22. 一撃
正式コアを持つ戦士たちと簡易コアを持つ戦士たちが連携し、猿型怪人ショーモンの眷属である軍隊猿たちを釘付けにしている。
軍隊猿の主である猿型怪人ショーモン、ナインが用意した第三ステージのボスは土留と銀城の活躍によって足止めされている。
ガーディアンの戦士たちが総力をあげて第三ステージに挑む中、どういう訳かそこにガーディアン側の対象と言える白木の姿が見当たらなかった。
臆病風にでも吹かれて逃げたのだろうか、否、そうでは無い。
軽鎧型のバトルスーツを纏った白木の姿は、第三ステージの舞台である山腹の中で見付ける事が出来た。
戦いの場となっている広場の周辺に乱立する木々の間に潜み、猿型怪人ショーモンに気付かれぬようにしながらある準備を行っていたのだ。
「まだだ、まだ待つんだ」
白木の腕に嵌められたインストーラのコアが赤い光を放ち、それに合わせて長銃と剣が一体となっている彼の獲物にコアからエネルギーが供給される。
旧世代である灰谷は生身の人間が引き出せる限界値である三割程度のコアの出力を全て武器に注ぎ込むことで、新世代を貫く刃を形成していた。
コアのエネルギーを一点に集中すれば、それは新世代の固い防御力さえも打ち破る力を生み出す事が出来るのだ。
今、白木は灰谷のそれと同様に、コアから引き出した力を手に持った銃剣へと集中させていた。
バトルスーツへの供給すら絶ったことで白木は生身の人間と変わらない状態となり、バトルスーツもただの金属製の鎧に成り下がってしまっている。
ショーモン所かその眷属である軍隊猿一匹だけが相手でも、今の白木が相手であれば余裕で倒されてしまうだろう。
「一撃だ、一撃で決めて見せる」
限界までエネルギーをチャージした一撃、それが旧世代である白木が新世代に勝てる唯一の手段であった。
この一撃を放つための時間を土留や銀城、その他のガーディアンの戦士たちが命懸けで稼いでくれている。
絶対にこの一撃を外してはならないと、白木は決死の表情で木々の間から猿型怪人ショーモンの姿を見詰めていた。
木々の中で息を潜めながらエネルギーのチャージを待つ中で、白木はふと現在の似たような状況が過去にあった事を思い出していた。
あれは相棒である黒羽がまだ現役のガーディアンの戦士であり、そして彼女がガーディアンの戦士として参加した最後の作戦でもあった。
その当時リベリオンで名を上げていた蜂型怪人クィンビー討伐のため、白木と黒羽はクィンビーに挑んだ。
黒羽がクィンビーの足止め役を担当し、白木がクィンビーを確実に葬ることが出来る止めの一撃を放つ。
現在の猿型怪人ショーモンとの戦いと非常に似通った作戦を遂行し、そして白木たちは結果としてその作戦に失敗してしまう。
白木は黒羽が命懸けで作り出した機会を無に返し、クィンビーに対して止めの一撃を放つことが出来なかったのだ。
後に欠番戦闘員という名で呼ばれるようになった、9711号とナンバリングされた戦闘員の妨害によって…。
「思えば奇妙な縁だな…」
あの時は戦闘員9711号の手によって白木たちの作戦は失敗し、あろう事か黒羽は一生物の障害を負うことになった。
当時の白木は作戦を妨害した戦闘員の存在を憎み、そして黒羽を助けられなかった自分の無力さを痛感した。
そして現在の白木はどういう訳か戦闘員9711号、今では欠番戦闘員と呼ばれているあの男の代わりに戦っているのだ。
前回は放てなかった自分の一撃、今回こそは絶対に放ってみせる。
改めて決意を固める白木を後押しをするかのように、銃剣へとコアからのエネルギーのチャージが完了した。
まるで噴火寸前のマグマのようにエネルギーを蓄えた銃剣は、開放の時を待ち望んでいるかのように熱を帯びる。
時は来た、白木は無線を通して仲間たちに準備が完了した事を報せた。
それはベースとなった動物が備えていた野生の勘が働いたのか、それともガーディアンの戦士たちの間で生まれた僅かな変化を察知したのか。
理由はどうであれ猿型怪人ショーモンは、寸前の所で白木の存在に気付いてしまう。
ショーモンの視線は木々の間に居る白木を捉え、怪人とガーディアンの戦士の視線は交差した。
しかし銃による遠距離攻撃を狙う白木は必然的にショーモンから距離を置いており、軍隊猿と言う手足をもがれている猿型怪人には最早白木に対して成す術が無い。
相手がこちらに気付いた事に一瞬驚いた白木だったが、動揺を押し殺しながら待ち望んだ一撃を放とうと試みる。
「はっ、これで終わりだぁぁぁ!!」
「私の盾にはこういう使い方も有るんです!!」
白木の放つ止めの一撃を確実に命中させるため、ショーモンの変化に気付かなかった土留たちは事前に決めた手筈通りに動いていた。
バトルスーツの損耗を恐れてパーツの一部のみを使っていた土留が、これが最後とばかりに全てのパーツを解き放つ。
