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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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28. 隠された力


 白仮面の突然の激昂に面を食らった大和であるが、此処で悪戯に時間を消費する訳にはいかない。

 三代の薬によって痛みは感じないが、確実にデュアルコアの負荷が体を蝕んでいる。

 僅かながら体が言うことを効かなくなってきており、下手をすれば次の瞬間に二度と動けなくなるかもしれないだろう。

 今の大和には一分一秒も惜しく、白仮面の訳の解らない話に付き合っている暇は無かった。


「あぁぁぁぁっ!!」

「まだ抵抗する気か、丹羽 大和!!」


 体のあちこちから感じる違和感を誤魔化すかのように雄叫びを上げながら、大和は再び白仮面に向かっていく。

 白仮面の独白から始まった僅かん小休止は終わりを迎え、再び大和と白仮面の戦いは再開される。

 互いに繰り出されるその一発一発は、頑丈なリベリオンの怪人を一撃で粉砕出来るほどの威力があるだろう。

 大和と白仮面の拳が交わるたびに大地が揺れ、その衝撃は観戦している黒羽たちの元へと届いた。

 あれに割って入ろう物なら死ぬより他は無く、最早誰にもあの二人の戦いを止められそうになかった。






 果敢に攻め入る大和であるが、心の何処からブレーキを踏んでいるような気分を味わっていた。

 大和が躊躇を感じる理由、それは彼が博士と呼んでいるあの少女の夢に関することであった。

 最強の怪人を作り出す、セブンが抱く夢への拘りは戦闘員9711号と言う名で呼ばれていた頃からの付き合いである大和は重々承知している。

 デュアルコアと言う反則を使わなければ到底追いつけない怪物、まさに最強の怪人と呼んで良い白仮面と言う存在。

 これはまさに博士の夢であり、これを壊すことは彼女の夢を壊すことになるのでは無いか。

 白仮面と戦いながら大和の視線は自然と、十数メートルほど先に居るセブンの姿であった。

 アラクネの糸で体の動きを封じられ、口を糸で作った猿轡を嵌められているセブン。

 何処か悲痛な表情を浮かべているようなセブンの様子に、大和は彼女が白仮面と言う夢が破られることを恐れているのではと邪推してしまう。

 自分は白仮面を倒してしまっていいのか、戦いの最中で再び答えの出ない問いが大和の頭の中に浮かびあっていた。


「余所見をするとはいい度胸だな!!」

「うわっ!?」


 格下なら兎も角、相手は圧倒的に格上の白仮面である。

 戦いの最中に行った僅かな余所見、それは大和が白仮面に絶好の隙を与える物であった。

 大和の弛みを狙った白仮面の一撃は吸い込まれるように大和の胸板に当たり、大和はその衝撃で数メートル先まで吹き飛ばされてしまう。

 恐らくこの一撃はコア一個しか無かった頃の大和であれば、致命傷と言っていい物だったろう。

 しかし今のデュアルコアを持つ大和には、この程度では戦闘不能になる筈も無い。

 今の衝撃で体の違和感がより大きくなった事を感じながら、大和はすぐさま体制を立て直して白仮面へ意識を集中させる。


「遊びは終わりだ! お前にこのバトルスーツの真の力を見せてやろう!!」

「真の力…、あのエネルギー波か?」

「違うな…、これはあんな子供騙しとは訳が違うぞ!!」


 どうやら白仮面は大和との殴り合いに嫌気がさしたらしく、戦い方を変える気らしい。

 白仮面のバトルスーツの特殊能力、コアから引き出した力をそのまま物理的なエネルギー波として放出する力。

 その能力自体は単純な物だが、今のコアから100%の力を開放している白仮面の放つそれの威力は侮れない。

 そもそも近接戦闘しか能が無く、遠距離攻撃手段が全く無い大和に取ってエネルギー波によるアウトレンジ攻撃は一番嫌な手であった。

 白仮面の行動を予想した大和は内心で焦りを覚えながら、あのエネルギー波をどのように掻い潜るか思案していた。

 しかし白仮面がこれから行うとしている事は、残念ながらあのエネルギー波では無かったのだ。






 宇宙から送り込まれたコアの製造技術、それによって生み出されたコアはそれぞれ異なる性質を持っている。

 炎の力を操るコア、物体を操作するコア、重力を操るコア、障壁を作り出すコア…。

 コアにはそれぞれ独自の能力が備わっており、ガーディアンはコアに適したバトルスーツを作り出す事でその能力を引き出していた。

 実はガーディアンがコアの性質に合ったバトルスーツを作り出せるようになったのは、結構最近の事なのである。

 一昔前までのガーディアンのバトルスーツはコア毎の性質を活かしきれず、単にコアを純粋なエネルギー源としてしか使用していない。

 そのため以前に白仮面が使用していたバトルスーツ、旧世代のスーツと同等の性能しか無いそれはコア独自の能力を引き出せていなかった。

 しかし今の白仮面のバトルスーツ、セブンが作り出したガーディアンの最新世代のスーツと同等と言えるそれならば話が違う。

