表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第6章 博士の夢
126/236

4. 虜囚


 それは完全に不意を突かれたと言っていい。

 セブンの住居に現れた訪問者を迎えるためにクィンビーが扉を開けるや否や、僅かに空いたスペースから片腕が飛び込んできたのだ。

 まるで予想していなかった事態に対して、クィンビーがその腕に抵抗する余裕は無かった。

 隙間から伸ばされた腕は容赦無くクィンビーの首を掴み、そのまま腕を上げてクィンビーの体を持ち上げてしまう。

 凄まじい力でその細い首を握りしめられたクィンビーは苦悶に喘ぎならが、宙に浮いた足をばたつかせる。

 そして自分で扉を完全に開いた訪問者は、片腕でクィンビーを持ち上げたままセブンの部屋へと足を踏み入れたのだ。


「っ、ぁぁぁ…」

「クィンビー!? それにあなたは…!?」

「…要件は解っているな?」


 一人暮らし向けの狭いアパートであるセブンの住居は、扉を挟んだすぐ先に見える玄関からの会話はよく聞こえてくる。

 何時もならば玄関で訪問販売などを容赦無い言葉で追い返すクィンビーの声が、セブンの耳に入る筈なのだ。

 しかし今日はどういう訳かそのようなやり取りが聞こえず、代わりに不審な物音が聞こえるでは無いか。

 何かの異変に気が付いたセブンが玄関に向けて足を向け、そこで彼女の目の前に首を掴まれて宙吊りになっているクィンビーの姿が現れた。

 片腕で軽々とクィンビーを持ち上げる訪問客は土足でセブンの部屋に上がり込み、壁にクィンビーの体を押し付けながらセブンに向かって話しかける。

 その訪問客は白い仮面で顔を覆い、テレビの特撮物に出てくるような白系統のプロテクターを全身に身にまとっている。

 白仮面、白いバトルスーツを身に纏う白い仮面を纏った謎の人物が唐突にセブンの前に姿を現した。






 かつて白仮面はリベリオンによる東日本ガーディアン基地侵攻の際、それに便乗してセブンと三代を攫いにやってきた。

 大和の活躍によってどうにかセブンは白仮面の手を免れ、それ以降は白仮面がセブンを狙うことは無かった。

 しかし白仮面が一度はセブンを狙ったのは事実であり、再びセブンを攫いにやってくる可能性は誰にも否定出来無い。

 そして現実に白仮面は大和が不在の隙を突いて、堂々とセブンの前に姿を見せたのである。


「っざけんじゃ無い…」

「…話の邪魔をするな」

「がはっ…」


 普通の人間であれば、首を掴まれて宙吊りになった時点で戦意を喪失してしまうだろう。

 否、それ以前前に首の骨を折られて既に死んでいる可能性が高い、それほど白仮面は力を込めて首を締め上げているのだ。

 しかし宙吊りになっている少女の正体は、リベリオンによって創りだされた頑強な怪人である。

 クィンビーは怯える所か殺意の篭った視線で白仮面を睨みつけながら、この苦境を脱するために真の姿を見せようとする。

 現在のクィンビーの体、妃 春菜と言う名前の人間であった頃の姿は言わば擬態である。

 彼女の本来の姿はリベリオンによって改造された蜂型怪人の物であり、この人間の姿はあくまで周囲を誤魔化すための仮の姿でしか無いのだ。

 クィンビーは宙吊りの状態のまま、怪人としての真価を見せることが出来る本来の姿へと変貌しようとするが、結果的にクィンビーの姿が変わることは無かった。

 白仮面がクィンビーの抵抗に気付き、空いたもう片方の腕でクィンビーを下顎から殴りつけたのだ。

 的確に脳を揺らされたクィンビーは怪人の姿を見せる事すら出来ず、その場で意識を失ってしまった。






 意識を失ったクィンビーをぞんざいに足元に放り投げた白仮面は、セブンと向き合って本題に入る。

 クィンビーが最後の抵抗を見せている間、セブンは逃げ出すこと無くその場から動かなかった。

 唯一の出入り口である玄関は白仮面に塞がれており、彼女の身体能力では窓から逃げよとしてもすぐに捕獲されるのは目に見えている。

 大和がこの場に存在せず、クィンビーが戦闘不能になった現状は最早セブンに取って詰みの状況なのだ。

 白仮面がこのタイミングでセブンを攫いに来たのは偶然では無いだろう、恐らく今日のリベリオンの作戦行動を知った上での行動に違いない。

 穿った見方をすれば、今日のリベリオンの作戦事態が大和をおびき寄せる陽動である可能性も考えられた。


「…私を攫いに来た? 一体何が目的?」

「付いてくれば解る」

「…クィンビーをどうする気か?」

「何もしない、お前が大人しく言うことを聞けばな…」


 冷静に己の置かれた状況を理解したセブンは、無駄な抵抗をする事無く白仮面に対して分かりきった目的を確認する。

 暗に抵抗をすればクィンビーに何かすると言う白仮面は、それを証明するかのように地面に倒れ伏すクィンビーの頭上に足を乗せた。

 既にバトルスーツを身に纏い完全武装している白仮面の力があれば、クィンビーの頭は柘榴のようにかち割られるだろう。

