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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第5章 正義と悪
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28. その後

 事情聴取などの雑事を黒羽に任せて一足先に帰宅した大和はその後、コア100%開放の後遺症に苦しむことになった。

 大和の首から下の筋肉全てが強張り、少しでも体を動かすだけで全身に痺れるような痛みが走った。

 ショッピングモールに居た頃は戦闘後の興奮で誤魔化されていたようだが、家に帰った途端に溜まっていた物が一気に吹き出したようだ。

 やはり幾ら人工筋肉を頑張って鍛えたとは言え、コアのフル出力は戦闘員の体には酷だったらしい。

 自室のベッドの上で痛みに悶えていた大和は、リミッター解除の後遺症で黒羽のように障害を負う最悪の想像をしていた。

 しかしその日の内に大和の自宅にやって来たセブンが軽く触診した所、大和の体は単なる重度の筋肉痛のような状態になったと言う事が判明した。

 一番重症であった右腕も骨まで異常は無いらしく、軽く固定をするだけの処置ですんだ。

 腐っても怪人の端くれである戦闘員の頑丈さは人間の比では無く、大和の体に埋め込まれた人工筋肉は致命的なダメージを防いでくれたらしい。

 後日ガーディアンの施設で精密検査をする事にはなったが、とりあえずセブンの診断の結果は自宅で暫く安静にすれば大丈夫との事である。

 そして母である霞には筋トレのし過ぎで体を壊したと誤魔化した大和は、母に看病されながら自宅で数日ほど寝たきりの生活を送っていた。


「な、なんでお前が居るんだよ…」

「仕方ないでしょう、私には行く所が無いんだから…。

 セブンは快く私を迎えてくれたわよ」

「迎えていない。 あなたが勝手に上がり込んだだけ…」


 そして外出が可能なほどに回復した大和は、事前に連絡を取って待ち合わせた黒羽と共にセブンの部屋に訪れていた。

 大和は以前に黒羽と交わした約束通り、彼女に自分の知る全ての事を話すことを決意したのだ。

 場所をセブンの部屋に選んだのは単純に、自分の頭の巡りに自信のない大和がセブンを説明のフォロー役に選んだのである。

 ちなみに黒羽に正体がばれた事を明かした大和が、セブンから非常に冷たい視線に晒された事は言うまでもない。

 しかし黒羽を連れて訪れたセブンの部屋で、大和は予想だにしなかった人物と遭遇する。

 そこには黒羽に癒えぬ傷を負わせた張本人と言える、元リベリオン怪人クィンビーの姿があったのだ。

 クィンビーは人間に偽装した姿になっており、セブンのベットの上を占領した彼女は呑気にお気に入りの蜂蜜魂を飲んでいた。

 リベリオンを脱出したクィンビーに行く宛もが有るはずも無く、どうやらこの怪人はそのままセブンの家に潜り込んだらしい。

 よくよくセブンの部屋を見回せば見慣れない衣類や家具が置かれており、この数日の間にこの蜂型怪人に部屋が侵食された模様である。

 クィンビーがセブンの部屋に訪れた事は何度か有るが、流石に居着かれるのは家主としは想定外だったらしい。

