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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第1章 新世代
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18. 嘘


 セブンの病室に向かう道すがら、黒羽は大和の怪我が思ったより酷いと言う事に気付いていた。

 ベッドの上で安静にしている分には兎も角、牛歩の如き速度で歩くことすら今の大和には困難のようだ。

 歩みを進めるたびに大和は傍目に見ても分かる程に顔を歪め、負傷の箇所である腹部に手を当てていた。

 ガーディアンの新世代である荒金の放った一撃は、大和に対して重いダメージを残したらしい。

 しかし大和は自分の体のことよりセブンの方が気になるらしく、痛みに耐えながら一心不乱に彼女の病室へと向かっていた。


「…博士、大丈夫ですか!!」

「声が大きい、此処は病院」

「そ、そうですね…。 あ、すいません、そういえばお見舞いの品を忘れました。 今から下の売店で花でも…」

「別に要らない」


 セブンの病室に到着した大和は、部屋に飛び込むや否や大声でセブンに対して呼びかけた。

 その呼びかけにベッドに横たわっていたセブンが、何時も通りの鉄化面の如き無表情で出迎える。

 ベッドの上のセブンの姿は黒羽の記憶にある少女と比較して、明らかにやつれているようだった。

 しかしその瞳にはしっかりと意思が宿っており、支離滅裂に喋り始めた大和の言葉に冷静な声で応えている。

 その姿は寿命が間近に迫っているようには見えず、大和とセブンのやり取りを眺めながら黒羽は内心で一安心していた。






 暫くして大和が落ち着き、三代たちを含めた一行はセブンのベッドを囲うようにそれぞれ椅子に腰を掛ける。

 そして三代がセブンが意識を失っていた間に起こった事を、簡潔にまとめて彼女に聞かせた。

 セブンは自身の体のことやナインの話でさえ、眉一つ動かさず無表情を貫きながら耳を傾けていた。


「…博士は自分の体の事を知ってたんですか?」

「私がリベリオンで製造された存在である事は理解していた。 しかし時限装置の件は初耳…」

「でも何となくは気が付いていたんじゃ無い? 何処か行き急いでいたものね、あなた」

「そうかもしれない…」


 流石に自分が全うな産まれ方をしていない事を把握していたセブンであるが、どうやら体に仕掛けられていた時限装置の事は知らなかったらしい。

 悪の組織リベリオン、怪人の体内に機密保持機能と言うある種の抹殺装置を仕込むような者たちが集まる場所である。

 自身の体に時限装置などと言う代物が仕掛けられていると言う話は、別段驚くようなことでは無いだろう。

 しかし三代の見立てでは、セブンは無意識の内に自身に時間が無い事に気付いていた節があるように見えた。

 まだ自らの手で最強の怪人を生み出そうとしていた頃のセブンは、一分一秒を惜しむように研究を行っていた。

 その様はまさに鬼気迫るもので有り、この命が尽きる前に夢を叶えようとしているようであった。


「…学校の方は?」

「とりあえず前に攫われた時みたいに、休学扱いにしておいたわ。 あんまり休み過ぎると、そこの戦闘員くんみたいに留年するから気をつけてね」

「ちょっと、俺は関係ないでしょう!!」


 今の有様ではとても学校に通える筈も無く、三代 八重と言う生徒は二度目の休学と言う事になっていた。

 昨年に長期入院と言う名目で一度休学していた事もあり、今回のセブンの休学は学校側で問題なく受け入れられている。

 今回は学内でセブンが突然意識を失う衝撃的シーンを目撃している者が多数あり、前回よりセブンを心配する人間が多いほどだ。

 とりあえず暫くは学校を休んでも問題無いだろうが、今の状態が長く続けば進級のための出席日数が足りなくなる事は眼に見えている。

