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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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12. セブンの役割



 時の針を巻き戻し、一先ずリベリオン関東支部での戦いが終わった直後に戻る。

 機密保持機能という支部の崩壊から辛くも逃れた大和とクィンビーは、ファントムの力によって無事に生還していた。

 彼らはそのまま東日本ガーディアン基地の三代ラボへに辿り着いていた、当然のように正義の味方達の目はこれまたファントムの活躍で誤魔化している。

 大和たちを出迎えた黒羽たちの表情は暗い物であった、既に通信で彼女たちに目的が達成出来無かった事は伝えていたからだ。

 未だに戦闘員装束を着ていた大和は、三代ラボに入った所で戦闘員マスクを外して黒羽に向かって頭を下げる。


「すいません、博士の情報は何も入手できませんでした…。

 白仮面の奴にも逃してしまって…」

「頭を上げてくれ。 気にするな、君は精一杯やったよ…」

「あぁぁぁ、むしゃくしゃするぅぅぅ!!」


 セブンを攫った張本人である白仮面と接触しながら、何の情報を手に入れられなかった。

 それどころか大和は白仮面と直接矛を交え、完璧なまでに敗北をしてしまう。

 出発する際に黒羽からセブンの事を頼まれていながらこの体たらくである、大和には頭を下げて謝ることしか出来無かった。

 そんな大和に対して、黒羽は決して大和の失敗を咎めなかった。

 過去にガーディアンの戦士として活動していた黒羽から見て、大和が精一杯頑張ったであろう事はすぐに察しられる。

 加えて満足に戦う事ができない自分が、危険な前線で戦う目の前の少年に何か言えるはずも無いのだ。

 横で大和と黒羽のやり取りを見ていたクィンビーは、自分の失態を思い出したらしく苛ついた声を出していた。

 大和と同じように未だに戦闘員装束の少女は、先ほど脱いだ戦闘員マスクを八つ当たり気味に引き裂く。


「全く成果が無かった訳では無いわよ、あの子が何をやらされているか大体解ったからね…」

「えっ、どういう事ですか!?」


 お通夜モードの大和達に水を指すように、三代が何気ない口調でとんでもないことを口に出した。

 先ほどから三代ラボに戻ってきた大和達を尻目に、何やら手に持った端末を注視していた三代が大和達の方を向く。

 その手に持った端末、そこにはリベリオン関東支部での白仮面の映像が映し出されていた。






 クィンビーが使用するバトルスーツ、それは大和が使用する巷で欠番戦闘員と呼ばれている怪人専用バトルスーツのパチモノである。

 あくまで怪人としての素性を隠すために作られたそれは、見た目こそ怪人専用バトルスーツと酷似しているが中身はハリボテのような物だった。

 このスーツを作成した三代曰く、こんなカスみたいなバトルスーツを使った事は初めてらしい。

 しかしこの偽装スーツが全くの役立たずと言えばそうで無く、突貫工事で作られた急造品ながらも幾つかの便利機能程度は組まれていた。

 その一つがフルフェイスのヘルメットに仕込まれたカメラ機能である。

 このヘルメットを通して見られた映像は逐一保存されており、後で三代が収集した映像データを研究に使用しようと考えていたのだ。


「それでさっき回収したスーツのインストーラから、映像データを取り出して見ていたのよ。

 いやー、凄いね、この白いの。 前に見た時とは全然違うわ…」

「そ、それで…、何か博士の事が解ったんですか!?」


 三代は手に持った端末の画面、白仮面と大和たちの戦闘記録を周囲に見せながら感嘆の言葉を漏らす。

 この映像に映しだされている白仮面の強さは、以前のショッピングモールの時と比べ物にならない程上がっていたのだ。

 先の戦いからまだ僅かな時間しか経っておらず、普通であれば此処までの性能向上は望める筈も無い。

 しかし三代は既に白仮面の進化の種を見抜いており、それにセブンが関わっている事にも気付いていた。


「簡潔に言うとこの白いのが使うバトルスーツ、攫われたあの子が作った物よ」

「えっ、セブンが白仮面のスーツを!?」

「本当ですか、それは!? なら八重くんはそのために攫われて…」


 ガーディアンに所属するバトルスーツの研究者で有り、セブンの事をよく知る三代は一目で白仮面の新しいバトルスーツの素性に気付いていた。

 白仮面の以前使用していたバトルスーツは、現行の最新機種と比較すれば骨董品レベルと言える酷い代物であった。

 それがセブンが攫われた直後に、白仮面のバトルスーツは最新鋭と言って良い性能を誇る一品となったのだ。

 しかも三代が見る限り白仮面のバトルスーツは、白仮面と言う怪人が使うに適した調整が施されている。

 怪人の知識とバトルスーツの知識の両方が無ければ白仮面のスーツは作り出すことは不可能であり、それ故にセブンが狙われた事は明白だった。


「博士があの白仮面のスーツを作った? 何でそんな事を…」

「くそっ、きっと奴らは無理矢理八重くんを働かせているに違いない!

