16. 決闘
欠番戦闘員二号を名乗る女の正体は御存知の通り、元リベリオンの蜂型怪人クィンビーである。
そしてクィンビーが使う大和の怪人専用バトルスーツを模したそれは、実際は何の力もないハリボテでしか無い。
戦闘員の同程度の力しか無い簡易コアを使用したこのスーツには、当然のように機械蜂を正確無比に操るような力は存在しないのだ。
ではクィンビーはどのような手段を持って、あの機械蜂たちを操っているのだろうか。
その答えは簡単である、実はあれは今のクィンビーと同じように擬装用のハリボテを纏った大蜂たちであった。
哀れにも大蜂たちは女王蜂の指示により、自分たちを機械仕掛の蜂であると偽装する羽目になったのだ。
しかしクィンビーの大蜂たちは、先のショッピングモールの戦いにおいて全滅している。
リベリオンを抜けた彼女には大蜂を補充する手段は残されておらず、一体どのような手段で大蜂を補充したと言うのか。
その答えを知るためには、リベリオン関東支部での戦いの直後まで遡らなければならない。
「おい、何処へ行く! 出口はこっちじゃ…」
「私にはまだやり残しが有るのよ! 早く付いてきなさい!!」
リベリオン関東支部での戦い、その最終局面で大和たちは支部の崩壊から逃れるために全力で逃げている筈であった。
しかしどういう訳かクィンビーはまっすぐに出口まで向かわず、大和と共にある寄り道をしていたのだ。
崩壊する関東支部から逃げる所か、逆に支部の奥に向かおうとするクィンビーにはとある目的があった。
迷いない足取りで進むクィンビーの後を、おっかなびっくりの様子で大和が着いて行く。
「よし、ギリギリ間に合った! これさえ有れば…」
「これは…、馬鹿でかい蜂の巣?」
「早くこれを担ぎなさい、もう此処には用は無いわ!!」
「えぇ、俺が運ぶのかよ!!」
そこはリベリオン関東支部において、比較的に重要度が低い施設であった。
怪人その物を製造するためのラインでは無く、怪人に必要なパーツを製造するための施設。
勿論、この施設でもリベリオンの秘中の秘である生物の合成技術は使われているが、怪人の製造ラインに比べたら重要度は低いであろう。
そのために機密保持機能による支部の崩壊が起きている中、幸運にもこの施設はまだほぼ原型を留めていた。
それは蜂型怪人である彼女の手足となる、あの大蜂たちを製造するためのプラントであった。
通常の何倍もの大きさを誇る大蜂の巣に相応しいそのプラントは、僅かな月日で大量の大蜂を凄惨可能であった。
クィンビーが脱走したことによって大蜂たちを使う者が居なくなり、どうやらプラントの機能を停止しているようだ。
しかし何かの研究にでも使うつもりだったのかプラント自体は完全な状態で残っており、これさえ有れば大蜂の再生産は可能だろう。
こうしてクィンビーは関東支部崩壊のドサクサに紛れ、彼女の最大戦力である大蜂を補充する手段を手に入れていた。
「これで私の大蜂を作ってくれない? 擬装用の装甲もよろしくね」
「ほう、リベリオンの技術か、面白い…」
そしてクィンビーはリベリオン関東支部で手に入れた大蜂のプラントを三代に託し、早速大蜂の再生産を依頼していた。
バトルスーツの専門家である三代に頼むのは筋違いで有ろうが、クィンビーには他に頼れる人間は居なかった。
実際、セブンが残していた怪人製造に関する僅かなデータ、そしてほぼ原型を留めているプラントが無ければ大蜂の再生産は不可能であったろう。
ついでに大蜂をバトルスーツの機能の一種に思わせるため、大蜂用のハリボテまでを作られた所で準備は整った。
こうしてクィンビーは怪人としての力をほぼ取り戻したのだ、全ては強化した白仮面に対抗するために…。
クィンビーの小細工は実を結び、不意を突かれた白仮面は大蜂の毒針の餌食となった。
