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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第2部 第1章 新世代
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0. 訓練生


 それは戦闘訓練すらまだ終わらせていない、ガーディアン戦士訓練生たちに取っては非常に絶望的な状況であった。

 彼らの宿敵である悪の組織リベリオンによる突然のガーディアン東日本基地襲撃、この緊急事態に本来なら前線に出る筈も無い彼らも駆り出された。

 この予期せぬ実戦投入に対して、二人の訓練生たちは喜んで火中に飛び込む事になる。

 一人は家族の仇を取るため、一人は身近な人間を守るため…。

 訓練生たちはそれぞれに譲れない物を胸に秘めて、自分から正義の悪の戦場に足を踏み入れることを決断したのだ。

 自分たちの力を試す瞬間を待ち望んでいた訓練生たちが、危険などと言う理由で実戦を躊躇うはずも無い。

 そして基地に所属する非戦闘員の救助活動を行っていた未熟な訓練生たちは、不幸にもリベリオンの怪人と遭遇してしまう。


「シャッシャッ!! 弱いなぁ、ガーディアン!!」

「糞っ…」

「あぁぁ…」


 基地の一角でリベリオンの怪人が、地面に膝をつくガーディアン訓練生たちを前に勝ち誇っていた。

 恐らくクワガタをベースにしたと思われる怪人は、頭部に生やした自慢の鋏を見せつけるかのように開いて閉じると言う動作を繰り返す。

 その怪人の足元には刀身が両断された大振りの剣が転がっており、訓練生の一人はその壊れた武器を忌々しそうに見つめていた。

 どうやらあの剣は軽鎧タイプのバトルスーツを身に付けている、この少年が使っていたの物のようだ。

 黄色に染められた少年の現代の鎧は所々罅が入っており、少年自身もダメージが有るようで額から血を流している。

 少年の隣では可愛らしいフリルが特徴的な、魔法少女型のバトルスーツを身に纏った少女が青い顔をして震えていた。

 少女の方は傷一つ無さそうであるが既に怪人を前に心が折れてしまったらしく、最早戦える状況では無いだろう。

 訓練生たちは怪人に遭遇した際に全力で逃げるように指示されており、それを無視した結果が今の有様である。

 こんな筈では無かった、それが自分の力量を弁えずに暴走した彼らの胸中にある言葉だった。






 自分たちの基地で我が物顔に暴れまわる招かざる客を止めるため、訓練生たちは果敢にも怪人へと立ち向かった。

 訓練生とは言え訓練生たちはコアに選ばれた正式なガーディアンの戦士であり、既に専用のバトルスーツを授与している。

 自分たちのバトルスーツが有ればリベリオンになど負けないと言う、根拠のない自信が彼らの中にあったのだろう。

 しかし現実は非常であった、訓練生たちは為す術もなく怪人に敗北を喫したのだ。

 複数の生物の長所を取り込んだ怪人と言う人外の力に追い付くため、ガーディアンの戦士たちはバトルスーツの力に頼っている。

 バトルスーツを使いこなす事によって、ガーディアンは初めて怪人の力と互角となるのだ。

 そして彼らは訓練をまだ終えていない訓練生でしか無く、バトルスーツの性能を十分に引き出せているかと言えば否である。

 訓練生の身で有りながら愚かにも怪人に挑んだ結果の敗北、これは至極当然と言っていい出来事であった。


「さて、貴様らなどに時間を掛けている余裕は無い。 さっさと片付けて、次の獲物を探すとするか…」


 自分が倒したガーディアンの戦士の無様な姿を一頻り眺めたクワガタ型怪人は、そろそろ戦いに決着を着ける気になったのだろう。

 リベリオンの怪人に取ってガーディアンの戦士は、自分たちの世界征服の邪魔をする敵でしか無い。

 この怪人が訓練生たちをこのまま見逃す理由は無く、このまま容赦なく彼らの息の根を止める気なのだろう。

 怪人の意図を察した訓練生たちの表情に絶望が浮かぶが、既に虫の息である二人の訓練生は既に怪人に抗う手段は残されていない。

 最早逃げることすら叶わず、彼らには自分たちの苦境を救う正義の味方の登場に期待するしか無かった。

 正義を自称するガーディアンの人間が正義の味方の登場を期待するなど、これほど都合のいい話は無いだろう。

 しかし絶体絶命となったその時、幸運にも訓練生たちの前に正義の味方が現れたのだ。


「ヤレヤレ、一体ドレダケ居ルンダヨ…」

「なっ、貴様は真逆…!? 面白い、この鋏の餌食にしてくれる!!」


 それは危機に瀕した訓練生たちの前に颯爽と現れた、黒尽くめの乱入者だった。

 黒を基調としたスーツを身に纏い、その上には炎を思わせる紋様が刻まれたブレストアーマーにガントレットが装着されている。

 同じく炎の紋様が描かれたフルフェイスで顔を覆ったそれは、何でもない素振りで怪人と訓練生たちの間に割って入ったのだ。

