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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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15. 工事現場の死闘


 とある町外れの工事現場ではまだ工事の初期段階と言うこともあり、整地された地面のみが広がっていた。

 僅かな工事用の機材以外は殆ど障害物は無く、集団戦闘を行うには絶好の場所であろう。

 リベリオンはこの工事現場で働く作業員を確保するために現れ、ガーディアンはそれを止めるために現れた。

 この場に姿を見せた十体近く居るリベリオンの怪人、そしてそれと同数のガーディアンの戦士たち。

 リベリオンは怪人の材料となる素体を手に入れようと動き、ガーディアンは素体となった人間を救おうとする。

 それは遠目から見れば普段と全く変わりない、ガーディアンとリベリオンの戦いだったのだろう。

 しかし今日のリベリオンとガーディアンの動きは、何処か精彩を欠いていた。

 実際、リベリオンの怪人にガーディアンの戦士、両組織の精鋭たちは今の戦いが単なる前哨戦でしか無い事を知っていた。

 今回に限り彼らの標的は目の前に居る敵対組織の者では無く、両組織の戦いに割り込んできた不埒者であった。


「…ターゲット確認! 白仮面が出たぞ!?」

「ふんっ、やっとお出ましか…」

「作戦を第二段階に以降、愚図愚図するな!!」

「今は人間は後回しだ、まずは裏切り者を始末するぞ!!」

「おや、これはこれは…」


 白仮面、ガーディアンとリベリオンの戦いに介入するようになった謎の存在。

 怪人で有りながらバトルスーツを使う白仮面によって、ガーディアンとリベリオンの戦力がどれだけ減らされただろうか。

 臆する事無く堂々と、白仮面は何時ものように正面からガーディアンとリベリオンが集う戦場に姿を見せた。

 本命の標的が登場した事でガーディアンの戦士たちとリベリオンの怪人たちはすぐに戦いの手を止め、殺気を篭った目線を白仮面にぶつける。

 そして図ったのようにガーディアンとリベリオンの面々は散開し、白仮面の周囲を囲んでいった。

 正義と悪の包囲網が築かれた事で白仮面は漸く、ガーディアンとリベリオンの真の目的に気付いたのだろう。

 世界を二分する組織、ガーディアンとリベリオンの精鋭に囲まれた白仮面は、その仮面の下で楽しそうに笑っていた。






 ガーディアンとリベリオンは白仮面討伐のために、全力を出したと言えるだろう。

 両組織は共に精鋭と言える戦力を抽出しており、正義と悪の共同戦線と言う場も整えた。

 これが今のガーディアンとリベリオンが出せる最大戦力であり、これで勝てなければ最早両組織に打つ手は無いだろう。

 勝算はあった、否、勝算があると信じていた。

 両組織がこれまでの白仮面との戦闘データを分析した所、その実力はコア80%開放時の欠番戦闘員と互角かそれを少し上回る程度の物と判断していた。

 その力は通常のガーディアンの戦士やリベリオンの怪人を圧倒しており、闇雲に戦ってはこれまでの二の舞いになってしまう。

 しかしその力は決して無敵では無く、ガーディアンとリベリオンが力を合わせれば決して勝てない相手ではない。

 それ故に両組織は正義との悪の共同作戦を画策し、数の力を持って白仮面を排除する事を決めたのだ。


「…少しはマシだったかな?」

「そんな…、これだけの戦力を相手に…」

「ば、化物が…」


 ガーディアンとリベリオンの敗因はただ一つ、これまでの戦いで見せていた白仮面の力を全力と判断した事であろう。

 はっきり言って白仮面はガーディアンとリベリオンとの戦いにおいて、一度足りとも全力を出した事は無かった。

 唯一、全力らしき力を出した瞬間はリベリオン関東支部で大和と対峙した時くらいで有り、白仮面は常に余力を持って戦っていた。

 そして白仮面が少し本気を…、コアの力を通常の80%から100%に上げるだけで全ては終わったのだ。

 後には両組織の精鋭たちが工事現場の地面に転がり、無傷の白仮面のみが両の足で立っているだけであった。

 仮にも精鋭たちである、地面に倒れている者たちの中にはまだまだ戦う力が残っている者も居た。

 しかし彼らは立つことが出来無かった。

 リベリオンとガーディアン、世界の頂点とも言える力を持った自分たちを足蹴に出来る白仮面と言う理外の存在を前に心が折れてしまったのだ。

 白仮面という圧倒的な脅威を前に、最早正義や悪というお題目は虚しい物でしか無かった。











 殆どの者たちが白仮面の力に屈服して諦める中、それでも諦めずに立ち向かおうとする者たちが居た。

 ダメージを受けた体に鞭を打ち、立ち上がろうとする彼らは未だに自分たちの敗北を認めようとしない馬鹿者たちだった。


