす衝撃が走った。

 完全な怪人であるクィンビーと白仮面が、コアの全出力をその身に受けながら戦っているのだ。

 蜂型怪人と人工怪人の拳が交わる度に大地が揺れ、その風圧だけで森が激しくざわめいていた。

 最早、両怪人の周囲の木々はなぎ倒され、人工的な広場が出来上がっている有様であった。


「温いぞ、春菜。 一号に比べて殴り合いの方は、余り得意では無いようだな…」

「ちぃ、やっぱりあいつみたいにはいかないか…」


 元お笹馴染みに対する手加減を止め、全力を出し始めた白仮面と拳で数合交えたクィンビーは己の不利を悟っていた。

 欠番戦闘員一号、セブンの趣味によって制作された近接特化型のバトルスーツを纏う近接馬鹿。

 それと同系統のスーツ型のバトルスーツを纏うクィンビーであるが、この蜂型怪人は一号のように近接戦闘が得意と言う訳では無い。

 クィンビーの怪人としての特徴はリベリオン怪人内で主流である、特殊能力を重視した中距離以降の戦闘を重視したスタイルである。

 そして自信の能力を活かす方向に制作された、蜂型怪人専用バトルスーツを纏うクィンビーが近接戦闘で遅れを取ることは道理であった。


「なら、此処からは得意分野で行かせて貰うわよ!!」

「お得意の蜂たちか! その程度で…」


 近接戦闘で勝てないのならば、自分の得意な距離で戦えばいい。

 すぐさま思考を切り替えたクィンビーは、蜂型怪人である自分の代名詞とも言える能力を発動させる。

 クィンビーは指揮者のように腕を前に掲げた瞬間、森の木々の奥から耳障りな翅音が聞こえてきた。

 その翅音は徐々に白仮面の方へと近付いてきて、そして戦闘用に調整された巨大な大蜂たちが姿を見せた。

 戦闘用の大蜂たちを自在に操る能力、大蜂たちは女王蜂であるクィンビーの手足となって外敵に襲いかかるのだ。

 怪人さえも侵す毒針を備えた大蜂の大群に囲まれながら、しかし白仮面は全く動揺した様子を見せていない。

 クィンビーと幾度も交戦してきた白仮面に取って、大蜂たちの相手など最早慣れた物なのである。

 小手調べと言うべき殴り合いを止めて本来の戦闘スタイルを出し始めたクィンビーと、白仮面の戦いは次の段階へと突入していった。











 激しく翅を震わせながら縦横無尽に飛び回り、白仮面に向かって果敢に襲いかかっていく大蜂たち。

 数十匹もの蜂たちが上下左右前後と襲ってくるのだ、並の相手では一溜りも無いだろう。

 しかし白仮面は並の相手では無く、加えてこの人口怪人には大蜂たちの天敵とも言える能力を備えていた。

 迫りくる大蜂たちに対して白仮面は平然と両腕を一本ずつ、それぞれ正面と背後の方向に伸ばす。


「はぁ!!」


 そして白仮面の気合と共に腰のベルトに嵌められたコアが輝きを増し、次の瞬間に両腕から放たれた衝撃波が迫り来る大蜂たちを迎撃する。

 コアから供給されたエネルギーをそのまま物理的な衝撃波として放つ、黎明期のガーディアンのバトルスーツが採用していた原始的な能力。

 しかし単純では有るが効果範囲が広いエネルギー衝撃波の能力は、大蜂たちを一掃するのには非常に適していた。


