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欠番戦闘員の戦記  作者: yamaki
第5章 正義と悪
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22. 蜂と蟹


 リベリオンの幹部怪人であるシーザス、この怪人が前線に出ることは滅多に無い。

 しかしこの蟹型怪人の戦闘能力が大したことが無いと思うのは、それは大きな間違いである。

 怪人の生みの親であるリベリオン首領直々に制作されたシザースの性能は、決して他の怪人に劣るものでは無かった。


「全く、手間を掛けてくれましたね、クィンビー。

 …早く車両の修理を再開しなさい、もう時間が有りません!!」

「キィィッ!!」


 苛立たしげに右腕に備えた鋏を振るうシザースの足元には、シザースの大蜂たちの死骸が転がっていた。

 大蜂たちは全て無残にも体を砕かれており、無数の分たれた体を構成していた翅などのパーツが散らばっている。

 クィンビーの大蜂の毒針は強力で有り、これを受ければ例え相手が怪人であっても一溜りも無いだろう。

 ただし当てられなければ自慢の毒も無用の長物となってしまい、残念な事に怪人は戦闘員ほど簡単に毒針に当たってはくれない。

 もしこの場に大蜂の主である女王蜂の姿が有れば、シザースは大蜂の駆除にもう少し手こずっていたに違いない。

 しかしクィンビーの統制下に無い大蜂たちの動きは鈍く、シザースに一矢報いる事すら出来無かったのだ。

 ほぼ無傷で大蜂を退けたシザースであったが、その表情は決して優れた物では無かった。

 大蜂たちは最後の一匹になるまで決して諦める事なく、果敢にシザースへと襲いかかった。

 結果的に大蜂たちに完勝したとは言え、シザースはその勝利の代償に貴重な時間を大きく浪費してしまった。

 既に本来の作戦完了を予定していた時間すら過ぎてしまい、最早シザースには一刻の猶予も無い。

 シザースは生き残った戦闘員たちに対して、大蜂によって足止めされてしまった車両の修理を命じた。






 結論から言えば、クィンビーの大蜂たちはこの戦いに勝利したと言える。

 自らの死と引き換えに大蜂たちは、シザースの足止めという役割を果たすことが出来たのだ。

 大蜂たちが命を賭して稼いだ時間は、シザースの計画を破綻させる決定的な要因となった。


「キィィィツ!!」

「っ!? 今度は何ですか!!」


 車両の修理に取り掛かっていた戦闘員たちがまたもや倒れ始め、シザースは苛立しげに声を荒げる。

 そしてシザースは戦闘員の周囲を飛び回る大蜂たちという、先ほどと全く同じ光景を目の当たりにしてしまう。


「また蜂が! 一体何処から…」


 この周囲に居た大蜂たちは確かに全て自分が片付けた筈である、しかし現実に戦闘員たちはまたしても大蜂の毒針によって戦闘不能になっている。

 まるで煙のごとく現れる大蜂たちの姿に、シザースは大蜂の出処を探そうと辺りを見回した。

 そしてシザースは何かの物音に気付いた、それはバックヤードの出口から近づいてくる足音であった。

 この状況で現れる存在が味方であるはずが無い、シザースは警戒しながら出口の方向を注視した。


「誰ですか!? 欠番戦闘員の仲間ですか…」

「………久しぶりねー、元気にしてたー?」


 バックヤードに現れた者、それは大蜂たちを従えるに相応しい蜂型の女怪人であった。

 蜂の意匠がそのまま人型になった怪人は、その体に黄色と黒の斑模様が浮かんでいた。

 昆虫特有の複眼を持ち、背中には折りたたまれた翅を備えている。

 大蜂たちは主の登場に歓喜するかのように、激しく翅を震わせながらその女怪人の周囲を飛び回っている。

 シザースは現れた女怪人の姿に、まるで幽霊でも見たかのような反応を見せた。


「ば、馬鹿な…、あなたは…………、クィンビー!? 」


 事実、シザースに取ってこの怪人は死人である筈なのだ。

 蜂型怪人クィンビー、愚かにも組織を裏切り、処刑装置である機密保持機能が発動された筈の怪人がシザースの前にその姿を見せた。











 クィンビーが生きている事が未だに信じられないのか、シザースは普段の余裕有る態度をかなぐり捨てていた。

 シザースの狼狽した姿が余程嬉しいのか、クィンビーはシザースとは対照的に満面の笑みを浮かべる。


「何故、あなたが生きている、クィンビー!! あなたは機密保持機能で死んだ筈では…」

「ふんっ、私があんな物騒な物を何時迄も放っておく訳無いでしょう」

