表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第2章 そして時は来た
194/236

1. 蜂と人工怪人


 少なくともこの世界の何処かに存在するであろう謎の施設。

 ガーディアン・リベリオンのどちらにも属さない、現在の正義と悪の対立行動を演出する黒幕たちに近い場所である。

 そこはこの施設内に設けられたとある一室、ある怪人のために用意されたプライベートルームだった。

 それなりに快適そうなその室内で睨み合う、部屋の主である一体の怪人と一人の女。

 否、人間の女の姿に擬態するもう一体の怪人の姿がそこにあった。

 白仮面、常に付けている特徴的な白い仮面から名付けられた人工怪人は、流石に自室でまで仮面を付けている訳ではないようで素顔を晒していた。

 仮面に覆われた白仮面の素顔、人に似た構造でありながら明らかに人とは異なる存在である事を示している。

 白仮面に相対する女は大抵の人間が美しいと評するであろう容姿をしていたが、その美しさを台無しにするような苛ついた表情をしていた。


「…良い加減にしなさいよ、大和(やまと)! さっさと私をあんたのボスの所に連れていきなさいよ!!」

「…断る」

「ああ、もうっ!? 何回、このやり取りをすればいいのよ!!」


 暫く前からこの施設に潜伏している蜂型怪人クィンビーは、かつて人間であった頃の幼馴染の記憶を持つ人工怪人に昔のように命令を下す。

 クィンビーがまだ(きさき) 春菜(はるな)と言う名の人間であった頃であれば、幼馴染である丹羽(にわ) 大和(やまと)は文句を言いつつも最終的には言うことを聞いただろう。

