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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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13. 希望


 極端に照明が抑えられた室内の中央で、豪奢な椅子に座る一体の異形の姿がそこにあった。

 その異形は明らかに人と異なる緑色の皮膚をしており、昆虫のような複眼を備えている。

 上質なマントで隠された首から下の部分も、恐らく人とはかけ離れた構造になっているのだろう。

 この世界で最初の怪人、リベリオン首領は椅子の肘掛けに軽く体重を掛けながら、天井から吊るされたスクリーンに映る人物と向かい合っていた。


「関東支部の報告は受けたな? 試作品の性能は予想以上だったな…」

「バトルスーツの性能がいいのでしょう、試作品の性能を飛躍的に高めています」


 スクリーンに映る人物はリベリオン首領とは対象的な、極々普通の姿をした老人であった。

 小綺麗なスーツを着た老人の瞳には力が有り、背筋をしゃんと伸ばしている。

 ガーディアンの総司令である色部は、不倶戴天の敵で有る筈のリベリオン首領と画面越しに極秘会談を行っていた。

 正義と悪の対立構造を演出しながら密かに裏で手を進んでいる両組織のトップは、先のリベリオン関東支部での一件について語っているらしい。

 試作品、大和たちが白仮面と名付けたその存在は、どうやら両組織のトップを満足させられるだけの性能を見せたようだ。

 事実、白仮面は先の戦いでリベリオン・ガーディアンの精鋭たちを尽く打ち倒して見せた。

 仮にも自分たちの組織の戦力が倒されたにも関わらず、首脳陣たちは全く気にした様子は無かった。


「あそこまで怪人に適したバトルスーツを作り出せるとは…。

 あれを今まで放置していたのは正解だったな…」

「確かうちの研究者の親戚と偽って、ガーディアン内に入り浸っていた少女ですよね。

 名前は三代 八重…」

「セブン、リベリオンの開発部主任だった女だ」


 今回の白仮面が見せた戦果は、白仮面が使った新しいバトルスーツの力あっての物である。

 その事を重々承知しているらしい色部たちの注目は俄然、件のバトルスーツを開発したセブンに集まっていた。

 リベリオンの人間で有りながらガーディアンの技術であるバトルスーツに興味を持ち、組織を脱走してガーディアンの人間と手を組んだ異色の人物。

 密かにガーディアンのトップと繋がっていたリベリオン首領に取って、脱走した筈のセブンの動向を探る事は簡単であった。

 本来であれば裏切り者であるセブンを始末するために、彼女の元に刺客を放っていてもおかしくは無かったろう。

 しかし怪人とバトルスーツの両方の技術に精通した彼女は、白仮面のバトルスーツを作るに最適な人材であった。

 白仮面に専用のバトルスーツを使わせる事は決定事項であり、何れは怪人専用のバトルスーツを作れる存在は必要になる。

 それ故にリベリオン首領は裏切り者であるセブンの所在を掴みながら、今まで裏切り者をあえて放置していたのだ。


「あの試作品が今の我々が作り出せる最高の戦力だろう…。

 しかしあれではまだ足りない、全然足りない…」

「我々は来るべき日までに、もっと高みに登らなければなりません。

 そのためにあの試作品には、まだまだ働いて貰わなければ…」


 人類が生み出した既存の技術とは隔絶した、宇宙産の技術によって生み出された戦力たち。

 ガーディアンの戦士たちやリベリオンの怪人たちの力は、他を圧倒した物であった。

 それらの化物を一蹴した白仮面の実力は、客観的に見て史上最強と言っていいだろう。

 しかしリベリオン首領やガーディアンの総司令には、白仮面の力は不十分だと言うのだ。

 ガーディアンとリベリオンと言う二大組織の頂点に立つ彼らは、既に世界を統べるだけの力を持った存在である。

 それにも関わらず両組織の首脳たちは、まだ力を求めると言うのだろうか。

 未だに彼らの真の目的は謎に包まれたままであった。











 リベリオン関東支部での死闘から数週間が経ち、リベリオンとガーディアンの関係はまた元のような状態になっていた。

 リベリオンは減りに減った戦力を補充するためにも、怪人や戦闘員の素体の確保は急務である。

 関東支部の崩壊後の混乱によって暫く鳴りを潜めていた悪の組織であったが、最近になってまた活発に活動を開始したのだ。

 そして正義の味方であるガーディアンが、そのようなリベリオンの悪行を許すはずも無い。