バトルスーツこそ強力になった物の、スーツを纏う白仮面の怪人としての体に変化は無い筈だ。
そして白仮面と言う怪人に対して、クィンビーの大蜂が持つ毒は一定の効果が有ることは前の戦いで証明されている。
案の定、偽装した大蜂の毒を受けた白仮面の足が僅かにふらついてる。
すぐに体制を整えて平然とした態度を取ってみせるが、大蜂の毒が白仮面を犯しているのは明白であろう。
「あのスーツを着た女の能力、あれは…」
「ああ、蜂女にそっくりだな。 全く、趣味が悪いぜ…。
まあ蜂女の能力なら、近接しか能の無い旦那の弱点をカバー出来る。
これならあの白仮面も…」
「ふんっ、クィンビーの猿真似か…。 低能な人間らしい小賢しい浅知恵だな…」
偽装したクィンビーの機械蜂たちによる活躍は、ガーディアンやリベリオンに衝撃を与えていた。
それも当然であろう、見た目の差異は有る物のあのバトルスーツを纏った女の能力は、蜂型怪人クィンビーのそれとほぼ同じなのだ。
しかし流石にあのバトルスーツの中身がクィンビーで有るとは想像出来ないらしく、彼らはあれをクィンビーの能力を模倣したバトルスーツであると判断していた。
リベリオンの怪人とガーディアンのバトルスーツは正義の悪の戦いと言う性能試験を経て、日進月歩で進化している。
その過程でリベリオンの怪人の能力を真似たバトルスーツが生まれることも有り、その逆のパターンも存在していた。
それ故にクィンビーの能力を模したバトルスーツの存在は、決して有り得ない物では無いのだ。
「欠番が来たぞ、あの人ならきっと…」
「お願い、あの化物を倒して…」
欠番戦闘員の登場に色めき立つガーディアンの戦士たち、まさしく救いの主が現れたかのような心境なのだろう。
ガーディアンの戦士とリベリオンの怪人、敵対する組織の精鋭たちが束になっても敵わなかかった白仮面と言う化物。
白仮面の脅威によって心が折られてしまった哀れな正義の味方たちに取って、頼れる存在は欠番戦闘員と言う謎の存在でしか無かった。
未だに地べたを這いずっている敗北者たちは、期待に満ちた目で欠番戦闘員の姿を注視している。
「やれやれ、此処からが本番だったんだがな…」
「仕方ない、特別に獲物を譲ってやるか…」」
人間より上の存在と言い切って憚らない怪人たちもまた、欠番戦闘員の登場を喜んでいた。
口では強きな姿勢を崩さない物の、内心で白仮面と自分たちの圧倒的な差を既に理解しているのだろう。
怪人たちもまた不倶戴天の敵であるガーディアンの戦士たちと共に、地面に転がりながら白仮面と欠番戦闘員の戦いを見つめていた。
ガーディアンの戦士、リベリオンの怪人たちに見守られながら欠番戦闘員こと大和は因縁の白仮面と対峙していた。
着実にクィンビーの毒が白仮面を犯しているのか、白仮面は微かに息を荒げながら大和たちと言葉を交わす。
「ふぅ、ふぅ…、本命のお出ましか…。 これで少しは楽しめそうだ…」
「はんっ、減らず口もここまでよ! 」
状況は確実に大和たちに有利であった。
白仮面は先ほどまでガーディアンとリベリオンの精鋭と戦っていたのだ、ダメージこそ負った様子は無い物の全く消耗していないとは思えない。
加えて白仮面はクィンビーの操る機械蜂に偽装した大蜂の奇襲を受けて、その毒を体に受けてしまった。
大蜂の毒は人間であれば一瞬で絶命させ、怪人であっても少なくないダメージを与える。
インターバル無しに二戦目に突入し、かつ毒まで受けている白仮面は圧倒的に不利な状況で有ると言えよう。
この状況を作り出すために大和たちはファントムの能力で姿を消しながら、密かに機会を伺っていたのだ。
「あらあら、足がふらついているわよ! あんたも年貢の納め時ね!!」
「はぁはぁ…、相変わらず口煩い奴だな…」