「まだよ!!」

「甘いな! 俺のスーツを昔のオンボロと思うなうよ!!」


 大蜂たちの第一陣は完全に迎撃されたが、間を置かずに第ニ陣として配置された大蜂たちが白仮面に向かって突撃していく。

 白仮面の能力を把握しているクィンビーにとって、大蜂たちの第一陣があの衝撃波に排除される事は予測済みである。

 第一陣は言うなれば捨て駒であり、本当の狙いは衝撃波を放った直後の白仮面を襲う第二陣たちである。

 最初にクィンビーの前に姿を現した時の白仮面は、コアの能力を十分に引き出すことも適わない古い技術で制作されたオンボロスーツを纏っていた。

 この時のオンボロスーツでは衝撃波を放つ能力を連発出来ず、一度能力を使ったら次の発動までにコアからエネルギーを引き出すための貯めが必要であった。

 かつての戦いでクィンビーたちはこの貯めに掛かる時間を利用した時間差攻撃を実行し、白仮面の隙を突くことに成功していた。

 どうやらクィンビーはこの時の戦いを再現しようと言う腹積もりのようだが、残念ながら今の白仮面のスーツはかつてのオンボロスーツとは程遠いセブン謹製の一品である。

 白仮面のスーツは一瞬でエネルギーの貯めを終えて、大蜂の第二陣たちは第一陣と同じ末路となってしまう。


「…そして、今度は下からかな?」

「…っ」


 大蜂たちの二段攻撃を鮮やかに迎撃した白仮面は、油断することなくその場から軽やかにバックステップを踏む。

 そして次の瞬間、白仮面が先程まで居た地面から何かが飛び出してきたでは無いか。

 それは白仮面の足元まで掘り進んでいった大蜂たちであり、クィンビーが密かに放っていた大蜂の第三陣であった。

 地面からの奇襲、通常の蜂では不可能な戦闘用に調整された大蜂たちしか出来ないであろう所業。

 過去に地面から奇襲を受けて大蜂の奇襲を受けた事がある白仮面は、過去の経験からクィンビーの動きを読んでいたらしい。

 地面から飛び出してきた大蜂たちを容易く迎撃した白仮面は、勝ち誇ったようにクィンビーの方に視線を送る。

 そんな白仮面の尊大な態度にクィンビーは目を細め、何かの感情を隠すようにフルフェイスのヘルメットの上から片腕で口を覆う。

「確かにコアの力でお前は強くなった、しかし大蜂たちがコアの恩恵に預かれる訳では無い。

 あくまで大蜂たちとの連携が本来の戦い方であるお前に、今の俺は…」

「…」


 バトルスーツを纏ったことによって、確かにクィンビーの戦闘能力は白仮面に迫る程になった。

 しかし白仮面の言う通りバトルスーツを纏うことで強化されるのはクィンビーのみであり、蜂型怪人が従える大蜂の能力は変わらない。

 そして言うなれば旧世代の怪人レベルでしか無い大蜂が幾ら束になっても、専用のバトルスーツを纏う白仮面に勝てるはずも無いのだ。

 やはり記憶に刻まれたかつて幼馴染を傷つけたくないのか、白仮面は淡々と自分とクィンビーの差を語あって相手を諦めさせようとする。

 しかしクィンビーは白仮面の言葉に何の反応を示さず、何かを待つかのように無言を貫いていた。

 

