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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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30. 決着


 コアから出力されるエネルギーの武器化、白仮面のバトルスーツの特殊能力は大和と追い詰めていた。

 エネルギーによって生み出された光の翼を羽ばたかせ、絶対の安全圏の空中より光の矢を雨あられと降り注ぐ。

 大和は降り注ぐ光の矢を時には避け、時には腕で払い除けながらどうにか凌いでいた。

 肉体能力に特化した大和の怪人専用バトルスーツでは、空の上の白仮面に手も足もでないようだ。

 今の強化された大和であれた一跳びすれば白仮面の元には辿り着く事自体は可能であるが、相手は空を自由に動くことが出来る。

 ただの跳躍だけでは身動きの利かない空中で的になるだけであり、そのような自殺まがいの無謀な特攻をする訳にはいかない。

 今の所、大和はただ白仮面の攻撃を避け続けることしか出来なかった


「くっ…」

「はははは、どうした、もう終わりか!!」


 白仮面と大和の戦いの構図はそのまま、ガーディアンとリベリオンが肉体能力を捨てて特殊能力に偏重してきた理由を物語っていた。

 宇宙から送り込まれたコアの製造方法と生物の合成技術、これによって誕生したバトルスーツと怪人と言う名の武器たち。

 まだ宇宙のテクノロジーに不慣れであった初期の両組織は、取っ掛かりやすい肉体強化の面において自分たちの武器を強化していった。

 しかしやがて両組織の技術レベルが上がっていき、段々とバトルスーツや怪人に特殊能力が備わっていく。

 そして肉体面に特化したバトルスーツを纏った戦士や怪人が、特殊能力を持った敵に完敗するケースが戦場で増えていったのだ。

 例えば今の大和のように肉体強化に特化した存在には弱点が多く、多様な特殊能力を持つ存在に容易くやられてしまう。

 それ故にガーディアンとリベリオン、両組織は自然と肉体強化の方向性を捨てて特殊能力に重きを置くようになった。

 ガーディアンとリベリオンの戦いの歴史に逆行するような存在である、セブン謹製の怪人専用バトルスーツと言う代物。

 時代遅れの肉体強化に特化したそれを纏う大和が、エネルギーの武器化と言う汎用性の高い強力な特殊能力を持つ白仮面に苦戦するのは道理であった。






 肉体強化に全リソースを注いだ故に、大和の怪人専用バトルスーツはコアが持つ炎を操ると言う特殊能力を全く使いこなせていなかった。

 仮に少しでも特殊能力の制御にリソースを注いでおけば、炎を飛ばすなどの遠距離攻撃が使えるようなり大和の不利な状況は少しは緩和されていただろう。

 しかしセブンは何の躊躇いも無く特殊能力を省き、怪人専用バトルスーツを肉体強化の面に特化させていた。

 怪人専用バトルスーツの製作者セブンは、元リベリオンの開発部主任である。

 リベリオンの怪人製造の最前線に居た若き天才が、肉体強化に特化した故のデメリットを把握していない筈が無い。

 セブンはこのデメリットを許容してまで、あえて肉体面の強化に拘ったのだ。

 彼女の追い求める最強の怪人と言える存在、脳裏に刻み込まれている拳一つで他の怪人たちを薙ぎ倒していたあのゴリラ型怪人の影を追い求めて…。


「"…やれ、ファントム"」

「"あいあいさー!!"」


 セブンは敗北主義者では決して無く、特殊能力型に敗北する事を前提に肉体強化型に傾倒した訳では無い。

 最強の怪人を名乗るのであれば決して敗北は許されず、特殊能力を持つ相手に勝利する手段が必要になる。

 しかしそのために最強の怪人に特殊能力を持たせたら本末転倒であり、どうしても相手の特殊能力に対抗する手段は必要になってくる。

 それ故にセブンは相手の特殊能力に対抗する手段を、最強の怪人自信で無く別に持たせる事にしたのだ。

 ファントム、肉体強化に特化し主を補佐するためにセブンの手によって作り出された戦闘用のバトルビークル。

 その名の通り亡霊のように姿を消しながら主の傍に控えていた鋼の従者は、通信機を通じて呼びかけてきた主の声に応えた。











 地上を這いつくばる日常を軽視した愚か者に向けて、白仮面は何度目になるか解らない光の矢の斉射を行おうとしていた。

 しかし白仮面は何時の間にか目標物が消えている事に気付き、斉射を取り止めて空中に光の矢を待機させる。

 一瞬己の目を疑った白仮面であるが、幾ら地上を凝視してもあの大和の姿は何処に見当たらなかった。