 セブンは白仮面の指示通りに、バトルスーツに対してコア独自の力を利用した特殊能力を付与していたのだ。


「見ろ、そして恐怖しろ! これが俺のコアの真の力だぁぁぁ!!」

「なっ、これは…」


 白仮面は欠番戦闘員こと大和に対して、初めてこのバトルスーツの持つ特殊能力をお披露目した。

 金色に輝き始める白仮面のコア、それと同時に白仮面の周囲に光の矢が次々に作り出されていく。

 先端に鋭い鏃が付いた数十本もの光の矢が白仮面の頭上に浮かび、その異様は大和を威圧する。

 徐ろに右腕を頭上に伸ばすと白仮面、それと同時に矢の先端が一斉に大和に向かってしまう。

 次に起こることは誰の目から見ても明白であったため、大和はすぐに回避を選択した。

 そして白仮面が腕を振り下ろすのと、大和が黒羽たちが居ない方向に飛び去るのは同時だった。

 軽い射撃音と共に矢は先ほどまで大和が居た地面へと突き刺さり、その大地を激しく抉ってしまう。


「これが白仮面の能力…」

「こんな物では無いぞ!!」

「なっ…、あぁぁぁぁっ!!」


 間一髪の所で光の矢から逃れられた大和は、抉られた地面の姿に背筋が凍る思いを感じていた。

 万が一回避が遅れていたら、あの矢は自分を容赦なく串刺しにしていただろう。

 白仮面の新たな特殊能力を知った大和は、これからはあの光の矢も意識して戦わなければならないだろう。

 しかし残念ながら白仮面の真の力は、あの光の矢では無かったのだ。

 大和が光の矢の威力に心を奪われている間に、密かに足元まで来ていた白仮面の体から伸ばされている光の鞭。

 それに気がついたときには、既に大和の足はそれに絡み取られていた。


「さぁ、その邪魔なインストーラごと串刺しにしてやろう!!」

「くっ…、やられるかぁぁ!!」


 光の鞭は独りでに縮み始め、必然的にそれに拘束された大和は白仮面の元へと近づく事になる。

 片足を引っ張られた事で無様に地面に倒れてしまった大和は、地面に引き摺られていた。

 自分を拘束する光の鞭の先には、いつの間にか作り出した光の剣を持った白仮面が待ち構えていた。

 このままではあの剣が届く場所に来た時点で、宣言通り大和は内蔵型インストーラごと貫かれてしまう。

 慌てて大和は自分を拘束する光の鞭に手を伸ばし、この戒めを解こうと試みた。

 仮に大和が此処で力任せに光の鞭を外そうとしたら、上手くいかずにあえなく白仮面にやられていただろう。

 特殊能力で生み出された光の鞭を、物理的な力だけで破壊するのは極めて難しいのだ。

 そのため特殊能力には特殊能力でと、咄嗟に両腕からデュアルコアの持つ炎と氷の能力を発動したのは正解だった。

 二つのコアから引き出した炎と氷をそれぞれに纏った大和の腕は、ギリギリの所で光の鞭を破壊することに成功する。






 白仮面の剣が届く寸前で逃げ延びた大和の姿を見て、この戦いを見守っていた黒羽はとりあえず安心をしていた。

 見ているだけと言う立場は非常に辛い物であり、大和の苦境を前に何度心臓が止まりかけたか解った物では無い。

 底が知れぬ白仮面、それを前に大和は善戦している物の未だに勝機は見い出せていない。

 この悪状況に輪をかけるように明かされた白仮面の隠された特殊能力、その未知の力は黒羽たちに衝撃を与えていた。


「何だよ、あれは…。 矢に剣に鞭、何でも有りかよ?」

「解った、多分あれはコアのエネルギーを武器化する特殊能力だ。

 あの様子だとまだまだ武器にストックは有りそうね…」


 バトルスーツの専門家である三代は、一目で白仮面の能力の秘密に気が付いた。

 コアから引き出したエネルギーを武器化する力、それが新しい白仮面の特殊能力であった。

 矢・鞭・剣、先ほど白仮面が見せた武器であるが、恐らくこれ以外にも武器のストックは沢山有るだろう。

 武器の数だけ戦い方が広がることを意味し、武器化の特殊能力を持つ白仮面は無限に近い手札が有ることを示していた。


「中々便利そうな能力だけど、制御にリソースを食いそうね…。 あんまりあの子らしく無い…」

「おい、旦那が…」

「ま、まさか諦めたとでも言うのか」

「何やっているのよ、あいつは!!」

「大和…」


 幾多の武器を生み出すことが出来る白仮面の特殊能力、その汎用性は高く非常に強力な力であろう。

 しかし幾種類もの武器を制御すると言うことは簡単では無く、この特殊能力を実現するために多くのリソースが使われる事になる。

 この白仮面のバトルスーツに対して三代は何か違和感を覚えたらしく、顎に手を当てながら考え事を始めようとしていた。

 しかし三代の思惟を邪魔するかのように、黒羽たちが何やら騒ぎ始めたのだ。

 思考の海から早々と戻された三代は、すぐに黒羽たちが今のような反応を示したのか理解する。


「はははははははははははっ!!」


 三代たちの視線の先、そこに自棄になったかのように笑っている大和の姿があったのだ。

 その姿は白仮面の圧倒的な力に屈したようにも見え、最後の希望が潰えた黒羽たちに絶望が襲ってきたのだろう。

 笑う大和の姿に白仮面すら困惑した様子を見せるが、周囲の反応を気にすること無く大和は笑い続けていた。





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