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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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23. 宣戦布告


 人間は適応する生き物である。

 最初は違和感しか無かった見覚えのない自室も、毎日寝泊まりをしていたら嫌でも愛着が湧く。

 大和が新しく購入した物も部屋の各所に置かれるようになり、この部屋はすっかり今の大和の城と化した。

 今では一番寛ぐことが出来る空間となった自室で、大和は日曜の昼下がりを勿体無い事に寝て過ごしているようだ。

 自室のベッドの上で横になっていた大和は、何気なく手を伸ばして服の上から腹を撫でる。

 その手の下にある箇所、そこには大和の内蔵型インストーラが格納されているのだ。

 先日行われた三代の施術は無事成功に終わり、今大和の体内には兄妹コアと呼ばれる二つのコアが埋め込まれていた。

 デュアルコア、対白仮面用に大和たちが知恵を振り絞って用意した最終兵器。

 後はこの力で白仮面と言う最強の敵を打ち倒し、セブンを取り戻すだけである。

 しかし天井を睨みつけている大和の表情は何処か優れず、何やら悩んでいる様子であった。


「最強の怪人、博士の夢か…」


 恐らくあの白仮面と言う謎の怪人は、現時点では世界で最も強い最強と呼べる存在であろう。

 宇宙から送り込まれた未知の技術、コアの製造方法と生物の合成術の合わせ技。

 コアの使用に適するように設計された怪人が、怪人専用に調整された専用バトルスーツを纏った存在。

 その力は少し前まで世界を二分する勢力であった二大組織、ガーディアンとリベリオンを圧倒する物であった。

 バトルスーツを纏った怪人、それは最強の怪人を作り出す事を目指していたセブンの最終目標でもある。

 図らずもセブンは白仮面に攫われた事により、白仮面専用のバトルスーツを開発すると言う形で部分的では有るが自らの夢を叶えたと言えるだろう。


「白仮面を倒すことは、博士の夢を壊すことになるのかな…」


 大和はデュアルコアと言う力を手に入れ、あの圧倒的だった白仮面に対抗できる手段を手に入れた。

 今までは勝ち目が殆ど無い追い詰められた状況に置かれていた大和は、余計な事を考えずに我武者羅に行動をしていた。

 白仮面に攫われたセブンの状況についても深く考える事は無く、一にも二にもの彼女を救い出すのが先決と考えていたのだ。

 しかしデュアルコアと言う明確な武器を手に入れて、白仮面との最終決戦を控えた大和は此処で余計な思考をしてしまう。

 セブンは最強の怪人を作り出すために古巣であるリベリオンすら脱出し、これまで最強の怪人を求める研究に明け暮れていた。

 黒羽やクィンビーのお節介によって少しは人間らしい生活を行うようになっていたが、あの少女の根っこの部分は全くぶれる事は無かった。

 白仮面、セブンの思い描いていた最強の怪人を具現化したような存在の元に居ることは、彼女にとって幸せな事では無いか。

 ガーディアンやリベリオンの者たちと違い、大和が白仮面と戦う理由はセブン一人だけである。

 仮にセブンを救う必要が無いのならば、命を賭けて白仮面と動機は大和に存在しないのだ。

 セブンが置かれている状況が解らない現段階では、囚われの少女を助けるのが第一であることは大和にも解っている。

 それにも関わらず白仮面との決戦が迫るこの土壇場で、大和の胸の内に白仮面を倒すことへの微かな躊躇いが芽生えてきていた。











 そこには最近各地で頻繁に起きている光景が広がっている。

 周囲の被害を気にせずに思いっ切り戦うことが出来るフィールド、ある意味でお約束と言える採掘場が今回の戦場であった

 中世の鎧武者のような姿、特撮のヒーローのような全身スーツ姿、ヒラヒラした衣装が目立つ魔法少女姿。

 千差万別なガーディアンのバトルスーツを身に纏う、正式コアを持つ精鋭たちがボロ雑巾のような姿で地面に転がっていた。

 魚を無理矢理に人間にしたような異形、ドーベルマンが二足歩行になったような異形、昆虫特有の複眼をギョロ付かせる異形。

 この地球に生息する生物たちの長所を混ぜあわせる事によって生まれた異形の存在、怪人たちもガーディアンの戦士たちと同じ有様を見せていた。

 そして死屍累々としたリベリオン・ガーディアンの敗残兵に囲まれた中央に、白い仮面を被った怪人の姿があった。

 白仮面、この謎の存在は今日もガーディアンとリベリオンへの襲撃に忙しいらしい。

 正義の味方、そして悪の組織の意地を見せたのか、白仮面の纏うバトルスーツには数カ所の新しい傷が見られた。

 しかし白仮面自身はダメージを負っている様子は全く無く、残念ながら彼らの力はこの怪物には届かなかったようだ。


「こんな物か…」

「……ちょっと待ちなさいよ!!」


 見た所地面に転がっている連中はまだ息が有りそうだが、ダメージが大きいのか立ってくる様子は無い。

 最早この戦場に敵は居ないと判断したのか白仮面は僅かに負け犬たちを軽く見下ろした後、踵を返して採掘場を後にしようとした。

 しかし後ろから自分を静止する声が聞こえてきた事に気付き、立ち去ろうとしていた足を止めて白仮面は振り返った。


「…誰も居ない?

