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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第1章 新世代
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14. ハウンド


 ガーディアンの新世代である茶木、そしてリベリオンの新世代の鮫型怪人を鮮やかに倒して見せた欠番戦闘員。

 欠番戦闘員の戦いぶりは荒金がかつて体験した、東日本ガーディアン基地での戦闘の記憶を呼び起こさせていた。

 まだ訓練生時代であった自分は初めての実戦に喜び勇み、そしてリベリオンの怪人に追い詰められると言う絶望を味わった。

 あの時あの場にあの欠番戦闘員が現れなければ、荒金は今この場に立っている事は無かっただろう。

 訓練生時代の自分は怪人を一蹴したあの凄まじい力を羨み、あの力を持つ欠番戦闘員の存在を酷く妬んだ。

 そして欠番戦闘員に追い付くために力を求め続け、荒金は新世代と呼ばれる存在へと成り果てたのだ。

 ある意味で欠番戦闘員と言う存在は、荒金に取って目指すべき到達点と言えるだろう。

 その目標へと追い付く瞬間が近付いている事に高揚した荒金は、知らず知らずの内に唇を歪めていた。


「"…ファントム、解っているな"」

「"当然です。 タイミングを見計らって、ファントムちゃんフラッシュをかまします。

 マスターはそのどさくさに紛れて…"」


 しかし当の欠番戦闘員こと大和は荒金の心情とは裏腹に、密かにこの戦闘から離脱するための算段を立てていた。

 ステルス機能によって身を隠しているファントムの目眩ましによって、この戦場に一瞬の混乱を作る。

 そして混乱した新世代たちを尻目に、狐型怪人フォクスを担いで離脱すると言うのだが大和とファントムが考えたプランであった。

 怪人の目さえも潰すファントムの目眩まし、その効果はこれまでの幾多の戦場において証明されている。

 大和の思惑通りに事が進められれば、新世代たちと相手取らなければならない戦場からの脱出も叶う事だろう。


「"やれ、ファン…"」

「…オォォォォォンッ!!」

「ッ!?」


 大和がファントムに対してゴーサインを出そうとした瞬間、見計らったようなタイミングで強烈な咆哮が辺り一面に響いた。

 気の弱い物ならばそれだけで怖気立ちそうな獣の遠吠え、それを成したのは犬型怪人ハウンドであった。

 それは全身を毛で覆われたイヌ化を思わせる体を持ち、そしてその上に四肢と胸部を覆う軽鎧型のバトルスーツを纏っている。

 そして頭部には顔の上半分を覆うヘルメットを被っており、コアが埋め込まえれている所を見るとあれがインストーラなのだろうか。

 未だに耳残るようなハウンドの重低音の咆哮に顔を顰めながら、大和は内心でハウンドの行動を訝しんでいた。

 犬型怪人ハウンドは指向性を持った音の衝撃波を放つと言う特殊能力を備えており、それを大和に向かって放ったのなら話しは解る。

 しかし今の咆哮はそのような物理的な威力は無く、単純にただ五月蝿いだけの叫び声でしか無かった。

 何故ハウンドはこのタイミングでこのような真似をしたのか解らず、大和はハウンドへの警戒心を高める。

 そしてハウンドの咆哮の意味はすぐに判明した。


「…そこか! 行け、眷属たちよ!!」

「「「「グルルルルルルッ!!」」」


 恐らく何処かで待機していたらしい戦闘用犬たちは、主の指示に従って一斉に大和たちの前に躍り出る。

 この犬たちは戦闘用に調整された生物兵器であり、小柄な子供なら丸呑み出来そうな程の巨体を備えていた。

 獰猛そうな獣たちは唸り声をあげながら、主の命に従い機械染みた正確さで行動を開始する。

