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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第1章 新世代
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32. 太古の力


 今更であるが怪人の話をしよう。

 怪人、リベリオンが製造する人間を超えた存在。

 それは宇宙から送り込まれた謎の技術の一つ、生物の合成技術によって誕生した。

 人間を素体として人間とは全く異なる生物の長所を合成する事で誕生した存在、そして最初の怪人であるリベリオン首領は己を怪人と定義した。


「…けど生物の合成技術と言っても万能じゃ無かった。 今の所、私達の力では異なる三種の生物を合成する事しか出来ない」


 例として蜂型怪人クィンビーを上げよう。

 クィンビーは素体となった人間、妃 春菜の体に対して蜂の要素を、蜂の身体能力や女王蜂として多の蜂たちを従える能力などを合成する事で誕生した怪人である。

 仮にクィンビーを製造する際に人間・昆虫とは全く別の種族の要素、例えば爬虫類の要素を同時に合成する事は出来ない。

 昆虫と言う括りであれば他の生物の要素を加える事は一応可能であるが、クィンビーの基本要素となっている人間・昆虫とは異なる種族生物の要素は組み込めない。

 合成できる生物の種類は二種類まで、三種類目以降の要素の合成が上手くいった怪人はこれまで皆無だったのである。

 実は三種類以上の種族の合成自体は可能である、しかし合成された怪人は三種類の種族の力を全て使いこなすことは無かった。

 どういう訳か三種類目以降の種族の要素が怪人の中で活性化する事なく、事実上二種類の種族を合成した怪人と変わらない状態となってしまうのだ。

 そのためこれまで出てきた怪人たちは、○○型怪人と言う素体となっった人間に合成された一種類の種族を指すことで呼称できる怪人たちしか居なかった。


「あの失敗作の思いつき、恐竜型怪人なんて普通であれば試す価値すら無いプランだった。 全く、馬鹿な奴だよ…。

 恐竜なんて代物を作るために、一体何種類の種族の要素を取り込まなければならないと思っているんだ」


 恐竜は現在の爬虫類・鳥類・両生類などの祖と目されている太古の生物である。

 そのため現在に恐竜を蘇らせようと思ったら、これらの種族の要素を一つにまとめなければならない。

 しかし合成できる種族は二種類までと言う制限によって、恐竜型怪人と言うプランは机上の空論にしかならない物であった。


「しかし私は完成させたよ、失敗作! コアを利用するなんて手段、お前には到底思いつかないだろう、はははは…」


 セブンが挫折した恐竜型怪人、それをセブンの同型機と言えるナインは実現してみせた。

 ナインが三種類以上の生物の合成に成功した理由、それは怪人リザドに埋め込んだコアの能力にある。

 身体能力の活性化、対象の身体能力を活性化させるだけの地味な能力であり、仮にガーディアンの戦士がこのコアを使ったバトルスーツを与えられたら内心でハズレを引いたと思うに違いない。