 三代の言う通り早めに学校に復帰しなければ、かつての大和のように留年は免れないだろう。


「残念だけど来月の修学旅行は欠席せざるをえないでしょうね…」

「理解している。 彼女に詫びなければ…」

「…詫びる?」

「修学旅行先で一緒に観光すると約束していた…」


 三年生の時期は受験に集中するために、高校生活の一大イベントである修学旅行を二年生の時に行うのが主流だろう。

 セブンが通う高校もそれに漏れず、高校二年生であるセブンは来月実施される修学旅行に参加する予定であった。

 どうやらセブンは一高校生らしく、学校で友人関係となったあの少女と修学旅行中に一緒の行動する約束をしていたようだ。

 セブンの口から出た言葉は、あくまで友人との約束を破った事を悔いている物であった。

 しかし相変わらず表情を全く変えない物の、僅かに翳ったその口調はそれ以外の感情を含んでいるようにも聞こえる。

 セブンは最強の怪人を作りだすと言う妄執染みた夢を捨て、少し前まで一高校生としての生活を楽しんでいるように見えた。

 一年前のセブンならば絶対に抱かなかったであろう感情が、今のセブンの内に渦巻いているのだろう。

 そんな目の前の少女の気持ちを察した大和は、セブンを慰めるためにまたもや病院である事を忘れて声を張り上げたのだ。


「安心して下さい、俺がナインのゲームに勝てば全部解決です!

 修学旅行は無理でも、代わりの旅行なら幾らでも行けるようになりますよ!! っ痛ぅぅぅ…」

「君も怪我人なんだぞ、そんなに大声を出したら体に響くだろう。 そもそも、その怪我で戦いは無謀では…」


 修学旅行に行けない事は残念であるが、生きていれば取り返しは幾らでも付く。

 大和は改めてセブンの命を救うためにナインのゲームに勝利する事を誓い、気合を入れすぎた余りに傷の痛みに悶える事なってしまう。

 まるでコントのように自爆をして苦しむ大和の姿は、黒羽の眼にはとても次のナインのゲームで戦えるようには見えなかった。

 この様子では大和は怪我をおしてでも次のゲームに参加する事だろう、そして今の状態の大和がナインの用意した怪人に勝つことが出来るのだろうか。


「そ、それは大丈夫です…、今回手に入れた記憶媒体によると次のゲームは二週間後と有りました。

 三代さんの見立てでは俺の怪我が完治するのは、丁度その頃合らしいんで…」

「その体に感謝しときなさいよ。 普通の人間だったら、そんな短時間で完治する訳無いんだから…」

「そうか、負傷を完治させてから次のゲームに挑めるのか。 それなら…」


 しかし黒羽の懸念は杞憂に終わったようだ。

 どうやらナインが指定したゲームの日取りは、幸運な事に大和の負傷が完治した後になるらしい。

 それならば大和の勝ち目も十分にあり、セブンを救うための情報を集めることも叶うだろう。

 今の負傷した状態の大和が戦いの場に出ることが無いと聞いて、黒羽は安心したような笑みを浮かべた。

 隣に居たかつてのガーディアン時代の相棒、白木が険しい顔をしている事に気付く事無く…。











 余り長いしてはセブンの体に障ると言うことで、黒羽たちはあれからすぐにセブンの病室を後にしていた。

 そして大和の方もまだまだ安静が必要な状態であり、大和の病室に戻ってすぐに解散と言う流れになった。

 病院を後にした三代と白木と黒羽、黒羽以外はそのままガーディアン基地に戻るらししい。

 三代の運転する車の後部座席には、白木と黒羽が並んで座っていた。

 これは足の悪い黒羽を家まで送った方がいいと白木が提案し、三代がそれに応じた結果が現在の状況である。

 そんな帰りの車中、運転する三代に対して黒羽は内心で疑問に思っていた事をぶつけていた。


「…三代さん、大和と八重君をガーディアンの息が掛かった病院に置いておいて大丈夫なんですか?