「…油断大敵」

「何っ…、ぐぁぁぁぁぁぁっ!?」


 そしてクィンビーが徐に放った意味ありげな言葉が耳に入った白仮面は、その真意を問いただそうとする。

 しかし次の瞬間に体中に稲妻のように走った激痛を受けて、苦痛のあまり叫び声を漏らしてしまった。

 痛みの発生源は体の各所にあり、白仮面は慌てて視線を体に向けるがどういう訳か自分の体には異変が全く見られない。

 反射的に痛みの発生源に向かって手を伸ばした白仮面は、そこで見えない何かが自分の体を貫いていることに気付く。

 白仮面は慌てて痛みを感じる各所に手を伸ばして、姿の見えない何かを次々に払い除けていった。


「これはお前の仕業か、春菜!? 一体何を…」

「どうかしら、私の自慢の蜂たちの毒針は…」

「蜂だと、まさか!?」


 まるで種明かしとばかりにクィンビーが手を掲げると、次の瞬間に白仮面を貫いていた何かが姿を現したのだ。

 それは先程白仮面が迎撃した大蜂に良く似た、機械で出来た蜂たちであった。

 機械蜂たちは白仮面の血で濡れた毒針を構えながら、耳障りな翅音を立てて飛び回っている。

 白仮面はこの機械蜂たちに見覚えがあった、これらはクィンビーが初めて欠番戦闘員二号として現れた時に引き連れていた蜂たちであった。






 かつてクィンビーが欠番戦闘員二号として初めて白仮面の前に現れた時、そのスーツは見掛け倒しの張りぼてでしか無かった。

 その時のクィンビーは自分が怪人であることを隠せれば良く、言うなればクィンビーは仮装をしていたに過ぎない。

 そして折角自信が仮装をしていても大蜂をそのまま出しては意味がないため、その時にクィンビーは大蜂たちにも自分と同じように仮装を施したのだ。

 それが機械蜂たち、大バトルスーツに付随する機械仕掛けの蜂と誤認させるために、それらしい装甲を被せただけの大蜂たちである。

 しかし今白仮面の前を飛び回る機械蜂たちは、明らかに被り物を被っただけのかつての機械蜂とは別物であった。


「…これがお前の新しい能力なのか?」

「そうよ、あんたの言う通り、大蜂たちだけじゃ力不足だからね。 隠し玉を用意させて貰ったのよ、こんな風に…」


 クィンビーが手を軽く振った途端、宙を舞っていた機械蜂たちが一斉に姿を消してしまう。

 周囲に溶け込むかのように居なくなった機械蜂たち、その光景を目の当たりにした白仮面の脳裏にあの亡霊マシンの姿が思い返されるのは必然だろう。

 この機械蜂たちは欠番戦闘員一号が使う、あの黒いマシンと同じ能力を備えているのだ。

 黒い亡霊マシン、ファントムはセブンの手によって制作された、怪人サポート用のバトルビークルである。

 そしてセブンと協力関係にあるクィンビーが、セブンに対してファントムと同じステルス能力を持つ機械蜂の制作を依頼することは十分に有り得る事だった。


「…先程の大蜂たちは、こいつに気付かれないための陽動か!!」

「まあね、つまりあんたは私の掌にまんまと動かされていたのよ。

 こっちの狙い通りに行っているとは知らずに、自慢源にご高説を垂れるあんたの姿には思わず吹き出しそうになったけどね…」


 クィンビーが放った第一陣から第三陣までの大蜂による攻撃、それらは全て捨て駒であった。

 ファントムと同じステルス能力を持つ機械蜂に勘付かれないよう相手を油断させるために、クィンビーはかつて白仮面相手に行った行動を再現したのである。

 白仮面はクィンビーの思惑通りに既知の攻撃をきっちり防ぎきり、大蜂たちの三段構えの攻撃でクィンビーの手が尽きたと誤認してくれた。

 そして何も知らない白仮面に対して、第四の矢であるステルス機械蜂たちの毒針が届いたのだった。


「ははははは、それでこそ春菜だ! 何時も俺の予想外の行動をしてくれる、俺がどれだけ苦労させられたか…。

 しかしこの程度では負けてやらんぞ!!」

「大和の癖にしつこいわねー。 いいわ、このまま完全勝利と行かせて貰うわ!!」


 まんまと嵌められて手痛いダメージを受けた白仮面であるが、何故かその口から出た言葉には何故か怒りや恨みなどの負の感情が込められてなかった。

 まるでクィンビーに…、かつての幼馴染に人間であった頃のように、まんまとしてやられた事を喜んでいるかのようだ。

 対するクィンビーの方も悪戯に成功したように無邪気に喜び、そこには命懸けの戦いをしている気配は全く感じられない。

 互いに人間であった頃を思い出すかのように、両怪人は互いに笑みを深めながら戦意を高めていった。



連休中に後一回くらいは投下します。

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