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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第1章 新世代
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26. 決戦前


 そこに立っていたのは己の肉体にコアと言う無機物を埋め込んだ、赤い鱗が全身を覆う蜥蜴型怪人だった。

 バトルスーツと言う媒介を通すこと無く、コアの力を直接体に受ける融合型怪人として生まれ変わったリザド。

 リザドは自分の足元に転がるかつての仲間たち、虫の息となっているリベリオンの怪人たちを前に満足げな表情を浮かべていた。

 怪人たちは皆バトルスーツを纏っており、先にリザドが倒したガーディアンの戦士たちと同様に新世代と呼ばれている者たちである。

 どうやらリザドは融合型怪人の力を試すサンドバックとして、今度は古巣であるリベリオンの怪人たちを利用したらしい。

 リザドに倒された物たちの中には、かつて共闘もした犬型怪人ハウンドなどの見慣れた怪人も少なく無かった。

 しかし融合型怪人として生まれ変わった自分にはリベリオンなど最早関係無いとばかりに、容赦の欠片も無く自分以外の全ての怪人たちを手に掛けていた。

 否、足元に転がる怪人たちが機密保持機能が発動する事なく原型を保っている所から、一応の手加減はしていたようだ。


「欠番戦闘員、我がライバルよ。 このリザド様が貴様に引導を渡してくれる!!」


 新世代たちを歯牙にも掛け無い、融合型として生まれ変わった自分の力にリザドは確かな手応えを感じていた。

 融合型怪人としての己の力を試す最終調整はすんだ、後は本番である欠番戦闘員との決戦を待つばかりである。

 今の自分であれば欠番戦闘員に勝てる、そう確信したリザドは拳を強く握りしめながら闘志を燃やす。

 そしてリザドの高ぶる感情に呼応するかのように、埋め込まれたコアは爛々と光を放つのだった。











 両組織の新世代たちを一掃した蜥蜴型怪人の派手な動きは、必然的にガーディアンの耳にも届いていた。

 リザドとその背後に居るナインの事情を知る白木たちは、予想以上のリザドの力に驚きを隠せないでいた。

 欠番戦闘員の前で見せた融合型怪人としてのリザドの力の一端から、あの蜥蜴型怪人が凄まじい進化を遂げた事は把握している。

 しかし実際に新世代たちを倒したと言う実績を前にした三代たちは、改めて融合型怪人の脅威を再認識していた。


「…どう思いますか、三代さん?」

「うん、これは無理だ。 今の戦闘員くんじゃ100パー勝てないよ、これは」


 どうやらリザドが荒金たちを相手に無双した時の先日の戦いの様子は、ガーディアンの関係者によって密かに撮影されていたらしい。

 白木たちは三代ラボでその戦闘記録となる映像を参考に、融合型怪人として生まれ変わったリザドの能力を分析していた。

 新世代たちを容易く屠っていくリザドの姿、映像越しとは言えそれは白木たちに恐怖という感情を促す光景であった。

 スペック上では確実に旧世代である白木や土留を上回る新世代たちを、今のリザドは赤子の手をひねるかのように下して見せた。

 新世代たちはこの一戦で壊滅状態となり、幸運なことに死者こそ居なかった物の全員揃って病院送りにされたようだ。

 このリザドの力は欠番戦闘員こと大和の切り札である、コアの100%開放をした状態の欠番戦闘員をも上回るだろう。

 彼らはこの映像を見て確信していた、今の欠番戦闘員では決してこの蜥蜴型怪人には勝てないと…。


「バトルスーツの研究者としては癪だけど、これはナインって子の発想の勝利ね。 コアを直接体に埋め込むなんて無茶な事をを良く思いついた物だ…。

 バトルスーツという型を通してコアの力を引き出した場合、必然的にその能力はバトルスーツの型に嵌められてしまう。そして怪人としての固有の能力を持つ連中がバトルスーツを纏った時に、自身の能力がバトルスーツの能力と反発を起こす可能性が生まれる。