 セブンは相変わらず表情を全く変えない物も、僅かに不機嫌そうな声を漏らしながら黙々とキーボードで何かを打ち込んでいた。


「あの…、何故此処に妃さんが…」

「…こいつも関係者なんです。 こいつの事も含めて洗いざらい話しますんで、詳しいことはそれから…」

「はぁ…」


 クィンビーの姿を見た大和は、まるで仕事疲れの中年サラリーマンのような哀愁を漂わせながら部屋の床に直接腰を下ろす。

 そして大和は以前に黒羽と共に買い物をした時に購入したクッションを差し出して、黒羽にも座るように促した。

 大和の変化に困惑しながら黒羽は手に持った杖を脇に置いて、差し出されたクッションの上に腰を下ろした。

 元リベリオン開発部主任であるセブン、元リベリオン怪人であるクィンビー、そして元ガーディアンの戦士である黒羽。

 それぞれ特徴の異なる三人の美少女と相まみえた大和は、疲れたようにため息を吐きながら今日の本題に入っていった。











 セブンからの的確な解説やクィンビーからの揶揄を時折交えながら行われた大和の話は、時間にすれば一時間近くにも及んだ。

 大和は自分が戦闘員として目覚めてから起こった様々な出来事について、記憶する限りに正直に語り尽くした。

 戦闘員9711号として目覚めた事、リベリオンの基地でセブンと出会った事、セブンと二人でリベリオンを脱出して欠番戦闘員として活動していた事。

 そして大和の話の中には当然のように、黒羽が決して癒えぬ傷を負ったあの戦いの内容も含まれていた。

 かつて戦闘員9711号と言う名でリベリオンに在籍していた頃、大和は黒羽の敵として現れた。

 そして大和は白木からインストーラを奪い、黒羽がリミッター解除と言う自爆に等しい選択を強いてしまったのだ。

 黒羽は一言も反応を示すこと無く、無言で大和の話に聞き入っていた。

 罵声の一つでも浴びせされる事を覚悟していた大和は、黒羽の反応の無さに内心で怯えながら話を続けていた。


「…という訳で、色々とすいませんでしたぁぁぁぁ!!」

「ごめんごめん、あの時は悪かったわねー」


 話の締めとして大和は、何時かのショッピングモールと同じように土下座を敢行する。

 黒羽に対して色々と負い目があった大和は、彼女に対して申し訳ない気持ちで一杯なのだろう。

 あの戦いで黒羽はリミッター解除の後遺症によって肉体に大きなダメージを負ってしまい、一生杖に頼らなければならない体になってしまったのだ。

 黒羽と付き合うようになった大和は彼女がこの障害に難儀している姿を直に見ており、事の当事者で有りながら口を噤がなければならない自分に対して色々と溜め込んでいたらしい。

 一方、あの戦いで黒羽と直接戦った張本人であるクィンビーの反応は酷い物であった。

 今の今まで黒羽の存在をすっかり忘れていたらしい蜂型怪人は、大和の話を聞いて漸くあの時の事を思い出したらしい。

 そして話の途中で自分がクィンビーである事を堂々と名乗ったこの怪人は、些細なことだったかのように軽いノリで詫びを入れたのである。


「…事情は解った、頭を上げてくれ、丹羽 大和」

「で、でも俺は今まであなたを騙して…」

「事情は解ったと言った筈だ。 あの時のあなたの立場では、ああするしか無かったんだろう?