 しかし現在の大和、正確にはその当時の大和と言う名の人間の記憶を持つ人工怪人は幼馴染の言葉に耳を貸す気は無いらしい。

 クィンビーは一向にこちらの言うことを聞かない白仮面に対して、明らかに苛立っている様子だった。


「あんたが愚図愚図している間に、またあんたの体が面倒事に巻き込ま得れたようじゃ無い。

 今の状態のまま放置していたら、あんたの望みは到底叶わないわよ!!」

「っ!? それは…」


 それは白仮面に取っては痛いところだったらしく、黙りを決めていた白仮面が初めて動揺した様子を見せた。

 自らの記憶を人工怪人と言う容れ物に移され、人間であった時の肉体を奪われた白仮面。

 人間とは全く異なる化物となった白仮面は、元の平穏な生活に戻ると言う淡い夢を既に捨てていた。

 そんな白仮面の唯一の希望が、記憶を奪われた筈の人間としての肉体から誕生した新たな丹羽 大和である。

 戦闘員として改造手術を受けた物のまだ平穏な日常に埋没できる余地がある新たな大和に、白仮面は自分の代わりをしてくれる事を願った。

 しかし世間で欠番戦闘員と呼ばれている新たな大和は白仮面の思惑と反して、またもや平穏な日常を捨てるような選択をしたのである。






 現在の白仮面の体を制作したナインのゲーム、それに巻き込まれた欠番戦闘員は命懸けの遊戯へと挑むことになった。

 結果的に欠番戦闘員は無事にナインのゲームを攻略する事ができたようだが、一歩間違えば大和の人間時代の肉体を持つ欠番戦闘員が死ぬ可能性も十分にあったのだ。

 ナインの暴走は当然のように白仮面やナインの上に立つ存在、クィンビーが追っている全ての黒幕は把握していた。

 しかし黒幕たちはナインの暴走によって得られる成果を期待し、ナインの独断行動を暗に認めたのである。

 より強い力を得るために正義と悪の対立行動と言う緊張状態を演習し、両組織に刺激を与えるために白仮面と言う鬼札をも切った黒幕たち。

 そんな彼らがナインのゲームと言う、白仮面の時と同様の効果が得られそうなお祭りをあえて静止する筈が無かった。

 恐らくナインも黒幕たちの行動原理を読み取り、自らのゲームに横槍が入ることは無いと確信した上で行動を起こしたのだろう。


「欠番戦闘員…、あんたの元の体の存在は大きくなりすぎた。 あいつが望む望まないに関わらず、欠番戦闘員はまた戦場に立たされるわよ。

 そして次の戦場であいつが無事で居られる保証は有るのかしら?」

「しかし、だからと言って何が出来る? 連中に会い行ったとして…、お前は一体どうするんだ?」

「勿論、洗い浚い吐いて貰うわよ、連中が企んでいる事をね! そしてそれが下らない事だったら、私の体を弄った責任を取ってもらうわ!!」

「春菜、お前は…」


 自分の体を怪人へと改造したリベリオン、その背後に立っている黒幕たちの存在を追い求めるクィンビー。

 僅かな痕跡を辿りにこの極秘施設まで辿り着いたクィンビーであるが、そこがこの女怪人の限界であった。

 仮にクィンビーが怪人で無ければ、黒幕の一人である確率が非常に高いガーディアン総司令の色部(しきべ) 正義(まさよし)の線から辿ることも出来たかもしれない。

 しかし怪人であるクィンビーが辿れる道はこれしか無く、そしてこの女怪人を黒幕の元へと導くことが出来る唯一の鍵は白仮面しか居ない。

 その知的探究心から禁忌に触れて怪人へと改造されてしまったクィンビーは、その過去を経ても知ることへの欲求は止まることは無いようだ。

 白仮面はそんなクィンビーの態度が、記憶に残る人間であった頃の幼馴染の姿と全く変わっていないことに若干呆れた様子だ。


「だから私の心配なんかしなくていいから、さっさと私を黒幕の元に案内しなさい!!」

「っ!? お前、なんでそれを…」

「あんたの考えている事なんて、私にはお見通しよ。 全く、私の心配をするなんて偉くなった物ね…。

 無駄な心配なんてしなくていいから、さっさと私を連中のもとに連れて行けばいいのよ!!」


 白仮面が頑なにクィンビーの要求を拒んでいた理由、それはひとえに幼馴染を守るためであった。

 クィンビーの言う黒幕たちと直に接触している白仮面は、やろうと思えばこの蜂型怪人を黒幕たちの元に導くことは不可能では無い。

 しかし黒幕たちとの接触、それはかつてクィンビーが怪人へと改造されてしまった原因である意図的な正義と悪の対立構造の秘密などとは比べもにならない程の禁忌である。

 仮にクィンビーが黒幕たちの正体と目的を知ってしまったら、この女怪人の命が翌日まで残っている可能性はゼロに等しいだろう。

 しかしクィンビーの身を案じた白仮面の行動も、当の本人は無駄と断じる有様であった。


「…良い加減にしろよ、春菜。 これ以上騒ぐようなら、力尽くでその口を塞いでやるぞ」

「ふんっ、ちょっとばかり強くなったからって偉そうにしちゃって…。 いいわ、こっちこそう腕尽くで言うことを聞かせてやるわ!!」


 こちらの気遣いを無に返すようなクィンビーのあんまりな態度に、流石の白仮面も怒りが沸いたらしい。

 かつて人間であった頃の丹羽 大和が今のように、同じく人間であった頃の妃 春菜の率直な言葉に怒りを覚えた事は幾度とあった。

 体が怪人になろうともその根本は全く変わっていないらしいクィンビーの態度に、身も心も変わり果てた自らと比較した白仮面の中に苛立ちが募っていく。

 そしてその怒りや苛立ちはそのまま殺気となり、一年前にガーディアン・リベリオン相手に大暴れをした白仮面から解き放たれた。

 もう自分もクィンビーも昔とは違う、昔ならいざ知らず今の白仮面の戦闘能力はただの怪人でしか無いクィンビーを凌駕するだろう。

 変わり果てた自らの力を見せつけるように圧力を掛ける白仮面に対して、クィンビーはあくまで不敵な態度を崩さずに挑発を続ける。


「丁度いいわ、なら一勝負といきましょう。 私が勝ったら、私を連中の元に連れていきなさい」

「…俺が勝ったらもう二度とこの件に関わらないと約束しろ、春菜」

「決まったわね! 随分の今の体に自信が有るようだけど、あんたの鼻っ柱を折ってやるわよ、大和」


 白仮面とクィンビー、かつて幼馴染であった二人は幼い頃に戻ったかのように喧嘩を始めようとしていた。

 しかしその喧嘩は子供時代の可愛らしい物では無く、怪人と怪人の力がぶつかり合う小さな戦争である。

 そして互いの意地を賭けた戦争の火蓋が、今にも切って落とされようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