 突然の闖入者に一瞬驚いた様子を見せた怪人だが、すぐにその正体に気付いたらしく獰猛な笑みを浮かべた。

 訓練生たちの方もまた怪人と同じく、その見知らぬバトルスーツを着た人物の登場に心底驚いていた。

 この基地に所属しているガーディアンの戦士は全て顔見知りであり、彼らはこのようなスーツ型のバトルスーツを使う戦士は見たことが無かったのだ。

 しかし自分たちと同じバトルスーツを着ている事から、少なくとも敵では無いと判断した訓練生たちの胸に若干の安堵が芽生えていた。






 怪人の行動は早かった。

 上半身を前に傾けて自慢の鋏を突き出し、怪人はその乱入者を両断しようと突進してきたのだ。

 怪人が人外の力を全開にして迫り来るその姿は、まるでダンプカーが突っ込んでくるかのような威圧感である。

 迫りくる怪人の大鋏を前に黒い乱入者は両足を大きく広げ、ガントレットが嵌められた両腕を前方に伸ばす。

 どうやら怪人の鋏を受け止めようとしているらしい男の行動を、少年の方の訓練生は内心で無謀だと断じた。

 あの鋏は頑強に作られたバトルスーツの剣を両断する程の威力が有るのだ、それを受け止めるなど出来る筈は無い。

 少年は自分たちを助けようとする見知らぬ人物が両断される瞬間を幻視し、思わず瞳を閉じてしまう。

 次の瞬間、黒い乱入者と怪人の距離が零になり、激しい衝突音が辺りに響き渡った。


「…なっ!? このクワガー様の鋏が止められただと!!」

「オ返シダ! 喰ラエッ!!」

「ぐわぁぁぁぁっ!!」


 次に少年が瞳を開いた瞬間、そこには予想と大きく異る光景が広がっていた。

 何とあの謎の人物は有ろうことか、怪人の鋏を見事に受け止めてしまったのだ。

 怪人自身も自分の鋏が防がれた事が信じられないのだろう、呆然とした様子で目の前に居る黒い乱入者の姿を見つめる。

 幾ら怪人が力を込めようとも、自慢の鋏は黒い乱入者を両断する事が出来なかった。、

 そして鋏を止めた状態のまま、黒い乱入者は目の前の怪人と同じように勢い良く上半身を前に傾けた。

 すぐ正面には鋏を構えた状態の怪人が立っており、上半身を傾ければ男のフルフェイスのマスクは怪人の頭部と接触する。

 ヘッドバッド、両腕が塞がった状態で出来る唯一の攻撃。

 固いフルフェイスのマスクで頭部を強打された怪人は、その痛みで思わず鋏の力を緩めてしまう。

 それは両腕で鋏を防いでいた黒い乱入者が、両腕の自由を取り戻すことを意味していた。


「終ワリダッ!!」

「がはっ!? こ、これが…、噂の欠番戦闘員…」


 一瞬の隙を見逃すこと無く、黒い乱入者はフリーになった腕を怪人に向かって奮った。

 炎に包まれた拳によるフック気味の強力な一撃は、頑強な怪人の意識を一瞬で奪ってしまう。

 意識を失う怪人が最後に見た光景、それは両腕に炎を灯した黒いバトルスーツを纏う男。

 欠番戦闘員、リベリオンの怪人たちの間でも噂になっている謎の存在の姿であった。












 自分たちに猛威を奮ったあの怪人がいとも容易く倒された、まるで流れ作業のように怪人を倒した張本人の姿は既に此処には無い。

 あの黒い乱入者、欠番戦闘員は怪人を倒すと足早にこの場から立ち去ったのだ。


「…格好いい、あれが噂の欠番戦闘員なのね!! 人知れずリベリオンと戦う謎の戦闘員、本当に居たんだわ!!」


 訓練生の少女の方はまさに正義の味方と言う立ち振る舞いを見せた、あの欠番戦闘員の姿に感銘を受けたらしい。

 怪人が倒された事ですっかり元気を取り戻した少女は、先ほどの青い顔が嘘かのように明るく振る舞っている。

 身近な人間を守るためにガーディアンに入ることを決意した彼女に取って、あの欠番戦闘員の姿は自分の理想と言っていい姿だった。

 魔法少女型のバトルスーツを身に着けた少女は、頬を紅潮させながら欠番戦闘員が去った咆哮を見つめている。

 その瞳はまるで恋する少女のように輝き、その脳裏には微妙に美化された欠番戦闘員に有志が思い返されていた。


「くそっ、くそっ…」


 訓練生の片割れである少年は少女とは対象的に、悔しげな表情で天を仰いでいた。

 リベリオンの素体捕獲任務、戦力を補充と言う身勝手な理由で悪の組織の犠牲になった人間は数知れない。

 この少年の両親の名はリベリオンの犠牲者名簿に記載されており、それは少年がガーディアンに入った理由でもあった。

 幸運にもコアに適合してガーディアンの戦士として選ばれた少年は、両親の仇を取る力を得るために我武者羅に訓練を行っていた。

 しかし少年の努力は怪人に全く通用せず、逆に憎きリベリオンの怪人に返り討ちにあってしまう。

 少年は自分の力の無さを嘆き、そして自分とは対象的に怪人を圧倒してみせた欠番番戦闘員の力を羨んだ。

 あの力が欲しい、あの力を手に入れられるなら何をしてもいい。

 訓練生仲間である少女とは対象的な感情を懐きながら、少年の脳裏には少女と同じように欠番戦闘員の姿が浮かんでいた。




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