 否、これはあいつの…、出てこい! 出てこなければ周囲一体を吹き飛ばすぞ!!」


 白仮面の視線の先には切り崩された山の光景と、相変わらず地面に転がる負け犬たちの姿だけである。

 あの声量からしてすぐ近くに居る筈なのだが、先ほど自分を静止した声の主は何処にも見当たらない。

 しかし白仮面はすぐにある可能性に気付き、両腕を前方の虚空に構えながら警告を行う。

 白仮面が使用するバトルスーツの特殊能力、コアから引き出した力を物理的なエネルギー波として放つ力。

 両腕から特殊能力を放つ用意をしながら、白仮面は注意深く何も無い虚空を睨みつける。

 この様子では先ほどの言葉に偽りなく、白仮面は両腕からエネルギー波を放つに違いない。

 一体白仮面は何に警戒をして、このような不可解な行動を取っているのだろうか。


「…はいはい、まあ予想は付いちゃうわよね。 この隠し芸もいい加減ワンパターンだし…」」

「"隠し芸なんて酷いですよ!? ファントムちゃんの高度なステルス機能は、そんな風に例えられる物では…"」


 結果として白仮面が特殊能力を発動することは無かった。

 白仮面の呼びかけに答えるように、先ほどまで何も無かった空間が突然歪んだのだ。

 そして白仮面の目の前に虚空から黒いバイクに乗った黒尽くめの女が、まるで亡霊のように姿を表したのである。

 黒いマシンの名はファントム、そして女性用の戦闘員服を纏った女の名はクィンビー。

 ファントムお得意のステルス機能によって潜んでいたクィンビーは、因縁の白仮面の前に堂々と姿を表したのだ。

 このファントムの機能を利用した擬態は過去に大和がよく使った手であり、これには白仮面も煮え湯を飲まされてきた。

 過去の経験から白仮面はファントムの存在に気付き、邪魔な亡霊を炙り出そうとしたらしい。







 虚空より現れたクィンビーを目に捉えた白仮面は、その仮面の下で僅かに訝しげな表情を浮かべていた。

 どうやら白仮面は大和が現れると予想していたらしいが、それに反してクィンビー一体が出てきた事に軽く驚いているようだ。

 見た所、付近にあの黒尽くめの戦闘員姿は見当たらず、此処には戦闘員装束を纏ったクィンビーしか居ない。


「何故、貴様が…?」

「あら、一号の方じゃ無くて不満?」

「…一体何のようだ? まさか私を倒しに来たなどと言う、世迷い言を言う気は無いな?」

「あらあら、随分な自信ねー。 ふんっ、本当なら私があんたを倒してやりたい所だけど、今日は別の要件よ。

 私はあんたに挑戦状を叩きつけに来たのよ…」


 もし白仮面を倒そうと考えていたのならば、ファントムのステルス状態で身を隠している間に問答無用で襲いかかっている筈だ。

 それが堂々と姿を表したと言うことは、クィンビーは戦い以外の何か別の目的があって現れたと白仮面は見ていた。

 そして予想通りクィンビーの目的は戦いでは無く、白仮面にある提案を持ちかけてきた。

 白仮面はその提案に対して、その白い仮面の下で眉を顰めた。


「挑戦状?」

