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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第1章 新世代
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25. 肩慣らし


 ガーディアンの輸送車に乗る新世代の戦士、荒金の表情は酷く険しいものだった。

 先の欠番戦闘員捕獲任務の失敗に対する懲罰だった謹慎は予想より大幅に早く解かれ、荒金は前線に復帰する事が出来た。

 久しぶりに装着するインストーラの重さは頼もしく、荒金は再び力を取り戻せた事は実感していた。

 しかし欠番戦闘員に到底叶わなかったこの程度の力が、一体何になるのだろうか。

 リベリオンに攫われた家族の復讐のためにガーディアンに入り、改造手術を受けてまで手に入れた力。

 そこまでして手に入れた物は欠番戦闘員に到底及ばない物であり、荒金のこれまでの苦労は何だったのか。


「ちぃ、旧世代の連中が調子に乗って…」

「ふん、所詮はマグレだ。 俺たち新世代の力を見せれば…」


 同じ輸送車に搭乗する新世代の仲間たちもまた、荒金と同様に決して明るい表情では無かった。

 欠番戦闘員と敵対している"Ⅸ"の刻印が刻まれた強力な怪人を、旧世代達が独力で倒したと言う話は彼らの耳にも入っている。

 懲罰によって謹慎を受けていた新世代たちとは対象的な旧世代の活躍を受けた彼らの心中は、決して穏やかな物では無い。

 あれは単なる奇跡だと嘯く新世代たちであるが、ガーディアンにおける新世代の価値が徐々に下がっている事を肌で実感していた。

 新世代として強力な力を持ったが故に、リベリオンの怪人にように傲慢となってしまった新世代たちを嫌う人間はガーディアン内で少なからず存在した。

 これまでは戦果と言う形で明確な価値を示していた事も有り、新世代たちへの不満は表面化する事は無かった。

 しかし此処最近の失態を受けて、ガーディアン内での新世代たちへの不満が噴出し始めたらしい。


「勝つんだ、勝って俺たちの力を証明してやる…」


 謹慎明けの初めての任務、それは新世代たちの価値を証明して見せる絶好の機会である。

 まずは謹慎明けの肩慣らしと言う事もあってか、今回の作戦には謹慎をしていた新世代の戦士たちしか参加していない。

 この戦力であれば余程の相手では無い限り負ける筈もなく、新世代たちは自分達の名誉を挽回しようとやる気を見せていた。

 彼らは知る由も無かった、今回の作戦目的である怪人の情報を流した人物を、そして彼らを待ち構えている怪人の正体…。











 断末魔をあげながら吹き飛ばされる青樹、重鎧型バトルスーツの分厚い装甲さえも怪人の圧倒的なパワーを受け止めて来れなかったらしい。

 地面に数度バウンドしてそのまま動かなくなる青樹、あの様子では最早戦いに戻る事は不可能だろう。

 今回の戦いの柔らかい土の上で良かった、これがアスファルトの上だったならば下手をすれば改造を受けている新世代とは言え命が危うかった。

 仲間の敗北を前に生き残った新世代たちはそれぞれ獲物を構え、先程青樹を一蹴した怪人と向かい合う。

 それは蜥蜴をそのまま擬人化したような怪人であった、全身を覆う強靭な赤い鱗、爬虫類特有の細長い舌。

 そして怪人の体に埋め込まれたコアが、怪人の殺気に呼応するかのように爛々とヒカリを放っているでは無いか。


「ふはははははは、こんな物か! ガーディアンの新世代とやらは!!」


 蜥蜴型怪人リザド、古巣であるリベリオンを抜けてナインの元で新たな力を手に入れた怪人。

 コアを直接体に埋め込む全く新しい技術、融合型怪人として生まれ変わったリザドは荒金たちの前で高笑いを上げる。

 こんな筈では無かった、リザドからのプレッシャーで荒くなった息を自覚しながら荒金はこのような悲惨な状況になった経緯を思い返していた。





 輸送車によって運ばれた人里から遠く離れた空き地、人が好んで寄り付きそうも無い殺風景な場所にあの蜥蜴型怪人は立っていた。

 周囲には他の怪人や戦闘員たちの姿は見当たらない、どういう訳かそこには怪人がただ一体居るだけである。

 バトルスーツを纏わない旧世代の怪人が一体だけ居るその状況に、新世代たちは己の勝利を疑わなかったろう。

