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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
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5. 進化


 白仮面に攫われたセブンは誘拐物のお約束通り目隠しをされた上で、何処かの施設へと運ばれていた。

 一切抵抗する事無く数時間の移動を終えたセブンは、漸く辿り着いた目的地で目隠しを外された。

 久方ぶりに広がる肉眼での風景、自分が連れてこられた場所の正体を知ったセブンの胸中に抱いた感情は納得であった。

 そこは大きな括りで言えば研究施設だった。

 一見した所、そこにはガーディアン内にある三代ラボと同等の設備が備えられているようだ。

 研究にしか能の無い研究者を有効利用するためには、ある意味で最適の場所にセブンは連れてこられたようである。


「…私に何をさせたい」

「バトルスーツの作成、俺に最適なバトルスーツを作って見せろ」

「…何故私が? この施設があれば、誰でもある程度の代物は出来る」


 セブンをこの場に連れてきた白仮面の要求、それはバトルスーツの改造であった。

 確かに白仮面の使うバトルスーツは、ガーディアンや大和が使うそれより格段に劣った代物である。

 白仮面のバトルスーツに使われている技術は専門家である三代が見た所、バトルスーツが生み出された最初期の物で有るらしい。

 リベリオンに対抗するためにバトルスーツの性能は日々進化しており、最新のバトルスーツの比べたら白仮面のそれは骨董品レベルと言っていい。

 白仮面がバトルスーツの性能向上を目論むのは別段不思議な話では無いだろう、しかしそれをわざわざ自分にやらせようとする意図がセブンには理解できなかった。

 見た所、セブンが連れてこられた施設の設備は三代ラボと同レベルの物である。

 バトルスーツ開発の最前線に居るであろう三代の施設と同等の物が此処に有ること事態が不可解であるが、この施設ならばバトルスーツの開発は容易い筈だ。

 はっきり言ってこの施設を使えるならば、技術的な知識を持つ者であれば誰でも今の白仮面の使うバトルスーツの性能を大きく上回る代物を作り出せるだろう。

 セブンの表向きの立場はガーディアン研究者の身内である三代 八重と言う少女でしか無く、裏の立場においても元リベリオン開発部主任と言うバトルスーツとは畑違いの怪人の専門家でしか無い。

