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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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10. 圧倒


 自分で空けた壁の大穴から隔離施設へ入ってきた白仮面は、室内に居た大和たちと向かい合っていた。

 新たな強敵を前にその場に居た大和たちは、何時の間にか姿を消したアラクネの事を頭から消して白仮面に集中する。

 特に大和たちに取って白仮面との遭遇は、僥倖と行っていい出来事であった。

 そもそも大和たちがリベリオン関東支部に潜入した目的は、白仮面と白仮面に攫われたセブンの情報を探るためである。

 情報源が自分からのこのこと現れてきたのだ、これは大和たちにとって千載一遇の好機と言えた。


「て、てめ…、またやりやがったな…。 殺す、絶対殺す…」

「土留、大丈夫か!? 白仮面め…」


 先ほど白仮面のエネルギー波に巻き込まれて地面に倒れていた土留が、意識を取り戻したようだ。

 ふらふらの足取りで立ち上がろうとする土留を、慌てて白木が駆け寄って手を貸す。

 白木の肩を借りてどうにか立ち上がった土留は、白仮面に対して憎悪を滾らせていた。

 土留はかつて白仮面に病院送りにされてしまった過去が有り、同じ相手に再びやられてしまった事が余程頭に来たのだろう。

 最早、戦える状態では無いのは明らかであるが、今にも白仮面に襲いかかりそうなほど土留は怒り心頭の様子だった。


「はんっ、好都合ね。 そっちから出てきてくれるなんて…。

 借りは万倍にして返してやるわよ…、変身っ!!」


 そして此処にもう一人、白仮面に対して激しい怒りを燃やしている怪人が存在した。

 目の前でセブンを攫った憎き相手にクィンビーが遠慮する筈も無く、覆面の下で好戦的な笑みを浮かべながら徐ろに何かを取り出した。

 クィンビーは取り出したブレスレット型インストーラを腕に装着し、音声認識によってインストーラを起動させる。

 するとクィンビーの首から下が、一瞬の内に光に包まれたでは無いか。

 光が収まるとクィンビーの姿はリベリオン戦闘員衣装では無く、大和とよく似た形状のスーツ型バトルスーツへと変化していた。

 女性型と言う事で細部は大和の物と幾らか差異が有るが、黒いスーツの上にブレストアーマー、ガントレットと言う基本構成は同じであった。

 大和の使うバトルスーツは炎をイメージさせる赤い紋様が各所に配置されているの対して、クィンビーのスーツには黄色い稲妻をイメージさせるような紋様が描かれている。

 そして大和のスーツと一番の違い、それはスーツの腰部分に折りたたまれたフルフェイスのヘルメットが備えられている事だった。

 基本的にヘルメットをファントムに格納している大和は、今のようにファントムから離れた時にはヘルメット無しの戦闘員マスク姿で戦いを強いられる。

 その反省点を活かしたのかクィンビーのそれには最初からヘルメットを備えており、早速クィンビーは腰のヘルメットを手に持って頭に装着した。

 クィンビーの戦闘員マスクの上からフルフェイスのヘルメットが装着され、欠番戦闘員二号が此処に誕生した。


「欠番戦闘員がもう一人…」

「ははは、二号か、確かにな…」

「その声、まさか…!?」


 変身を遂げたクィンビーに対して、その姿を初めて見る者たちはそれぞれ驚きの声を漏らした。

 クィンビーは大和と違って特に声を変えていない事から、白仮面はその声から先ほどまで戦闘員に変装していた女の正体を察したらしい。

 白木や土留は単純に、欠番戦闘員と同一タイプのバトルスーツを身に着けたクィンビーの存在に驚いていた。

 基本的にバトルスーツの技術はガーディアンが独占しており、白仮面や欠番戦闘員がバトルスーツを所持している事は問題であった。

