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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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18. 記憶



 少なくともこの世界の何処かに存在するであろう謎の施設。

 相変わらずこの場所に監禁されているセブンは、最近は専ら白仮面によって酷使されているバトルスーツの整備を行っていた。

 ガーディアンとリベリオンの戦いに必ず介入してくる白仮面には、残念ながら休日など存在しない。

 下手をすれば終日戦闘に明け暮れる事もあり、バトルスーツにも疲労は蓄積していく。

 少し前まではその性能差から白仮面のバトルスーツに傷を付けられる者は居らず、セブンも楽に整備が出来ていた。

 しかし最近はガーディアンとリベリオンが互いに禁じていた敵組織の技術を取り入れるようになり、その成果が白仮面のバトルスーツに刻みつけられるようになっていた。

 セブンが定期的にメンテナスをしていなければ、幾ら頑丈に作られているバトルスーツでも白仮面の無茶に耐え切れずとうに壊れていただろう。


「…バトルスーツの調整は終わったか?」

「既に完了している」


 丁度セブンがバトルスーツの点検を終えたタイミングで、白仮面が自分のスーツを受け取るためにセブンの部屋を訪れた。

 セブンには開けることが出来ない外へと繋がる扉から入ってきた白仮面は、淀みない足取りでセブンの元に歩み寄る。

 白仮面はその名前の由来となった白い仮面を施設内でも外しておらず、相変わらずその表情を読み取る事は出来ない。

 感情の無い淡々とした言葉が仮面の下から漏れ、それに対してセブンも仮面のような無表情を維持したまま白仮面の問いに返答する。


「今から出撃するの? このペースではあなたもスーツも持たない」

「…これが私の役割だ。 私は私に課せられた役割を果たす、それがどんな結末を迎えようとな…」


 整備を終えたバトルスーツを格納したインスーラを受け取った白仮面は、そのまま無言でセブンの部屋から出ようとしていた。

 しかしその背中にセブンが待ったを掛ける。

 仮面で表情も解らず立ち振舞も何時も通りに見えるが、怪人の専門家でもあるセブンは白仮面の隠された疲労を見抜いていた。

 幾ら頑丈な怪人であっても限度が有る、此処最近の白仮面のハードワークは怪人としての限界を超えていた。

 白仮面の状態がセブンの見立て通りならば、今のままで遠くない内に潰れてしまうだろう。

 セブンの懸念を認めるかのように、白仮面は足を止めてその場で立ち止まる。

 そして白仮面はそのままセブンに背を向けたまま、自嘲気味に言葉を吐いた。


「私は他の怪人たちとは違うのだよ。

 この体は百%人造物だ、造物主には決して逆らえない」

「人工怪人、一から作られた存在か…」


 人間をベースにした通常の怪人で有れば、例えどんなに変わり果てた姿になろうとも素体となった人間と言うルーツを探る事ができる。

 一方、ベースとなる人間が存在せず、一から製造される人工怪人にはそのような物は無い。

 人工怪人の体はその指先まで全て、造物主が目的を果たすために生み出した存在なのである。


「…しかしあなたの体は作り物でも、その記憶はあなた自身の物の筈だ」

「何故それを!?」

「記憶の移植技術、魂の無い木偶人形に魂を込めるための手段」


 確かに人工怪人である白仮面は、その体の全ては造物主に所有権が有るかもしれない。

 しかし造物主が作り出す人工怪人には一つ重要な要素が抜けている、その肉体に宿る魂が存在しないのだ。

 以前にも触れた通り、リベリオンで過去に行われた人工怪人の開発は全て失敗だった。

 創りだされた人工怪人には魂が宿らず、その全てが息をするだけの木偶人形であったからだ。

 人工怪人には魂は宿らない、しかしセブンの目の前に居る白仮面は己の意思を持っていた。

 白仮面の正体を探るためにセブンは密かに、バトルスーツの整備の合間に施設内のデータベースに探りを入れていた。

 虜囚の身であるセブンがそのような事をしている事が見付かったら、一体どのような目に合わせるか解った物では無いだろう。

 セブンはそのリスクを承知の上で白仮面の秘密を探求し、そしてある答えに辿り着いたのだ。

 確信に迫るセブンに対して動揺した白仮面は僅かに声を揺らし、無意識の内に右腕の五指を遊ばせていた。






 記憶の移植技術、それは文字通り人間が持つ記憶を他の肉体に移植するための技術である。

 それはリベリオンの怪人製造時に必ず行っている、脳操作技術を応用した物であった。

 例えば怪人製造時、素体となった人間に対して生物の合成技術を用いることで新たな機能を付与する。

 そして追加された機能を使いこなすために、素体の脳へ直接必要な情報を書き込むのだ。

 つまり怪人の体と言うハードウェアを適切に動かすために、脳へ直接ハードウェアの制御ソフトをインストールしているのである。

