15. 三つ巴
リベリオンとガーディアンの新世代たちが険悪である事は、大和に取っては望ましい展開であった。
此処で新世代たちが共闘して一斉に襲いかかってくる、それは大和の考える最悪のシナリオだったからだ。
大和としては出来ればこのまま、こちらを無視して正義の悪の戦いをやって欲しいところである。
しかし互いに敵対組織の新世代を警戒しながらも、欠番戦闘員の方から視線を外さない様子を見るとその展開は無さそうである。
あくまでこの場に現れた連中の第一目標は、迷惑なことに欠番戦闘員こと大和である事は変わらないらしい。
「波動よっ!!」
「オォォォォンッ!!」
「クッ…」
そして新世代たちと大和との戦いが再開された。
武者鎧姿の水屋が刀型インストーラを上段に振るい、そこからコアから引き出されたエネルギーを利用した衝撃波が飛ぶ。
それと同時にハウンドの吠え声が轟き、お得意の指向性を持った音の衝撃波が放たれる。
目標は勿論、新世代たちの丁度中間に位置していた欠番戦闘員こと大和であった。
即座に大和はその場からの離脱を試み、同時にファントムもまた再びステルスで姿を消しながら退避を試みる。
次の瞬間、先程まで大和とファントムが居た場所で水屋とハウンドの攻撃が衝突し、土埃を舞い上がらせる激しい爆発が起きた。
「"……解ッタヨ、ダッタラ全員黙ラセテヤル。 ファントム!!"」
「"おぉっ、マスターが切れた!? これは血の雨が振りますねー"」
新世代たちの遠慮が見られない容赦ない攻撃、それは大和に有る心情の変化を促していた。
繰り返すようであるが大和の本来の目的は新世代たちの打倒では無く、あくまでセブンを救うための情報を得ることにある。
それ故に大和は出来るだけ新世代たちとの戦闘を回避し、ナインが寄越した狐型怪人フォクスを回収して退避したかったのだ。
しかし状況は大和の望むようには進まず、新世代たちはセブンを救う情報を得たいこちらの邪魔ばかりしてくる。
そのため大和から見ればこの新世代たちは、間接的にセブンを殺そうとしているとしか思えなかった。
セブンやナインの事情など知る筈も無い新世代たちに対して、このような感情を抱くことは筋違いである事は解っている。
だが理屈では無く感情で最早新世代たちに対しての我慢が効かなくなった大和はこの時、初めて明確に新世代たちへの敵意をむき出しにした。
ファントムの言葉通り、新世代たちに対して大和の堪忍袋の緒が切れたのだ。
欠番戦闘員こと大和の反撃、その最初の犠牲者は鳥型怪人フェザーであった。
フェザーはお得意の空中からのヒットアンドアウェイを行うため、何時の間にか翼をはためかせながら空中へと飛び上がっていた。
翼と一体化した腕を持つ鳥型怪人フェザー、その体には軽鎧型のバトルスーツを纏っていた。
その首元にはコアが埋め込まれたチョーカー型のインストーラが巻かれており、フェザーの闘志に反応して激しい光を放ち始めていた。
そしてコアの光に呼応するかのように、フェザーの翼にも光り始めたでは無いか。
「ふははははは、欠番戦闘員! この刃の翼で貴様を切り裂いてやるわ!!」
その口振りから恐らくフェザーが身に纏うバトルスーツ、そのコアの能力は自身に斬撃能力を付与する物だったのだろう。
近距離戦闘しか能の無い欠番戦闘員に対しての絶対安全圏である空中から、刃とかした翼で襲いかかるフェザーの一方的に襲いかかる。
前回の戦いでも大和はフェザーの空中からのヒットアンドアウェイ攻撃に翻弄されて、空を舞うフェザーに対する攻撃手段の無い大和は苦戦を強いられていた。
あの時はファントムのサポートが無ければ敗北していた可能性が高く、それだけフェザーは欠番戦闘員こと大和に取って相性の悪い敵と言えるだろう。
ただしそれは一年前の欠番戦闘員こと大和と言う但し書きが付くが…。
「…マズハ一体!!」
「グァ!? な、何だとぉぉぉっっ!?」
フェザーの敗因は地上に居る大和への注意を疎かにした事であろう。
欠番戦闘員は空中に居る自分に対抗する手段が無いと言う思い込みが、フェザーの警戒を他に逸したのだ。
衝撃波のような物を放つ能力を持つガーディアンの新世代、そして欠番戦闘員をサポートする小癪な黒い亡霊。
大空を舞う自分に対して抵抗しうる力を持った存在を警戒したフェザーは、大和がこちらに向かって投擲姿勢をしている事に寸前まで気づかなかったのだ。
そして放たれた氷の投擲弾、大和が新たに手に入れた遠距離攻撃を回避する余地はフェザーに残されていなかった。
コア八割解放によって高められた大和の肉体能力、その全パワーを一点に込めたそれはまさに弾丸と言えるだろう。
体に走る凄まじい衝撃と痛み、そのダメージに耐えきれずに地上へと落下していくフェザーの叫びが宙空で響いた。
空中に居たフェザーの墜落、それは大和を追いかけ回していた新世代たちの目にも入った。
水屋とハウンドの攻撃を避けながら氷の弾丸を生成し、一瞬の隙を付いて放たれた大和の渾身の投擲。
