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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第1章 新世代
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28. 第四ステージ


 微かに記憶に有る森の獣道を進み、大和は因縁の蜥蜴型怪人が待つ広場へ向かっていく

 前はリベリオンの戦闘員に扮する事でリザドが率いる戦闘員たちに紛れ込み、リザドの素体捕獲任務の妨害を行った。

 今日の大和の格好も以前と同じような戦闘員服姿であり、状況は大きく違えどもリザドの元へ向かっている所は以前と同じである。

 過去を思い返させる状況を受けて、大和の脳裏には自然と初めてリザドと戦った時の記憶が蘇っていた。

 あの時の大和に取って事実上初めての戦闘では、事前情報と差とファントムのサポートと怪人専用バトルスーツの性能と言う優位によって完勝を納めた。

 しかし今回の戦いではどう好意的に見積もっても、大和は苦戦は免れないだろう。


「…ほら、噂をすれば来たようだぞ!」


 考え事をしている内に獣道の出口まで辿り着いた大和の耳に、聞き覚えの有る蜥蜴型怪人の声が聞こえてくる。

 広場の中央にはリザドが威風堂々と言った姿で佇まい、広場の脇にはリベリオンの怪人と言う予期せぬゲストが並んでいる。

 事前に白木たちから情報を得ていなければ、大和はリベリオン怪人たちの姿に面を喰らっていた事だろう。

 大和はリベリオンの怪人たちの事を気に留めつつ、リザドの元へと歩み寄る。

 こちらの到着にリザドは壮絶な笑みを浮かべ、その闘志に反応したのか体に埋め込まれたコアが脈打つように点滅する。

 対峙する一体の怪人と一体の戦闘員、程度は有れど共に人非ざる者たちは、同じく人非ざる怪人たちに見守られながら無言で対峙をしていた。


「…欠番戦闘員、貴様が求めているデータはこのリザド様の体に直接埋め込まれている。

 これを手に入れたければ、リザド様を殺して奪うのだな」

「ナニッ…!?」


 第四ステージの舞台に現れた大和に対して、リザドは親切な事に今回のゲームの景品である記憶媒体の在処を事前に知らせてくれた。

 記憶媒体、意図的に短く定められたセブンの寿命を伸ばすために必要なデータが記憶されたナインが主催するゲームの景品。

 これまでのナインが用意した新世代型の怪人たちは、ゲームの景品である記憶媒体をその身に纏うバトルスーツに仕込んでいた。

 しかし今回の相手であるリザドはバトルスーツを纏っておらず、大和はリザドがどのように記憶媒体を保持するのかが解らなかった。

 下手をして記憶媒体を破壊したら目も当てられないため、その在処が解るまで迂闊に動けないかもと心配してた大和の懸念をこの蜥蜴型怪人は早々に取り除いてくれた。


「ふんっ、これを壊すのが怖くて全力を出せませんでしたなどと言い訳をされても困るからな。

 全力の欠番戦闘員を倒してこそ、このリザド様の性能を知らしめる事が出来るのだ!!」


 勿論、この唯我独尊を地で行く蜥蜴型怪人が、大和のために情報を漏らす筈も無い。

 あくまで全力の欠番戦闘員を打倒する事が目的らしいリザドは、大和の足かせを外すためにあえてネタバレをしてくれたようだ。

 リザドの言う通りに記憶媒体をが頑強な怪人の体に埋め込まれているのならば、余程の事が無い限り景品は無事であろう。

 蜥蜴型怪人の思惑がどうであれ、一つの懸念が解消された大和はこれでリザドの望むように全力を出すことが出来る。

 そのお礼と言う訳では無いが、大和は改めて全力を持って目の前の蜥蜴型怪人を倒すことを心に誓った。






 最早語るべき事など無いとばかり、大和は無言のまま内蔵型インストーラを展開する。

 腹部に内蔵されてたインストーラが露出し、そこに嵌め込まれた二つのコアがが赤と青の光を放っていた。


「…変身っ」


 大和のお決まりの台詞によって内蔵型インストーラに火が入り、赤と青のコアが激しく光を放ち始める。

 すると次の瞬間、黒尽くめの戦闘員装束を纏う大和の首から下の体は光に包まれていく。

 コンマ数秒で光が消え去った大和の体から、黒尽くめの戦闘員服は消え去っているでは無いか。

 大和は炎の紋様が刻まれた黒いスーツを纏い、胸部にはブレストアーマー、両の腕にはガントレットが嵌められている。

 そして大和の姿が変わった所を見計らい、何処から飛んできた後頭部部分が空いたフルフェイスのマスクを大和は華麗に受け止めた。

 スーツと同じように炎の紋様が刻まれた黒いフルフェイスマスクを、大和は戦闘員番号が塗り潰された戦闘員マスクの上から被る。

 大和の顔に装着されたマスクは小気味いい音と共に後頭部部分を自動で閉じ、マスク目に当たる部分となる赤い大きな瞳がリザドを睨みつけた。

 バトルスーツが完全に展開にした事によってインストーラのデュアルコアが活性化し、その影響によって大和の両腕にはそれぞれ炎と凍気が自然と湧き上がる。


「行クゾ!!」

「ははははははっ、欠番戦闘員! 貴様はこのリザド様の手によって、ゲームオーバーを迎えるのだ!!」


 バトルスーツとフルフェイスマスクを被り、欠番戦闘員としの完全な戦闘体勢となった大和。

 最早待ちきれないとばかりに、リザドは大和と同じようにコアを激しく光らせながら突っ込んでくる。