 宇宙から送り込まれた技術の一つ、生物の合成技術を用いれば現代科学では解き明かされていない脳と言う未知の領域を弄ることも可能だった。

 しかしセブンが探った情報によると、記憶の移植は成功例が極めて低い物であった。

 過去の実験データによれば人工怪人へ記憶を移植した時、大抵は移植先で記憶が定着せずにそのまま乖離してしまったらしい。

 実験後に残るのは記憶が定着しなかった人工怪人と言う木偶人形と、大事な記憶を抜き取られた事で木偶人形となった哀れな人間だけである。

 この施術は記憶を移植する物であり、移植元となる人間からその人物を構成するほぼ全ての記憶を抜き去る事になる。

 つまり記憶が抜き取られた人間は、そのまま人工怪人と同じ息をするだけの存在になってしまうのだ。

 記憶の移植実験は毎回失敗に終わり、木偶人形の数だけが増えていった。

 今のセブンの目の前に居る白仮面と言う成功例が生まれるまで、この悪魔のような実験は誰も知らない場所で続けられていたのである。


「あなたは人工怪人に対して記憶の転写が成功した唯一の成功例。

 あなたには過去の記憶、過去の自分が有るのだろう?」

「そんな物はとっくの昔に消されて…」

「嘘、あなたには明らかに自分を持っている。

 唯一記憶が定着したあなたに対して、記憶を操作すると言うリスクを犯す事も考え難い」


 白仮面の体は全て作り物である、しかしその記憶は作られた物では無い。

 セブンの見た所、白仮面には確実に人工怪人と言う新たな器に入る以前の記憶を保持していた。

 白仮面の制作に携わった者としては、折角定着した記憶に刺激を与えるような行為はしたく無いだろう。

 本当であればリベリオンの戦闘員や怪人のように不必要な記憶を消去する所であろうが、下手に手を出して定着した記憶が崩壊しては意味が無いのだ。

 白仮面は人間としての記憶を持ちながら、命じられるがままにガーディアンの戦士やリベリオンの怪人と戦ってきた。

 何故、このような無謀な行為を白仮面は続けてこられたのだろうか。


「…記憶が何だと言うんだ!? 俺は怪人だ…、記憶が有ろうが無かろうが元の生活には戻れないんだよ!!」

「それは…」

「…これ以上首を突っ込むな、死ぬぞ」


 これまで背を向けたままセブンと話をしていた白仮面が、自らの仮面を外しながら体を百八十度回転させた。

 凹凸の無い白い仮面の下には明らかに人と異なる偉業の顔が有り、その者が人間で無い事を示していた。

 怪人としての素顔を向けながら激高する白仮面に圧倒され、セブンは二の句を告げることが出来ない。

 そのまま白仮面はセブンに再び背を向け、彼女に対して警告を残しながら足早と部屋を出て行った。

 感情を押し殺した声で有りながら、その言葉からは僅かにセブンの身を心配する白仮面の意思が感じられた。











 白仮面が部屋から出て行った後、セブンは椅子に深く腰を掛けながら天井に目を向ける。

 別にセブンは白仮面を心配する理由も無く、攫われた立場としては恨んでもおかしくない相手である。

 客観的に見て先ほどのセブンの行動は、自殺行為と言っても過言では無いだろう。

 虜囚の身で有りながら最重要機密と思われる白仮面の正体を探り、わざわざその事実を本人に公開したのだから。

 自分は何故このような理に合わない行動をしたのだろうか、セブンは自分自身に問いかけていた。


「白仮面に興味を持った? 否、白仮面その物よりは、あれが受けた記憶の移植実験に興味がある。

 記憶の移植実験、実験によって記憶が抜かれた人間の体…」


 データを見る限り白仮面と言う一体の成功例を出すために、少なくとも数千人もの犠牲が出たことになる。

 そしてその殆どが失敗したと言うことは、大事な記憶が抜かれた多数もの木偶人形が生まれるのだ。

 しかし一から人工的に作られる魂の無い人工怪人とは違い、この木偶人形たちには残りカスのような物だが魂はまだ残っている。

 失った記憶を補う情報を再インストールすれば、息をするだけの木偶人形たちから命令通りに動く機械人形に仕立てる事は可能であった。


「あれの製造過程で不必要な記憶が消されるのでは無く、素体から既に記憶が抜き取られていた?

 どの工程で記憶が消されようと、完成品の品質に問題は無いと言う事か…」


 セブンには実験によって生み出された木偶人形たちを、再利用するための方法に気付いていた。

 これにはセブンの古巣で有るリベリオンも深く関わっており、決して彼女とは無関係な話では無いだろう。


「丹羽 大和、あなたの記憶は…」


 そして聡明なセブンは断片的な情報から、自分以上にこの話に関係のある人物が居ることに気付いていた。

 セブンの脳裏に自分を博士と言う愛称で呼ぶ、あの戦闘員の少年の姿が思い返されていた。

 まるで怯えたかのように僅かに声を震わせながら、セブンは丹羽 大和と言う少年の数奇な運命を垣間見ていた。



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