 許せん…、絶対にゆるさないぞ!!」


 大和は自分を攫った張本人である白仮面のためにバトルスーツを作ったセブンの真意が解らず、唖然とした様子を見せていた。

 黒羽はセブンが嫌々白仮面のバトルスーツを作ったと断定し、セブンの意思を無視して彼女を働かせた白仮面に怒りを募らせている。

 もしかしたら今の彼女の脳内には、白仮面が彼女を傷つけているシーンが写し出されているかもしれない。

 セブンにバトルスーツを作らせるために、殴る蹴るの暴行を加える白仮面。

 そして白仮面の暴力に気丈に抵抗するセブンの様子が自然と浮かび上がり、黒羽の怒りのボルテージが勝手に急上昇していた。

 セブンが攫われた理由が判明した事で、大和達は改めてセブンを一刻も早く助けだす必要が有ると理解する。

 しかし同じ研究者と言うことも有り、ある意味で最もセブンの本質を知る三代の意見は違った。


「いや、意外にノリノリで作ってるかもしれないわよ。

 ある意味あれは、あの子が望んでいた物と言えるしね…」


 そもそもセブンの最終目的は最強の怪人を作り出すことにある。

 そして彼女の目指す最強の怪人の姿は、バトルスーツの使用に適した怪人が専用のバトルスーツを使うことあった。

 夢のためにセブンは怪人の端くれである戦闘員の大和に試作の怪人専用バトルスーツを託し、研究を進めるための戦闘データ集めをやらせていた。

 しかし人工筋肉を鍛えるなどの小細工をしたとは言え、戦闘員である大和から取れる戦闘データには限界がある。

 それに対して白仮面はその素性は不明だが、戦闘員などと言う出来損ないとは違う完全な怪人である事は間違いない。

 しかもどういう訳か白仮面は、既にバトスルーツを使うに適した怪人として作られている存在だった。

 その白仮面のためにバトルスーツを作ることは、最強の怪人を作り出すと言うセブンの夢に一歩近づくための貴重な経験と言える。

 研究のために所属していた悪の組織を躊躇いもなく脱走したあの少女ならば、このチャンスを逃す筈も無い。


「ああ…、白仮面は本物怪人だからね。 怪人モドキの戦闘員でしか無い大和と違って…」

「あの人は何処に居ても研究を続けるだろうからな…」

「そ、そんな事は無いぞ。 きっと八重くんは私達が助けに来るのを待ち望んでいるに違いない…」


 三代の述べた推測は、セブンの研究者としての過激な一面を知る大和やクィンビーには頷くものがあった。

 白仮面と言う貴重なテスターが取ってきた戦闘データを喜々として眺めるセブンの姿が、彼らには簡単に想像出来てしまったのだ。

 セブンの研究者としての面を余り知らない黒羽は一人だけ異議を唱えるが、大和たちの空気を察したのかその声は弱々しい物であった。

 先ほどまで一刻も早くセブンを救おうとしていた雰囲気はすっかり白けていた。











 確かに三代の想像が正しければ、むしろこのまま白仮面のためにバトルスーツを作っている方がセブンの幸せかもしれない。

 しかし攫われたセブンが黒羽の想像した通り、肉体的若しくは精神的に苦痛を与えられる不遇の扱いを受けている可能性も有る。

 セブンが三食保証の研究三昧と言う夢のような生活をしている事を知らない大和たちは、まずはセブンの状況を確認することが先決だと改めて意思統一していた。


「しかし結局、リベリオンの基地でも何の情報も手に入らなかったからな…」

「白仮面はガーディアン・リベリオンの区別無く襲いかかったと言う情報も有る。

 奴はリベリオンでは無かったと言うことか…」

「実はガーディアンって事は…、無いか。 ガーディアンの連中も散々やられたようだしね…」

「白仮面の目的は一体何なんだ…。 いや、この際目的はどうでもいい…。

 次こそはあいつから博士の情報を手に入れないと…」


 やはりセブンの唯一の手がかりは、彼女を攫っていた白仮面しか居ない。

 残念ながら今回のリベリオン関東支部の件で、白仮面がリベリオンに所属した怪人であると言う大和たちの推測に疑問符が付いただろう。

 白仮面は今回の戦いでガーディアンの戦士だけで無く、リベリオンの怪人も多数手に掛けたらしい。

 今回の一件で白仮面の存在は、リベリオン・ガーディアンと言う世界の覇権を争う二大組織を完全に敵に回したと言っていい。

 全方位に喧嘩を売るような真似をした白仮面の意図を、大和は全く推測することが出来なかった。

 しかし少なくとも白仮面はセブンの行方を知っている、それだけは確かな事である。

 大和は次に白仮面に出会った時は、必ずセブンの情報を掴む事を心の中で誓った。




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