 結論としてセブンは大人しく指示に従い、その身柄を白仮面に預ける事になった。

 白仮面に攫われると言う絶体絶命の状況の中でも尚、セブンの鉄仮面の如き表情は崩れることは無かった。











 セブンが連れ去られてから数分後、たまたま通りかかったアパートの住人がセブンの家の扉が開け放たれている事に気づく。

 そしてその通りがかりが玄関で倒れているクィンビーの存在に気付き、慌てて通報した事によって今回の一件は発覚することになった。

 白仮面は堂々とセブンのアパートに来たようで、周辺の住民はバトルスーツを纏った白い仮面の男の姿を多数目撃していた。

 眼鏡の少女が白仮面に連れられて行く様子を見た者も居り、状況的に白仮面がセブンを攫ったのは明白だろう。

 ガーディアンの人間やその関係者が、リベリオンの報復よって狙われるという事態はこれまで無かった訳では無い。

 セブンは表向きはガーディアンの研究者である三代の親類という事になっており、今回の件はリベリオンの報復であるとガーディアンは考えていた。


「博士…」

「あの白仮面、絶対私の手で息の根を止めてやるわ!!」


 セブンが攫われてから半日ほど経過し、大和はクィンビーと共に東日本ガーディアン基地内の三代ラボに訪れていた。

 自分が居ればこのような事態にならなかったと、大和は絶望の表情を浮かべている。

 セブンは大和に取っては自分を救ってくれた恩人であり、彼が目覚めてから初めて出来た友人でもある大事な人間だ。

 かつて母がリベリオンの手に落ちかけた時に感じた絶望感、それと同等と言える負の感情を味わっている大和の顔色は優れない。

 大和の隣にはセブンの危機を知って駆けつけた黒羽の姿があり、黒羽は痛ましげ大和の様子を見つめている。

 ガーディアンの戦士である黒羽は、親しい人間がリベリオンの手に掛かってしまった哀れな人間の姿を幾度も見てきた。

 かつての黒羽その人間たちに何の言葉を告げることが出来ず、そして今回も大和に掛ける言葉を見付けることが出来無かった。

 そして大和を挟んで黒羽の反対側に居るクィンビーは、すっかり白仮面から受けたダメージが抜けたクィンビーが怒りの炎を燃やしていた。

 玄関で倒れていた所を病院に担ぎ込まれたクィンビーであるが、怪人である彼女の体を普通の人間に調べられるわけにはいかない。

 そのために三代の機転によってクィンビーの体は、此処ガーディアン基地内の三代ラボに運ばれることになったのだ。


「いやー、今回は参ったわねー」

「三代さん!? 八重くんは…」

「ダメダメ、全然見つからない…」


 三代ラボの扉が開き、此処の主である三代が姿を見せる。

 対外的にセブンの身内となっている三代は、先ほどまで今回の事件に関する事情聴取を受けていたのだ。

 現れた三代に対して黒羽が真っ先にセブンの行方について尋ねる。

 正義の組織であるガーディアンが身内が攫われた事実を見逃すはずも無く、現在ガーディアンでは総動員でセブンとセブンを攫った白仮面の捜索を行っていた。

 しかし残念な事にガーディアンが警察機構と協力して行っているセブンの捜索は上手くいっておらず、未だに白仮面の足取りを掴むことは出来無かった。


「ふんっ、あの白仮面が行く所なんて一つしか無いわ! 私は行くわよ、あんたはどうなのよ、大和!!」

「…やっぱりあそこしか無いか。 奴がリベリオンに関係しているのならば、少なくとも奴の情報は手に入れられる筈だよな」

「大和、まさか君は…」


 今までの白仮面の行動から見て、それがリベリオンに関係した存在である可能性が高い。

 そして警察機構と協力したガーディアンが白仮面の足取りを掴めないとなると、必然的に白仮面は正義の味方たちの目が届かない場所に居るのだろう。

 クィンビーに発破を掛けられた大和の瞳に力が戻り、セブンを取り戻すためにある無茶を試みることを決意した。











 セブンが白仮面の手に落ちてから数日が経ち、ガーディアンはある大掛かりな作戦の実行を決意する。

 リベリオン関東支部襲撃、この地域で活動するリベリオンの拠点となっている秘密基地を叩こうと言うのだ。

 今までガーディアンはこの秘密基地の所在を把握するために、あらゆる手段を試みたがリベリオンは巧みにその手を逃れてきていた。

 しかしリベリオンがひた隠しにしてきた秘密基地の在り処が、とうとうガーディアンに知られることになったのだ。

 その情報を促した者の名は欠番戦闘員、実績に裏打ちされた欠番戦闘員の情報は確度の高い物として受け取られた。

 そして密かに作戦準備を整えながら密偵を送り込んだガーディアンは、情報通りの位置にリベリオンの支部が有ることを確認した。

 欠番戦闘員の情報によって森に張り巡らされた糸の存在を事前に知っていなければ、密偵は生きて情報を持ち帰ることは出来無かっただろう。

 リベリオンとガーディアン、正義の悪の総力戦が幕を開けることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