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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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22. 勝者と敗者

 三代ラボのとある一室、そこは大病院にある手術室のようであった。

 清潔に保たれているらしい部屋の中央には手術台が置かれ、周囲には医療設備が置かれている。

 そして手術台には病院着のような簡素な衣服を来た大和が寝かされており、白衣を着た三代がそれを見下ろしていた。

 バトルスーツの最大の弱点、それはスーツの核と言えるコアが埋め込まれたインストーラだ。

 万が一にもインストーラが敵に奪われてしまえば、バトルスーツの装着車はその力を奪われて無防備な状態になってしまう。

 実際、過去のクィンビー討伐戦においてまだ9711号と呼ばれていた大和は、白木からインストーラを奪取して無力化に成功していた。

 そのためセブンはこのバトルスーツの弱点を無くすために、インストーラを体の中に埋め込むと言う元リベリオン関係者らしい非人道的な方法を選んでいた。

 大和の体には内蔵型インストーラが仕込まれており、このインストーラを弄るためには大和の体に直接メスを入れなければならないのだ。


「じゃあ戦闘員くんのインストーラにこのコアを入れるわよ。

 解っていると思うけど…」

「二つのコアを使えば俺の体も…、戦闘員としての体もただではすまなって事ですよね?」

「その通り、リベリオンの戦闘員として改造された戦闘員くんは、確かに普通の人間に比べて頑丈に出来ている。

 けれどもその体を持ってしても、コア一つの力を受け止めるだけで精一杯。

 これでコアを二つに増やそう物なら、戦闘員くんの体はどうなるか…」


 少し前であれば大和の内蔵型インストーラを弄るのは、開発者であるセブンの役目であった。

 しかしセブンが居ない今、大和のインストーラを触れる人物は三代しか居ない。

 施術を開始する前に三代は大和に対して、念を押すように二つ目のコアを埋め込むリスクを告げてきた。

 三代の言う通り戦闘員としての大和の体では、コア一個分のフル出力だけで悲鳴を上げてしまう。

 これでコアを二個分の力に晒されてしまえば、大和の体がどうなるか解った物では無い。


「解ってます、それでも俺はやらないといけないんです。

 このコアを受け取ったからには…」

「熱血ねー、女には理解できない世界だわ…。まあとりあえずやって見るわね。

 一応あの子の残したデータが有るから、多分上手くいくでしょう」


 コア二つを使用する危険性を重々承知しながら、大和は止まる気は無かった。

 三代が手に持つ兄弟コアの片割れ、力尽くで白木の手から奪い取ったそれを前にして逃げるわけにはいかない。

 大和の青臭い覚悟を見届けた三代は呆れたように溜息を付きながら、二つ目のコアを埋め込むための準備を整える。

 身体中に麻酔が回ってきた大和はすぐに意識を手放し、三代の施術を始まった。











 三代ラボ内にある仮眠室、かつて白仮面に敗北した大和が寝かされていた部屋で有る。

 皮肉な事にあの時大和が使っていたベッドの上に、ボロボロになった白木の体が横たわっていた。

 治療を受けたらしい白木の体には痛々しい包帯が巻かれ、顔にも絆創膏が貼られていた。

 どうやら白木は意識を失っているらしく、うなされているの何やら苦悶の表情を浮かべている。

 白木の周囲には土留や黒羽の姿が有り、ベッドの上で眠る傷付いた白木を見守っていた。


「はははは、笑えるほど完敗だったな。 旦那も大人げない無いよなー、少しは手加減してくれればいいのに…」

「白木…、何て無茶を…」


 兄弟コアを賭けて白木が持ちかけた決闘は、結果として白木の完敗で幕を閉じた。

 敗北した白木は約束通りバトルスーツのコアを、元々黒羽が所有していた兄弟コアの片割れを奪われてしまう。

 黒羽の手にはコアが抜かれて抜け殻となったインストーラ、かつて自分が使っていた懐かしい装備が握られていた。

 インストーラには黒羽が知らない傷が幾つも有り、自分の手から離れたこれは白木と共に今日まで戦ってきたのだろう。

 これまでの白木の軌跡が刻まれたインストーラは、目の前の少年が積み上げてきた重みを黒羽に感じさせた。


「うんっ…。 こ、此処は…」

「白木、起きたか?」

「負け犬のお目覚めか…。 旦那にでかい口を叩いた割には、格好つかない結果になったなー、白木」