「あんたと欠番戦闘員一号との一対一で行う最後の戦い、これで互いの因縁に蹴りにを付きましょう」

「何を馬鹿な事を…、奴との決着は既に付いた…」

「ふーん、負けるのが怖いんだー。 勝ち逃げなんでみっともないわよー」

「私がそんな遊びに付き合って何の得がある?」


 クィンビーの提案、自分と欠番戦闘員こと大和の決闘など今の白仮面に取っては何の価値も無い。

 既に白仮面は大和を完膚なきまでに倒しており、あの戦いで両者の格付けは完了している。

 今更白仮面が大和と戦わなければならない理由など皆無であり、当然のようにその提案を一笑に伏した。

 白仮面はクィンビーの解りやすい挑発にも揺らぐことは無く、大和のからの挑戦を受ける気は無さそうである。


「言ったでしょう、これが最後の勝負って…。

 あんたが負けたら前に宣言した通り、一号を殺すなり何なり好きにすればいいわ。

 仮に一号が生き残ったとしても、もうあんたに逆らわない証としてインストーラを献上してやるわよ」

「インストーラを献上…、だと?」

「バトルスーツの無い一号はただの雑魚よ。

 もう戦いなんてとても無理、あんたの望み通り戦いの場から離れて隠居するしか無くなるわね…」

「成程、自らの牙を捨てると言う訳か…」


 しかし先ほどまで乗り気では無かった白仮面の様子は、クィンビーの口に出した条件を聞く事で一変する。

 理由は解らないがこの白仮面は欠番戦闘員こと大和が戦場に出ることを望まず、会う度に戦いを捨てて平穏な日常を遅れと忠告まがいな事を言ってきた。

 先日の大和との戦いで完全勝利を納めた時などは、去り際に次に戦場に出たら殺すと最後通告染みた言葉を残したくらいである。

 そんな大和に対してある種の執着を持っているらしい白仮面に取って、大和がインストーラを捨てると言う条件は魅力的であったらしい。

 確かに大和がこれまでガーディアンとリベリオンの戦場に我が物がで乱入出来た理由は、セブンが作り出した怪人専用インストーラの力にあった。

 インストーラが無い大和などクィンビーが言う通り、リベリオンのやられ役であるただの戦闘員でしか無くなるのだ。

 大和を平穏な日常とやらに押し込めたいらしい白仮面に取って、大和のインストーラを賭けたこの挑戦を受ける価値は十分にあった。


「あら、乗り気になった? それならあんたが勝ったら一号のインストーラを献上するって条件で勝負よ。

 ただしこちらからも条件を掲示するわ、一号が勝ったらあんたが攫っていたあの女を返しなさい!!」

「貴様達の目的はあれか…、中々友人思いの連中だな…。

 いいだろう、この戦いを持って欠番戦闘員などと言う存在を無に返しくれる!!」


 恐らく自分の勝利に絶対の自身があったのだろう。

 白仮面は最後にクィンビーがさらりと追加した、負けたらセブンを引き渡すと言う条件も飲み込んで大和からの挑戦に受けて立つ事を決めた。

 欠番戦闘員と白仮面の最後の戦い、その火蓋が切って落とされようとしていた。



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