 まるで幽霊のように消えた大和であるが、既に大和と幾度となく戦ってきた白仮面にはすぐに種に気付いた。

 恐らく大和はあの姿を自在に消す忌々しい黒いマシンの力で、その姿を晦ましたのである。

 そういえば戦いが始まった当初、あの黒いマシンは確かに一度この戦場に姿を見せていた。

 大和にフルフェイスのマスクを渡した後ですぐに姿を消し、その後の戦いに一切関わりが無かった事もあり白仮面はその存在を半ば度外視していたのだ。


「ちぃ、面倒だな。 姿を見せた時に破壊しておけばよかったな…」


 姿を消した状態で戦場から立ち去る事は欠番戦闘員こと大和の得意技であるが、セブンと言う賞品が居るこの戦いで逃げるような真似はしないだろう。

 白仮面を無視してアラクネからセブンを強奪した上で、この場から立ち去る可能性も低い。

 そうなれば呑気にこの戦いを見学しているあの人間たちが、白仮面やアラクネにどのような目に合わせられるか解らないほど、あの男は馬鹿では無いだろう。

 ならば考えられることは一つ、このまま姿を消した状態でこちらに奇襲を仕掛けるに違いない。

 過去の戦闘データによるとあの黒いマシンは、内蔵したブースターを使用して一度限りの大跳躍を行うことが可能であった。

 確かあの大和は過去に黒いマシンの力を借りて、今の白仮面と同じように空を舞っていた怪人を撃破している。

 恐らく大和はあの戦いの再現を狙っているのだろう。


「姿を消したとは言え、そこには確かに存在する。 それならば…」


 白仮面の取った手はシンプルであった。

 自信のバトルスーツが持つ特殊能力、エネルギーの武器化能力を最大限に発揮して光の矢を次々に生成する。

 黄金色に光り輝く白仮面のコアからエネルギーが引き出され、バトルスーツの制御によってそれらは光の武器へと生成されていく。

 コアの力を限界まで振り絞り、白仮面は自身の周囲に数百本もの光の矢を作り出した。

 そして次の瞬間、それを地上へと一斉に放ったのだ。

 姿を消しているとは言え大和がこの場に居るのは明確であり、ならば大和が潜んでいるであろう全ての場所を攻撃すればいい。

 光の矢による全方位攻撃が地上へと降り注いだ。






 時間にして一分にも満たない一斉射を終えた白仮面は、その成果を確認するために地上を見下ろした。

 地上は光の矢の一撃におって所々が抉れており、土埃が舞って視界が余り良好では無かった。

 すると土埃を掻い潜って傷だらけの黒いマシンに乗って跳んで来る、欠番戦闘員と呼ばれる者の姿が白仮面の目に飛び込んできたでは無いか。

 血ならぬオイルを漏らし、傷跡から火花を散らしている黒いマシンは見るかに満身創痍の様子だ。

 どうやら先ほどの全方位攻撃で余程のダメージを受けたのか、あのマシンは例の姿を消す能力は使えなくなったらしい。

 姿を隠すことの出来なくなった哀れな獲物は、破れかぶれの特攻を敢行してきた。

 黒いマシンは内蔵ブースターを噴かせて、主を乗せながら一直線に白仮面へと向かっていく。

 そう一直線である、所詮ブースターで無理矢理空を跳んでいる黒いマシンには、光の翼を持つ白仮面のように自由に空を舞うことが不可能なのである。

 つまり白仮面が黒いマシンの上に乗るあの大和に攻撃をしたら、それを回避する手段は奴らには無い。

 若干梃子摺りはしたが、これでこの戦いは終わるだろう。

 勝利を確信した白仮面は、その白い仮面の下で笑みを浮かべながら光の剣を黒いマシンに乗る欠番戦闘員と名乗る愚か者へと放った。

 そして光の剣は、欠番戦闘員の体を貫いた。


「なっ!? これは…」


 白仮面は己の目を疑った、先程放った光の剣は確かにあの大和を貫いた。

 そして光の剣はそのまま、あの大和の体を素通りして地面へと向かって落ちていったのだ。

 物体を素通りするその様はまるで幽霊か何かのようであり、あの大和は死んで化けてきた存在とでも言うのか。

 否、あれは偽物だ、そう確信した白仮面は慌てて大和の姿を探し始める。


「奴は何処に…」

「……俺は此処だ!!」


 しかし白仮面が大和の姿を見付ける前に、大和が白仮面の傍まで跳び上がって来る方が早かった。

 先程放たれた光の矢の弾幕、大和の逃げ場が無いよう全方位に放った故にそれは白仮面の目から地上の風景を覆い隠してしまう。

 白仮面の目から逃れれた僅かな隙に大和はファントムを囮に白仮面元に向かう算段を整え、見事にその作戦を成功させたのである。

 先程白仮面が誤認した大和、それはファントムが生み出した立体映像であった。

 ファントムの得意とするステルス能力、それは周囲の背景と合わせた映像を描画する事で自身の姿を隠す現代版の忍法隠れ蓑の術であった。

