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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第1章 新世代
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10. 不穏


 一年前に関東支部と言う一大拠点を失ったリベリオンには、悪の巣窟となる新たな拠点が必要であった。

 そのためリベリオンはこの一年もの間、白仮面によって減らされた戦力の回復と並行して新たな拠点作りも進めていたのだ。

 そして誕生したのが此処"リベリオン第二日本支部"、悪の精鋭たちの新たなる住処である。

 第二日本支部、リベリオンたちの新たな拠点は、地下奥深くに掘られた広大な空間に作られていた。

 日本支部、そして関東支部と二度に渡って重要な拠点をガーディアンに落とされた悪の組織は、地上に拠点を設けるリスクを避けたのだ。


「くそっ、何なんだ、フッドを一蹴したあの怪人は!?」

「欠番戦闘員め、また我々の前に立ちふさがる気か…」


 第二日本支部のとある一室、そこに集まった異形の集団たちは互いに苛立ち混じりの言葉を吐き出していた。

 先の謎の熊型怪人べアームによる襲撃、そして一年振りに姿を現した欠番戦闘員。

 この緊急事態にリベリオンも動かない訳にはいかず、支部内の主要な怪人たちによる会議が始まっていた。

 怪人たちは新世代とされている兎型怪人フッドが、熊型怪人べアームに容易く破れた事に戦慄を覚えていた。

 人間を超えた最強の存在である筈のリベリオンの怪人たちは、かつて白仮面相手に手も足も出ないと言う屈辱を味わった。

 そして怪人たちは二度とあんな醜態を晒すまいと決意し、バトルスーツと言う人間の玩具に手を出してまで力を求めたのである。

 バトルスーツを纏う新世代と呼ばれる怪人たち、その中に名を連ねる兎型怪人フッドは新世代の名に相応しい実力を備えていた。

 フッドの敗北は新たなリベリオンの試みが否定されるのと同義であり、怪人たちの間に衝撃が走るのも道理であろう。


「そう悲観する事も有りませんよ…」

「キロス、それは一体…!?」

「先の戦闘記録を見たところ、フッドは不意を突かれて倒されたに過ぎません。 正面から戦っていれば、あそこまで一方的にやられる事も無かったでしょう」


 悲観する怪人たちを諌めるような、落ち着きの払った声が部屋の中に響いた。

 その声の主は全身が半透明に透けた奇妙な体をしており、頭部全体を覆う傘から触手状の足が幾重の垂れ下がっている。

 海月型怪人キロス、かつての蟹型怪人シザースに代わり組織の取りまとめ役となった幹部怪人である。

 キロスは新世代の怪人である兎型怪人フッドが敗れたのは、あくまでフッドが熊型怪人を味方だと判断した事による油断が原因だと言うのだ。


「新世代の力は本物です、彼らが力を合わせれば、例え相手が欠番戦闘員だろうと勝ち目は十分に有ります」

「…け、欠番戦闘員に負けないだと? 相手はあの欠番戦闘員だぞ!?」


 欠番戦闘員に勝てると言い放ったキロスの大言に、周囲に居た怪人たちを心底驚かせた。

 かつて圧倒的な力でリベリオンを蹂躙した白仮面の存在は、今でもリベリオンの者たちは脳裏に深く刻み込まれている。

 そしてその白仮面を見事に倒して見せた欠番戦闘員の名もまた、リベリオンで知らない者は居ないであろう。

 その伝説の存在に勝てるなどと言うキロスに対して、周囲の怪人たちは見るからに狼狽えていた。

 中には海月型怪人の正気を疑う怪人さえ居るようであり、それだけ欠番戦闘員の存在はリベリオンで重く見られているようだ。

 しかし全ての怪人たちがキロスの言葉に否定的であった訳では無く、その大言を好意的に捉える怪人たちも中には居たのだ。


「ははははっ、よく言ったぞ、キロス! 欠番戦闘員などこの新生ハウンド様の敵では無いわ!!」

「くっくっく、何時までも過去の遺物をのさばらせているのも考え物だからな…」

「漸く欠番戦闘員に借りを返す時が来たという訳だ!!」


 欠番戦闘員の名に腰が引けている怪人たちを押し退け、好戦的な表情を浮かべる血気盛んな怪人たちがキロス前の出てきた。

 一体は全身が厚い毛で覆われている、イヌ科の動物をベースにしたと思われる怪人。

 一体は腕と一体化した羽を持つ、鳥類をベースにしたと思われる怪人。

 一体はノコギリ状の鋭い歯が口元から見える、鮫をベースにしたと思われる怪人。