 だから怪人にバトルスーツを使わせる場合、怪人自身の能力を考慮すると言う面倒くさい工程が生まれる筈なんだけど…」

「直接コアから力を引き出せば、その面倒くさい工程が不要って訳だ…」

「うーん、だけどね…」


 三代が語るように怪人がバトルスーツを使う場合に、一つの大きな問題が存在した。

 怪人は怪人独自の固有能力を持っており、バトルスーツもまたコアの力を利用した独自の固有能力を持っている。

 そのため怪人がバトルスーツを纏った場合、怪人としての能力とバトルスーツの能力が反発する可能性が高いのだ。

 これを回避するための方法は二つ有ると考えられていた。

 一つはバトルスーツの設計段階から怪人の固有能力を殺さないように考慮し、その怪人専用に特化したバトルスーツを製造する事。

 一つはかつての白仮面のように怪人として何の特殊能力を持たない、バトルスーツの使用に特化した怪人を製造する事。

 どちらも実際に行うには技術的やコスト的なハードルが高く、実際にそれを実現している例は稀であった。

 しかしナインはコアを直接埋め込むと言う逆転の発想で、怪人の能力を殺すこと無くコアの力を引き出す手段を見つけたのである。

 コアの力を引き出すにはバトルスーツを介さなければならない、それはガーディアンやリベリオンの共通の見解だった。

 そのためバトルスーツを介さずにコアの力を直接引き出す融合型と言う発想は、既存の常識に縛られたガーディアンやリベリオンの研究者たちには到底思い付けないコロンブスの卵的発想であった。

 融合型と言う未知の領域を切り開いたナインに対して、三代は内心で研究者として賞賛を送りつつも何処か違和感のような物を覚えていた。

 その喉骨に引っかかった物の正体が解らず、三代は僅かに険しい顔を見せながら考え込んでしまう。


「白木、これはまたお前のコアを旦那に貸さないとな…」

「デュアルコアでなければ勝てない相手、リザドは最盛期の白仮面と同等の力を得たと言う事か…。 しかしそれは…」


 融合型怪人へと成り果てたリザドを相手に欠番戦闘員が勝つ方法を、白木たちにはただ一つしか思い至らなかった。

 デュアルコア、同等の性質を持つ兄弟コアと言う特殊な二つのコアを同時に使用すると言う荒業。

 かつて完全なバトルスーツを得た事で人外の領域に達した白仮面を倒すために、欠番戦闘員こと大和が選んだ決死の策。

 確かにそれで有れば融合型怪人として生まれ変わったリザドにも勝ち目が有るだろうが、白木たちは出来うるならばその最後の手段を大和に使わせたく無かった。

 二つのコアを共鳴させた時に生まれた力を凄まじい物であり、それは対白仮面との最終決戦で欠番戦闘員を勝利に導いた。

 しかしその代償として大和はデュアルコアを使用した事に対する反動によって、非常に大きなダメージを受ける事となってしまう。

 それは下手をすれば大和が死んでいた程の物であり、正義の味方としての善良な心を持つ白木は死の危険性があるデュアルコアの使用を薦める事は出来なかった。


「あんまり思いつめ無い方がいいわよ、デュアルコアを使用するかどうか決めるのは戦闘員くん何だし…。

 そういえばあの子、今日が退院だったわね…」


 三代の言う通りデュアルコアの使用を決断するのは、事の張本人である大和自身である。

 当の大和は少なくない療養を経て無事に傷を癒やしたようで、本日退院予定となっていた。

 それはナインの主催する最終ゲーム、リザドのとの決戦が間近に迫っている事を意味していた。












 退屈な入院生活から解放された大和は、病院着から母の霞が持ってきた私服に着替えていた。

 病院を出る前に大和はセブンの病室を訪れ、人為的に定められた寿命に刻々と近付いている少女と向かい合う。

 一時期は意識を取り戻したセブンであるが、再び容態が悪化したのが意識が無い状態が続くようになっていた。

 今のセブンは病室のベッドで横たわり、僅かに表情を歪めながら瞳を閉じている。

 セブンの傍らに立つ大和の右腕の五指は無意識の内に忙しなく動かされており、それは彼の内心の感情の高ぶりを表しているようであった。


「…博士、俺は勝ちますよ」


 欠番戦闘員こと丹羽 大和は決して正義の味方では無い。

 正義の味方を名乗るガーディアンの白木とは違い、大和は見知らぬ誰かのために命を掛ける事は出来ない。

 しかしそれが見知らぬ誰かでは無ければ、大和に取って大事な人間であれば話が変わってくる。

 そして今回の戦いは恩人と言うべき少女の命が掛かっているのだ、セブンのためであれば大和は己の命を賭けて戦う事が出来るだろう。

 融合型怪人リザド、ナインが用意した最後にして最強の刺客。

 それを倒さなければ目の前の少女に明日は無い事は確実であり、決戦を前にした大和は意識の無いセブンに対して勝利を誓った。



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