それは見事にフェザーを打ち倒し、新世代たちに対して欠番戦闘員の遠距離攻撃と言う新たな脅威を知らしめたのだ。
「なっ…」
「欠番戦闘員が飛び道具だと!?」
水屋やハウンドは欠番戦闘員が近接戦闘しか能が無いと言う前提を信じ、これまでアウトレンジ攻撃に徹していたのだ。
この距離を維持すれば負けることは無い、彼らは対欠番戦闘員としての必勝法としてこの戦法を選んでいた。
しかし今のフェザーを打ち倒した一連の流れは、その大前提を崩す衝撃的な光景であったろう。
新世代たちは欠番戦闘員の遠距離攻撃と言う新たな情報を消化するため、ほんの一瞬であるか大和から気を逸してしまった。
そしてその一瞬の隙を大和は見逃さなかった。
「"ファントム、やれ!!"」
「"アイアイサー、今度は失敗しませんよぉぉぉ! 喰らえ、ファントムちゃんフラッシュゥゥゥゥッ!!"」
恐らく新世代たちはファントムの得意技である目眩ましに対して、十分な警戒と対策をしていたのだろう。
ただ闇雲にファントムの目眩ましを発動しても、恐らく何らかの手段でやり過ごされていた可能性が高い。
しかしこの瞬間、欠番戦闘員の遠距離攻撃によるフェザーの撃墜と言う衝撃な光景に気を逸した新世代には刺さるに違いない。
そして主の指示に従い再び姿を現した黒い亡霊より、激しい閃光が放たれた。
「ぁっ!?」
「ちぃ、小癪な…」
大和の思惑通り新世代たちは目眩ましをまともに受けてしまい、苦悶の表情を浮かべる事になる。
相手が無防備になった千載一遇の好機、これを逃すまいと大和はすぐさま次の行動に移った。
残念ながら水屋とハウンドは大和を中心にしてほぼ正反対に位置しており、両方同時に相手取ることは不可能である。
そのため大和は再び、新たに手に入れた力に頼ることにした。
再び掌中生成された氷の弾丸、それを一方に投擲した大和はその結果を見ること無くもう一方の方へと駆け寄る。
とりあず一方は氷の弾丸で牽制しておき、もう一方は此処で確実に潰しておこうと言うのが大和の腹積もりであった。
そして優先された相手、それはファントムのステルスを見破ることが出来る犬型怪人ハウンドだ。
目を潰されて無防備を晒しているハウンドに対して、大和は拳を振り上げながら襲いかかる。
「ッ!?」
「馬鹿め、例え目が見えなくとも音で貴様の位置など丸わかりだ!!」
しかし大和を出迎えたのは、未だに視力が回復していない筈のハウンドの反撃であった。
まるでこちらの位置が解っているかのように振るわれた腕に、大和はハウンドへの攻撃を防がれてしまう。
大和は失念していたのだ、ハウンドの持つ音を操る能力の事を…。
この新生ハウンドであれば例え視界が効かなくとも、周囲の音を拾うことで大和の位置を探るなど造作も無いだろう。
「この程度でこのハウンド様が…」
「…ダガ、此処ハ俺ノ距離ダ。 落チロッ!!」
大和を思惑を挫いたハウンドであるが、そこがこの犬型怪人の限界であった。
確かにハウンドはファントムの目眩ましを利用した大和の奇襲を、新世代として得た自身の新たな力で防ぎきった。
しかし大和に接近を許した事は事実であり、この距離は欠番戦闘員が最も得意とする殴り合いの舞台である。
特殊能力を重視して製造されたハウンドは元来、肉体能力が物を言う野蛮な近接戦闘は余り得意では無い。
そんな特殊能力寄りのハウンドが、肉体能力に全振りしている欠番戦闘員にクロスレンジで迫られてはどうしようも無いだろう。
そして新生ハウンドは健闘むなしく、数合の格闘を経て再び欠番戦闘員に敗北してしまうのだった。
ハウンドを倒した大和が振り向いた時、そこには目眩ましから回復しつつ有る水屋の姿があった。
どうやら先ほどの氷の投擲は、分厚い装甲を持つ鎧武者型のバトルスーツを倒すには些か威力が足りなかったのだろう。
先程は狙いを付けている暇も無かった事もあり、運悪く装甲の一番厚い所に命中したそれは水屋に僅かばかりのダメージしか与えなかったようだ。
刀型インストーラを大和に向かって構える水屋はやる気十分であり、どうやらまだ戦いは続きそうな様子だ。
大和は右掌中に再び氷の弾丸を生成しながら、鎧武者姿の水屋と向かい合った。
「…おっと、そこまでだ、欠番戦闘員!! これがお前の目当ての物なんだろう?」
「ナッ…」
しかし大和と水屋の戦いは、この場に居るもう一人のガーディアンの新世代によって水をさされる。
派手な金色のスーツ型のバトルスーツを身に纏う荒金が、有るものを右手に携えながら大和に向かって呼びかけたのだ。
荒金の手に持つそれの正体に気付いた大和、その覆面の下の顔色が変わる。
それは大和の本来の目的であるセブンを救うための情報が詰まった、ナインのゲームの戦利品では無いか。
荒金の足元には狐型怪人フォクスが転がっており、どうやらあの新世代は大和たちが戦っている間に密かにあの記憶媒体をフォクスから回収したらしい。
欠番戦闘員の反応からこの記憶媒体の重要性を理解した荒金は、何か良からぬ事を考えているような嫌らしい笑みを浮かべていた。




