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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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25. そして役者は揃う


 世界に何処かに存在する謎の施設。

 その施設の一角にある研究施設に軟禁されているセブンは、相変わらず白仮面用のバトルスーツの整備を行っていた。

 此処でセブンに課せられ唯一の役割はこのバトルスーツの整備作業で有り、それさえ済ませれば彼女は自由にこの施設を使うことが出来る。

 外出の自由こそ無いが衣・食・住が全て提供されている此処の生活は以外に悪くなく、セブンは下手をすればあのアパートに居た時より健康に過ごせているだろう。

 研究だけに没頭する事が出来る環境、此処はある意味でセブンに取って理想的な空間と言えた。

 一昔前のセブン、リベリオン開発部主任をしていた頃の彼女で有れば諸手を上げてこの監禁生活を喜んでいただろう。


「ふぅ…」


 それにも関わらずセブンは何処か物憂げな様子であり、疲れたように溜息をつく始末であった。

 非常に不可解な事では有るが、セブンはこの理想的な環境を不満を持っている自分が居ることに気付いていた。

 五月蝿い同居人である蜂女の横槍も無く、学校で不得意な運動をする必要も無く、お節介な学校の先輩に世話を焼かれる事も無い。

 一切の邪魔が入らず一人の世界に没頭出来る環境に、セブンは何処か物足りなさを覚えているようだ。

 こんな時にセブンの脳裏に浮かぶのは、自分の研究の良きパートナーであった戦闘員の姿であった。

 完全上位互換と言える白仮面という存在が居る今の状況で、セブンがあの戦闘員の少年に頼るべき事は殆ど無い。

 しかしそんな理屈とは関係なしに、セブンは自身の初めての友人と再会したいと心の何処かで願っていた。

 過去にもこんな感情を抱いた事があった、確かあの類人類をベースにした口煩い怪人と別れた直後の頃だ。

 そんな風に思考が脇道にそれながらも、セブンは今の自分の役割であるバトルスーツの整備を淡々と続けていた。

 華麗なタイプ捌きで端末を操作し、ディスプレイに映し出されるデータに目を通す

 請け負った仕事を淡々にこなしているたセブンは、バトルスーツの最終チェックに余念が無いようだ。


「…整備は終わったか?」

「終わった…」


 そして丁度バトルスーツの整備が完了したタイミングで、またもや図ったかのように白仮面が現れた。

 部屋に入ってきた白仮面に対して、セブンは短い言葉で整備の完了を告げる。

 何時もならばセブンの言葉を聞いた白仮面は、待機状態となっているインストーラを持ってすぐに部屋を出るはずだった。

 しかし今日の白仮面は部屋を去ること無く、何故かセブンの直ぐ側まで近寄ってきた。

 今までに無い不可解な行動に、セブンはディスプレイの前に固定していた顔を上げて白仮面の方を見やる。


「来い、此処を出るぞ?」

「出る? 一体何を…」


 いきなり白仮面はセブンの腕を掴み、無理矢理椅子から立たせようとした。

 怪人の力に抗うことは出来ず、されるがままにセブンは椅子から引きずり降ろさせてしまう。

 そして白仮面はセブンの腕を引きながら歩き始め、その足は真っ直ぐに外へと繋がる部屋の出口へと向かっていく。

 白仮面の突然の行動に目を白黒させながらも、セブンは転ばないように白仮面の大きな歩幅に合わせた。

 監禁されている筈の自分を連れ出そうとする白仮面の行動が理解できず、セブンは困惑した表情で白仮面の様子を伺う。

 しかし白い仮面によって表情一つ読み取れない白仮面の真意は全く読めず、セブンはなすがままに出口への扉へと辿り着いた。


「…あら、勝手な行動は許されませんよ、白仮面様」

「貴様はリベリオンの基地に居た…、貴様もこちら側の存在だったのか」

「では、改めて自己紹介を…。 アラクネと申します、以後お見知りおきを…」


 セブンを連れた白仮面が部屋を出ようとした直前、何者から扉を開いて部屋に入ってきた。

 部屋に入ってきたそれは、蜘蛛をベースにしたと思われる女怪人であった。

 昆虫特有の複眼、口から飛び出た鋭い牙、人の手足とは別に背中から生えている四本の脚。

 その特徴的な姿に見覚えのあった白仮面は、それがかつてリベリオン関東支部にた怪人である事に気付く。

 アラクネ、リベリオンで裏仕事を担当していた陰の存在と言える蜘蛛型怪人。

 この施設に居る所を見る所、どうやらこの怪人は白仮面と同じくリベリオンの裏を知る存在で有るらしい。


「何故その女を連れ出すのですか? そのような命令をは受けていませんが…」

「ふんっ、一応約束だからな…」

「…約束?」


 アラクネは扉の前で白仮面の道を塞ぎながら、警戒した様子で目の前の怪人の様子を伺う。

 この施設内に監禁されているセブンを連れ出そうとする白仮面の行為は、明確な命令違反である。