 セブンの命を賭けたナインのゲーム、その第四ステージの戦いが始まった。











 それは改造手術によって人を超えた存在になった筈の、リベリオンの怪人たちに取っても圧倒される光景だった。

 裏切り者からの情報提供によって第四ステージの存在を知り、裏切り者と邪魔者を一掃出来る機会だと勇ましいことを考えてやって来たリベリオンの怪人たち。

 しかし今の彼らにはそんな当初の考えなどは頭からすっかり消え去り、ただただ目の前の戦いに目を奪われていた。


「ウォォォォッ!!」

「はははははははっ!!」


 デュアルコア、二つのコアによって限りなく強化された大和の拳は、並の怪人であれば掠っただけで致命傷になる程の威力を秘めていた。

 激しい炎が纏った拳が振られるたびに周囲に熱気が伝わり、冷たい凍気を纏った拳が振られるたびに周囲が冷やされていく。

 大和が拳を振るうたびにその拳圧が観客と成り下がった怪人たちの元へと届き、それだけで気圧されそうになってしまう。

 しかしそんな非常なまでの力の暴風を前に、つい先日まで自分たちの同僚であった筈の蜥蜴型怪人は真正面から立ち向かっている。

 一撃一撃が必殺であろう欠番戦闘員の拳を前に、リザドは怯える所か逆に笑みさえ浮かべながら負けじと拳を振るっていく。

 コアを直接体に埋め込む事で融合型怪人として生まれ変わったリザドの力は、デュアルコアを使う大和に匹敵するレベルにまで高まっているようだ。

 互いに防御を考えない攻撃一辺倒の殴り合い、その様子はまさに嵐と嵐がぶつかり合うような激しさを感じさせた。


「…ドウシタ、融合型ノ力ハソンナ物カ?」

「ふんっ、やはり近接では貴様に分があるようだな…」


 嵐が一時小康状態となった、嵐を形成していた片割れがその手を止めて距離を取ったのだ。

 先に手を引いたリザドを前に、大和は軽い挑発を入れながらも内心で警戒を怠らなかった。

 見た目は拮抗しているように見えた先ほどの殴り合い、しかし大和はあのままやり合っていれば自分が勝っていたと言う確信があった。

 幾ら融合型怪人となる事で自身の性能が極限まで高まったとは言え、その元となった蜥蜴型怪人リザドは近接戦闘は不得手な怪人である。

 そんなリザドが近接戦闘に特化された大和に対して、ただの殴り合いで勝てる筈も無いのだ。

 しかしそんな事は欠番戦闘員相手に近接戦闘で何度も敗北してきた、当のリザドが一番良く知っている事だろう。

 ゲストであるリベリオン怪人たちを圧倒した今の殴り合いなどは、互いの力を確認するための挨拶代わりのやり取りでしか無いのだ。


「…では此処からが本番だ。 貴様はリザド様の全能力を駆使して倒してやろう!!」


 蜥蜴型怪人リザド、その真骨頂は肉体能力を犠牲して手に入れた多数の特殊能力だろう。

 近接戦闘に対して並々ならぬ情熱を持っていたセブンが、上層部からの要求に従って渋々設計した特殊能力に特化した怪人であるリザド。

 その多彩な能力は当時のリベリオンでも一目置かれ、不本意な事であるが設計者であるセブンの名を高める事にもなった。

 いよいよ本気を出してきた蜥蜴型怪人リザドを前に、大和は両の拳を強く握りしめながら相手の出方を伺った。











 リザドが呼び寄せたリベリオン怪人たちと同様に、欠番戦闘員とリザドの戦いを見守る二つの影。

 ガーディアンの戦士である白木と土留は、かつて見た対白仮面戦と同レベルの人外の戦いに圧倒されっていた。

 前回の白仮面戦の時とは違い、今回は三代と黒羽は直接この第四ステージの舞台には姿を見せていない。

 最初は直接観戦するする予定であったが、リベリオン怪人と言う予期せぬゲストの登場に急遽観戦を取り止めたのだ。


「なぁ、何で旦那は蜥蜴野郎をあのまま殴り殺さなかったと思う?」

「…リザドの能力を警戒したからだろう。 奴には何らかの切り札を持っている、そうで無ければ欠番戦闘員相手に近接戦闘を挑むわけが無い」


 先の白仮面戦と同様に今回の戦いでも大和は三代の薬によって、デュアルコアが強いる体への負荷を無理矢理誤魔化していた。

 デュアルコアを装着した今の大和には長期戦など無謀であり、短期決戦で勝つしか道は残されて無い。

 そのため本来であれば先ほどの攻防でリザドが引いた時、大和は問答無用で追撃して畳み掛ける事で勝負を決めるべきだったかもしれない。

 しかし大和はリザドを追撃することは無く、あえて受けに回ってリザドの出方を伺う選択をしたのだ。

 大和に積極策を躊躇わせた要因、それはリザドの奇妙な行動にあった。

 そもそも欠番戦闘員相手に近接戦闘で勝てない事は重々承知している筈のリザドが、小手調べとは言え自分から近接戦闘に乗ってくるのは非常に不自然な事である。

 大和があのまま勝負を決めに掛かる可能性は十分に考えられた筈であり、それを承知で欠番戦闘員の土俵に乗ったと言う事はリザドには何かしらの切り札が有ると判断したのだ。

 セブンの命が掛かっている戦いで一か八かの賭けなど挑める筈も無く、まだ見ぬ切り札を警戒した大和は積極策を取ることが出来ない。

 欠番戦闘員に対しての切り札を隠し持つリザドとの第四ステージの戦いは、大和に取って不本意な事に長丁場になりそうな様相を見せていた。


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