 悪いのは全部リベリオン、あなたを責めるのは筋違いだ」

「黒羽さん…」


 暫く頭を床に擦り付けている大和の姿を見ていた黒羽は、恨み言を一つ漏らすこと無く大和を許してしまう。

 元ガーディアンの戦士である黒羽はある程度リベリオンのやり口を知っており、戦闘員であった大和には命令に従うしか選択肢が無かった事を理解していた。

 全ての現況は大和を戦闘員として仕立てあげたリベリオン、理屈としては確かにその通りかもしれない。

 しかし理屈はどうであれ黒羽は大和やクィンビーの行動によって、その体に癒えぬ障害を負ってしまった。

 この障害によって黒羽はライフワークであったガーディアンの戦士を辞める事になり、不自由な日常生活を強いられる事になったのだ。

 普通ならば大和たちに対して罵詈雑言をぶつけてもおかしく無い筈なのに、黒羽は全てを負の感情を飲み込んで大和を許したのである。

 まるで全てを許す仏のような黒羽の決断に、大和は黒羽の背後から後光が差しているような錯覚すら覚えた。


「そうそう、悪いのは全部リベリオン。 私達は被害者なんだから、そんなに畏まらなくたっていいのよ、大和」

「お前が言えた台詞か! ていうか何だよ、その態度は! もう少し空気読めよなっ!!」

「…丹羽 大和、私に詫びる気持ちがあるのなら、一つだけ約束して欲しい。

 もしこの怪人がまた悪事を働いたら、私の代わりにあなたがこれを倒してくれ」

「了解です、その時は遠慮なくやらせて貰いますよ!!」

「ちょっと、何でそうなるのよ!?」


 先ほどまで仏のような態度を取っていた黒羽も、やはり普通の人間であったらしい。

 愁傷に頭を下げる大和は兎も角、悪びれた様子を見せないクィンビーには流石の黒羽も些か頭に来たようだ。

 現在の所、リベリオンを抜けて立場的にガーディアン寄りに付いているこの蜂型怪人を失うのは、戦力的に大きな損失である。

 そのため黒羽は大和に対してクィンビーが再びリベリオンに味方するような事があったら、責任を持ってこの蜂型怪人を排除してくれと依頼する。

 大和の方もクィンビーの態度に思う所が有り、クィンビーが敵に回ったら自分の手で倒すことを喜んで約束した。

 空気の読めないクィンビーは大和と黒羽が自分の処刑を依頼している理由が解らず、目を白黒させていた。











 事情を共有した事で立場的に世間で欠番戦闘員と呼ばれている者の一派になった黒羽を交えて、大和たちはそのままショッピングモールでの一件の事後報告会を行っていた。

 セブンが三代を通して得た情報によると、現場検証を行ったガーディアンは複数の戦闘員と一体の怪人の痕跡を発見したらしい。

 リベリオンの怪人や戦闘員に施された機密保持機能のせいで、死亡したリベリオンの兵はまっとうな死体とはならない。

 怪人の秘密に迫る重要なパーツは全て消え去り、現場には痕跡としか呼べない体の一部分しか残らないのである。

 戦闘員たちの痕跡は恐らく、クィンビーの大蜂の毒を受けた者たちであろう。

 そして一体の怪人の痕跡、それは最後までリベリオンのために命を掛けた蟹型怪人の成れの果てであった。


「あいつは最後まで作戦の成功を疑わなかったわよ、肝心の輸送車がガーディアンに捕まった事を知らずにね…」


 因縁の相手であるシザースを倒した筈のクィンビーであった、その表情には達成感らしき物を感じられなかった。

 曲がりなりにも上司と部下の関係であった怪人を自分の手に掛けた事に大して、思う所でも有るのだろうか。

 珍しく物憂げな態度を取るクィンビー、その姿はそれなりに付き合いのある大和やセブンも初めて見る光景だった。


「待ってください、博士! 白仮面は、あいつはガーディアンに捕まったんじゃ…」

「その報告は受けていない。 現場に残っていたのは怪人と戦闘員の痕跡だけだったらしい」

「嘘だろう、あの状態で逃げられたのかよ…」


 クィンビーの反応も気になる所であるが、大和はセブンの報告からある重要な事実に気付いてしまう。

 あの時の大和には白仮面に止めを刺す力は残っておらず、仕方なく気絶した白仮面を放置した状態でその場を後にした。

 ガーディアンが現れた事を知った大和は、白仮面の処遇を正義の味方たちに任せて黒羽の元に向かったのである。

 コア100%の力を込めた一撃を受けたのだ、気絶した白仮面がすぐに回復するとは考えづらい。

 流石にあの状態の白仮面ならば、ガーディアンでも十分に対処できると判断したのだ。

 しかし大和の予想に反して、あの白仮面はガーディアンの手に落ちてなかった。

 正直言って白仮面との三度目の戦いに勝利出来たのは、白仮面が知らないコア100%開放と言う鬼札を持っていたからで有る。

 一度知られてしまった鬼札が、次の戦いでも同じように通用するとはとても思えない。

 白仮面との四度目の戦いを予感した大和の顔から血の気が無くなり、その右手の五指は無意識の内に忙しなく動かされていた。


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