 そして周囲に溶け込む映像を描画出来るのであれば、その応用で主の姿を映し出すこともファントムにとっては造作も無いだ。


「"後は任せましたよ、マイマスター!!"」

「"お前は最高の相棒だよ、ファントム!!"」


 特殊能力を全く持たない肉体強化に特化した怪人専用バトルスーツを持つ大和は、拳の届く距離にまで相手に近付けなければ勝機は無い。

 相手に近付ければその規格外の肉体能力を存分に発揮できるが、特殊能力を持たない大和が特殊能力を駆使する相手に近付くことは困難である。

 大和一人では特殊能力を持つ相手には対抗出来ない、そのためにセブンはこの黒いサポートマシンを生み出したのだ。

 特殊能力を持たない主をサポートし、その他を捨ててまで肉体強化に特化させた主をその力を存分に発揮できる場所へと送り届ける。

 ファントムは先ほどの光の矢の弾幕によって傷つきながらも、見事に己に課せられた役目を果たしたのである。


「ようやく捕まえた!! もう二度と離さないからな、この野郎!!」

「ぐぁぁぁぁぁっ!? こいつ、離せ、離せっ!!」

「お前に俺は解けないよ! そんな大層な(特殊能力)を持つお前に、これしか能の無い俺の(肉体能力)が負けるかよ!!


 ファントムは役目を果たした、次は大和が役目を果たす番である。

 先ほどの光の矢の弾幕は大和にも少なくないダメージを与えたようで、体の各所に光の矢を受けた傷跡が残っている。

 顔を覆うフルフェイスのマスクも何時の間にか消えており、欠番戦闘員の由来となる戦闘員番号を塗り潰した戦闘員マスクが露わになっていた。

 しかしその酷いの状態とは裏腹に、大和は覆面の下で壮絶な笑みを浮かべている。

 白仮面の元まで跳び上がった大和は、そのまま両の腕で白仮面の体を羽交い締めする。

 大和の腕にはあの蒼い炎が燃え上がっており、白仮面は拘束されながら体を焼かれると言う苦行を味わおうことになった。

 否、腕だけではない。

 今までの恨みを晴らすかのように、大和は腕だけに留まらず白仮面に密着している部位から蒼い炎を放ち初めたのだ。

 デュアルコアの力によって生み出された凄まじい熱量を持つ蒼い炎には、バトルスーツを纏った完全なる怪人も苦悶の声をあげてしまう。

 白仮面は必死に大和の拘束を逃れようとするが、白仮面が幾ら力を込めても大和の両の腕はびくともしない。

 特殊能力に重点を置いたバトルスーツを持つ白仮面が、肉体強化に特化したバトルスーツを持つ大和の腕力に敵う筈も無いのだ。

 全身を蒼い炎で焼かれ始めた白仮面の集中力が乱れたのか、白仮面の光の翼が消えてしまう。

 そして空中で一塊になっていた白仮面と大和は、重量に引かれて地面へと向かっていった。






 それは白仮面に取って悪夢のような状況であった。

 人間としての体も平穏な日常も全て奪われ、それと引き換えに手にしたのは強靭な怪人としての体。

 全てを失った白仮面には、不本意ながら手に入れてしまった怪人の力に縋るしか道は無かったのだ。

 ガーディアンやリベリオンと言う二大組織すら相手にならない最強の存在、それは今の白仮面の全てであった。

 しかし今まさに最強であった筈の自分が負けようとしている、しかもその相手はよりにもよってあの丹羽 大和なのだ。

 人間としての人生や平穏な日常、それらの全てを持つ相手に全てを失った自分が負ける。

 これを悪夢と言わずして何と言うのだろうか。


「お、俺は全てを失ったんだ。 その代わりに最強の力を…」

「違うな、現時点での最強は博士のバトルスーツを持つ俺だぁぁぁぁぁっ!!」


 デュアルコアの真の力を発揮し、白仮面を上回る肉体能力を手に入れた大和。

 今の大和が白仮面を捕まえた時点で、この戦いの結果は決まったも同然だった。

 地面へと墜落する直前に大和は右腕の拘束を解いて、拳を限界まで握りしめる。

 そして白仮面の体を地面の方へと向けた大和は、地面へ到着するタイミングを見計らって白仮面の顔面に拳を叩きつけたのだ。

 重力落下によるエネルギーと限界まで強化された大和の肉体から放たれる拳の二重奏には、流石の白仮面も耐えることは不可能であった。

 大和の拳はいとも容易く白い仮面を砕き、その下にある白仮面の怪人としての顔面を貫く。

 そして並の怪人であれば命すら奪っていただろうその衝撃は、仮面を失った白仮面の意識を即座に途絶えさせる。

 意識を失う直線に白仮面が見た最後の光景、それは戦闘員番号を塗り潰した戦闘員マスクであった。



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