欠番戦闘員二号に扮するクィンビーは機械蜂たちを白仮面の周囲に飛ばし、忠実な兵隊たちは縦横無尽に翔び回りながら追撃の機会を伺っていた。
しかしクィンビーの機械蜂たちは白仮面に決して近寄ること無く、何故か一定の距離を保ち続けている。
そして白仮面に対して軽口を叩いているクィンビーであるが、覆面の下に隠された表情は何処か焦りが見えていた。
過去の数度の戦闘経験からクィンビーは、白仮面の持つバトルスーツの特殊能力を把握していた。
コアから引き出したエネルギーをそのまま衝撃波として放つ単純な能力であるが、その効果範囲の広さは機械蜂たちには致命的である。
毒で弱りながらも白仮面は絶えず機械蜂たちを警戒しており、後少しでも近づいたならば容赦無くエネルギー波を放つ事だろう。
以前に使っていた骨董品同然の白仮面のスーツならば、エネルギー波を連発出来ないという弱点をついて波状攻撃を狙う事もできた。
残念ながら三代の見立てでは今のセブン製のスーツは、連発出来ないと言う弱点が既に克服されている可能性が高いと言うのだ。
毒で弱った状態であればもう少し隙が出来ると予想していたクィンビーは、思わぬ白仮面の鉄壁ぶりに動くを封じられていた。
「ちぃ…、これ以上は厳しいか。 仕方ないわね、後はあんたに任せるわよ…」
「オウっ! 此処デ決着ヲ着ケテヤル、白仮面!!」
「来い、絶望を味あわせてやろう!! 二度と戦場に出ようなどと思わないようにな!!」
今の白仮面相手に手を出しても機械蜂たちが無駄になるだけと判断したクィンビーは、当初の予定通りに大和に出番を譲ることにしたらしい。
数歩後ろに下がったクィンビーは機械蜂たちを操り、大和と白仮面の周囲を覆うように機械蜂を配置していく。
機械蜂たちが耳障りな翅音を立てながら形成するドームが、これから行われる大和と白仮面の戦いの決戦場である。
前回の戦いで大和は白仮面相手にコア80%の出力で挑み、そして敗れてしまった。
最早、コア80%の力では白仮面に太刀打ち出来ないのは明白であり、大和に残された手は僅かな時間しか使用できないコアの最大開放しか無い。
白仮面を出来るだけ弱らせるための手は打った、後はコア100%の力が白仮面に通じることを願うしか無い。
コアの最大開放が一瞬しか行えない事から、大和は白仮面との戦いは勝つにしろ負けるにしろ一瞬で終わると予感していた。
性能的に近接戦闘が余り得意では無いクィンビーは、白仮面の逃走を防ぐための包囲網の構築をしていた。
既にクィンビーは毒で白仮面を弱らせると言う役割を果たしており、後は大和が白仮面を倒すだけである。
大和の脳裏にセブンの姿が一瞬浮かぶ、白仮面の背後には恩人で有り今の大和に取っての初めての友である彼女が居る。
此処で大和に引く理由は全く無く、次の瞬間に大和は駈け出していた。
腰に巻かれた大和の怪人専用バトルスーツのインストーラ、その中心に嵌められたコアが煌めいた。
最大限の力を出せることを喜ぶかのように、コアは激しい光を放ち初めたのだ。
そしてコアの輝きに呼応するかのように、大和の両腕には凄まじい炎が灯っていた。
中途半端な力では白仮面に瞬殺される、大和は初手でコア100%開放と言う最大の切り札を切ったのだ。
「ウォォォォォッ!!」
「ははははははははっ、来るがいい!!」
コア100%の負荷が体を苦しめるが、大和はその痛みを誤魔化すかのように雄叫びを上げながら特攻する。
迫り来る大和を前に白仮面は、狂ったかのように哄笑しながら正面からコア100%の力を開放した大和を迎え撃つ。
白仮面のバトルスーツのコアもまた、大和と同じように激しい光を放っていた。
恐らく地球上で初であろう100%開放されたコアとコアとの衝突、そして決着は一瞬で付いた…。
 