 犬型怪人ハウンド、鳥型怪人フェザー、鮫型怪人シャーク、かつて欠番戦闘員に敗れ去ったリベリオンの怪人たちである。

 欠番戦闘員被害者の会とも言える怪人たちの集団は、それぞれ首や腕や胸部に何かの機械を身に着けていた。

 その機械の中心に嵌められたコアの輝きから、それがリベリオン製のバトルスーツのインストーラである事は明白であった。

 バトルスーツと言う新たな力を手に入れて、新世代の仲間入りを果たした怪人たちは欠番戦闘員に対する敵愾心を燃やしていた。











 ガーディアン東日本基地内においても、欠番戦闘員の復活の一件は話題となっていた。

 最も欠番戦闘員と明確な敵対関係であったリベリオンと違い、間接的に協力体制を取っていたガーディアンではその情報に対する扱いも違う。

 ガーディアンの戦士たちの間では、欠番戦闘員の復活の報は概ね好意的に受け止められているようだった。


「はっ、今じゃ何処もかしこも欠番戦闘員の噂で持ち切りだな。 旦那も人気物になったもんだぜ」

「銀城だったか…、先の戦闘で欠番戦闘員に助けられたあの子が、その時の話をそこら中に触れ回ったんだ。

 あれが本当に正式コアを持つ戦士様かよ、端から見たらただの欠番戦闘員ファンクラブの会員様って感じだったよ」


 施設内にある食堂で土留は、簡易コアを持つ下級戦士たちのリーダーである黄田と共に雑談に耽っていた。

 リベリオンに取って欠番戦闘員が疫病神のような存在であるならば、ガーディアンに取って欠番戦闘員は救世主のような存在であった。

 リベリオンによる奇襲を許した東日本ガーディアン基地での戦い、まんまとガーディアンが出し抜かればリベリオンによるショッピングモールでの戦い、そして白仮面事変の戦い。

 ガーディアンを危機に陥れた幾多の場面で欠番戦闘員は颯爽と現れ、結果的に正義の味方であるガーディアンたち以上に正義の味方として活躍していた。

 そして今回もまた欠番戦闘員はガーディアンに襲いかかった熊型怪人べアームを返り討ちにし、何の見返りを求めず颯爽と姿を消した。

 欠番戦闘員の正体である大和の思惑はどうであれ、端から見た欠番戦闘員の姿はまさに理想的な正義の味方その物であるのだ。






 しかし正義の味方を標榜するガーディアンとは言え、そこに所属する者たちは感情のある人間である。

 妬みと言う正義の味方に有るまじき負の感情は、正義の味方である彼らの中にも備わっていた。

 欠番戦闘員の噂で持ち切りの食堂に現れた集団、ガーディアンの新世代と呼ばれる者たちは苦々しげな表情で辺りを見回す。


「ふんっ、何が欠番戦闘員だ。 青樹(あおき)の奴がヘマさえしなければ、新世代の面汚しが…」

「あれが伝説の欠番戦闘員様だ。 はっ、あの程度なら俺たち新世代の敵じゃあ無いぜ」


 青樹(あおき)とは先の戦闘で熊型怪人べアームに成すべくなく倒された、新世代のガーディアンの戦士が一人である。

 新世代、次代のガーディアンの戦力をなるべく、コアの出力に耐えうる体を手に入れるために自ら改造手術を受けた者たち。

 世界の平和を守るために結成されたガーディアンと言う組織には、世界中から集められた優秀な人間たちで構成されている。

 そして新世代たちはガーディアンの中で選ばれた存在、言わばエリート中のエリートと呼べる者たちあったのだ。

 そんな彼らを差し置いて尊ばれる欠番戦闘員と言う目障りな存在を、エリートに相応しい高いプライドを持つ新世代たちが見逃せるはずも無かった。


「気にするな、どうせ欠番戦闘員の伝説はこれでお終いだ。 何しろ俺たちの手で、あの戦闘員の化けの皮を剥いでやるんだからな…」

「旦那の化けの皮を剥ぐ!? てめー、それはどういう…」

「ガーディアンに所属しない者がバトルスーツを所持している、それだけで俺たちが動くには十分な理由だろう?

 今まではお情けで見逃しってやっていたが、今後はお目こぼしは無しって事だよ」

「…紫野(しの)のクソ野郎の命令だな。 あの陰険野郎!!」


 此処ガーディアン基地の司令を務める紫野と言う男は、以前から欠番戦闘員に対して否定的な意見を持っていた。

 恐らく新世代たちはこの紫野と共謀して、目の上のたんこぶである欠番戦闘員を排除しようと考えたのだろう。

 新世代たちの中心に立つ少年、荒金は欠番戦闘員の時代は終わったと高らかに言い放った。

 どうやら新世代たちと欠番戦闘員こと大和の接触は、秒読みの段階にまで迫っているようだ。




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