 ハウンドのもう一つの特殊能力である戦闘用犬の操作能力、その能力を活かすために戦場へ戦闘用犬たちを連れてこない筈は無い。

 大和もハウンドが居る時点で戦闘用犬の存在は頭に入っており、何時ハウンドがそれを呼び出すか密かに警戒していたのだ。

 しかし戦闘用犬たちは大和を尻目に明後日の方向へと一目散へ向かい、何もない空間へ向かって飛びかかったでは無いか。


「"ちょっ、何でこちらの位置が…"」

「ッ!? 糞ッ!!」


 次の瞬間、大和は戦闘用犬達の目標を理解した。

 無線を通して届いた相棒の悲鳴、その事が意味する事は一つである。

 大和はマスクの下で舌打ちをしながら、慌てて戦闘用犬たちが群がる方へと向かう。

 そこには戦闘用犬たちによって地面に倒され、その衝撃でステルスが解除された黒いマシンの無様な姿があった。

 すぐさま大和は、ファントムに襲いかかる戦闘用犬たちを払い除けるために動き始めた。






 隠れ蓑を暴かれたファントムを守るため、大和は群がる戦闘用犬たちを次々に払いのけていく。

 幾ら戦闘用に調整されているとは言え、戦闘用犬一体一体の能力は怪人のそれに遠く及ばない。

 戦闘用犬たちは大和が軽く腕や足を振るうだけで、ファントムの周囲から吹き飛ばされていく。

 しかし幾ら大和が戦闘用犬たちを倒しても、次から次に新たな戦闘用犬が現れて切りが無い様子だ。


「ははははは、この新生ハウンド様の前にはその小賢しいマシンのチンケな偽装など無意味なのだ!!」

「ほう、やるな、ハウンド…」


 戦闘用犬たちに手を焼く欠番戦闘員の姿を見て、犬型怪人ハウンドはさも嬉しそうに高笑いをあげる。

 リベリオンの怪人たちは一年前の戦いで、欠番戦闘員に寄り添う亡霊に手を焼かされてきた。

 彼らがファントムを警戒するのは当然であり、どうやらハウンドは何らかの方法で亡霊の居所を暴いたらしい。


「"…ちぃっ、やっぱり数が多い! ファントム、前のように音で奴らを封じろ!!"」

「"アイアイサー! 行きますよ、ファントムちゃんウェーブ!!"」

「キャン!?」「アォン!?」「オォン!?」


 近接戦闘に特化し一体多の状況に弱い欠番戦闘員には、数で攻めてくる戦闘用犬の相手は辛いものがあった。

 有効な攻撃方法は両の拳や足の徒手空拳しか無い大和に取って、多数の戦闘用犬たちを一度に倒すことは難しい。

 そのため大和はファントムに対して、一年前に対ハウンド用に搭載させたある機能の発動を命じる。

 大和の努力によって一時的に自由を取り戻したファントムは、すぐさま主の指示に従い外部スピーカーを起動した。

 ファントムの外部スピーカーから発せられる特殊な音波、人の耳には届かない周波数の音域は戦闘用犬たちを苦しめる。

 途端に戦闘用犬は地面にのたうち回り、ファントムの活躍によって戦闘用犬たちの無力化に成功したようだ。


「はっ!? そんな小細工は新生ハウンド様には効かん! ォォォォォォォンッ!!」


 しかしファントムの活躍は長くは続かなかった。

 ファントムの妨害音波を察知したハウンドが次の瞬間、再び虚空に向かって高らかと吠えたのだ。

 犬特有の突き出た鼻に合うように、顔の上半身のみを覆っているハウンドのヘルメット型インストーラ。

 そのヘルメットの額部分に嵌められたコアは、ハウンドの咆哮に共鳴するかのように光りを放っている。

 その声は先程と大声量による咆哮とは明らかに違い、大和の耳には殆ど届かない小さない声のように思えた。

 人には届かない周波数で放たれたハウンドの咆哮、その効果を大和はすぐ理解することになる。


「「「「…グルッ!!」」」」

「"なっ、ファントムちゃんの妨害音波が打ち消された! …うわっ、逆にこちらの外部スピーカーがやられました!!