 八重君は兎も角、大和の体が普通で無いことはすぐにバレるのでは…」

「馬鹿ね、普通に考えて大丈夫な訳無いでしょう」

「へっ…、ちょっとそれは!?」


 その発達した頭脳を除いて常人とほぼ変わらないセブンが、普通の人間と同じように病院に入院していても問題無いだろう。

 しかし体の何割かを人工物に置き換えられている、元戦闘員の大和が人間用の病院に居るのは問題しか無いように思えた。

 幾ら三代のコネが有るとはいえ、あの病院はガーディアンの息が掛かっている場所である。

 そんな場所に元戦闘員である大和が入院している事は、どう考えても余りよろしくない状況だろう。

 そして黒羽の至極全うな懸念は、三代によってあっさりと肯定されてしまう。


「多分、私たちは見逃されているのよ。 今の状況を作り出しているお偉いさんは、戦闘員くんに利用価値を見出している。

 そうで無ければ、あそこに運び込まれた時点で戦闘員くんは拘束されて、何処ぞの研究室辺りに送られている筈よ」

「待って下さい、三代さんは大和が拘束される可能性があったにも関わらず、あそこに彼を入院させたのですか!?」

「仕方無いでしょう、私のラボの設備だけでは戦闘員くんを修理出来なかったんだから。

 まあ、一種の賭けだったけど、結果オーライって奴よ」


 ファントムが負傷した大和を三代の元に連れてきた時、大和は三代ラボの設備では手に負えない程のダメージを負っていた。

 あの時の大和を修理するためには、ガーディアンの息が掛かったあの病院の設備に頼るしか無かったのである。

 三代の言う通り大和をあの病院に運び込むのは博打に近く、下手をすれば大和だけでなく三代の身も危なくなっていたに違いない。

 勿論、三代が必要としたのは病院の設備だけであり、大和の修理は病院の人間を締め出した上で三代単独で行った物だ。

 基本的に三代以外が大和の体に触れることは無く、病院の人間は誰もあれがリベリオンの元戦闘員だとは気付く事は無いだろう。

 しかしそもそもガーディアンの一研究者でしか無い三代が、このような我侭が許されている時点で何かの力が働いている事は明白であった。

 欠番戦闘員こと大和にこのまま退場して欲しく無い誰か、今の正義と悪の構図を引いている人物が三代の横紙破りとも言える行為を見逃したのだろう。


「…とりあえず三代さんの想像通りなら、大和や八重君に危険が及ぶことは無さそうですね。

 良かった、それなら大和はあのまま病院で、次のゲームの日までに十分に体を癒せます」

「ああ、日程の件は大嘘。 本当の次のゲームの日時は五日後よ、勿論、その頃は戦闘員くんの怪我は完治していないわ」

「えっ…。 そ、それじゃあ大和に安心させるために、そんな嘘を…。 しかしそれでは八重君は…」


 三代の想像通りに何らかの力が働いているのならば、病院に居る大和に危険が及ぶことは無い。

 大和の安全が確認できた事で一安心した黒羽であったが、次に飛び出してきた三代の言葉に仰天することになる。

 何んとセブンの命が掛かったナインのゲーム、その第三ステージの日時が二週間後では無く僅か五日後で有ると言うのだ。

 この嘘の意図は明白である、負傷した大和を病院で大人しくさせるための方便である事は間違い無いだろう。

 次のゲームが二週間後である事を完全に信じている様子の大和は、あのまま大人しく病院で療養してくれるに違いない。

 しかし大和が次のゲームに参加しないと言うことは、セブンを救うための情報を得られない事を意味する。

 セブンの命を見捨てるに等しい三代の嘘に対して、黒羽は明らかに戸惑っている様子であった。


「…僕があいつの代理だ、僕があいつの代わりにゲームに参加するよ」

「白木…。 もしかしてお前は…」

「あいつの負傷は僕たちガーディアンの責任でもある、此処でその借りを返さなければ…。

 命に代えてもあの少女を救うための記憶媒体を手に入れて見せるよ、黒羽」


 セブンの身を案じる黒羽の言葉に応えたのは、三代ではなく彼女のかつての相棒の少年であった。

 大和の身を案じ、彼の代わりナインのゲームに参加する事を決意した白木は黒羽に対して決意表明をする。

 相手は新世代たちすらも蹴散らすナインの怪人、旧世代である白木がそれに挑むのは無謀としか言えないだろう。

 しかし正義を名乗る者として此処で引くわけにもいかないと、白木の眼には不断の覚悟が見られた。

 そんな決意を秘めた白木の姿に、黒羽はかつての相棒に対して掛ける言葉が見つから無かった。


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