 しかし蓋を明けてみれば、新世代たちは融合型として生まれ変わったリザドに全く歯が立たないでは無いか。

 最初にやられたのは水屋だった、日本鎧風のバトルスーツを纏う彼は刀型インストーラを振り翳して勇ましく突っ込んで行った。

 その姿はまさに一番槍として駆ける戦国武将が如くであり、それは新世代たちの高まった闘志を象徴しているようでもあった。


「…何だ、蚊でも刺さったかお?」

「馬鹿な!? 刃が通らない…」


 それは並の怪人であれば一撃で両断出来る程の一振りに見えた。

 後ろで見ていた荒金たちも水屋の勝利を確信しており、あいつに良い所を持ってかれたと呑気に感想を浮かべる程であった。

 しかし次の瞬間、新世代たちは総じて度肝を抜かれる事になる、そこには水屋の斬撃を受けて全く無傷の蜥蜴型怪人の姿が有ったのだ。

 怪人を肩口から袈裟斬りにしようとした水屋の刀型インストーラは、どういう訳か蜥蜴型怪人の体に全く刃を通すことが出来ない。

 幾ら水屋が力を込めても刃先は怪人を通せず、当の怪人から屈辱的な軽口を言われる始末である。

 コアから出力される力を直接受けて強化された今のリザドには、この程度の攻撃などは虫に刺されたのと同程度の扱いらしい。


「…ふんっ、煩わしい虫が!!」

「っ、ぐぁぁぁぁぁっ!!」


 そして先ほどの怪人の言葉とおり、水屋はまるで虫けらのように払われてしまった。

 特に力を込めているように見えない怪人の腕の一振り、それだけで水屋は吹き飛ばされてしまったのだ。

 その圧倒的な力を前に、新世代たちはようやく目の前の蜥蜴型怪人の脅威に気付いたらしい。

 呆然とする新世代たちを前に、蜥蜴型怪人リザドは傲岸不遜と行った態度で言い放った。


「…せめて肩慣らしになる程度には持てよ、ゴミ共」


 こうして欠番戦闘員との決戦を控えたリザドの最終調整というべき、融合型怪人としての慣らし運転が開始された。











 一人、また一人とガーディアンの新世代の戦士が落ちていく。

 何故バトルスーツすら無い怪人が有れ程の力を持つかは解らないが、あれは白仮面と同等クラスの化物だ。

 あの怪人が少し本気を出せば、この場に居る新世代たちなど一瞬で全滅していただろう。

 しかし眼前の蜥蜴型怪人はまるで己の力を悠然と示すかのように、一人ずつガーディアンの戦士を倒していった。

 その様子は自らの力を試すかのようであり、先程怪人が言っていた肩慣らしと言う言葉に当てはまる物である。

 自分たちを肩慣らしの相手としか考えていないらしい怪人に怒りを覚えた新世代たちは、圧倒的な敵を相手に必死の抵抗を行った。

 しかし圧倒的な力の差を前に為す術が無く、蜥蜴型怪人リザドは未だに傷一つ負っていない状況である。


「ふんっ、貴様で最後か。 思ったより歯ごたえが無かった、所詮はゴミか…」

「っ!? 舐めるな!!」


 最後に残った新世代の戦士荒金は、果敢に怪人に向かって突っ込む。

 金色のスーツ型にバトルスーツに身を包み荒金、その腕に嵌められた赤色の手甲に雷撃を帯びていた。

 顔を覆っている金色のフルフェイスマスクの下には、歯を食いしばってリザドと言う恐怖に耐える荒金の姿があった。

 腹に装着されたインストーラのコアが黄色に輝き、その特殊能力である雷を操る力が発動される。

 雷撃を帯びた荒金の一撃はスタンガンのような威力を発し、まともに受ければ打撃と雷撃の二重奏に苦しむことになるだろう。


「その姿、欠番戦闘員の真似事か? だが…」

「くっ…」

「我がライバルには到底及ばない!!」

「あぁぁぁぁぁっ!!」


 しかし荒金の決死の一撃は融合型怪人には全く通用せず、リザドは眉一つ動かす事無く平然とその攻撃を受け止めてしまう。

 色の違いこそ有れどスーツ型バトルスーツにフルフェイスのマスクを被る荒金のそれは、明らかに欠番戦闘員を意識した物であった。

 欠番戦闘員のライバルを自称するリザドとしては、己の好敵手の姿を真似る荒金が気に食わなかったのだろう。

 リザドの返しの一撃は強かに荒金を痛めつけ、他の新世代の戦士たちと同様に荒金を地面に沈めてしまった。

 地面に這い蹲る荒金は己の力の無さを改めて実感し、より大きな力への渇望を覚えながら意識を失うのだった。





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