 白仮面の行動の真意を問うアラクネ、それに対して白仮面は正直に先日クィンビーと交わした約束を口に出した。











 欠番戦闘員から受けた挑戦。

 勝てば欠番戦闘員からインストーラを奪い、負ければセブンを相手側に返す。

 その取り決めを守るために白仮面は、わざわざ監禁されている筈のセブンを外に連れ出そうと言うらしい。


「欠番戦闘員からの挑戦状、ですか…。 あなたも酔狂ですね、そのような遊びに付き合うなんて…」

「俺が勝てば欠番戦闘員は二度と戦場には現れない、そうなれば貴様達の都合もいいだろう」

「欠番戦闘員が…、あなたと? そんな、勝てるわけが無い…」


 既に欠番戦闘員がこの白仮面に対して完全に敗北している。

 一度負かした相手からの挑戦にわざわざ応じる白仮面の行動は、端から見たら確かに酔狂な物だろう。

 一応この戦いで白仮面が勝てば、欠番戦闘員と言うイレギュラーを完全に排除できると言う建前も存在する。

 白仮面は今の状況を作っている者たちに取っても、欠番戦闘員の排除は利益になると言う理論で暗に見逃すことを持ちかける。

 そして此処で初めてセブンは欠番戦闘員こと大和が、再び白仮面に挑もうとすることを知った。

 しかもその理由は自分を助けるための物であり、セブンは自分のためにそのような馬鹿な行動を行う大和の事が信じられないのだろう。

 白仮面用のバトルスーツを開発したセブンは、これを纏った白仮面が行ってきた戦闘データに全て目を通していた。

 その中には当然のように欠番戦闘員こと大和との戦いも有り、その顛末についても把握している。

 あの戦闘で大和はコア100%の出力解放と言う最大戦力で挑み、そして敗北したのだ。

 セブンの知る限り大和では白仮面には絶対に勝てない、それにも関わらずあの戦闘員の少年は再び白仮面に挑もうというのか。

 相変わらず表情は全く変わらないが、僅かに目を開いたセブンは大和の無謀な行動に驚いている様子だった。


「ああ、私は勝つさ。 そしてあいつは戦いを捨て、日常に埋没する。 それでいいんだ、それで…」

「っ!? 白仮面、やはりあなたは…」

「それ以上口を開くな、殺すぞ…」

「っ!?」


 白仮面が勝てば欠番戦闘員こと大和はインストーラを差し出し、ただの戦闘員に戻ることになる。

 戦う力を失った大和は否応なく戦場を離れざるを得ず、丹羽 大和と言うただの高校生として生きることになるのだ。

 一体白仮面に何の得があって、大和を日常に戻すためにわざわざこの挑戦を受けたのだろう。

 白仮面の真意、それはこの神ならぬ人の手によって生み出された人工怪人の秘密に深い関わりがあった。

 この白仮面の不可解な行動は、セブンが胸の内で抱いていた有る推測を確信へと導いた。

 そして己の推測が正しいことを確かめるため、セブンは白仮面に向けてある問いを投げかけようとする。

 しかしセブンの言葉が紡がれるまえに、自らの確信に責めろうとしているセブンの口を白仮面は無理矢理止めるた。

 これ以上口を開いたら本当にこの怪人は自分を殺す、白仮面の脅した本気であると察したセブンは口を噤んでしまう。


「ふふふ、面白い見世物になりそうですね。 いいでしょう、その女を外に連れ出すことを見逃します。

 その代わり…」

「うっ!?」


 興味深い様子で白仮面とセブンのやり取りを眺めていたアラクネは、最終的にセブンを施設外に連れ出すことを認めたらしい。

 そして見逃すだけで無く白仮面と欠番戦闘員の戦いを見物する気らしいアラクネは、徐ろに腕から白い糸を吐き出したでは無いか。

 その糸は一瞬でセブンの側に到達し、猿轡のようにセブンの口を塞いでしまう。

 口だけでは無い、セブンの手足や体に白い糸がどんどんまとわり付き、あっという間にセブンの体は糸で完全に拘束されてしまった。

 

「…何をする?」

「この女に逃げられたら元の子も無いでしょう? 私がこの女を捕まえておきますよ。

 ですのであなたは気にせず、存分に戦ってくださいね」

「ふんっ…」


 白仮面一人でセブンを連れ出せば、万が一のことが起きる可能性がある。

 欠番戦闘員と戦わんければならない白仮面がセブンの監視を常に行える訳も無く、セブンが逃げなように捕らえておく役が必要になる。

 どうやら蜘蛛の糸と言う拘束に適したアラクネは、自分からセブンの拘束役を買って出たらしい。

 拘束役の必要性を理解した白仮面は、鼻をならしながら暗にアラクネの同行を認める。

 話がまとまった両怪人は互いに頷きあい、セブンの監禁場所である研究施設を後にした。

 四肢と口を封じられたセブンは身動き所か言葉一つ発せられなくなり、まるで荷物のようにアラクネに担がれている。

 アラクネに運ばれる中、セブンはこれから行われる事になる白仮面と大和の戦いについて胸を痛めていた。

 先ほどの反応で一人真実に辿り着いたセブンは、白仮面と大和が互いに争う事の無意味さに気付いてしまったのだ。

 しかし今の自分ではこの悲劇を止めることは叶わず、セブンは自分の無力さを実感していた。




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