 バトルスーツを開発する事だけを考えるならば、それこそ三代を筆頭としたガーディアンのバトスルーツ開発者を攫えばいい話である。


「ある程度では駄目だ。 俺に求められている物、それは最強の二文字だ」

「最強…!?」

「そうだ、確かに単にバトルスーツを作らせるだけなら、他の人間でも問題ない。

 しかし俺に必要なのは怪人専用のバトルスーツ、それを作れる技術者はお前しか居ない」


 セブンの疑問に対して、白仮面が口に出した答えは単純明快であった。

 確かにただバトルスーツを作らせるだけであれば、セブン以上に有用な人間は幾らでも存在するだろう。

 しかし白仮面が求める物は怪人専用のバトルスーツ、己の怪人としての性能を最大に活かすことが出来る代物である。

 怪人専用バトルスーツというゲテモノを作り出せる人間は、この世界において恐らくセブンしか存在しない。

 完全な怪人である白仮面がセブンが作り出した怪人専用バトルスーツを使えば、それはまさに最強の存在となるに違いない。

 それは今までの白仮面とは全く別次元の存在であり、進化と言えるほどの変貌を遂げるであろう。


「…了解した」


 虜囚の立場であるセブンにはそもそも選択肢は存在しない、そして研究者の立場としても白仮面専用のバトルスーツ開発は興味をそそられる物であった。

 バトルスーツを使うに適した怪人が専用のバトルスーツを着用する、それはセブンが思い描く最強の怪人の姿である。

 怪人の専門家であるセブンが見る限り、まさに白仮面はバトルスーツを使うに適した怪人であった。

 その白仮面がセブンが作成した怪人専用のバトルスーツを使えば、彼女が夢見た最強の怪人が誕生することになるだろう。

 白仮面の製造に携わっていない事は片手落ちではあるが、怪人専用バトルスーツの製造と言う面でセブンは最強の怪人の誕生に関わることが出来る。

 夢の達成へと繋がる白仮面の指示を拒絶する理由は、セブンには全く存在しない筈だった。

 しかし白仮面専用のバトルスーツ作成を初めたセブンは表情こそ何時ものように変化は無かったが、彼女の内心で不可解な感情が渦巻いていた。

 今作成しているバトルスーツを纏った白仮面が対峙するであろう相手、その中には彼女の協力者である元戦闘員も居るに違いない。

 セブンが作成した怪人専用バトルスーツを使う白仮面に、天と地がひっくり返っても大和が勝つことは出来ないだろう。

 その事実はセブンの開発の手を僅かに遅延させるほどの動揺を生み出してしまう、セブンと言う少女の立場が生み出した感情の正体を彼女は最後まで理解することが出来無かった。











 全ての準備は整った。

 ガーディアンの精鋭たちはリベリオン関東支部へと既に向かっており、大和たちも今から出発しようとしていた。

 ファントムの足であればガーディアンたちに先んじて、リベリオン関東支部に辿り着けるだろう。

 三代の細工によって監視カメラ等を誤魔化した事で、大和は堂々とガーディアン東日本基地内に姿を見せていた。

 普段はガーディアン基地内で待機している黒いサポートマシン、ファントムに跨がっている大和の右腕の五指は忙しなく動かされていた。


「…博士は居ると思うか?」

「半々って所ね、少なくともセブンの居所くらいは掴めるんじゃ無い。

 そこにはあの白仮面の糞野郎も居るに違いないわ…」


 大和の背後には同じように黒尽くめの戦闘員服に身を包んだ少女、クィンビーの姿がそこにあった。

 白仮面にいいようにやられてしまい、目の前でセブンを連れて行かれたクィンビーが泣き寝入りをする筈も無い。

 受けた屈辱を十倍返しするために、クィンビーは大和に同行する事を決めたようだ。

 正体を隠すために大和に合わせて戦闘員服を身に纏うクィンビー、その覆面の上に書かれた戦闘員番号もまた大和と同じように塗り潰されていた。

 よく見ればクィンビーの方の覆面は、塗り潰された戦闘員番号の隣に小さな文字で"2"が加えられている。

 言うなれば今のクィンビーは、欠番戦闘員ニ号とでも言えるのだろうか。

 欠番戦闘員一号と二号が向かおうとしているリベリオン関東支部に、囚われのセブンと下手人である白仮面が居る保証は無い。

 しかし白仮面についての手がかりが全く無い大和たちには、セブンに辿り着くために何らかの情報が必要なのである。

 そしてセブンや白仮面に関する情報を求める大和たちが選んだ標的は、この地域一体のリベリオンの活動拠点である関東支部であった。


「大和、八重くんの事を頼む…」

「行ってきます、黒羽さん」


 見送りに来てくれた黒羽に手を振って応えながら、大和はファントムを走らせ始める。

 黒い鉄馬はガーディアン基地内の施設を軽快に飛び出し、すぐに黒羽の視界から消えていった。

 ファントムの駆動音が消え去り、静寂を取り戻した施設の中に黒羽は取り残された。


「…私は無力だな」


 杖が無ければ満足に歩くことすら出来ない少女は、何かを絞り出すように呟いた。

 ガーディアンの戦士として働いていた頃の彼女であれば、大和たちと共に後輩の少女を救うために戦場に立つことが出来ただろう。

 しかし今の彼女では戦場に赴いても役立たずにしかならず、こうして大和たちを見送ることしか出来ない。

 今の自分を生み出した選択、コアのリミッター解除を行った事に対しては黒羽は何の後悔もしていない。

 そしてリミッター解除と言う選択をさせた大和やクィンビーに対して思う所が無い訳では無いが、大和たちの事情を理解している今の黒羽は彼らに恨み言をぶつける気は無かった。

 ただただ共に戦うことが出来ない不甲斐ない自分に対する無力感を覚えた黒羽は、その感情を表わすかのように右腕に携えた杖を力一杯握りしめていた。


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