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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第1章 新世代
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16. 人質

 始まりは家族の復讐だった。

 平凡な一般家庭を襲った悲劇、荒金の両親はリベリオンの素体捕獲任務の被害にあっていた。

 悪の組織によって家族を奪われて絶望した荒金は、復讐のためにガーディアンへ入ったのである。

 運良くコアの適正が有った荒金は、トントン拍子でガーディアンの戦士への道を進む。

 そしてコアと言う宇宙から送り込まれた人外の力に触れた荒金は、知らず知らずの内にその力に魅了されていった。

 否、魅了されたと言うよりは、溺れていたと言う方が正しいだろう。

 バトルスーツを着る事によって得られる力、コアの力から得られる万能感に荒金は夢中になった。

 この力が有れば家族の仇を取れる、荒金は一途にそう信じながらガーディアンの訓練生として訓練に励んでいた。

 しかし荒金の認識を一変させる事態が起きたのだ、あのリベリオンによるガーディアン東日本基地侵攻時の事である。


「俺の力はこんな物だったのか。 欠番戦闘員、俺にあの力があれば…」


 荒金はコアと言う力を手に入れ、ガーディアン訓練生として十分な訓練をを積んでいた筈だった。

 しかし初めての実戦で荒金は家族の仇と言える、あのリベリオンの怪人に完膚無きまでに敗北してしまう。

 そして荒金を倒した怪人を意図も容易く倒して見せた欠番戦闘員、これらの出来事は荒金の積み上げてきた物を粉々に打ち砕いた。

 以降、荒金はより強い力を…、あの時の欠番戦闘員のような力を追い求めるようになった。

 何時しか亡き家族への思いも荒金の心の中から消えていき、力とその力の象徴である欠番戦闘員に対する執着のみが残されるのだった。











 フェザーが欠番戦闘員との戦闘に参加したことにより、人知れず解放されていた狐型怪人。

 しかし束の間の自由はすぐに終わりを迎えた、目敏くフォクスの存在を目に留めていた荒金の手によって…

 先日の欠番戦闘員と熊型怪人ベアームとの戦闘において、欠番戦闘員がべアームから何かを回収していたと言う情報は荒金の耳に入っていた。

 そして熊型怪人と同じ"Ⅸ"の刻印が刻まれた狐型怪人が居るとなれば、欠番戦闘員がこの場に現れた目的は察することが出来る。

 戦闘を水屋に任せた荒金は虫の息の状態で地面に転がされていたフォクスに近寄り、大和に先んじて件の記憶媒体を手に入れたのである。


「…新世代たちをこうも鮮やかに倒すとは、流石は欠番戦闘員と言った所だよ。 しかし勝つのは俺たちだ!」

「オ前…」

「これを壊されたく無いなら、そこから動くなよ…。 勿論、今の言葉はその隣の黒いバイクも含んでいるからな!!」


 恐らく自分たちガーディアン新世代と互角であろう、リベリオンの新世代たちを蹂躙した欠番戦闘員。

 確かに自分たちは旧世代に比べて強くは無かった、しかし残念ながらその力は未だに欠番戦闘員に及ばないようだ。

 自らの身体を改造してまで手に入れた新世代と言う力では、あの欠番戦闘員の力に勝つことは出来ない。

 内心で忸怩たる思いを胸にしながらも、それを表情に出すこと無く荒金は力以外の別の方法で欠番戦闘員に勝とうと試みる。

 それは欠番戦闘員の求めている記憶媒体を人質とする、正義の味方に有るまじき卑怯な手段であった。


「おい、荒金。 それは流石に卑怯じゃ…」

「なら、このまま真っ当に戦って負けるのか? 紫野司令にあれだけ大口を叩いておいて、負けましたなんて事になれば新世代の名折れも良いところだろうが!!」

「…解ったよ」


 今回のガーディアンの新世代たちの作戦行動は、荒金たちが紫野司令を口説き落として半ば無理矢理行わせた物である。

 ガーディアンにおいてアンチ欠番戦闘員の筆頭である紫野司令に対して、欠番戦闘員を新世代の力出倒して見せると大見得を切って初めた今回の作戦。

 これで欠番戦闘員に負けてガーディアンに戻ろう物ならば、荒金たち新世代が紫野司令から何を言われるか解った物では無い。

 少なくともガーディアン内での新世代の価値は暴落する事は明白であり、荒金たちが今の地位を守るためにはどのような手を使っても欠番戦闘員に勝つしか無いのである。

 曲りなりにも正義の味方である水屋は最初は荒金の卑怯な手段に難色を示したようだが、自分たちが置かれた状況を察して渋々と荒金に乗る選択をしたようだ。

 覚悟を決めたらしい水屋と共に荒金は、記憶媒体を見せびらかしながら欠番戦闘員へと近付いていく。

