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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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9. 手柄


 外部より隔離されたこの隔離施設には窓一つ存在せず、あるのは唯一の出入り口である分厚い扉だけである。

 この施設の壁はリベリオン関東支部において最も頑丈に作られており、例え怪人の膂力でもこの壁の硬さには敵うまい。

 此処は組織の一部の怪人しか立ち入る事が許されず、リベリオンの重要な機密情報が保管・管理されている場所でもあった。

 厚い壁に阻まれた事により、支部内で行われているリベリオンとガーディアンの戦闘によって奏でられた不協和音は此処まで届かない。

 そんな隔離施設の室内において大和とクィンビーは、何時の間にか現れていたガーディアンの白木・土留の両名と対面していた。


「な、何故、お前たちが此処に…」

「お、旦那。 あんた普通に喋れるんだな…」

「なっ!?」

「馬鹿…」


 白木や土留の思わぬ登場に余程驚いたのか、大和は狼狽した様子でガーディアンの戦士たちに問いかけた。

 怪人専用バトルスーツを身に纏い、戦闘員番号を塗りつぶした戦闘員用マスク被る大和の口から飛び出した声を聞いて白木と土留は表情を変える。

 何故ながらその声はリベリオン戦闘員たちと同質の奇声では無く、何処かで聞き覚えがあるような極一般的な若い男の声だったのだ。

 欠番戦闘員として活動する際に大和は、ガーディアンやリベリオンと会話をする時などは正体を隠すために声質を変えていた。

 本当であれば今の状況では声を変える必要があるのだが、どうやら驚きの余り大和は白木たちの前にも関わらず声を変えることを忘れていたらしい。

 土留の指摘によって大和は、今更ながら自分が普段から使い慣れた丹羽 大和としての声で喋っていることに気付く。

 大和は自らの失態に動揺してしまい、思わず右腕で口を覆い隠しながら声を裏返して驚愕の声をあげた。

 そしてクィンビーは額に手を当てながら大袈裟に、大和の間抜けな失敗を呆れるのだった。






 この隔離施設の情報を伏せたのは大和たちで有り、ガーディアン襲撃と言う好機に人知れず此処に侵入したのも大和である。

 大和こと欠番戦闘員がガーディアンを利用した事は明白であり、ガーディアンの人間である白木や土留にとっては面白い話では無い。

 特に白木は欠番戦闘員の存在に好意的な者が多いガーディアンの中で、その存在に懐疑的な姿勢を取っていた人物である。

 そのため白木がこの状況で、欠番戦闘員を黙って見逃すわけが無かった。


「…欠番戦闘員、お前の目的はリベリオンの情報だったのか?

 やはりお前は僕達ガーディアンを利用していたのか!!」

「…ソウダ」


 明らかに好意的で無い雰囲気を出している白木は、強い口調で目の前に欠番戦闘員の目的を問い質す。

 白木は腰に差した剣の柄に手をかけており、下手な返答をすれば問答無用で襲いかかってきそうな刺々しい態度である。

 遅まきながら声を変えながら大和は、白木との重く苦しい会話を行っていた。


「…お、あんたは見慣れない顔だ、旦那の仲間なのか?」

「まあ、そんな所よ。

 こいつが欠番戦闘員って呼ばれているなら、私は欠番戦闘員二号とでも名乗っておくわ。

 あ、ちなみに二号は一号の十倍は優秀だからね」

「ははは、二号か! それはいい!!」


 そして緊張感を漂わせながら会話を行う大和たちの近くでは、クィンビーと土留が緊張の欠片も無い会話をしていた。

 土留は欠番戦闘員と共に居る新顔の女性型戦闘員に興味を持ったらしく、軽い調子で話しかける。

 クィンビーもまた少し前までは普通に殺しあっていたガーディアンの戦士相手に、全く調子を崩す事なく応じるのだった。

 土留は壁に寄り掛かりながら楽な姿勢を取っており、クィンビーも隔離施設にある端末の前の椅子で優雅に足を組んでいた。

 そしてクィンビーは大和のように偽装のために声を変える気は全く無いのか、素の声で堂々とガーディアンの前で喋っている始末だ。


「あんたたちの予想通り、私達はガーディアンを利用させて貰ったわ。

 けど残念ながら、お目当ての情報は手に入らなかったんだけどね…」

「ふふ、罰が当たったんだぜ、きっと」

「五月蝿いわね!! はぁ…、まあいいわ…。

 手伝って貰ったお礼よ、此処に残っていたリベリオンのデータをこれに入れといたわよ」

「お、それを俺たちにくれるのかよ。 太っ腹だな、流石は二号!