土留の体から飛び立ったバトルスーツのパーツ群は縦横無尽に飛び回り、猿型怪人ショーモンへと張り付いてその動きを拘束する。
旧世代である留目の能力では新世代を完全に拘束する事は不可能であるが、数秒程度足止めすることは十分可能だろう。
加えて銀城が駄目押しで障壁を、ショーモンを閉じ込めるように四方へと展開したのだ。
障壁を展開できる位置は自分の周囲だけで無く、このように相手の周辺にも妨害を目的として展開することが出来る。
留目と銀城の能力によって動きを封じられたショーモン、このままでは正義の味方たちの思惑通りに白木の一撃によって葬られる事だろう。
「キィィィッ!!」
猿型怪人ショーモンが持つ怪人としての能力では、この苦境から逃れる手段は存在しない。
しかし今のショーモンはただの怪人では無く、陣羽織型バトルスーツを持つ新世代である。
そしてショーモンは怪人としての能力とは別に、バトルスーツのコアに秘められた固有能力と言う切り札が残されているのだ。
絶対の危機を前にショーモンの陣羽織型バトルスーツにお似合いの、軍配型インストーラに嵌められたコアが光を放ち始める。
陣羽織型バトルスーツの腰部分に据え付けられていた軍配型インストーラ、そのコアの能力はすぐに判明した。
「…キィツ!!」
「なっ…、白木!!」
ショーモンの持つコア能力、それは土留のそれと似通った物であった。
土留は自身のバトルスーツを自在に操る能力であり、そしてショーモンのそれは自身の手足となる軍隊猿を物理的に操る力だったのだ。
それは言うなれば将棋の駒を動かすように、ショーモンはガーディアン達の相手をしていた軍隊猿を好きな場所に移動させる事が可能であった。
もしに仮にショーモンが軍配型インストーラを振り翳しながらこの能力を使えば、まさに戦国時代の武将と言った佇まいだったろう。
ショーモンの能力を受けた軍隊猿の一体は淡いに光に包まれ、次の瞬間には空中へと浮かび上がり一直線に白木の潜む場所へと向かっていく。
その目的は白木の妨害である事は間違いなく、そしてこの一手は銃剣にコアの全エネルギーを集中させてる白木には致命的な一手だった。
「くそっ…」
猛スピードでこちらに飛んでくる軍隊猿を前にして、瞬間的に理解してしまった。
白木がショーモンに狙いを定めてトリガーを引く前に、あの軍隊猿は自分の元へと辿り着いてしまう。
狙いを絞らなければ一撃を放つことは可能であるが、そんなメクラ撃ちでは当たる物も当たらない。
仮に命中したとしても、当たりところが悪ければ肝心のセブンの命を救うための記憶媒体を巻き込むかもしれない。
そして軍隊猿を倒すためには折角銃剣に貯めたエネルギーを霧散させ、バトルスーツへのエネルギー供給を再開させなければならないのだ。
しかしバトルスーツへの機能を復活させなければ、白木はあえなく軍隊猿に倒されてしまうだろう。
このままでは前回の作戦と同様に、白木はただの一撃を放つこと無く終わってしまう。
どうにもならない状況に白木は歯噛みし、その端正な顔を歪ませた。
猿型怪人ショーモンが打った逆王手、しかしそれは白木に届くことは無かった。
白木に向かって一直線に飛んでいた軍隊猿の軌道が、どういう訳か途中で非ぬ方向へとそれてしまたのだ。
それはまるで空中で車に引かれたかのように、何かの衝撃音と共に軍隊猿は横っ飛びに吹き飛んでしまった。
「キィッ!?」
「なっ…」
「…猿が空中で独りでに吹き飛んだ!?」
軍隊猿の空中衝突事故に呆気を取られ、ショーモンと土留たちガーディアンの戦士たちは呆然と空中を見上げていた。
ショーモンは逆転の一手を訳の解らないまま潰され、土留たちは絶対絶命の危機を理由が解らないまま乗り越えてしまった。
この瞬間、怪人と人間は共に戦いの中で戦いを忘却し、この有り得ない怪現象を前に仲良く固まっていた。
「ははははははは…。 前は邪魔をされたが、今度は逆に助けられるとはね…」
怪人と人間が揃って呆然とする中、一人白木だけは笑みを浮かべながらショーモンに対して改めて銃口を構えていた。
よく考えてみれば答えを得るのは容易い事である、姿を消したまま空中の軍隊猿を撥ねられる存在などこの世界に一機しか居ないだろう。
確かに欠番戦闘員は負傷で戦えないだろうが、その相棒である幽霊マシンが戦場に出ることは何ら問題無い。
どうやら欠番戦闘員に隠れて行っていた自分たちの企みは、あの幽霊マシンには見破られていたらしい。
クィンビー討伐を目的とした前回の作戦で、白木は戦闘員9711号に邪魔されて作戦を失敗してしまった。
そして今度の猿型怪人ショーモン討伐を目的とした作戦で、今度は元戦闘員9711号である欠番戦闘員の愛機に助けられたらしい。
運命の皮肉と言う奴を実感した白木は笑みを零しながら、銃剣のトリガーを引き念願の一撃を解き放った。
そしてナインが主催するゲーム、その第三ステージは欠番戦闘員不在のまま決着を迎えるのだった。