「このリザド様がこれ位で…」

「まだだ!? まだ僕は…」


 例えばリザド、怪人としての過剰なまでの自負を持つ蜥蜴型怪人の目には未だに力があった。

 恐らく欠番戦闘員こと大和と最も戦ったであろうリザドは、ある意味で格上を相手にすることには慣れていた。

 例えば白木、彼の脳裏には未だに鮮明に思い返すことが出来るかつての相棒の少女の姿があった。

 黒羽は自分の身を顧みずに自分を守ってくれた、戦えなくなった彼女の替わりにこの場に立っている自分が此処で倒れる訳にはいかない。

 他にも諦めの悪い者達はちらほらと居るらしく、リザドや白木に同調した彼らは同じように地面から立ち上がろうとしていた。

 恐らくこの状況で白仮面が追い打ちを掛ければ、この愚者たちはあっさりと全滅するだろう。

 しかし白仮面はあえて何もすることは無く、愚者たちが再び自分の前に立つ瞬間を待っていた。

 それは勝者の余裕であり、自分が絶対的強者である事を知っている上での行動だった。


「っ!? これは…」


 白仮面の余裕は、次の瞬間に脆くも崩れ去ってしまう。

 微かな翅音と共に白仮面は、かつて感じたことのある激しい痛みを感じたのだ。

 その痛みを感じた白仮面は半ば無意識の内にその場から後退し、そして先ほど自分が立っていた地面から何かが飛び出てくる瞬間を目撃する。

 それは言うなれば機械で出来た蜂であろう。

 何らかの金属で作られたボディを持つ巨大な蜂が、半透明な羽を激しく羽ばたかせているのだ。

 よく見れば白仮面の体にも一体の機械蜂がおり、足の腿の部分に毒針を深々と突き刺しているでは無いか。

 痛みの原因を知った白仮面は、すぐさま右でを振るって害虫の駆除を試みる。

 しかし白仮面の動きより一歩早く機械蜂は翅を羽ばたかせて飛び立ち、他の機械蜂と合流してしまう。


「…よしっ、当たった!!」

「この声は…、一体何処から!? …まさか!?」


 地面から飛び出してきた十数匹もの機械蜂は、耳障りな翅音を立てながら白仮面の周囲を囲んでいく。

 それと同時に何処かともなく、勝ち誇ったような女の声が周囲に響き渡る。

 その声に白仮面は周囲を見渡しすが、声の出処となった人物の姿は何処にも見当たらない。

 姿は見えず声だけが聞こえる、この状況に覚えがあった白仮面はかつて敗北を味わった存在の登場を予期する。

 そして白仮面の予想通り、周囲に溶けこむための偽装を解いた黒い亡霊がこの戦場に姿を見せる。

 その黒いマシンの上には、既にバトルスーツを展開して完全装備をした欠番戦闘員一号と二号の姿があった。






 それは同系統のスーツ型バトルスーツを纏った一組の男女であった。

 体にフィットする黒いスーツの上にブレストアーマー、ガントレット、そして顔にはフルフェイスのマスク。

 男性の方は炎を連想させる赤い紋様、女性の方は雷を思わせる黄色い紋様がバトルスーツの各所に配置されている。

 欠番戦闘員、常にリベリオン戦闘員と同じ黒い戦闘員服を身に纏い、その名前の由来となった戦闘員番号を塗りつぶした戦闘員マスクを被る謎の人物。

 今はバトルスーツを身にまとっているためにその特徴を見出すことが出来ないが、この場に居る誰もがあの男が欠番戦闘員だと理解していた。


「ふんっ、ざまぁ無いわねー!」

「この攻撃、お前はまさか…」


 一方、欠番戦闘員とよく似た格好をする女の正体を知る者は殆ど居なかった。

 リベリオン関東支部の戦いで初めて現れた欠番戦闘員の協力者、自らを欠番戦闘員二号と名乗るそれは楽しそうに白仮面を挑発している。

 その女の声に呼応するかのように彼女の周りには、白仮面の周囲を覆っているそれと同じ機械蜂が続々と姿を見せる。

 機械蜂はあの女に従っているらしく、あの女が身に纏うバトルスーツの特殊能力はこれらの機械蜂の操作なのだろう。

 既存の技術では不可能である緻密な精密動作、機械蜂の一体一体がまるで意思を持ったかのように動いているその光景はコアの恩恵あっての物に違いない。

 欠番戦闘員二号と名乗る女の素性を知らない者であれば、あの女の正体をバトルスーツを使用する欠番戦闘員の協力者と考えるのが妥当であろう。

 しかし欠番戦闘員こと大和とその周囲の関係を知る白仮面は、すぐに欠番戦闘員二号の正体に気付いたらしい。

 白仮面の脳裏にはかつての苦い記憶が蘇っていた。

 かつて妃 春菜という少女が残した記憶媒体の争奪戦、その戦いに置いて白仮面は記憶媒体の破壊という任務こそ達成した物の手痛いダメージを受けてしまった。

 今の状況はその時のほぼ同じ展開であり、必然的に白仮面の脳裏にはその時に戦った相手の姿が思い浮かんでいた。

 地面からの蜂による奇襲攻撃、前回と同じ手にまんまと引っ掛かった白仮面の無様な姿を前にバトルスーツを纏った蜂型怪人クィンビーはご機嫌な様子であった。



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