 よしっ、これで命令違反を帳消しにする手柄をゲットだぜ!!」


 大和たちが危険を冒してこの施設に潜入した目的は、白仮面に攫われたセブンの情報を探るためである。

 しかし残念ながらこの隔離施設で管理されていた情報の殆どは消されており、大和たちはセブンの情報を手に入れられなかった。

 此処に残っていた初期化を免れたデータは大和たちに取っては不要な物であるが、ガーディアンに取っては重要な物である可能性が高い。

 クィンビーは何時の間にか残っていたデータを記憶端末に保存していたらしく、手に持った記憶端末を白木や土留に見せつける。

 どうやらクィンビーはこの場を収めるため、自分たちに取っては不要なデータをガーディアンに提供しようと言うらしい。


「白木ー、まだ作戦の途中なんだし、そろそろ行こうぜー。

 旦那たちのお陰で、とりあえず手柄は手に入ったしな…」

「土留、しかし…。 解った…、これ以上作戦を放棄する訳にもいかないな…」


 白木と土留の本来の目的は此処リベリオン関東支部の襲撃で有り、決して欠番戦闘員が目的では無い。

 自分がが見つけた欠番戦闘員の手がかりを調べるために、土留は白木を連れてわざわざ作戦を無視してこの場所にやって来たのである。

 そして土留はクィンビーからリベリオンの情報を貰える事となり、この場に訪れた事が無駄足では無くなった。

 思わぬ展開に機嫌を良くした土留は、先ほどから欠番戦闘員こと大和と険悪なムードを漂わせている白木と共に本来の作戦に戻ろうとする。

 土留の声で自分の本来の仕事に気づいた白木は一瞬考えこむ素振りを見せた後、渋々と任務に戻ることを決めた。

 根が優等生である白木としてはこれ以上任務を放棄し続けることによって、今回の作戦事態が失敗するような事態を恐れたのだろう。






「話がまとまったようね。 ほら、受け取り…」

「…それは駄目です、それは薄汚いガーディアンに渡す訳にはいきません」

「っ、データが!?」

「何だ何だ!?」


 クィンビーは椅子から立ち上がり、記憶端末を持ったまま土留の方へと歩いて行く。

 そして土留に記憶媒体を渡そうとした瞬間、クィンビーの手から記憶媒体が独りでに飛び去ってしまう。

 怪人としての優秀な動体視力を持つクィンビーは記憶媒体が飛び立った直後、それに細い糸が付いている事に気付いた。

 そして記憶媒体が飛んでいった先に、何時の間にか隔離施設に入っていた一体の蜘蛛型怪人が居るでは無いか。


「全く、初期化が終わるまでの時間稼ぎすら出来ないとは、あれは使えない怪人でしたね…」

「怪人!?」

「俺のデータが、手柄が!!」

「データ量が膨大なのも考え物です、削除するのにも一苦労ですから…。

 お陰で仕事が増えてしまいましたよ」


 それは薄緑色の体をした女性型の怪人だった。

 昆虫特有の複眼、口から飛び出た鋭い牙、人の手足とは別に背中から生えている四本の脚。

 かつてクィンビーをこの場所で罠に嵌めた怪人、リベリオンの裏の仕事を専門とするアラクネの姿がそこにあった。

 アラクネはクィンビーから奪った記憶端末を軽く見せびらかせた後、それをそのまま握りつぶしてしまう。

 怪人の力があれば記憶端末を潰すことなど容易く、土留が欲しがっていたデータは一瞬の内に燃えないゴミと化した。


「お初にお目に掛かります、私の名はアラクネ。

 あなたのお噂は耳に入っていますよ、欠番戦闘員」

「ふんっ、随分余裕じゃねーか。

 見た所、仲間は他に居ないようだが、この面子にあんた一人で太刀打ち出来るのか?」


 新たな怪人の登場に大和たちは一瞬の内に警戒の姿勢を取る。

 欠番戦闘員とクィンビーとガーディアンの戦士に囲まれたアラクネは、余裕綽々と言った態度で自己紹介をして見せた。

 この隔離施設にはアラクネの仲間は見当たらず、逆に周りには敵しか居ない四面楚歌の状況である。

 しかしアラクネはこの状況で怯えた様子を見せること無く、泰然とした態度を崩さなかった。

 アラクネの態度を不審に思ったのか、土留は警戒心を強めながらアラクネに声を掛ける。


「まず無理ですね。 たかが人間如きなら問題有りませんが、あの欠番戦闘員の相手は流石に厳しいので…」

「だったら…」

「だから此処に助っ人を呼んであります。 ではもう時間も有りませんので、私はこの辺りで失礼しますね」

「何っ!? うわあぁぁぁっ!!」


 予想通りアラクネは自ら、欠番戦闘員を要した土留たちに勝てないと敗北宣言をしてしまう。

 確かにアラクネだけであれば勝てないだろう、しかし土留たちの敵が他にも居れば話は別である。

 そしてアラクネが助っ人に言及した直後、図ったようなタイミングで隔離施設の壁を何かがぶち破ったのだ。

 怪人すら破壊することが出来ない極めて堅牢な壁を破壊した何かは、そのまま射線上に居た土留を巻き込んでしまう。

 突然の事態に避ける暇も無く、土留は悲鳴を漏らしながらその何かに吹き飛ばされていった。


「土留!?」

「この攻撃!? まさか…」


 破壊された壁の破片と共にその場から吹き飛ばされた土留は、そのまま反対側の壁に叩きつけられてしまう。

 そして土留の体はそのまま床へと崩れ落ちた。

 その体に纏っているバトルスーツはボロボロになっており、先ほどの何かの凄まじい威力を物語っていた。

 大和はこの攻撃に見覚えがあった、あれはコアのエネルギーを利用したエネルギー波だ。

 そして大和の知る限り、このエネルギー波を使う者は一体しか居ない。


「…ほう」

「お前は…、白仮面!?」

「あぁぁぁ、あの蜘蛛女が居ないっ!?」


 先ほど土留ごと破壊された壁の外から、白い仮面を被った謎の怪人が隔離部屋へと足を踏み入れた。

 その者は怪人であるに関わらず、白いバトルスーツを身にまとった奇妙な怪人である。

 その姿を大和が見間違う筈も無い、それは彼が危険を冒しでも居場所を知りたかった者の一人だからだ。

 白仮面、セブンを攫っていった大和の怨敵が隔離施設に姿を見せた。

 そして同時に先ほどまで隔離施設に居たアラクネが、白仮面登場のドサクサに紛れて姿を消してしまう。

 アラクネの姿が無い事に気付いたクィンビーが、悔しそうに叫び声を上げた。


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