「外したと言うのか!? 一体どうやって…」


 機密保持機能、怪人の秘密を守ると言う名目で、一方的に怪人の肉体を消滅させる悪魔の機能だ。

 リベリオンを裏切る事を決意したクィンビーに取って、この機能の存在は非情に大きな枷であった。

 もしリベリオンに自分の暗躍が知られてしまったら、問答無用で機密保持機能を発動されて自分は志半ばに死んでしまう。

 そんな未来は御免であるクィンビーに取って、機密保持機能を外す事は当然の選択であった。

 しかし口では簡単に言えるが、実際に機密保持機能を外す事は不可能に近かった。

 怪人たちの反乱を防ぐ切り札と言えるこの機能を、リベリオンが簡単に外せるようにしている筈は無い。

 下手に体に仕込まれた機能を弄れば、異常を感知した機密保持機能が発動してその怪人の露と消えるだろう。

 怪人の体を知り尽くしている人間でも無ければ、無事に機密保持機能を外す事は不可能なのだ。


「ははっ。 あんたと違って、私には頼りになる友達が居るのよ」

「有り得ない!? 怪人から機密保持機能を外せる者がリベリオンの外に居るわけ…」


 幸運な事にクィンビーの協力者の中には、怪人のスペシャリと言える人物が居た。

 元リベリオンで開発部主任の少女、セブンならばまさに機密保持機能を外すのに打って付けの人材である。

 事実、セブンはかつて怪人から機密保持機能を外す事に成功していた。

 怪人の端くれである戦闘員にも機密保持機能は仕込まれており、セブンは9711号と呼ばれていた頃の大和からその機能を外していたのだ。

 ただしセブンの技術力が幾ら高くても、それを活かす場所が無ければ機密保持機能を取り外すことは難しかった。

 大和から機能を外した時にはまだリベリオンに居たため、セブンはリベリオンの施設を使用する事が出来た。

 しかし流石に今のセブンではリベリオンの施設を使うことは叶わず、その代替手段としてガーディアンの施設を使用する事を決める。

 先のガーディアン基地の襲撃時に破壊された三代ラボの設備が復旧した所で、クィンビーは密かにガーディアン東日本基地に訪れていた。

 クィンビーは不敵にも対外的な敵の本拠地で、機密保持機能と言う枷を排除する事に成功したのである。


「あ、あなたはつい先ほどまで関東支部に居た筈だ!? この短時間でこの場所に現れるなど…」

「苦労したわよー、まあ私一人じゃアウトだったわね…」


 クィンビーはつい先程まで、此処から遠く離れたガーディアン関東支部付近の山の中に居た筈である。

 大蜂たちが時間を稼いだとは言え、それだけの時間でこのショッピングモールに現れる事は不可能であった。

 その不可能を可能にしたとは、欠番戦闘員こと大和の相棒であるファントムだ。

 怪人専用に作られたあの幽霊マシンは、本来の主で無いが怪人であるクィンビーに乗られる事で最大限のスペックを発揮する事が出来た。

 クィンビーはファントムの能力によって姿を消せる事をいい事に、道路交通法を完全に無視したスピードを出すことで時間内にこの場に現れる事が出来た。

 その走りは警察にでも見られたら一発でアウトになるレベルで有り、あれでよく事故を起こさなかった物だとファントムが関心するほどの壮絶さであった。






 ショッピングモールに着いた所であの幽霊マシンはクィンビーを置いて、本来の主の元に急ぎ向かった。

 この場にはクィンビーとシザース、それと僅かに生き残った戦闘員たちしか残っていない。

 両怪人が図ったように口を閉じた事で、この場には毒に倒れた戦闘員たちの呻き声の大蜂たちの耳障りな翅音のみが響き渡る。

 やがて蟹型怪人の方が意を決した様子で、目の前の蜂型怪人に右腕の鋏を突き付けながらその口を開いた。


「…どうやら私は、あなたを直々に処断する運命に有るらしい。

 いいでしょう、このシザースが直々に相手になってあげますよ!!」

「その偉そうな台詞を聞くのも今日で最後よ! …私自身の仇、取らせて貰うわ!!」


 かつてクィンビーが妃 春菜と言う名の人間であった頃、彼女はシザースに捉えられて今の怪人としての姿となった。

 人間で有る自分に止めを刺したシザースと言う怪人は、ある意味でクィンビーに取っての仇と言える存在である。

 因縁浅からぬ関係であるシザースを前にしたクィンビーの闘志は否が応でも上がり、その意気に応えるように周囲の大蜂たちの動きが激しくなる。

 クィンビーに取って自分自身に対しての復讐戦が、今まさに始まろうとしていた。


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