 バトルスーツを纏っている今の荒金の力であれば、脆い記憶媒体など刹那の時で破壊されてしまうだろう。

 あの記憶媒体にはセブンを救うための情報が入っており、荒金は知らず知らずの内にセブンの命を人質に取っているような状況となっている。

 大和にセブンを見捨てるような選択を取れる訳も無く、内心で激しい怒りを覚えながらも大和はただただ荒金の指示通りにその場で固まっている事しか出来なかった。

 記憶媒体を人質に取られた大和は、このまま荒金たちガーディアン新世代たちの手に落ちてしまうのだろうか。






 今回の荒金たちの対外的な作戦目的は、謎多き欠番戦闘員の捕獲である。

 勝利を確信した荒金は記憶媒体を片手に大和の数メートル先、大和が近づく前に記憶媒体を破壊出来るだけの時間を稼げるだけの場所に陣取った。

 その背後には正義のガーディアンとして荒金の卑怯な行動を内心で不満に思っているのか、険しい顔をした水屋が立っている。


「さて、まずはバトルスーツを解除して貰おうか」

「…」

「よし、次はインストーラをこちらに…」


 荒金たちがリベリオンのような悪の組織であれば、此処で憎き欠番戦闘員こと大和に暴行を加える事もあっただろう。

 しかし仮にも正義を名乗るガーディアンがそのような真似をする筈も無く、荒金たちは早々に欠番戦闘員をガーディアン東日本基地へと連行する準備を始める。

 まずは順当に欠番戦闘員を無力化するために、荒金は欠番戦闘員に対してバトルスーツの解除を命じる。

 欠番戦闘員こと大和は荒金の指示に従い、無言のままバトルスーツを解除して黒い戦闘員服姿へと戻った。

 ただし頭のフルフェイスのマスクは別枠のため、大和はフルフェイスマスクに戦闘員服と言う奇妙な格好となってしまう。

 こちらの指示に従う欠番戦闘員の姿に笑みを浮かべながら、荒金は次にインストーラを渡すように命じようとする。

 しかし荒金が言葉を終える前に、それは唐突に復活を遂げた。


「……欠番戦闘員っっ!!」

「なっ、怪人!?」


 荒金たちの背後から聞こえてくる怨念じみた声、その声の主は先程大和に撃ち落とされた筈の鳥型怪人フェザーであった。

 確かにコア八割出力のリソースのほぼ全てを、肉体強化につぎ込んでいる欠番戦闘員から放たれる投擲は非常に強力だろう。

 しかし相手は頑強な怪人であり、加えてバトルスーツを纏うことによって防御面においてもより強化された相手である。

 空中から墜落した時の衝撃で一瞬気を失っていた物の、ただの一度の投擲を喰らっただけで鳥型怪人フェザーが戦闘不能になる筈も無いのだ。

 意識を取り戻して復活を遂げたフェザーは、欠番戦闘員に対する怒りを滲ませた怒声を周囲にあげる。


「…コレハ返シテ貰ウ」

「くっ…、欠番戦闘員!! このぉぉぉ!!」

「ッグゥゥ!?」


 鳥型怪人フェザーの復活は、欠番戦闘員こと大和を注視していた荒金たちの視線を一瞬だけで逸した。

 そしてファントムの分析によって密かにフェザーの復活を予期していた大和が、その絶好の好機を逃すはずもない。

 先程バトルスーツを解除していた大和は戦闘員服のまま荒金に向かって飛びかかり、こちらに見せびらかすように掲げている記憶媒体に手を伸ばす。

 そして大和は見事に荒金から記憶媒体を奪取し、掌中にセブンの命を救う鍵を納めた。

 しかし荒金もただ棒立ちになっている訳も無く、記憶媒体が自分の手から離れた事に気付いた荒金はすぐさま反撃に出たのだ。

 記憶媒体を奪取した直後の手の届く範囲に居る欠番戦闘員に対して、荒金は赤色の手甲を嵌めた右腕を振るう。

 改造によって強化された体、その体が耐えうるコア五割程度の出力を出しているバトルスーツ。

 新世代と呼ばれるガーディアンの戦士の放った拳が、バトルスーツを解除した大和に届いたのである。

 バトルスーツが無ければただの戦闘員でしか無い大和にそんな一撃が耐えられる筈もなく、大和の体はそのまま吹き飛ばされてしまった。


「"あぁ、マスター!!"」

「"…ファントム、後は任せた"」


 荒金の放った一撃は大和に致命的なダメージを与え、大和は身体にバラバラになるような衝撃を覚えていた。

 セブンの命綱である記憶媒体を落とさないように、大和は朦朧とする意識に活を入れる。

 そして慌ててこちらに近付いてきたファントムに記憶媒体を預け、最後の力を振り絞って愛機に跨った所で大和の意識は遠のいく。

 意識無き主を乗せた亡霊はすぐさまステルスを発動させ、フェザーとの戦闘を繰り広げる荒金たちを尻目にこの場を立ち去るのだった。


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