 しかしこの産廃とも言えるコアの能力が、これまで不可能とされてきた恐竜型怪人への道を開いたのだ。

 怪人の内に眠る三種類目以降の要素、これをコアの力をもって活性化させる事によってリザドは恐竜型怪人としての力を手に入れた。

 そして体にコアを埋め込んだの真の理由、それはコアの能力を直接リザドの体に作用させるための工夫である。

 身体能力を活性化させるコアを最大限に活用させるために、融合型怪人と言う全く新しい怪人がナインの手によって誕生したのだ。


「さてと、あの失敗作の自信作が後どれだけ持つか見ものだね…」


 恐竜、かつてこの地上を闊歩してきた太古の世界の王たる種族。

 その力を受け継いだ恐竜型怪人リザドの力に絶対的な自信を持つナインは、第四ステージの勝利を確信していた。

 セブンが生み出せなかった恐竜型でセブンの大事な欠番戦闘員を倒し、延命の術を断たれたセブンの寿命は近いうちに尽きる。

 ナインに取っては最高の展開が直前まで迫っていることを理解したナインは、胸の内から高揚を覚えながらディスプレイに映し出される第四ステージの戦いに注視していた。

 この時のセブンは終ぞ気付くことが無かった、同時刻に別の場所で三代が欠番戦闘員の勝利を断言した理由に…。











 恐竜型怪人、現在に蘇った太古の王の力はまさに隔絶していた。

 元となった蜥蜴型怪人の姿から二倍は膨れ上がった巨体、そこから繰り出される一撃一撃を凌ぐだけで大和は疲弊していった。

 デュアルコアの完全解放、かつて白仮面を追い詰めた欠番戦闘員の最強の姿。

 この力を持ってしても今のリザドが相手では反撃に出る機会さえ見いだせず、防戦するのに手一杯の状態だった。

 せめて両拳が使えればもう少しやりようが有るのだが、大和の右拳は先ほど手の甲を貫かれたダメージによって使い物にならなくなっている。

 薬によって痛みこそ無い物の、上手く力が入らず握り拳を作れない右腕ではどうしても不利になってしまう。


「ふはははは、どうだ、欠番戦闘員! これが恐竜型、最強の怪人の力だぁぁぁ!!」


 体の構造が変わったのか以前より低音となったリザドの楽しそうな声が、欠番戦闘員こと大和の耳朶を打つ。

 何時もそうだ、この蜥蜴型怪人は何時も心底楽し気な様子でこちらに挑んでくるのだ。

 怪人と言う人間を超えた存在として製造された存在は、失った記憶を補うかのように自信の性能に対して拘るようになる。

 特にこのリザドはそれが顕著であり、この蜥蜴型怪人は己の性能を示すためだけのために戦ってきた。

 欠番戦闘員こと大和はこれまで目的のために仕方なく戦っており、戦いを楽しむなどと言う基地外染みた事からは縁遠い存在だった。

 しかしリザドは違う、この蜥蜴型怪人にとって己の性能を示す戦いこそが目的なのである。

 これまで歯が立たなかったライバルを追い詰めているこの時を喜ばない筈が無く、リザドは今最高にご機嫌な気分なのだろう。


「…ダケドコッチモ負ケラレナインダヨ! ファントム!!」

「"くらえ、 ファントムちゃんフラッ…"」


 リザドに取ってこの戦いは、最強の欠番戦闘員を倒すことで己を最強の怪人として知らしめるための物である。

 それに対して最強などに欠片も興味がない欠番戦闘員こと大和に取って、この戦いは恩人であるセブンを救うための物である。

 お互いに全く異なる理由であるが、勝利を譲れないと言う気持ちは両者とも変わらないだろう。

 大和はこのままではジリ貧になると判断し、控えさせていた相棒に対して命令を下す。

 対怪人用の目眩まし、ファントムの中に一発だけ搭載されているこれまで大和を何度も救ってきた切り札。

 幾ら恐竜型となったとは言え、視覚・聴覚などの感覚で相手の位置を定めているリザドにこれが効かない筈も無い。

 目眩ましによって怯んだリザドにラッシュをかけて止めを刺す、これが大和の逆転の策であった。


「甘いぞ、シャァァッ!!」

「"うわっ、発射口が塞がれた!? ばっちぃです!!"」

「ナンダト!?」


 しかしこれまで何度も大和を救ってきた目晦ましは、それだけ怪人たちの前でこれを使ったと言うことになる。

 幾度も無く欠番戦闘員と戦ってきたリザドがこれを知らない筈も無く、リザドに取ってこれは予想されていた事であった。

 ステルス機能を解除して姿を見せたファントムが目眩ましを射出しようとした瞬間、それを見計らったかのようにリザドは口から粘着液を放ったのだ。

 粘着駅は見事にファントムの射出口を塞いでしまう、あの様子では目眩ましを放つことは到底不可能だろう。

 逆転の策が潰されたことに一瞬動揺する大和、その隙を蜥蜴型怪人が見逃す筈も無かった。


「シャァァァァァッ!!」

「…ァアッ!?」


 リザドの口から飛び出してきた舌、それは最早サーベルと言うよりバスターソードと現した方が適切なサイズとなっていた。

 その鋭く伸ばされた舌は真っ直ぐに大和の顔正面に向かって行き、寸前にそれに気付いた大和は反射的に顔を下げる。

 間一髪直撃は避けられた物の、リザドの舌はフルフェイスのヘルメット後頭部の接触し、いとも容易くそれを破壊してしまう。

 後頭部部分が真っ二つとなり、その衝撃にフルフェイスのヘルメットは全壊して地面にパーツが零れ落ちる。

 ヘルメットが破壊された余波で脳が揺さぶられた大和は、歯を食いしばって耐えながら露になった戦闘員マスクを通してリザドを睨み付けた。


「クッ…」

「ははははは、まだ楽しませてくれよ!!」


 どうやら恐竜型として進化したリザドは、大和にとって都合が悪いことに蜥蜴型怪人として持っていた特殊能力をそのまま使えるらしい。

 デュアルコアを完全開放した大和を上回る圧倒的なパワー、そして元々特殊能力型怪人としてのリザドが持っていた多数の能力。

 本人が自称する通り、今のリザドはかつて白仮面すら上回る最強の怪人と言っても全くおかしくないスペックを持っていた。

 戦闘員番号を塗り潰した戦闘員マスク、欠番戦闘員の名前の由来となった姿を見せた大和は圧倒的なリザドを前にして未だに絶望していないようだ。

 大和の尽きぬ戦意を示すかのようにベルトのデュアルコアは輝きを深め、左腕の蒼い炎は深く揺らめいていた。



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