「そうか、僕は欠番戦闘員に負けたんだな…」


 暫くして白木が目を覚ましたらしく、呆然とした表情で辺りを見回していた。

 黒羽や土留の声掛けによって白木の意識は段々と覚醒していき、それによって自身の敗北の記憶も蘇ってきていた。

 目覚めたことによって身体のあちこちに出来た傷の痛みに気付き、白木は思わず顔を顰めてしまう。

 これは欠番戦闘員との戦いによって出来た傷であり、この痛みは白木にある事実を突き付ける物である。

 欠番戦闘員に敗北した事実を口に出した白木、その声は抜け殻のように力無い物であった。






 ガーディアン東日本基地内の訓練施設で行われた白木と欠番戦闘員こと大和の戦い、その勝敗は一瞬で付いた。

 初手からコア80%の力を開放した大和の特攻を抑えきれず、白木はろくに抵抗も出来ずに押し負けてしまったのだ。

 白木の見た所、欠番戦闘員の正体であった大和と言う少年は決して好戦的な人間では無かった。

 これまでの戦績から必要なら戦いの場に立つ事を厭わない人間である事は実証されているが、顔見知り相手にあそこまで容赦なく襲い掛かれるような人間では無い筈だった。

 元々白木は自分と欠番戦闘員の実力差は隔絶しており、まともに戦えば勝ち目が無い事を理解している。

 そんな白木が唯一の勝機として考えていたのが、大和が顔見知りである自分相手に躊躇いを見せるのでは無いかと言う推測であった

 大和の人の良さを利用する決して褒められた手段で無いが、今の白木があれに勝つ方法はそれ以外無かったろう。

 しかし結果は白木のあては外れ、大和はまるで親の仇でも有るかのように一切の手心を見せずに白木を潰したのだった。


「黒羽…、欠番戦闘員は…、丹羽 大和は何故白仮面と戦おうとしている?

 ガーディアンでは無い彼には、戦う理由は無い筈だ」

「…三代 八重、白仮面に攫われたあの子を救うためだ」

「ああ、三代さんの所のお嬢さんか…、そういえば白仮面に攫われていたな…。

 あいつは彼女を救うために戦っているのか…」


 丹羽 大和という人間を語れる程、あの元戦闘員の少年のことを白木は理解していない。

 もしかしたら今まで白木が見ていた大和の姿は擬態であり、本性はどんな相手でも殴り飛ばすことが出来る危険人物である可能性は否定できない。

 しかし白木はどうしても大和がそのような人間とは思えず、恐らく白木以上に大和の事を知るであろうかつての相棒ならその答えを求める。

 そしてガーディアンの誇りを背負った白木を躊躇いなく倒す事ができた理由、大和が戦う理由について黒羽は明確に答える事が出来た。

 三代 八重と言う偽名を使用している元リベリオン開発主任の少女、セブンを白仮面の手から取り戻すために大和は戦っているのである。

 友人かそれ以上の関係である少女を救うために戦うか…、それは白木にも素直に飲み込める動機だった。

 仮に白木が大和の立場に立ったならば、どんな手段を使ってでも大切な人間を守るために行動するだろう。

 そしてそのための障害となっている人物が居るならば、自分でも容赦なくその相手を打ち倒していた筈だ。


「…まあどっちにしろ僕は負けたんだ。 後はあの男に全てを任せるしか無い」

「理想を言えば相打ちだな。 旦那が白仮面を倒す、そして旦那がデュアルコアの反動でやられる。

 そうすれば邪魔者は全て…」

「土留!? 不謹慎にもほどがあるぞ!! お前は昔から…」


 実際に拳を交えてすっきりしたのか、白木の中にあった欠番戦闘員への蟠りはすっかり消えていた。

 黒羽本人が気にしないと言っている状況で、自分からインストーラを奪ったあの戦闘員の所業をこれ以上迫るのは筋違いだ。

 既に欠番戦闘員を敵対視する理由は白木の感情的な物でしか無く、この敗北で気持の整理も付いた。

 もしかしたら今まで白木が抱いてきた欠番戦闘員に対する敵愾心は、ただの嫉妬の裏返しだったのかもしれない。

 自分には到底及ばない力を持つ欠番戦闘員、それは自らの無力さを嘆いてきた白木が求めて止まない物であった。

 しかし欠番戦闘員も万能では無かったのだ、白木と同じように大事な人間を守るために今も藻掻き続けている。

 大切な相棒を守れなかった白木には、大切な人間を救おうとしている大和の気持ちに共感出来る物があった。

 コアと言う戦う力を失って身軽になった白木は、全てを大和に任せる事に納得したらしい

 そして土留と黒羽の言い争いを聞き流しながら、白木はそのままベッドに横になり眠りに着いてしまう。

 その寝顔はとても穏やかな物であった。


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