 それに加えてもう一体、またもやガーディアンの知らないバトルスーツが現れたのだ。

 ガーディアンの立場としては、欠番戦闘員二号と言う新たなイレギュラーの登場に驚かない筈は無い。






 以前にも説明したが、クィンビーにはバトルスーツを使いこなす事はできない。

 蜂の特性を活かしたクィンビーとしての怪人としての能力が、一般的なバトルスーツの能力と相性が悪いからだ。

 クィンビーに比べれば、何の特色も無い戦闘員である大和の方がまだバトルスーツの性能を引き出すことが出来る。

 この蜂型怪人がバトルスーツの力を引き出したいのならば、クィンビー専用に調整した特化型のスーツを用意するより他は無いだろう。

 しかしセブンが白仮面に攫われてから僅か数日の間に、そのような特殊なバトルスーツを用意する余裕は存在しなかった。


「さて、行くわよ、1号」

「無茶スルナヨナ…、テッ、オイッ!?」

「はぁぁぁぁっ!!」

「待テ! オ前ハ後ロカラ援護ヲ…」


 それでは今クィンビーが使っているバトルスーツ、これは一体何なのだろうか。

 実はこれは三代が急遽用意した、クィンビーの怪人としての正体を隠すための擬装用のバトルスーツなのである。

 通常のバトルスーツは装着者に驚異的な戦闘能力を与えるが、クィンビーの纏うそれには戦闘力を上げる効果は何も無かった。

 そもそもこのスーツに使われているコアは、正式な物では無く戦闘員と同等程度の力しか引き出せない簡易コアである。

 つまり今のクィンビーはバトルスーツによって戦闘能力を向上したと見せかけて、純粋に怪人としての性能で戦おうとしているのだ。

 このスーツを使うことで決してクィンビーの戦闘能力が向上している訳では無い事を知っている大和は、復讐に燃える蜂型怪人に気を使う。

 しかし怨敵を前に怒れる女王蜂にはその忠告は届かず、バトルスーツで偽装したクィンビーが真正面から白仮面に突っ込んでいった。

 クィンビーをフォローするため、大和も慌てて後を追って駆け出した。










 白仮面との数度の戦闘経験がある大和は、この場で白仮面を倒せる可能性はそれなりに高いと考えていた。

 その理由としてはこの場に、クィンビーと言う大和の味方と言える存在が居るからである。

 人工筋肉を鍛えたことによって今の大和は、コア80%の出力にある程度までは耐えられる事が出来た。

 そしてコア80%の力が有れば、白仮面と互角程度に戦えることは前回の戦いで証明されている。

 白仮面はコア80%開放状態の大和相手に手一杯になり、その隙をクィンビーが付けば勝利は難しく無いだろう。

 此処で白仮面を打ち倒してセブンの居場所を問い質そうと、大和は気合十分に白仮面へと挑みかかった。

 しかし大和は一つ大きな見落としをしていた、白仮面のバトルスーツが別物になっていることに気付かなかったのだ。

 完全なバトルスーツを身に付けた白仮面の力はあの時とは次元が違っており、大和はすぐにその他とは隔絶した力を身をもって体感することになる。


「ガハッ!?」

「…弱いな」


 勝負は一瞬だった。

 まずクィンビーが大和の声を聞き入れたのか白仮面に無謀な特攻を止めて立ち止まり、その場で腕から毒針をマシンガンのように連射をする。

 よく見ればガントレットの手の甲の部分にスリットような物が備えられており、そこから毒針が射出されているようである。

 クィンビーの援護を受けながら大和は前回と同じようにコア80%の出力を開放して、右拳に燃え盛る炎を灯しながら白仮面に殴りかかったのだ。

 左右に降り注ぐ毒針の弾幕が白仮面の逃げ道を塞ぎ、真正面からは大和が向かってくる。

 最早、後ろに逃げるか大和を正面から迎え撃つしか白仮面に取れる手は無く、二者択一の状況で白仮面は後者を取った。

 そして白仮面は大和の拳に合わせるように自らの拳を放り、大和と白仮面の拳が正面からぶつかり合った。