 まさかこれがあの犬っころのスーツの能力!?"」


 何と先程まで苦悶の表情を浮かべていた戦闘用犬たちが、ハウンドの咆哮を聞いた途端に平静を取り戻したのである。

 ファントムはハウンドが何をやったのかすぐに理解した、今の咆哮は自分が放っていた妨害音波を打ち消したのだ。

 しかも先ほどのハウンドの咆哮の効果はそれだけでは無く、ファントムの外部スピーカーまで破損させる効果を見せたようだ。

 一年前のハウンドにはこのような芸当を出来なかった筈であり、必然的にこれは現在の犬型怪人のまとうバトルスーツの新たな力である事は明白であった。











 ハウンドのバトルスーツに嵌められたコア、その能力は音を操ると言う代物であった。

 音を指向性を持った衝撃波と言う攻撃手段にしか使えなかったハウンドに、このコア能力は新たな可能性を齎したのだ。

 例えば先程、ステルス機能でファントムを見つけた種は、音を利用したアクティブソナーにあった。

 ハウンドは自身の周囲に音の波を放ち、その反射音を拾うことによって姿なき亡霊の姿を見つけ出す事が出来た。

 そしてこの音を操る能力を応用すれば、ファントムの妨害音波を打ち消す咆哮を作り出す事も今のハウンドにとっては容易な事であった。


「はははははは、一年前とは違うのだよ、欠番戦闘員!!」

「「「「グララララッ!!」」」」

「チィッ!?」


 その言葉とおり、犬型怪人ハウンドの実力は一年前と比べ物にならない程高まっていた。

 戦闘用犬よる集団戦闘に音の衝撃波と言う遠・中間距離に活用出来る武器を持つ犬型ハウンドは、近接によるタイマン戦闘に特化した欠番戦闘員にはそもそも相性の悪い難敵である。

 事実、大和が以前にハウンドに完勝できた大きな要因は、大和の苦手分野をサポートするファントムの存在があった事にあるだろう。

 しかしバトルスーツと言う新たな力を手に入れた今のハウンドは、大和の頼みの綱であるファントムを尽く封じてしまった。

 欠番戦闘員は復活した戦闘用犬に再び翻弄され始めてしまい、その無様な姿に気を良くしたハウンドはご満悦の様子である。


「…吹き飛べっ!!」

「ギャンッ!?」

「クッ!?」


 しかしハウンドの笑みはすぐに凍りつくことになった、この場に居合わせる正義の味方たちの横槍によって…。

 此処には自分たちが居ると言わんばかりに、ガーディアンの戦士の水屋(みずや)が放った一撃は欠番戦闘員を巻き込んで戦闘用犬たちを吹き飛ばしたのだ。

 重厚な日本鎧風のバトルスーツを纏う水屋は、刀型インストーラを振り下ろした姿勢のまま大和たちを睨みつける。

 言わば侍型バトルスーツと言うべきにこのスーツの特殊能力、それはかつて初期の白仮面が使っていたエネルギー波と同じ物であった。

 コアから引き出したエネルギーをそのまま物理的な衝撃波として放つ能力、水屋は刀型インストーラからこれを発動させたのである。

 当然のように水屋は欠番戦闘員を助けるために、自身のバトルスーツの能力を発動させた訳では無い。

 ガーディアンの新世代たちもリベリオンの新世代と同様に、欠番戦闘員の首を狙ってこの場に姿を見せたのだ。

 此処でおめおめと獲物をリベリオンに取られる訳にもいかず、リベリオンに横槍を入れたまでの事である。


「ふんっ、俺たちを忘れて貰っては困るな。 欠番戦闘員の伝説はガーディアンが打ち破る!!」

「くくく、黙って見物していればいい物を…。 いいだろう欠番戦闘員共々、貴様達も血祭りに上げてくれる!!」

「…俺ヲ巻キ込マナイデクレヨ」


 戦闘用犬たちを一網打尽にするために能力を広範囲に広げた分、エネルギー波の威力事態は幾分か落ちたらしく先程の攻撃や大和の殆どダメージを与えなかった。

 一緒に巻き込まれて地面に横倒しになったファントムを起こしながら、大和は目の前の光景を見て憂鬱そうに溜息を漏らしていた。

 刀型インストーラをリベリオンの怪人たちに突き付ける水屋、それに応じるかのように獰猛な笑みを浮かべるハウンド。

 それぞれの隣には荒金とフェザーが、同じように敵意むき出しの表情で睨み合っている。

 本来の敵同士である彼らが欠番戦闘員と言う共通の敵が居るとは言え、互いに手を取り合う筈も無い。

 これから始まるであろう激闘を予感させる光景に、大和の内心は付き合いきれないと言う感情で一杯だった。



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