 トップの思惑は兎も角、両組織に居る大半の人材は純粋に正義のために悪のために活動を行っている。

 それぞれの組織の人間たちが自らの職務を全うしようとするならば、このような展開になるのは自然な流れであろう。


「くそっ、クラーケンがやられた!?」

「おい、小豆!? しっかりしろ!!」


 しかし正義と悪の組織の関係は、あるイレギュラーな存在によって微妙に変化をしていた。

 リベリオン関東支部での介入以降、白仮面は事あるごとにガーディアンとリベリオンの戦いに姿を見せるようになった。

 現れた白仮面はその圧倒的な力を持って、目に入った存在全てに襲いかかった。

 正義も悪も関係無いその狂犬のような所業は、ガーディアンの戦士たちやリベリオンの怪人たちは正義・悪の区別なく恐怖した。


「くそっ、白仮面! まずはあいつを倒すぞ!!」

「ガーディアンなど放っておけ! あの裏切り者を始末するのが先決だ!!」

「…少しは楽しませてくれよ」


 共通の敵が現れた事で、決して相容れない筈のガーディアンとリベリオンが時には共闘すら始めるようになった。

 バトルスーツを纏った戦士がリベリオンの怪人と肩を並べて戦う、一昔前には考えられなかった光景である。

 そして白仮面はガーディアンとリベリオンの努力を嘲笑うかのように、容赦なくそれらを打倒していく。

 正義にも悪にも属さなずただ戦いを繰り返す白仮面、その真意は白い無機質な仮面に覆い隠されて伺うことが出来無かった。











 ガーディアン東日本基地の一角にあるトレーニングルーム、少し前まではそこには汗を流すガーディアンの戦士たちで溢れ変えてっていた。

 しかし現在のトレーニングルームは閑古鳥が鳴いており、室内に居るのは十名弱の人間だけである。

 白仮面の所業によってガーディアンの戦士たちは続々と戦線離脱を余儀なくされており、この部屋を使う人間が減って行っているだ。

 トレーニングルームで汗を流していた白木は、部屋の静かさから現在のガーディアンの現状を垣間見ていた。


「此処も静かになったな…。

 畜生、白仮面の奴!? 調子に乗りやがって…」

「一体何人の人間が犠牲になったんだ、あいつに…」


 病院送りにされた者たちであれば、傷が癒えればまた此処に戻ってくるだろう。

 先のリベリオン関東支部の戦いで白仮面にノックアウトされた土留もまた、そう遠くない内に此処に顔を見せる筈だ。

 しかし白仮面の犠牲になった戦士たちの中には再起不能になった者も有り、彼らがこの場所に戻ってくることは二度と無い。


「この前出動した連中がまた白仮面に襲われたらしいな。

 結果はリベリオンの怪人と一緒に仲良く全滅、やってられないぜ…」

「このままだと白仮面にやられる一方だ! 早く何とかしないと…」

「何とかってどうするんだ? 正式コアを持つ連中が束になっても勝てない化物だぞ…」


 人が少なくなった事も有り、トレーニングルームに居る他の人間たちの会話が嫌でも白木たちの耳にも入ってきた。

 やはり今ガーディアンの戦士たちの中で最も話題になっている事柄は、件の白仮面の話であろう。

 ガーディアンの人間に取って正式コアを備えたバトルスーツを纏う戦士は、彼らの誇りで有り強さの象徴であった。

 その誇りを容易く打ち破った白仮面の存在に、ガーディアンの人間たちは恐慌寸前の状況であった。


「欠番戦闘員、彼が出てきてくれたら…」

「ああ、きっと欠番戦闘員なら白仮面を倒してくれる」

「一体何をやっているんだ、欠番戦闘員は…。 さっさとあの化物を倒して欲しい物だぜ」


 ガーディアンの戦士たちにさえ頼ることが出来なくなった彼らの最後の希望は、欠番戦闘員と呼ばれている謎の存在であった。

 その正体は未だに謎に包まれている物の、今までの功績によって殆どのガーディアンの人間は欠番戦闘員の存在を好意的に捉えている。

 そして欠番戦闘員の並外れた戦闘能力を知る面々は、他力本願な事に白仮面の妥当を欠番戦闘員に期待するようになっていた。

 このトレーニングルームでの何気ない会話は、驚くべきことにガーディアンの大半の人間の本音である。

 本末転倒な事に正義の味方である彼らが、自分たちを救ってくれる正義の味方の登場を待ち望んでいるのだ。

 欠番戦闘員の存在に思う所のある白木は、今のガーディアンの空気に内心で不満を抱きながら黙々とトレーニングを続ける。

 ガーディアンの看板にもなった白木の丹精な顔から、汗のしずくが滴り落ちていた。


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