 激しい衝撃音が狭い隔離施設の中に響き、次の瞬間には力負けした片方の拳の持ち主が逆方向に吹き飛ばされてしまう。

 壁に叩きつけられた大和は呻き声を漏らし、大和は白仮面との力比べに完膚なきまでに敗れるのだった。

 前回の白仮面はバトルスーツが旧式であったこともあり、コアの出力を大和と同等の80%程度しか出すことが出来無かった。

 しかし今の白仮面が使うそれはセブンが作り出した最新のバトルスーツで有り、コア100%の完全解放にも十分に耐えうる物であった。

 元々、白仮面はコアの力を受け止められる完全な怪人としての体を持っており、条件を整えればコアの全開放は十分に可能だ。

 そしてコア80%の力を使う怪人の出来損ないと言える戦闘員が、コア100%の力を使う完全な怪人に敵う筈も無かった。

 この結果は両者の性能を鑑みた妥当な物と言えよう。






 壁に叩きつけられた大和であったが、ダメージはそれほど大きな物では無かった。

 コア80%の出力は防御力の面に置いても効果を発揮し、今の大和に取ってこの程度のダメージはダメージでは無い。

 しかし今の一瞬の攻防は肉体面は兎も角、精神面においては大和に大きな揺さぶりを掛ける物であった。

 先ほどの一撃、それは以前のショッピングモールで戦った白仮面とは別次元の強さであったからだ。


「オ前、ソノ力ハ…」

「雑魚どもに比べれば幾らかマシだったが、所詮はこの程度か…」


 前回とは明らかに違う白仮面の強さに、大和の声は自然と震えていた。

 今の一合で大和は白仮面との明確の差を理解してしまい、その圧倒的な力に無意識の内に恐怖していた。

 一方の白仮面は前回敗北を喫した相手に勝てた事が嬉しかったのか、新しいバトルスーツの着心地を確かめるように右指を遊ばせていた。


「欠番の旦那がああも簡単に…」

「化物が…」

「さて…、もう少し遊びたい所だが、そろそろ時間のようだ」

「時間…、何を?」

「…まさか!?」


 欠番戦闘員を一蹴した力が次に自分たちに向かう事を警戒した白木は、既にダメージを受けている土留を庇うように前に出ながら武器を構える。

 クィンビーの方も未だに戦意を喪失していないらしく、右腕を銃口のように白仮面に向けて構えていた。

 大和の方もまだまだ戦う余裕は残っており、両腕をハの字に構えるファイティングポーズを取った。

 しかし戦闘態勢を取る大和たちを前にして、白仮面はどういう訳か戦う気が無いような言葉を口に出す。

 そして白仮面の意味深な言葉を呟いた直後、大和たちはリベリオン関東支部内で地震のような揺れを感じる。


「なっ!? この揺れは…」

「やばい、支部の機密保持機能が発動するみたい!?

 早く逃げないと巻き込まれるわよ…」

「その通り、早く逃げた方がいい。 では私はこれで失礼しよう」

「クッ、白仮面ッ!?」


 悪の組織の基地と言えば自爆は付き物で有り、リベリオンの各支部にもまたお約束通り機密保持機能と言う名の自爆装置が備えられていた。

 怪人製造ラインなどの最重要機密の露出を防ぐため、支部内の全ての設備を無に返す機密保持機能。

 この揺れは明らかに機密保持機能の発動を予兆しており、愚図愚図していたら支部の崩壊に巻き込まれるのは明白である。

 かつてガーディアンの襲撃を受けたリベリオン日本支部も、最終的にこの機密保持機能が発動して支部は瓦礫の山となった。

 この揺れは明らかに支部の機密保持機能が発動する前兆であり、そう遠くない内にこの施設は全て崩れてしまうだろう。

 今は一刻も早く崩壊寸前の関東支部から逃げる事が優先であり、白仮面に拘っている余裕は無い。

 そのため先ほど自らが空けた大穴から姿を消した白仮面を、大和は黙って見逃すことしか出来無かった。

 白仮面と言うセブンの手がかりを取り逃がした大和は、怨嗟の言葉を残しながら急いで支部からの脱出を試みた。



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